74.剣闘王大会開催
ここまでの地図を入れました。
地図にランド王国の町トワールをトウースと書いてしまいました。すみません。
いよいよ、剣闘王戦が始まる。
闘技場は、円形の直径70m位の石畳の上で行われる。周りは、2m程の窪みになっていて、そこに落ちれば場外負けになる。
優勝賞金は、なんと金貨3000枚とコロシアムの町の一等地に屋敷が貰える。
ただし、この戦いでは、真剣を使っての戦いとなるため、死者が多数出る。
当然、”まいった”若しくは場外落ちすれば負けになるが、まいったと言って審判が止めに入る前ならば殺しても罪にはならない。
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いよいよ、一回戦が始まる。
オーキの番号は、301番だった。
参加総数が320人だったので、20人ほどのバトルロイアルが行われる事となった。
この中の一人が勝ち上がり16人がトーナメント戦へ駒を進める。
3百人の数字が多いのか少ないのかは分からないが、毎年何十人かは、町の外から武人が来るようで、結構レベルが高いそうだ。
例年は、50人の時も有ったり5百人を越える時もあり人数は何時も分からないそうだ。
闘技場の対戦場所は一か所しかないので、1ブロック毎順番に行われる。
オーキは16ブロック目で最終組になる。
1から4ブロックが今日行われる。
オーキは、4日後の1回戦最終試合になった。
一日目だけ竜人が出場するので4人で観戦した。翌日の試合からは、俺が一人で試合を見る事にした。テンコ、フラウは、オーキの訓練に協力するためだ。
1日目、1ブロックに竜人がいた。
20名の腕に覚え有りの猛者たちが闘技台に乗っていく。
皆、等間隔に離れ開始の時間を待っている。
審判5人が闘技場の中には入らず、外側から見ている。
「それでは、競技説明いたします。
まずこの円台から落ちた者は負けです。
次に”まいった”と言って審判がその者の番号を読み上げ”負け”と宣言すれば負けです。その後、その者に攻撃した場合は、罪に問われますので気お付けてください。
直接の魔法は禁止です。身体強化やエンチャント、斬撃などの武器または体に付与する効果は有効です。
・・・・
それでは、合図と共に開始します。
準備はいいですか。
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レディー・ゴー!」
こうして一回戦1ブロックの戦闘は開始された。
20人のうち19人が一斉に竜人へ駆け寄っていく。
これは、リンチだろうか、それとも強者を最初に倒し、優位に立つための作戦だろうか。
竜人の魔力が一気に立ち上がる。
何の迷いも無く、前に突進していく、”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”
端まで行くと、手薄な方向の3人を目がけて突進する。
”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”
全員が”ビクンビクン”と体を痙攣させ倒れた。
左目を脳まで刺されて即死している。
何と正確無比な高速の連撃突きだろうか。
残りが9人になって、追いかけるのを止めたようだ。
9人は、示し合わせ、同時に切りかかるようだ。
竜人は、槍の間合いに入るまで待ち、右三人に槍を突き立てる。
”しゅっ”・”しゅっ”・”しゅっ”
左目を3人とも貫き、そのまま右に逃げた。
竜人が構えた時、6人は戦意が喪失したようで自分から円台を降りた。
「勝者、3番、竜人族の者」
今の戦いで、正確さと速さは分かった。
やはり、多対一は、苦手のように感じる。
勝つには勝ったが、横から斬りつけて来る奴を警戒していたようだ。そもそも竜燐を出せば防げる程度の相手だった筈なのに、何故、竜燐を出さなかったかが疑問だ。
間合いが詰まると何か不味いのだろうか。
「オーキ、どうだった。」
