61.教皇国へ突入
タケオ達一行は、教皇国との国境にいる。
マケラ帝国と教皇国の国境検問所は、5か所存在する。
その中で我々が今居る所は、ニアから一番行き易かった大森林に一番近い検問所だ。
友好国なので、余り厳しい検問は行われないにも拘らず、一日足止めを喰らっているのだ。
原因は、やっぱり予想通りオーキだ。
幾ら人間だと言ってもオーガだと返される。
それだったら大森林から入ればと思うだろうが、マケラ帝国が緩いんであって、ほかの国は入国証が無いと罰せられる。
その為、国境で発行して貰うのだが、勇者の手紙とギルドの登録証を見せてもオーキだけは通してくれない。
今、近くの駐屯地にいるオーガ族のものを連れて来るそうだ。
それまで入国出来ない。
仕方がないので、国境近くの森と言うか雑木林の中で野営している。
魔物もいない林なので今日はゆっくりできるが、ちょっと試したい事がある。
「今日は、外でバーべキューでもするか」
フラウが野菜を出し、水で洗う。
テンコとタケオが薪を拾い。
オーキが土間を作る。
”ジュー・-”
オークの焼ける油の匂いが林に広がっていく。
前の茂みから黒い三角の耳が8つ、
黒い尻尾が”ブルンブルン”。
もう呼んでくれと言わんばかりに”ブルンブルン”廻っている。
「よし、出てこい」
そこには、犬耳の子供が4人涎を垂らしながら出た来た。
「ふみ、それは、何の肉でしゅ」
もう目は、肉に釘付けだ。
「お前ら何処から来たんだ」
「ふみ、丘の向こうからでしゅ」
丘の向こうは国境の緩衝地帯だ。つまり教皇国から来た事になる。
よし、狙い通りだ。
「国境を越えて来たのか」
「ふみ?、それより肉が焦げてしまいます」
「食べたいのか。」
頭が取れる程の勢いで、”コク、コク、コク、コク、コク”。
「じゃあ、お願いがあるんだが、」
タケオは、教皇国に入ったら国の状況を教えて欲しいと頼んだ。食べ物の恩義は絶対返すとの事でOKしてくれた。
”バクバクバク” 「ふみ、ふみ、ふみー、おいしーでしゅ」
兎に角たらふく食べさせた。お父さんとお母さんにもいっぱいお土産を渡して帰らせた。
「これも持っていくです。」
「ふみー、これは長老から聞いた幻のドス黒紫の根でしゅね。これで長老が長生きするでしゅ。こんな貴重なものまで、天恵、天恵でしゅー」
「タケオ、どうしてあの子達から情報を聞こうとしたの」
「あれは、黒狼人族の子達だよ。彼らは義理堅く、恩義を忘れず、隠密に徹し、色々な情報網を世界各国に持っているんだ」
実は、テンコが、黒狼人族が教皇国とマケラ帝国の国境沿いにいる事を村の長老から聞いて覚えていたのだ。
”耳族ネット・あの人は今”
のコーナーにも黒狼族の村が教皇国の国境地帯にある事が載っていたそうだ。
テンコの村と同じぐらい貧乏らしいので、鼻の良い狼ならば釣れるかもとバーべキューをしてみたら当たったという訳だ。
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その日の夜。
暗闇の中から、年老いた黒狼族の老人と大人の黒狼人が現れた。国境を越えてからと言ったのだが、子供の事だし大目に見ないと。
「ふみ、これは、これは、天恵をいただきましてありがとうございます。ドス黒紫の根は、匂いが無く、森の中でも狙って見つからぬ物ですから、本にありがとうございます」
「ふみ、家に多大な肉を戴き、誠に感謝致します。して情報が欲しいとの事で参じましたが」
タケオは、勇者の手紙を渡し、この中で知っている情報があれば教えて欲しいとお願いした。
タケオは、勇者の情報を余り信用していないし、情報も大雑把だ。一緒にファイアーアントの調査に出た時、何も下調べもせず行動していた事から、先ず巻き込まれる前に情報は集めておこうと思ったのだ。
・
タケオと黒狼族の2人、嫁3人でミスリルハウスでお茶を飲みながら話す事となった。
「ふみ、まず地図の場所ですが、これはイキト村で間違いないでしょう。
このイキト村は、1000人を超える大きな村で、町と言ってもいいくらい栄えていました。
近頃、雨の日に決まって何処からともなく黒い煙が目撃され、黒い煙が入って行った家の人間が自分で自分の首を締めて死んでいく様になりました。
我々の同胞も村からの依頼で数人程、黒い煙を追って中に入ったのですが、自分の口に自分の腕を突っ込んだまま死んでしまったそうで、情報はそこまでしか在りません。
我々も隠密には長けた者と自負しておりますし、危険には近づかずを肝に銘じて行動しているのですが、この有様です。
そこで、直近の村の動向を調べると、十年くらい前に悪魔信仰をする者が、教都から流れて住み着いてから平穏な村の治安が一気に悪くなったと聞いております。
こちらの情報では、生贄の儀式の為、奴隷を買ったり、旅人を襲っていた様です。確かな証拠が無い事や相手が奴隷や異国の旅人だと本腰を入れて村や国は動かなかった為、現状でも有耶無耶になっていました。
それが近頃、悪魔信仰のアジトらしき場所が壊滅しました。現場には、恐怖の顔をした死体が有り、一つの大きな魔法陣が書いてあるそうです。
触ると何が起こるか分からないので、そのまま放置されているようです。
