77.剣闘王大会②
今日は、竜人のトーナメント3回戦が開催される。
朝からボクネエさんと俺達4人は、闘技場に行く事にした。
目的は、クーガを罵り瀕死を与えた竜人族の男の試合である。
オーガ人族の誇りを侮辱した竜人をオーキは許さない。必ずクーガが負けた借りは、正々堂々と返すとオーキは、この剣闘王戦に挑む。
名前はリュウカンと言う。
この前見た時は、灰色の顔しか見えなかったが、顔に黒い染みが2割ぐらいついているのが分かる。
今日の第一試合が始まる。
今日の相手は、西の先の国から来た剣士だ。剣は、片手剣の曲刀で、反りのある形をしている。三日月型と言えばいいのだろうか、背中にも一本背負っている。
両脚に鉄球がついた鎖を付けている。奴隷の様に見える。
一方、リュウカンは2本の槍を持って来た。一本は何時もの槍で、もう一本は麻の布で巻いてあり、中身は見えない。
麻布で巻いた槍を闘技台の端に置き、何時もの槍だけ持って対峙する。
武器は、幾つあってもいいのだが、最初に闘技場の中に持ち込んでいない物は使用できないルールになっている。
二人は、闘技台の真ん中に進み出て、戦闘が開始された。
竜人は、間合いを詰め、槍の間合いで何時もの連撃を繰り出す。
曲刀の剣士は、後ろに下がりながら間合いを外していく。
円形闘技場なので、回り込みながら後ろに下がって行く。
竜人は、自分の間合いで相手に詰め寄る。
一番前に出て来る膝頭を狙おうとするが、相手は巧みに刺さる間合いには入らない。
竜人の踏み込みが甘すぎて手突きになっていて速度、威力がないため、簡単に避けられるか剣で弾かれる。
後ろに下がりながら、脚に付いた鎖と鋼鉄の玉が右足を中心に回転していた。(偶然、走り回っているからとは思えない)
これを見ていたオーキがつまらなそうに喋り出した。
「おら、こっただ奴に負ける気がしねえ。踏み込みは甘めーし、威力が無さ過ぎて突かれても跡がつくかも程度だ。
クーガが膾切りにされて甚振られた訳でねーだ。
単純に威力が無ーだけだべ」
ボクネエさんは、頷き呆れた顔をしていた。
「拙者もそう思います。これでは、この戦いにも勝てますまい」
曲刀の剣士は、後ろに下がる振りをし、竜人の突きが一瞬止まると、隠し持ったクナイを3本投げてきた。
竜人は、2本は避け、真っすぐ来た1本は、槍の柄で弾いた。
”カキン”
それと同時に、脚に巻いてあった鎖がほどけ、竜人の足に飛んで行く。注意が散漫になっていたのか、竜人は脚に鎖玉がくっ付いて動けなくなってしまった。
リュウカンの注意が脚に向いた瞬間に曲刀使いが槍の間合いの内側に入り、右から横薙して来たが、竜人は槍の柄でかろうじて受けた。
”ガキン”
”バキン”
「何!」
今、後ろに担いでいた曲刀を左手で抜き、左から切り付け胴を払ったのだが、”バキン”と音がして胴には少々の傷しか付いていない。
曲刀使いは、とんぼ返りをしながら、20m程後ろに離れた。
竜人の体はいつの間にか全身灰色の竜燐に覆われていた。
いや、黒い染みのブチになっている。
「ふー、やはりここまで来ると本気を出さぬと勝てないようだ」
「来い、ガングール」
右手には先程、端に麻布を巻いて置いていた槍が飛んできていた。
ちょっとかっこいい。オーキも出来るけど。
麻布を剥がすとそこには全身真っ黒な槍というか少し穂先が刀型になっているので薙刀と言うのか大槍と言うのかそんな感じの武器である。
柄はごつごつとして意匠をこらした作りだが、何故か禍々しい。
急にリュウカンの纏う雰囲気が変わった。
それは、暗闇の中から獲物に食らいつくような、必ず殺すと言わんばかりの殺気が漂う。
曲刀の剣士は、ジグザグに走りながら、槍の間合いのぎりぎりでクナイを3本投げてきた。
それと同時に、左脚に巻いてあった鎖がほどけ、竜人の足に飛んでくる。
両方とも避ける動作もしない。
赤黒い何かが一瞬”ボワン”と周りに広がると鎖もクナイも何処かに弾け飛んだ。
曲刀使いは、間合いに入れず後ろに下がるが、リュウカンが槍を突くと槍から赤い閃光が曲刀使いを襲う。
それ程早い攻撃では無いが、曲刀使いは、這いつくばって、何とか辛うじて、下側に避けた。
得体に知れない攻撃を剣で受けるのは下策だ。やはり曲刀使いは、場慣れしている。