「ううーん、あの程度なら取るに足らない相手だっぺよ。
何か隠し玉でも持ってそうだな。」
「僕もそう思うです。何か節約しているような感じを受けます」
ここで、気を抜いて、後で超強かった何てことがあるかもしれないので、訓練は怠らない様にしようと思う。
父さんの教訓:どんな相手にも全てを準備し、全力で立ち向かうべしだ。
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オーキは、フラウ、テンコを連れ、鍛錬に戻った。
俺は、各ブロックの状況を偵察することにした。強者は竜人だけとは限らない。
2日目は、5~8ブロックの戦いだったが、確かに強いが、オークソルジャークラスだと思う。
一人だけ短剣だけで戦っていた者がいて勝ち残ったが、アサシンタイプで一対一には向かない感じがする。
3日目、9ブロックに凄いのがいた。
その者は、居合の達人だった。身長170くらいだろうか、それ程肩幅も無いが、艶やかな長い黒髪に黒い目をした東方の異国人だ。白い肌にすらっとした超絶整った顔と羽織り袴は、女が絶対ほっとかない超美男子である。
>>天は、簡単に二物を与えすぎだよ。
小心者の俺は、負ける方に応援したくなる。
彼のその一閃は、オークキングに匹敵する速さがあった。
※39 .オークキングとの戦い 参照
違うのは、キング戦では無かった多対一の戦法が凄い。
一閃した後、そのまま五人を一息で倒していったのだ。その流れるような剣閃は、一朝一夕で身に着くような代物ではない。6人全員が彼から向かって全てが流れるように隙を狙って一刀のもとに切られる様は、芸術としか言えない。
「美しい」
急所を微妙に外し6人が一気に戦闘不能となった。
五人の冒険者風の者が、前に出て紫の霧を吐き出した。毒霧は、反則の筈だが。居合の達人は、端から口と鼻を隠し場外に降りた。
審判「毒を使ったので5人は退場。」
少し毒を吸ったのか、場外でふせいでいる居合の達人も失格になった。
金ぴかの鎧を着た一人だけが残り全員が場外に降りた。
こいつがどうも仕掛け人のようだ。こんなことして何になるのか全く理解できない。
俺は、観客席から飛び降り、毒霧を受けた居合のお兄さんに近寄り皆から見えない様に解毒石を発動させる。
「大丈夫ですか」
「おお、助かった。まさか大会で毒を使う奴がいるとは思いもせなんだ。戦いに不条理は付き物故、言い訳はせぬ。感謝する」
審判「部外者は、立ち去るように」
「反則技で退場したら復帰させるのが普通じゃないんですか」
「そういうルールは無い。早く立ち去れ」
納得いかないが、ちょっと居合のお兄さんも辛そうなのでその場を去ることにした。
「貴殿に名を名乗っておらなんだ。拙者ボクネエと申す」
「俺はタケオです。もの凄い居合抜きですね。惚れ惚れしました」
「貴殿、居合抜きを知ってるとな。東の国の者か」
「いえ、全く違うのですが、昔ある魔物が使っていてそれを見て覚えました」
タケオは、ピンと閃いた。
「ボクネエさんは、これからどうされるのですか」
「拙者は、教都で算術と剣を教えているので帰ろうと思う。」
「そうですか、もし時間に余裕があるのであれば、私に居合を教えて頂くのと、連れの者が出場しているので、数日アドバイスをして貰えませんか。お金は払いますので」
「いや、まあ、拙者も決勝まで行く路銀は持ち合わせているが、心もとないのも事実、試合も見ているには嫌いではないので付き合っても構わぬが」
「それは、ありがたい。是非お願いします。」
俺は、がっしり握手し、良き出会いに感謝した。
ボクネエさんは、ちょっと顔が赤いので、やはり毒の影響があるようだ。
二人でその後の試合を観戦した。
「さほどの者はいなかったですね」
「いや、10ブロックの者、足の運びと保持される姿勢は、ただ者ではない。拙者では勝てないだろう。」
俺は、全く分からなかった。ただ普通に皆よりちょっと強い位にしか見えなかった。
「そんなに強いんですか」
