68.悪魔族ナイカブラ決戦①
俺達に時間は無い。相手が次に行動を起こす前に仕掛ける事にした。
まず、今回のミッションは、危険度が高いので、イキト村の全員を非難してもらおうという事となった。
勇者が第一魔法陣が発動するだけで村が全滅する事を話したが、町長は、確証が無いと応じられないと断固拒否してきた。
協力もしないと言われ、勇者の人望の無さにほとほと疲れさせられた。
それでも、村の半数は、雨が降ったら朝から村を出て待機すると言ってくれた。
今からでは、戦力増強は望めないし、必要な人材も分からない。
ここは、勇者一点突破で行くしかない。
「タケオ君、ユグの戦士の話があったけど、君たちじゃあないの」
「勇者様、それはあり得ません。俺達F級冒険者ですよ。ユグの戦士は、悪魔王と戦った竜とか聖獣の事ですよ」
フラウ「・・・・・・・・」
「そりゃあそうか。人類で対抗できなから勇者を召喚して来るんだもんな。」
「そい言えば、一度聞きたいと思っていたんですが、勇者様は、自分が元の世界で生活していたのにいきなり連れてこられたんですよね」
「ああ、そうだよ。夜中にオンラインRPGをしていたら、いきなり頭に声が聞こえて自分が光り出して、"汝に救いを求める世界在り、屈強の勇者としてその世界を救え”と啓示があったんだ。もう興奮して、興奮して」
「それだと、拉致監禁の強制移住ですよね。ご家族とか心配ではないんですか」
「いいの、いいの、僕達の世界では、こういう事はラノベを読んでるとしょっちゅうあるらしいから、それにわくわくするだろ。」
とにかく、地球の人達は、拉致監禁強制労働が大好きなM系の人の集まりらしい。
そう言えば、俺達なら何回か死んでた程魔ギ酸を浴びてもケロってしてたし、地球人って痛いの好きなのかな。気持ちいいとか思ってるかも。
これは違った意味でも近づかない方がいいようだ。
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二日後、朝から小雨が降り出した。
いよいよ決戦の時が来た。
黒い霧は、恐らく最後の仕上げに来る。黒狼族が泥沼にした部分へ向かうはずだ。
俺とテンコ以外は遠巻きにその場所を狙える位置に移動し、悪魔が実体化した時に全員の火力を集中させる算段だ。
後は勇者が切り込んで決着と上手く行けばいいんだが。
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「テンコ、黒い霧がアジトから出ていくぞ、装置を起動しろ」
「マスター、了解です」
俺達は、装置を起動し、泥沼に向かうが、黒い霧が現れない。
黒い霧を追いかける黒狼族の斥候が来た。
「場所が違います。今、この前来ていた位置から15mの所に実体化しました」
「何」
とにかく訳が分からないが、実体化した位置に全員で急行する。
なぜ?どうして?意味が分からない。
到着すると今まで想像もつかない場所に赤い染みの付いた杭が斜めに打たれていた。
それは、6番目の魔法陣の経路が此処だけ逆向きに戻っていくのが分かる。書かれた地図に点をトレースして行く。
この魔法陣が意味するものは、・・・見た事があるような・・
これは、魔法陣集の本で読んだのではない。呪いの呪印集だ。
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「皆、こいつを倒さないと世界が滅ぶ。とにかく全火力ぶっ放すぞ。メディエさんの発動に合わせ各自散開。ゴー」
俺は、俺達と勇者パーティーの勇者、大魔導士、賢者に50m周囲で囲むよう指示した。
それ以外と黒狼族は、100m周囲で警戒とした。これは、最初の打ち合わせ通りだ。
勇者チームの大魔導士メディエ、賢者トウアスが詠唱を始めた。
俺は、ファイアボール10基待機、ウインドスクレイバー10基待機した。
フラウは真空刃の準備、テンコは雷撃準備
聖女マリアさんの話では、魔法は効かないと言っていたが、聞いた文献が古いので、最初にやるだけやって見ようとなった。
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メディエ「世を守りしイフリートよ。・・・・・・かの者を滅す力を与えよ。・・・・出でよファイアーボム」
メディエさんの呪文の完成と共に全員で攻撃を開始した。
「全弾 発射!」
黒い人影に向かい、攻撃者全員の魔法が全弾着弾する。
”ズドーン”、”ボボボボボン””シャイーン””バリバリバリー””ババババー”
”ズドーン”、”ボボボボボン””シャイーン””バリバリバリー””ババババー”
雨なので土煙はあっという間に晴れる。
やったか!
