75.剣闘王大会①
今日の夜の食事は、宿屋ではなく近くの食堂にボクネエさんを招待し、嫁に紹介する事にした。
「こちらが、ボクネエさんで、居合の達人なんだ。大会に参加していたのを見てアドバイスを貰う事にしたんだけどいいよね」
「拙者、ボクネエと申す。縁あってタケオ殿と知り合う事が出来た。以後お見知りおきを、娘後殿」
「私は、フラウ。タケオの嫁です。よろしくね」
「おらは、オーキ。同じく嫁です。お願げーしますだ」
「僕は、テンコ。マスターのお嫁さんです。よろしくです」
ボクネエさんは、口を半開きにして問うた。
「タケオ殿は、こんな見目麗しい嫁を3人も娶るとは何と剛毅な」
「まあ、成り行きと言いますか、大好きになっちゃったと言いますか、離れられない存在なんです。
絶対、手出しちゃ駄目ですからね。」
ここは、釘を刺しておかないと、こんなイケメンに良い寄られたら、、、ああああ、心配だ。だがオーキの為にもここは、俺が目を光らせてれば大丈夫だ。
「拙者、そちらの趣味は無いのでご安心を」
え?こいつそう言う奴なの。
タケオはお尻を押さえた。いやいや、偏見を持ってはいけない。でも、自分の家の隣に越して来て、自分の子と遊んでいたら心配になるのは俺だけだろうか。
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食事をしながら、先程の剣士の話をして貰った。
「そっただ強いだか。このままだと準決勝で会う事になるだな」
「まず明日のバトルロイアルが終わったら、ある程度のレクチャーは致しまし故、まずはそちらに集中なされい」
少し和みながら会話をし、食事会はお開きになった。
フラウ「礼儀正しくていい人ね。ちょっと気に入っちゃった」
ちょっとフラウさん何言ってるんでしょうか。確かに俺は、身長も無いしイケメンなんかほど遠い。けど、俺達は永遠の誓いをしてるんだ。こんな事で壊れる訳ないよな。
「おらも気に入っただ。仲良くやれそうだ」
「僕も好きになれそうです。」
「おいおい、やめてくれよ。幾らイケメンだからってそれはないよ。俺が居るだろ」
「マスターは本当、鈍ちんです」
「おら、偶にタケオが、耄碌爺さんに見える時があるだ。老眼鏡買ってこようか」
「私達がタケオを捨てる訳無いでしょ。タケオが捨てる何て言ったら地の底まで追いかけるわよ。
本当、こういう人だから皆好きになっちゃうのかもね」
何だか分からないが俺は大丈夫なようだ。
ボクネエさんは、女性に興味が無いようだし大丈夫だろう。大丈夫だよね。
きっと、ボクネエさんにその気がないからOKなんだろう。
みんな、あんまり揶揄うと髪の毛無くなるから止めてね。
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今日は、大会4日目いよいよオーキが第4試合に登場する。
14ブロックの勝者は、中々の拳剛だった。手にミスリルの手甲、拗ね宛、肩にショルダーガードをしている。
蹴り一つで場外迄吹き飛ばす中々の戦闘センスだ。
15ブロックは、あれは熊獣人だろうか、3mは優に超えている。全身に鎧を纏い突進してくる。
もうあれ、魔獣でいいんじゃないか。
16ブロック、いよいよオーキの出番である。
賭けのオッズは何と最大の100:1である。
バトルロイアル戦の賭けは、個人個人にオッズが付くが、勝った一人の総取りになる。
もし、勝った奴に誰も賭けていない場合は、胴元の総取りだ。
奥さん達には内緒で、迷わずオーキに金貨10枚を賭けた。
3m近いオーキは強そうに見えるのに誰も賭けない。
一番人気は、コロシアムの剣闘士ガンツェだった。
