70.悪魔族ナイカブラ決戦③
勇者は、壁の染みになった。・・・かと思いきや
「痛って―な。やるときやると言ってよ。紳士らしくないよねー」
勇者は不死身だ。本当こいつマジスゲー。
ナイカブラは、勇者に俊足で近づき頭を鷲掴み。
「精神感応」
・・・・
「何か頭がムズムズするな。気持ち悪いぞ」
勇者は、聖剣を横なぎにして胴を切った。
「ぐ、く、お前何ともないのか。頭の中の神経いじったんだぞ」
ナイカブラは、片膝を付いた。
「ああ、頭に何かが入って来たんで、聖オーラを全開にしたんだよ。そしたら居なくなった」
。。。
「そうか、悪魔王様から勇者はお前の天敵だと言われた理由がこれだったのか」
勇者って異世界人だから頭の作りが違うのだろうし、
召喚される時、勇者は、絶対に折れない不屈の心を持って顕現するとあった。
そう不屈の精神力である。
あの有名な話は、御伽噺じゃ無くて本当だったんだ。
>ちょっと今までディスってすみませんでした。BY タケオ
その隙を逃さず、オーキが踏み込みナイカブラの脚を切り飛ばす。
ナイカブラは黒い霧になって逃げようとする。
「全員、緊急退避、高密度ミスリルの盾防御」
俺は全員が逃げの体制をとったのを見計らって不可視の弾丸を発射する。
「5発同時発射」
>30mm、長さ32mmのポイント爆砕弾
低質魔鉱石爆砕:数m範囲の魔力を急速吸収する。
”バシュッ””バシュッ””バシュッ””バシュッ”
真上から黒い霧に向けて発射。
地面着弾時に魔力吸収。
「もう一丁発射」
>直径60mm、長さ100mmの劣化ミスリル弾
着弾時に劣化ミスリルの超高熱爆発
”バフューーン”・”ボフューボッンッ”
地面着弾時に空間が歪んで見える程の超高温爆発だ。
地面が10m四方灼熱で真っ白に変わりそのまま爆散というか溶けて無くなった。
こちらまで、爆発圧が掛かる。実験では近くにあるものが誘爆に巻き込まれて連鎖爆発を引き起こした。この場所で使った場合どうなるか分からなかった。本当良かった。
覗いてみると少し黒い霧が薄くなったように感じる。
黒い霧は動きが遅い。魔法攻撃でなく、物理攻撃で霧に効くとなったら空間に影響しそうな程のエネルギーをぶつけるしかない。少しは効くだろうとの拙い予測である。
魔力も奪ったので少しは、ダメージはあるはずだ
「く、霧化が解ける。魔力が、、」
よし、ファイアーアントの教訓が生きてる。
物理攻撃が霧に効かなくても建物を避けながら進んでいたのを見て絶対ではないと推察した。
観察は大事だ。
ほんの少しの違いで生死は別れる。
ただ、まだ何か隠し持っていないか、そこが問題だ。とにかく畳みかけて相手の実力は出させない。
ナイカブラが実体化する。
間髪入れず、相手に反撃の隙は与えない。
「勇者様、とにかく速攻切り刻んでください」
「OK、限界突破、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード、シャイニングロード」
最早細切れにされたナイカブラは動く気配もない。
「フーフーフー、どうだいタケオ君。これならこいつも動けまい」
「皆さん、30m退避、勇者さんも退避してください」
「え?、まだやるの?」
俺は、オリハルコンのインゴット縦横厚さ1mの正方形の上にばらばらのナイカブラを載せ、四方を周りを超高密度ミスリルの壁で覆った。
全員に高密度ミスリルの盾でまた全体を囲ませ、上から不可視の弾丸
直径60mm、長さ100mmのミスリル超振動波弾
(高速回転と超振動を付加した弾丸)
をぶち込み蓋をした。
”キーーーーーーーン”・”カッキーン・カキ・カキ・カキ・カキッキーン・カキ・カキ・カキ・カキ・カキ・カキ・カキ”
”キーーーーーーーン”・”カッキーン・カキ・カキ”
”カキ・カキ・カキ・カキ・カキ・カキーーーーーン”・”カッキーン・カキ・カキ”
