79.剣闘王大会 準決勝
準々決勝は、順当に竜人が勝ち残った。
竜人のリュウカンは、何時の槍を使うが歯が立たず、結局黒い槍で勝ち上がった。少々気になるのは、魔槍らしきものを使うと黒い染みが大きくなっているような気がする。
オーキは、聖騎士のような全身鎧の盾と直剣持ちとの対戦だった。
ミスリルナイフを持ち、チクチクと装備を剥がしていく。
一応攻撃なので、審判に止められることは無かった。
鎧の蝶番の部分を器用に壊し少しづつ剥がしていくと、中に鎖帷子を着こんでいて、これも剥がすとパンツ一丁になった。
流石にレデーのオーキは、最後の一枚に情けを掛けた。
背中の部位に筋を付け始めた所で、聖騎士風の男は、前を隠し泣きながら降参になった。
オーキは、サーロインしか筋を付ける事が出来なかったとボクネエさんに話して悔しがっていた。
一体この訓練に何の意味があるのだろうか。
つつがなく、準々決勝は終了し、遂に4傑が残った。
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日は開け、準決勝2組が行われる。
リュウカンの相手は、マケラ帝国の兵士だった。
左手にミスリルの長盾を持ち、右手に片手剣を持っていて、フルプレートのミスリル鎧を装備している。
リュウカンは、クロのブチが全身に広がっている様だ。
麻布に巻いた槍を端に置き、闘技場の中心に立つリュウカンの目は、真っ赤に血走っている。
マケラの兵士も闘技台の中心に来ると盾を構え戦闘態勢に入る。
「両者、いいですか。・・・では、始め!」
マケラの兵士は、盾を前に出し体を隠しながら、じりじりと間合いを詰める。
リュウカンは、右回りに走りながら隙を伺うが、マケラの兵士も右に回りながら、隙を見せない。
マケラ兵士は、段々と闘技台の端にリュウカンを追い込む。
どうもマケラの兵士の方が分がいいようだ。
リュウカンが槍の柄で盾を突き、間合いを確保しようとするが、盾を斜めにした兵士が剣の間合いに滑り込むと、リュウカンの槍を持つ右腕を斬りつけた。
”シュン”
”カランカラン” リュウカンは槍を手放し、即座に右手を天に挙げる。
「来い、ガングール」
麻布に巻かれた槍は、リュウカンの右腕に”ぱしっ”と納まった。
槍の柄を地面に叩きつけた。
”むんっ”
赤い波動は、マケラの兵士を吹き飛ばす。
”がしゃがしゃー”
真正面から吹き飛ばされた兵士は、転がりながら片膝をつき、盾を構え、戦闘態勢を取った。
「へっぴり腰の槍使いのくせに、最初から魔槍がなけりゃ何も出来ねーんだろうが、この三流槍士が。」
リュウカンの目が血走リ始めた。兵士の安い挑発に乗ってしまったようだ。
「三流槍士だと。何も知らねーくせに騒ぐんじゃねー。お前は殺す。絶対殺す。殺す。殺す。殺す」
普通なら、冷静さを失ったリュウカンは、相手の術中に嵌り自滅する所なのだが。。。
リュウカンの体から赤いオーラが膨れ上がる。
「お前の血は何色だ?偶には緑色だと面白いんだけどなー」
リュウカンが突く動作をすると、槍から赤い斬撃がマケラの兵士を襲う。
”ガシュン・ガシュン・ガシュン・ガシュン・ガシュン・ガシュン”
威力に押されながら後ずさり、流石の魔力を通したミスリルの盾も歪み始めた。
兵士は、逃げ場がないし、斬撃が横にズレても正確に狙ってくる。
盾の上部が完全に折れ曲がった。
「これは、不味い。これまでか」
兵士はそのまま、場外の窪みに落ちた。
リュウカンがそれを追って斬撃を繰り出す。
「それまで、竜人の勝ち」
それでもリュウカンは斬撃を繰り出す。
兵士は、小さくなって盾がボコボコになりながら辛うじて場外で防いでいる。
審判が、リュウカンの後ろから羽交い絞めにして止めに入る。
「熱い、そこまでだ。それ以上攻撃すると反則負けにするぞ」
リュウカンの体は火の様に熱くなっていた。
「お前らも死にたいのか、、、へへへへいいぜ、、、、あれ、俺は、俺は、剣闘王になったのか」
「ここで攻撃を止めないと剣闘王の決勝には行けないぞ」
「あ?、うるせー、皆ごろ、ころ、、、、う、う、うう、ああ、わかった」
何とか正気に戻ったのか、槍を降ろした。
タケオは、試合を顧みていた。
最後の雰囲気は、完全に我を忘れていた。
まるで、呪われた殺人鬼のような形相だった。
これは・・・
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午後になり、いよいよオーキの準決勝戦が始まる。
タケオは、控室に向かうオーキに自分の思いを告げた。
「オーキ、別に無理して勝とうとするな。俺は、オーキが生きていてくれる事が一番なんだ。オーキの一族のプライドも分かる、分かるが頼むから、意地やプライドで死んで欲しくない。
お前は、俺の大切な大切な奥さんなんだ。危なくなったら絶対逃げてくれよ。それは、お前が臆病じゃなくて俺の願いだ。俺は臆病なんだ。逃げてもお前のせいじゃないからな。」
「タケオ、これから戦いに行く戦士に掛ける言葉でねーだな。でも大切に思ってくれる思いは受け止めただ。
大丈夫、おらは、何があってもタケオと一緒でねーと死なねーから」
”にかっ”と笑い、オーキは控室に消えて行った。
準決勝第2試合の選手二人が剣闘場に上がって来た。
オーキの武器は、二本のナイフだった。
東の国の剣豪ムサイシは、二振りの剣を持っていた。
二人は対峙し、開始の合図を待つ。