「二人で見た分でしか評価できぬが、剣技では、おそらく最強であろう。一人一人の相手に対して正確にほんの少しだけ早く振るなど、余程の達人でもまず出来るものではない。
どれだけの実力を隠しているか測る事も出来ん」
これは、大変な事になった。竜人に行きつく前に詰んでしまうかもしれない。
夕方、木刀で手合わせをして貰った。
「貴殿、中々の使い手であるな。だが我流が先を閉ざしておる。剣術の未熟さのせいか、刀の動きに馴染んでおらぬ。」
「意味が分からないんですが」
「うむ、剣の修行では、先の先と言ってるが、要は予測する長さの事じゃ。
拙者が、右八相から斜めに切り込んだとき、お主は、最短の間合いで向って右に逃れたな。その時既に態勢を崩さぬよう拙者が切り込んだ刃先が返しの刀で飛んでくると勝手に予想し受けの体制に入った。
まずこの時点でお主は何時か負けることになる。」
「どういう意味です。最短で体制を崩さなければ、勝機は大きくなると思うのですが。二の太刀要らずが居合の原則ではないんですか」
「二の太刀要らずとは、必ず仕留められる確信が無ければ実際の戦闘では振り切れん。避けられて反撃されたら死は確定ですぞ。それに後ろにもう一人いたら、背中から斬られてどうにもならんだろ。それは、鍛錬の時、自分の限界までを使い、能力を伸ばすための教えであろう。
常に状況を把握し、自分は無傷で体力消耗を最小限にする事を心がけなければ、即死んでしまうぞ。
具体的にはだが、よいかお主は、相手が必ずそのままの態勢で刀を振るってくると一点しか読んでいない。
ここで、相手が足を使い肉薄してから振ったらどう躱す?」
「え?どうってそのまま斜めに受けますけど」
「これは、我が剣術では、溜めと言っているが、軌道が下から来ると思っておるだろうが、移動している間に剣の位置を上にずらして行ったらどうなる」
「つまり、必ず最適の動きをするとは限らないという事ですか」
「ちと違うが、まあ概ねそう言うことだ。剣の極意とは、最適を求めるのではなく、常に優位に立つことにある。
隙とは最初からあるものではなく、己が優位に立ち廻る事で、相手に矛盾が生じる事を言う。お主が常に相手の受けに成って行けば、攻める事は叶わず、必ず隙になるという事じゃ」
「でも、完璧に受けきれば、相手が焦って隙が出来るんではないんですか」
「達人の域に達すると、そのような隙は無いから達人と呼ばれる。必ず次の一手を繰り出す時に、相手には2つ以上の取り得る可能性を持って選択する。
相手には、その一手は避けられる又は受けられても構わない。例えば、現在の体勢から右横腹を狙えば後ろには下がれず相手は剣で受けるために踏ん張る為、右足が横に出る。
その時を見越して踏ん張る先の右足を狙ったらどうする。」
「え?そしたら全力で右足を庇うでしょうね。」
「それは、溜で右手首を狙ったらもう避けれぬよ。
これを詰めと呼ぶ」
「そんな事、瞬時にできるんですか。反射神経だけではどうにもならないですよね」
「その通り、その為剣士は、体にその動きを刷り込む程鍛錬をするのじゃ。一生鍛錬しても納得がいく事は無い。これを修行と呼ぶのだろう」
「それは、同じ動きを反復するという事ですね」
「ある程度は、その通りなのだが、それは初歩にすぎぬ。物理的な重心の位置や態勢は、それで良いが、必ず相手が自分が思っている選択肢しかないとは限らない。特にこの魔法の世界では、自分が知らない選択肢は沢山ある。先の先を磨くのも大事ではあるが、自分の間合い、未知に遭遇しても捌く位置取りなどや平常心を持って常に安全な状態の基で対応するのが達人と呼ばれる者達であろう。経験がモノを言うとも言えるが、未知は何処にでも存在する」
「相当、奥が深いですね」
「拙者も道半ば、一朝一夕で出来れば苦労は無いがな。」
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そして、夕方、ボクネエさんを嫁達に紹介した。