・
徐に黒い人影が立ち上がる。
「君たち、いきなり撃ってくるなんて、何と紳士的でない事か、恥を知りなさい。」
体の埃を払う仕草をしながら、ふと思いついたように。
「挨拶していませんでしたね。私は、悪魔族ナイカブラ。皆さんお見知りおきを」
凄い余裕を咬まされてしまった。
俺は、勇者を前に出して後ろから肘で突いた。
「ぼ、僕かい。僕は勇者ハヤト、お前はここで何をしている。
返答次第では只じゃ置かないぞ」
・・・
「何って、人間を滅亡させに来たんだよ。只じゃ置かないってそんなお粗末な魔法じゃ傷一つ付かないよ。掛かっておいで」
あーあ、軽い挑発に乗る勇者。
「この、限界突破、シャイニングロード」
勇者が、何の策もなく斬りつける。せめて聖騎士が盾を構えるのを待って欲しかった。
袈裟掛けにかかる軌道は丸わかりだ。
ナイカブラは、ひょいと横にずれると強烈な横蹴りをハヤトの腰あたりに叩き込む。
”ドゴン”・・”フュードドド”
勇者は、隣の家、家、家に大きな穴をあけて停まった。
"漸っ!”・”ボト”
オーキが蹴る隙を逃さず、ジェットで踏み込んで右手を切り落とす。
ナイカブラは、大薙刀を振って踏み込んでいるオーキに右回し蹴りを喰らわす。
”シュゴー”・”ズドン”・”ザザザザザーーー”
薙刀の柄で回し蹴りを受け、横に10m程滑っていくオーキ。
「中々やるね。オリハルコンかい」
聖騎士が盾を持って突っ込む。
”ドゴッ”・「きゃーーー」
前蹴り一発で10m以上吹っ飛び転がる聖騎士。
”シュルルー・ザシュンン”
前蹴りの瞬間、真後ろにいたテンコが出て蹴り足をユグ糸で絡め切る。が、切り切れなかったがボロボロだ。
「ほほう、面白い武器を持ってるね。大分痛かった」
一気にナイカブラの魔力が膨れ上がる。
「皆、後ろに飛べ、盾準備」
「ダークネスディープ・インパクト」
”バフューーウウンウウンウン”
ナイカブラから半径30mの家々は、塵と化した。
恐ろしい技だ。
俺達は、各自高密度ミスリルの盾を構え難を逃れた。勇者以外は、である。
勇者の回りの家が無くなり、
「あれ、家が無くなった。お前がやったのか」
「何でお前、平気なんだ。」
勇者は、頗る頑丈である。ファイアーアントの魔ギ酸を全身に浴びても肌が赤くなる程度だ。蹴りで10mくらい吹っ飛んだくらいなら我々がちょっと押された程度の感覚なのだ。
タケオ「援護する。勇者切り込め」
勇者は、横なぎに構え、突進していく。
俺は、不可視の弾丸 直径12mm、長さ24mmのロングポイント弾を真上から10発ぶち込む。
”ズドドドドド”
「ぐ、く」
避けようとも3,4発命中したようだ。それによるダメージは無いだろうが、揺動にはなる。
勇者の剣が唸る。
”シャイーーン”
ナイカブラの右足を切り飛ばした。
「良い攪乱だったな。だがこれまでだ。お前がリーダーのようだな。まずお前を殺せば後は烏合の衆だ」
ナイカブラは黒い霧になり、俺の方に飛んできた。
一瞬にしてナイカブラの体は、元に戻っている。
俺は、一瞬戸惑った。
魔法は効かないのに、いつもの癖で指を前に出そうとしてしまった。
直ぐに黒魔路改改を出そうとしたが、、、、、
頭を右手て掴まれた。
「ぐあーー」
何か得たいの知れないものが頭に入ろうとしている。
額が暖かい?カタカタ額の所が揺れている。魔力不足でユグの半月板が揺れていた。
「く、人間ごときが我の精神感応に抵抗するか」
ユグドシアルの半月の板?。
※48.修羅場は忘れた頃にやってくる 参照
こんなことに役立つなら説明ぐらいしろよユグのオヤジ。
あんまり魔力流さなかったから中途半端に作動しちゃっただろ。
とにかく魔力を半月板に流す。
”ドーン”
テンコがナイカブラに体当たりをして前に入ってきやがった。
「テンコ下がれ」
ナイカブラは、テンコの頭を掴もうとする。
やばい、精神感応の技を使う気だ。
俺は、テンコを引っ張り後ろに投げようとした瞬間
”キーーーーーン”
そこには、マギゾー達5匹が居た。
「ぐああーー、手がーーー」
ナイカブラの手がボロボロに崩れ落ちた。
「なぜ、暗闇の森にしか居ない筈のアンチ・トライロバイトがここに居る。お前ら何者だ」
今日は、テンコがマギゾー達の登板だったようだ。
暗闇の森の住人であるマギゾー達は、やはり悪魔族に対抗する力があるようだ。
「くそ」 ・ ”ズドッ”
ナイカブラの膝蹴りを受け、俺とテンコは後ろに下がる。
テンコは、ユグの糸でガードしておりダメージは無い。
「霧化が、、、、くそ」
ナイカブラは、実体化したまま最速で逃げ始めた。
行き先は、分かっている。
悪魔信仰アジトだ。