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63.イキト村潜入


イキト村は、この辺では珍しく真っ平らな大地にある。見渡す限りが平原で水脈が無い為、2百年ほど前に水路を作り村が出来た。作物は余り採れないので農作は期待できない。ただ、教都に近い中間地点として活用され、商業が盛んで町と言ってもいいのだが、ちょっと教都に近すぎるため大きく発展しずらい場所にあるので村のままだろうか中途半端な場所だ。ただ、おそらく数千年地震や水害等は無く、強固な地盤なため、教都に災害が起こった時の避難場所としての意味合いもあるのだろう。

俺達は朝のイキト村の門の前にいる。

今日は雲一つない晴天で、情報によれば、黒い霧は雨の日以外襲ってこない筈だ。だが、鵜呑みにはしない。

町全体を広範囲に魔力サーチをすると、東側に人としての魔力は殆ど感知できない。西側の地区には、一定の人が存在する。

北と南は、疎らだが、居るようだ。

東の地域にも相当気配遮断の上手い奴が5人はいる。隠密調査をしているのだろう。

門番に挨拶をし、勇者が居るか聞いてみたら、最初に来てから一度も見ていないそうだ。

勇者から来た手紙を見せ、関係者がいるか聞いてみたが見た事は無いとの事だった。

 我々は、まず人通りが多い西の地区で聞き込みをする事にした。朝も早い事から人通りは少ないが村役場に行く事にした。

役場の中に入ると中は閑散としていて職員も数人しかおらず今にも居なくなりそうな勢いである。

「すみません。こちらで謎の死が起こる事を調べに来たんですが、どなたか調査している方、御存じありませんか」

驚いた職員は、少々お待ちくださいと言って中に入って行ってしまった。

暫く経つと、小太りのおじさんが出て来た。

「あんたらは何者かね。色々な所から調査と称して来てはくれるが誰も解決出来ず帰っていく。勇者なんて半日で帰って行ったんだ。何処の依頼なんだね」


うーん、非常に言いづらい。実に言いずらい。


「うーん、何と言いましょうか。教皇様と言いましょうか、その下請けの”ゆううん様”と言いましょうか、そのまた下請けと言いましょうか何と言いましょうか、そう言うことです」


「君、言葉分かる?何言ってるか分かんないよ。”ゆううん”なんて人、聞いたことないよ。線香の名前じゃないよね」


タケオは心の中で思った。

”今の流れで勇者って言えるか!”


「折角ここまで来てくれたんだ。事件に詳しい人は紹介するよ。あと1か月も解決しなければ、この村は廃村なんだ。自分が解決できればいいんだが、他力本願なのは分かってる。何かあったら直ぐ協力するからお願いします。

けど、勇者みたいに半日で逃げ帰んないでね。勇者は、他でも失敗ばかりだけどさ。」

そう言って一軒の商人を紹介してくれた。


しかし勇者よ、お前の評判凄い悪いのな。異世界から折角来たんだから頑張ってくれよ。怪獣大戦争よろしく頼むよ。

タケオ一行は、行商をしているナミセ商会へ足を運ぶこととなった。ナミセ商会は、西側といっても東に一番近い地点にあった。店と言うより倉庫で仕入れた雑貨、乾物を倉庫の前で売っている。