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3分ぐらいして音はしなくなった。恐ろしい事に超高密度ミスリルとオリハルコンに傷が少々ついていた。
初めてオリハルコンに傷が付いたのを見てしまった。
黒い物質は、粉となりそれでも傷一つない赤い小さな粒が一個出て来た。
フラウが言うには、それが悪魔族のコアだそうだ。
この世のものではないので、物理的な破壊は出来ない。今この世界で破壊できる者は、存在しないのだそうだ。
「タケオ、高密度ミスリルでこれが入る箱を作れる?」
小さな宝石箱のようなものだ。5分で高密度ミスリルの箱の中が一辺1cmの立方体を作った。
中にこのルビーのような赤いコアを入れ錬金術で継ぎ目を無くして完全密封した。
その瞬間、黒い霧なのか体なのか黒い粉がサーっと消えてなくなった。
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1km先にいた黒狼族と勇者パーティーが戻って来た。
「どうですか、殺ったんですか」
タケオ「勇者様が倒しました。ただ、滅殺する事は出来ないようです」
そう言って四角い小さな箱を見せた。
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頭の中に何かが語りかけて来る。
「我は、ナイカブラ。我は死なぬ。又必ず復活する。その時お前らはこの世にはいないだろうがな。はっはっは」
少し疑問を聞いてみた。
「お前達悪魔族とは何なんだ。生死も無い生き物なのか」
「我らは、生き物の行動の挟間に生きるものだ。
怒り、憎しみ、悲しみ等の負の感情のエネルギーで生きているのではない。そんなものでは、楽しさ、勇気,優しさなどで相殺されて無くなってしまう。
お前は、ランド王国が何十万人も殺したのは誰か知ってるか」
「それは、侵略を命じた国王だろう」
「馬鹿め、王が命じたって誰一人死ぬ訳なかろう。殺したのはそれを実行した兵士に決まってるだろう。
例えば、王国の者が侵略しそこに住んでいた奴を殺し、別の者がそこに住んだ。10年後帝国が侵略された土地を奪還した。その10年後殺された両親の子供が30歳になり、そこに住んでいた奴を殺したがそこには10才の子供がいた。さて、誰が悪いのか考えてみるんだな。
王国の侵略が悪いと解いても両親を殺された子供は納得するかな。誰の目線、誰の思い、何処の立場、時代さあどれが正解かな。法で裁けば納得するかな。法など一定の水準で割れないものを無理やり割っているだけに過ぎない。どの場面をどう切り取るかで正解は変わってしまう。正義など幾らでもあるのさ。
特に人間は、食う訳でもなく、自分と同じ人間を殺して平気で生活している。それも自分の意思とは関係なくだ。
侵略して犯して、殺して、奪って、それでいて自分の子供にはするなと言う。
人に命じられたら、自分は殺したくなくても殺す。殺さなくていい場面でも殺す。自分で殺しておいて自分は助けろと言う。
さて、人間の心にはどんな矛盾が生じると思う。その感情のエネルギーをどう処理すると思う。
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そうさ、それを闇に捨てるんだよ。混沌の中にな。
ああ、これは仕方なかったんだと勝手な理由をつけてな。
その混沌こそ我ら悪魔族の本質でありエネルギーなのさ。だから我々は、死ぬことは無い。
人間の矛盾などひとしきりに過ぎない。混沌の中には何があるか人間ごときが知ったとしたら、、、
それはもう人間ではない。
俺達の仲間になるのさ。
はーはっはっはっは」
何となくだが、共感する部分はある気がする。