観客もざわざわしながら、戦いの合図を待った。
「しかし、熊獣人が上がってくると思っておったが、お主とは以外であるな」
「そうだか?」
「ああ、熊獣人であったなら拙者相当苦戦すると思っておった」
「何でだ?」
「それは、秘密ですぞ。弱点を教えてしまう事になるでな」
審判「コホン、それでは始めますが、宜しいか」
「「コク」」二人は頷いた。
「それでは、始め!」
ムサイシは、無手に構え、左右から剣を振るってくる。
オーキは、来る刃をナイフで受け止める。
”カキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキン・・・・・・・・・・・”
物凄い速度で両者は刃を交える。その速度は、最早常人には見えない。
最早、観客席は水を打ったような静けさになり、剣とナイフが当たる音だけが聞こえる。全員が見とれているのだ。
ムサイシの剣は、四方八方から飛んでくる。
しかしオーキは動じない。
そう、彼女には全て正確に見えている。彼女の動体視力を魔力で強化しムサイシの数十倍のスピードで見て数十倍のスピードで動いているのだ。
魔力で身体速度を数十倍に上げるなど、通常あり得ないが実際にやって見ると1秒当たり100MPというとんでもないMPが必要になる。通常の戦闘でのセオリーは、一瞬だけ速度を上げ、また元に戻す事でMPコストを低減させているのだ。
こんな事をしていたら一般の剣士ではMPが多いものでも2~3秒でMP枯渇で倒れる。
これは、ユグ糸の効果である数百万とある自身のMPを使った一般の人には絶対出来ない芸当である。
なぜ、筆で相手に丸を書かせたり、ナイフで鎧の蝶番を壊し、部位に切り傷を付けていたかと言うと、動いている相手に正確に短剣を充てる為の修行だった。如何に早く動けても正確に受けたり攻撃出来なければ、その誤差をムサイシ位の達人ならその隙を突いてくる。
その為、正確に剣を受け、正確に攻撃することが重要だったのだ。
如何にムサイシが先の先を読んで剣閃を振るっても、圧倒的動体視力と動作速度を駆使して正確に返せば、剣で負ける事は無い。
次に体術である。
当然ムサイシは、剣の合間に蹴りや肘等の打撃、所謂フェイントを混ぜて来る。それは、剣で受ければ、その下から見えない攻撃として出してくるし、2つの剣を受けているのに腕や足を動かせば態勢が崩れる。態勢が崩れれば隙が出来、急所を狙われる。
だから、受けない。その打撃を上回る魔力耐性で跳ね返す。
オーキは、何発かの蹴りを貰っているが、ダメージを受けているのはムサイシだった。
ボクネエ師匠のアドバイスと練習で負けない様にはなった。
次は攻撃である。
ムサイシは、後ろに大きく飛び退いた。
”ぷっ・ほう、ほう”
いかなムサイシでも最大限の攻撃を20秒以上続けられない。
「お主、我の必殺の攻撃を正確無比に受けるなど初めて会った好敵手である。しかし、攻撃できないのは、我の体力が尽きるのを待っているのか。我は逃げながら体力回復をすればまだまだ行けるぞ」
”ふーーー・すーーーー” ムサイシは、呼吸を整えた。
ムサイシが、話しているのは、呼吸を整えるためであって内容に意味はない。
「ああ?おらおめーが隙だらけで後ろに下がったからびっくりしちまって逃がしただけだ。もう休憩はいいだか
今度は、休憩なしでおらが行くど」
オーキは、無造作に真っ直ぐムサイシにすり足で歩み寄る。
”カキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキンカキ・カキン・カキッキン・・・・・・・・・・・”
ムサイシは、間合いに入ると、縦横無尽に剣を振るってくる。
が、オーキは止まらない。真っすぐ前に進んでいく。ムサイシが横にスライドすればその分スライドし、肉薄する。
ナイフの間合いになったら成す術が無くなるムサイシは、対面したまま後ろに下がるしかない。回り受けしようにも真っすぐ進んで来て、少しでも体を半身に回るとそこがナイフの間合いになってしまう。これでは回り込みが許されない。
そうか、だから彼奴は、大振りしない、間合いが近づくと効力を発揮するナイフを選択したのかとやっと理解したムサイシだった。
段々とムサイシは、剣闘場の端に追いやられる。
今回の剣の戦いで真上に飛ぶのは愚策だ。
相手の方が圧倒的に動体視力が良く、圧倒的に動作が早い、そして圧倒的に防御力が高い。上に飛べば、体が伸びきる前に真っ二つにされる。
・・・
ムサイシは、そのまま場外へ降りた。
「参りました」
ムサイシは、礼儀正しく、深々とお辞儀をして来た。
「勝者301番 オーガ族」
観客席から、拍手が起きた。”ぱちぱちぱち”それは段々大きくなり、
「「「「「「「「「「ぱちぱちぱち”」」」」」」」」」」
「「「「「うおー、凄げーーーー、かこいい」」」」」
それはそれはの大歓声となった。
オーキは、ムサイシの手を握り闘技台の上に引っ張り上げた。
「おめえ、強かっただなー。おら、いい勉強になっただ」
「いやいや、拙者これ程の強者に会ったのは初めててござる。
本にいい勉強になり申した」
二人は称え合い握手をした
「おらの旦那が、おらが勝てた理由とか意見交換したいと言っていただ。明日決勝が終わったら話でもしねーべか」
「おお、此方としても願ったりです。」
そうして二人は、落合場所を決め、別れるのであった。