里芋らしきものを並べていた店員に聞いてみた。

「すみません。ナミセさんいらっしゃいますか」

30才後半くらいだろうか、男性店員は立ち上がりこちらを向いた。


「ああ、俺がナミセだが何か用か」

「村役場から今回の騒動に詳しいとお伺い致しました。調査をしに来たもので、冒険者のタケオと申します」

ナミセは、少し睨めつけるようにタケオを見た。

「詳しいんじゃない。最初に襲われたのが、俺の家だから俺が最初の発見者だから詳しいと思ってる奴が多いんだ」

彼は、最初の犠牲者の家族で自分の家族が死んだのを目の当たりにした夫であり、娘の父親だった。


「すみません。不躾に押しかけてしまって」

「いや、いい。今更、妻も子も戻って来る訳じゃないからな。」

彼は、倉庫の中の乱雑に置かれた椅子に座ることを勧めてきた。

「すまんな。倉庫なんで、茶も出せん。」

彼は、真直ぐタケオを見ながらその時の様子を語ってくれた。


 彼の家は東地区の中央に在り、悪魔信徒のアジトから3軒先の商店で、二階が自宅になっていた。

その日は午後から雨が降り、客足もないので店を閉め、ナミセは、倉庫整理に今の倉庫に来ていた。

家に帰ると、一階の真ん中あたりで自分で首を絞めて死んでいる妻と娘を見つけた。

役所は、最初自殺ではと疑ったが、5日後、また雨が降り、ナミセさんの前の家が同じように襲われた。

通りを挟んで真向いにあるので、窓越しに偶々襲う光景が見えたが、恐怖のあまり助けるどころか暫く動けなかった。

黒い塊が人の形になり、相手の頭を押さえつけると、何かを喋り始め、腕の色が段々赤くなっていった。

暫くすると黒い霧になり窓の隙間から出て、悪魔信仰のアジトに戻って言った。

店主は、自分で首を締め、息子は、自分で首をねじ切っていた。


それ以外の雨の日には必ず黒い霧は現れるが、必ず襲われるわけではなく、黒い霧は東地区の何処かへ行ってはアジトに帰るを繰り返している。

今では、東地区に誰もいないので、襲われることは無くなったとの事だった。


無理をお願いして東地区の家の場所、悪魔信仰のアジト、隣の家の殺された位置を聞き出した。

「本来俺が犯人をぶっ殺したい。だが、脚が竦んで駄目なんだ。

どうしても震えが止まらない。本当に不甲斐ない。」

店主は、崩れ落ち四つん這いになりながら、涙を流していた。

きっと、裕福ではないにしろ幸せな家庭だったんだろうことは、ヒシヒシと感じる。

自分が何処まで解決できるかは分からないが中途半端には出来そうにない。

聖人君子ではないが、やはり善人の涙は良心に堪える。

とにかく現場調査をして来ると言って店主とは別れた。


東地区に向かうと、遠回しに瓦礫などを積み、バリケードになっていた。そこを登って問題の地区に入る。

ナミセさんの地図を頼りにナミセ商店に辿り着いた。

店を開けると既に遺体は埋葬されて無いが、娘さんが殺されたであろう現場付近を確認した。

今は片付いていて只、机と椅子が置いてあった。

 次に隣の店も店主と息子が居たであろう場所を調べてみた

この店の一階は、石畳になっている。

一か所気になった所があった。そこは、机の下になっていて

床に丸い赤い染みのようなものがある。

赤い染みをナイフで穿ろうとしたが、鉄のナイフが曲がってしまった。

ここ暫くは晴天が続くだろうとの事で、翌日も赤い染みを探して回った。他の家々に赤い染みが点在している。


今日は、悪魔信徒の屋敷を探索することにした。


 屋敷の前に行くと、黒狼族の者が5名土下座していた。

「すみません。どうか、どうか黒狼族をお許しください」

「この前、会ったら真っ二つにすると伝えたんだが、聞いてないのか」

「承知しております我々が切られれば、またタケオ様の前に黒狼族の者が土下座しに参ります」

「俺は、裏切り者に聞く耳は無い。皆切り捨てるぞ」

「はい、一族郎党皆殺しになるまでこの土下座は続きます」

フラウに肘鉄を喰らった。

「俺は許してないんだが、俺の愛する嫁さんが話くらいは聞いてもいいそうだ」

黒狼族の5名は耳と尻尾をピンと立て話始めた。

どうも占い師の格好をした婆さんは、人族と結婚し追分の町長が息子だったそうだ。息子は二人いて兄は人族の血が濃く弟は黒狼族の血が濃かった


元々目の前しか見ずに突っ走る性格ではあったが、今回息子がしでかした事を知り、俺達にはエルフがいる事を知ったことから遠ざけようと長老達の知らない所で勝手に画策したのだと。

腕を切り落とした黒狼の者は、町長の弟だったそうだ。

このままだと兄が貼り付け獄門になると思い襲ったそうだ。

 事の次第を知り、俺達を追ったのだが見つからず最終目的地のイキト村まで来てしまったそうだ。

「何を聞かされても襲ってきたのは黒狼族だと言う事実は消えない。そちらが何もしなければこちらも何もしない。お前たちを信用することは二度とないとそう長老に伝えろ。」

消えろと言っても、また土下座をしてその場を離れようとしない。

また、大きな声で嫁の井戸端会議が始まった。

「ちんちゃ、ちんちゃよねー。ネズミの額より心が狭いのかしら」

「おらも思うだが、タケオはちょっと他人に厳しくて自分に甘いんでねーか」

「マスターは、勝手にいろんなことして嫁増やして、嘘ばっかりついてる癖に、自分は謝って済ますです。他の人にここまで心底謝われれば許さないのは、人間失格です。

命を懸けてまで謝ったんだから騙されたっていいじゃないですか、一回間違ったら皆切り捨てていたら回りは敵だらけです。子供が失敗したら許す度量もないんですか」


えらい言われようだが、ぐうの音も出ないとはこの事か。

ここは、嫁たちの意見には逆らわない。俺の最上位ルールだ。

「分かった。今回だけは無かったことにしてやる。だが二度はないぞ。長老にそう伝えろ。」


その時、俺はピンと閃いた。

「お前たち、罪滅ぼしにちょっと手伝え」

俺は地図を渡し、赤い染みの位置を隈なく探させた。


その間に悪魔信仰アジトを慎重に探索した。

家の広場の中央に魔法陣らしきものを発見した。

回りには阻害するものは何もなく中心に渦が巻いている。


俺はこの魔法人をよく知っている。


2日間黒狼族が調査した赤い染みを地図に現し、ある仮説を立てた。

「この通りの噴水の前には家は無いが赤い染みは無かったのか」


「それが瓦礫が周りを囲んでいて、この通りは通れないんです」

俺達はその通りの瓦礫を撤去し、屋根の様に積みあがった場所を奇麗にするとそこには大きな赤い染みが着いていた。




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