いよいよ、戦闘が開始された。
オーキの前には誰も掛かって来ない。
ガンツェと3人の剣闘士らしきものが、巧みに相手を倒して行く。盾を持ち、凌いでは一撃で撃破し、いつの間にか4人とオーキだけになった。
ガンツェが、3人に語りかけた。
「やっぱり、俺達だけになったな。そろそろ戦うか」
「いや、オーガが一匹残ってるぞ」
「オーガだろ、数に入ってねーよ。あんな木偶の坊」
「俺が捻ってくるわ。」
一人の男がオーキにゆっくり近づいてきた。
「オーガよ。痛い目見たくなかったら、そこから場外へ出ろ。今だったら痛い思いしなくて済むぞ」
一人の男は、剣を担ぎながら退場を促した。
「おめー、優しい奴だな。だが降りる気はねーだよ。遊んでやるからかかってきな。」
「なんだと、てめえオーガのくせにいい気になりやがって」
おとこは、剣を大上段から振り下ろした。
”バキッ、バキバキバキ”
オーキは、剣を左手で掴み、握りつぶした。
「おめー、こっただ鈍らじゃあ豆腐も切れねーっぺよ」
オーキは。右手で男の頬を軽く叩いた。
”ぱああん”
男は、凄い勢いで場外の先の壁に激突した。
”ぐしゃ”
「あ、ちょっと強すぎただか、すまん、あんまり弱いと加減が出来ねーべ。子指で撫でた方が良かっただか」
担架を持った医療班が駆けつけると、「痛てー、骨が折れた。化け物だ―」
彼は生きていたようだ。
ガンツェ達が、戦闘態勢に入った。
「お前は、オーガだろ。オーガ族は図体はデカいが逃げ回る弱虫の見掛け倒しの筈だぞ」
ふと、オーキは考えた。これは、クーガの事を言っているんじゃないだろうかと。
「オーガ人族は、心優しい種族だ。襲ってこなけりゃあ何もしねー、だが、襲ってきたら容赦はしねえ超戦闘民族だど、きっとそのオーガは、ここで物心つく頃から飼いならされた奴でねーかな。真剣に挑んでこねーと壁の染みになるから気い付けるだよ」
ガンツェの両隣から同時に二人がオーキに切りかかる。
オーキは、避けもしない。
相手の剣が肩に当たるほんの少し前に、オーキは少し前に踏み込み、両腕を払う様に広げた。
”しゅっしゅっ”
二人は、闘技場の場外の先の壁に吹っ飛んだ。
”がしゅ、がしゅ”
「さっきより手加減しただ。死んでねーだよ」
飛んでいった彼らには、医療班が駆け寄ったが、腕がぐちゃぐちゃだったが命に別状は無いようだ。
”かちゃかちゃかちゃ・・・” ガンツェは小刻みに震えている。
「お、お前は何者だ。オーガそのものだろ。魔獣が何で大会に参加してしてるんだよ」
「おらは、オーガ人族でオーガでねーだ。
いいか、オーガって言うのはこう鳴くんだ」
オーキの魔力が一気に膨れ上がり、大きく息を吸った。
”すーーーっ”
”ガゥアオーーーー”
”パタン”・・・ガンツェは、構えたまま後ろに倒れた。
よく見ると、ガンツェの真後ろにいたA席の数十人が気絶し、がやがやしていた観客が水を打ったように静かになった。
「う、ん、こ、こ、この攻撃は、」
オーキは、片膝をつき口と鼻を押えた。
倒れたガンツェからオシッコとちょっと後ろもはみ出たようだ。
「おらが、鼻がいいのを逆手にとって、まさかうら若きレデーの前で尊厳を捨ててまで攻撃を仕掛けて来るとは、、、、最初にされていたら危ねかったかも知んねー、恐るべし剣闘士」
オーキは、鼻をつまみながら、ガンツェの後ろ首を摘まみ場外へ捨てた。
”ぽいっとな”
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何故か、勝者のコールがされない。
審判団が集まって小声で議論している。
「あれは、観客に対しての攻撃とみなして失格にすべきでは」
「いや、吠えたら攻撃とは、ルールにはない」