その波紋は、円形闘技場の場外の堀を超え観客席の前の壁に激突した。
”バフュン”
円形闘技場の場外の壁は、魔導士の強力な障壁が張ってあるのだが、それを突き破り石垣に少々の傷を残した。
これは危険と、場外に出ようとした曲刀使いだったが、飛び降りる寸前に上半身と下半身が別れてしまった。
タケオは思う。こいつは、人を殺すことに全く戸惑いがない。人が死ぬ度に笑ってさえいる。
今まで戦い事態に喜びを感じる奴は沢山いて、結果として殺人となった場合が殆どだ。だがこいつは違う、完全に殺す事が目的で槍を振るっているように見える。
・・・・・・狂気殺人者。
「タケオ、あれは何だべ、赤い斬撃だべか。結構威力があっただ。まあ、こっちの方が戦いやすいだ」
「オーキ、お前が本気で衝撃波出したら、闘技場が壊滅だ。威力を落とした戦い方を考えないと観客に死人が出て、そのまま失格、牢屋行きだぞ」
フラウとテンコが”うん、うん”と頷いている。
あれは、真空刃でも衝撃波でもない。
普通の斬撃に間違いない。だが、あの赤い色とあの威力は何だろうか。
・・・
リュウカンは、槍を放し麻布を巻きだした。
竜人の鱗を解いたが、少しふらついている。
よく見るとリュウカンの黒い染みが増えているように見えるが。
審判団は、斬撃と判定した。
夜、魔導士10人がかりで三重結界にして強度を上げるそうだ。
・・・
「これは、調べないと分からないが、余りいい予感はしないな」
・
「タケオ殿、そんな凄まじい戦いになるなら、拙者要らないんじゃないですかね。」
※下記文章から、()部分は思いであって喋っていません。
「いえいえ、オーキに準決勝相手の対策が必要ですし、ボクネエさんには、私の個人的な(剣の稽古の)お付き合いをして欲しんです。
ボクネエさんの事、(剣の筋が)大好きなんです。
(剣の筋は)本当に美しい。
もう、今すぐにでも(剣の筋を)自分のものにしたい。
お願いします」
ボクネエさんは、顔から”ぼっ”と火が出るほど真っ赤になった。
「せ、拙者、こんな熱烈に告白されたことなど、いや告白自体されたことなど、、、タケオ殿は嫁が3人もおられるのに情熱的過ぎます。もうどうしていいか分からんです」
「大丈夫です。嫁とも一緒に(稽古)すればいいんです」
ボクネエさんは、顔を両手で覆い、座り込んでしまった。
「・・そんな、初めてが3Pならまだしも5Pは、ちょっとハードルが・・」
タケオはボクネエさんが何を躊躇しているのかわからず、3Pならいいのか?ああ、3人同時なら稽古できるって事か、流石に5人同時に斬りかかりはしないよ。
「大丈夫です。(稽古は)最初二人でしましょう」
ボクネエは、一瞬”はい、お願いします”と言いそうになる自分を必死に打ち消した。ボクネエには、やらなければならない使命がある。
でも、ここ数日接してきたタケオが好きになりつつあるのだ。
今は、自分の気持ちを必死に押し殺した。
「拙者、タケオ殿の気持ち大変嬉しく思う。だが、今は無理なのだ。大会が終わるまでは一緒にいられるが、教都に帰らねばならんのだ。それはいつ終わるか分からんから、今は返事できん。本当にすまん。本当は今すぐにでも・・・・」
「そうですか、それは残念です。でも何時か(稽古をしてもらうため)お会いしに行きます。俺は、諦めが悪いんで有名なんですよ」
「そ、そ、そうか、拙者をそんなに好んで、、、、ああ、その時は思う存分5Pしようじゃないか」
「ええ、もうその時は(稽古を)朝まででも付き合って貰いますからね」
タケオは、良き師匠(現地妻?)を得た。
フラウ、オーキ、テンコは、面倒臭そうな顔をしながら井戸端会議に入った。
「確かにボクネエさんは、好感度最高だけど、今の会話どう思う?」
「タケオは、自分の言った事、分かってねーだな。本当レデーに対して失礼極まりないだべ」
「マスターは、いつも独り善がりで端折って喋ることが多いです。ボクネエさんは、大好きなので一緒になることは賛成ですが、マスターが言った真相をボクネエさんが知ったら、罪作り勘違い野郎のワンパン入れてゴミ箱ポイして生ごみの日に回収されるです」
ああ、タケオの老後がどうなるか、またもや自爆型女難の旅は続くのであった。