人間の狡さ、甘さ、怠惰などが混じり合い、何ら関係のない者が理不尽に踏みつぶされる。侵略戦争なんて絶対あってはならない。
人間に限らず、生き物は生き残るためどんなに文明が発達しようと進化の歩みを止めてはならない。そう、生命の目標は、種族が唯一生き残る事であって個人が生き残る事ではない。
その目標に沿って行動すること以外に心の矛盾は無くならないような気がする。
しかしそうなったら人間の感情はどうなるのだろうか。
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おそらく、悪魔信徒は、ナイカブラのような悪魔が囁き、いつの間にか洗脳され、組織化されて行ったのではないだろうか。これだけ頭が切れる奴は、中々居ない。このまま封印しても誰かが洗脳され、この箱を何時か開けてしまうだろう。
俺は、遮音、MP自動放出、念話を攪乱、魔力を攪乱する魔導回路を作った。上下左右箱の全面に貼り付け、もう一度周りに高密度ミスリルの箱で覆った。
今度は、一切、彼の声は聞こえなくなった。
全員で話した結果、勇者が教皇に話をし、誰にも知られない場所に封印することとなった。
俺達の存在は、誰にも話すなと黒狼族、勇者パーティーに念を押した。偶々有効な手段を持っていただけで、最終的に倒したのは勇者であることは、勇者本人も分かっている。
俺達は、瓦礫の撤去を手伝ったF級冒険者として説明してほしいと言ってある。
ファイアーアントの時も何かあったのかと詰め寄られたが、何も無いと突っぱねた。
人間知らない方がいい事は沢山ある。
俺は小市民だ。偶々であって二度と勇者には拘らないと思うんだが、拗ねられると不味い(怪獣大戦争があるから)ので、田舎の雄牛が産気づいたので、そろそろ実家の農業に戻ると話をしていた。
しきりに親孝行と感心する勇者パーティーだった。
ーーー雄牛で気付け チョロ勇者ーーー
勇者たちは、村長への報告の後、教都へ帰って行った。
結局、2週間俺達はイキト村に滞在した。
魔法陣の杭抜きである。このまま放っておくわけにもいかず、黒狼族と大体の杭は抜いた。
結構な重労働だ。特に地中深く埋まっている本番の魔法陣はもう壊すのにユグ糸のドリルで必死に壊した。
MP貯蔵庫の魔導回路図を作成して実物は壊した。
問題が無くなったので、町の人に侵入を許可し、俺達も町を去る事になった。
「黒狼の皆、お世話様、もう会う事は無いと思うが達者でね」
「ええ、色々凄いものを見られて感動しています。自分が世界を救うお手伝いが出来たなんて、もう嬉しくて」
とにかく俺達は何もしていない事に念を押し、言ったら敵だと言明した。まあ、言っても誰も信用しないと思うが。
それから、ユグの半月板だが、思考能力を上げる効果があることが分かった。フォジックの動きがほぼ瞬時にできる。
いまだったら、オークソルジャーや、A,B級冒険者にも気付かぬうちに打ち出せるんじゃないだろうか。
こうして俺達は、イキト村を去るのであった。
あとがき
コロナウイルスが蔓延る現在、TVを見ていたら色々な変異株が出てきて、彼らは何で変異するのかについて話していました。そこで、生き残るために変異すると言われ、その為人間と共存するために弱毒化しながら繁殖力を増していってる者がいる様に聞こえました。彼らも進化しながら遺伝子のプログラムに従って生きて行く、実際には生き物とは言い切れないそうですが、逆に人間がコロナに負けないのも人間が生き残るための意思なんだと思います。
そんな時に侵略戦争が起こるという事は、いったい人間は何のために生きているのか考えてしまいました。
やはり、生きる目標は、人類の発展であって一部の人間が生き残る事ではないと感じてしまいました。
大上段に構えた話ですが、自分の生きてきた中でこのような経験は当然なかった訳で、少しそのような気持ちで書きました。