「しかし、あの咆哮は人間ではない。」
・・
・・
暫く経って、「勝者、オーガ人族」
審判にオーキが呼ばれ注意を受けている。
オーキは、しきりに頭を下げていた。
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皆に夕食場所を指定し、俺は一人換金所に向かった。
換金所は、盗人、強盗などうちの嫁のような”か弱い女の子”には危険なのだ。
タケオは、金貨900枚を受け取った。勝ちは1000枚だが、税金が1割取られる。
もうホクホクだ。
宿への帰りに30人位の集団が付いてくる。宿を特定されては困るので、すーっと路地に入る。ちょっと窪んだ場所に気配遮断のマントを羽織り全員が通り過ぎるのを待ち大通りに戻る。
無益な殺生はしない。生活費を賭けた奴もいるのだろう。全ては自業自得、安易な方法で解決できるとは思わない事だ。
俺は、気配遮断したまま夕食を食べに戻るのだった。
皆と合流し、早めの夕食にした。
「オーキ、何で審判に頭下げてたんだ」
「ああ、今度鳴いたら失格にすると言われただ。どうも観客が失神したらしいだ。しっかし剣闘士は凄いだな。臭い攻撃はおらも予想外だっただ。」
オーキそれは、恐怖で失禁したんだよ。相手のメンタルぽっきり折っちゃったんだから、余り穿るなよ。
「拙者、オーガ族の戦いを初めて見ましたが、凄まじいですな。薙刀が武器と聞いておりましたが使わぬのですか」
「おら、いつも魔物相手の戦闘だったから、加減が出来ねーだ。だで、素手で今のところは戦ってるだけだ」
「では、食事の後、拙者と少し手合わせ致しましょう」
食事後、今テンコとフラウとで槍の対策をしているところを見せた。
とにかく、突きを避け、槍を弾く練習を見せた。
「ううーん、これでは駄目ですな。槍を避けるのは良いのですが、連撃される槍を避けても相手は、違う所を狙うだけです。薙刀も刀も一緒ですが、一番の攻撃力は切る事です。
刀より薙刀が有利な処は、間合いが遠くから打ち込めるところにあります。
よろしいですかな、相手がフリーで打ち込めれば多くの選択肢が生まれるでござる。
ですが、薙刀を上から振り下ろす構えをすると、相手は、一撃を躱されると踏み込んで薙刀で切られることになる。踏み込める範囲、逃げるための戻りの経路などその範囲は小さくなり、取れる選択肢は減っていきます。
これを我が流派では、攻の先と言います。
受ける側は、その後に打ち込むことを考えます。これを後の先と言います。
例えば、ある若者が、達人に挑み、動くこと無く眉間に剣を刺されました。
これを剣術を知らないものが見ると、ビビッて刺されたと思ってしまうかもしれません。
達人の剣は、通常の者から見れば一撃必殺です。一度剣を弾かれ、目の前の剣を逃れようと思うと右に動こうとすれば同時に達人の右足に重心が少し移動する。これは拙いと後ろに下がろうとすると達人の少し左足が前に出る。剣で弾こうと思った時には、剣先が額の前にあり、ぷすと刺される。
オーキ殿分かって頂けたかな」
「うーん、牽制に薙刀を構えて、相手の突きを避けると同時に切る間合いに入れば、切れるから相手は突くことが出来ない。でいいだべか」
「大筋は合ってるでござるが、相手が後手に回るように常に構える事が大事でござる。槍は間合いが広い事から先手の取り易い状況にあることを念頭に置いて布陣を組み立てるのが大事でござる。明日竜人のトーナメント3回戦を見られるので、もっと明確なアドバイスが出来るやもしれませんが、今は、その布陣の組み上げからの練習が基本とみて宜しいかと」
中々一朝一夕ではいかないが、少々攻め方の糸口も見えそうだ。