その後、この事件が起こったのです。
悪魔信仰と関係があるかも定かでは無いのですが、時期と死体の顔を見ると無関係には思えないのです。
その後、勇者様が視察に来て、
”お化けだ。怨霊は勇者の仕事じゃない。小さい時から苦手なんだ”と言って帰って行ったのですが、教皇様から解決を懇願されたそうなので、この手紙はその勇者だと思います。」
これは、一筋縄では行きそうもない。及び腰の勇者が、異世界で頼れる人もなく、依頼してきたのだろう。
しかし、相手の情報が少な過ぎる。このまま対決するのは危険だ。
「長老、お願いがあるんですが、調査に協力出来る方を紹介願えないですか」
「ふみ、既に村から依頼されている者がいるのでその者に事情が聴けるよう手配致しましょう」
二人にオーク肉を50kと紹介料として金貨20枚を渡した。
最初は受け取らなかったが、今後も何かあったら頼みたいのでどうしても受け取って欲しいと懇願し、渋々受け取ってもらった。この世界の情報の価値は非常に高い。これでも格安な額だと思う。
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・
翌日、ところ変わってマケラ帝国と教皇国との国境検問所。
「ひ、原生のオーガ、それも最強の戦士」
3m近くあるオーガ人族の兵士が見た途端に一歩後ろに下がった。
「やっぱり、魔獣だったか」
検問の兵士が10人槍を構えた。
「いや待て、オーガに最も近いというよりオーガを超えた人間だ。おでも久しぶりに見た。身体能力、オーラは、オーガ何て片手で相手できる原生のオーガ人族最強の戦士だ」
「オーガを片手で相手できるって、それ人間じゃないだろ。魔獣より魔獣らしい奴って超魔獣だろ」
「おめえら、酷え奴だな。おらには超かっこいい旦那様がいるだ。」
オーキはタケオを見て腕にしがみついた。
そこにいた全員がタケオを畏怖の念を持って見ている。
タケオは、思わず、”こくこく”と縦に首を振った。
兵士たちは、槍を納め、天使が幼子を見つめるような目でタケオ見た。
「俺は、バカだった。これから母ちゃんの愚痴は二度と言わない。俺は何て幸運な奴だと今日悟ったから。ありがとう」
タケオは、夫婦者の衛兵から感謝された。
俺だって逃げ出したかったわい。
畜生!、獅子王の奴、絶対ワンパン入れてやる。
一部の衛兵は、納得がいかないようだが、オーガ族の兵士が原生のオーガ人族だと証明してくれた。
タケオは、やっと国境を越える事が出来たが、帰りがまた心配になると溜息をついた。
・
ーーー
教皇国の国土は、マケラ帝国の半分もないが、肥沃な土地と温暖な気候で小麦などの穀物の収穫量が多い。食事情と気候のせいか温和な人が多く、孤児なども手厚く育てられるので、愛国心も強い。
王族は数千年前に統治していたが、内乱、戦争を繰り返し、国土は荒れたが、時の女神を信奉する一派が民を導き争いを沈めこの国を治めるようになった。それが教皇国の初めである。
女神教は、全世界にありその支部は、数千に及ぶ。”針糸商人ミミちゃん援助”をしているトウースの孤児院もこの支部の一つである。
基本的に歴代の教皇は、争いを好まない者が多いが、中には侵略や我欲に固執する者も出て、順風満帆とは行かなかった。
その後、教皇となる者は決して自国民である必要は無く、信仰の厚さ人間性を評価し、全世界の教会から推薦者を募り、10年間の修業を本部で行って、その集まった者達と本部教会員で投票で決まるようになった。
しかし、パフォーマンスばかり優先して魔物討伐や悪霊の除霊、寄付金の増額などをする事が横行し、中々人間性や方向性で選ばれる事は困難を極め、色々な施策を行ったが、今でも迷走中との事だった。
宗教だけの問題ではなく、教皇となると国を治める立場であることから決して宗教心だけで決める訳にもいかず、中々難儀しているようだ。
今では、優秀な教皇が出るとなるべく子供若しくは教皇の教えを受けた者に継がせるようにしているようだ。
これは、議会の怠慢と思われがちだが、過去に折角上手く行っていたにも拘らず、180度違った施策を出された為、国が大混乱に陥ってしまった経緯から、国として急激な変化を嫌った為だ。
どの世界も人間のやる事に絶対など存在しない。一番大事なのは、背けず、自身の利より博愛の精神で向き合う心を持たなければ、必ず自分への害になって返ってくる。
宗教を否定する気も肯定する気もないが、人類は生まれて死ぬサイクルから抜け出すことはまだ出来ていない。人間が生まれて一人で成人することは不可能である。誰かの手を借りなければ赤ちゃんから子供に成れない。誰かに教わらなければ、文明など何も使えない。つまり、自分だけいいものを食べて、誰にも今の知識を教えず楽して生きようとすれば必ず歪みが出来るは必定である。
ーーー
教皇国に入ると雰囲気はガラッと変わる。
何と盗賊が出ない。その代わりと言っては失礼かも知れないが、やたら占い師が多い。
道端に机と椅子だけの怪しげな者が50mくらい並んでいる。
看板には、”あなたの家族は、狙われている”とか”貴方の100年後の子供が苦難に会う”とか色々だ。
必ず、壺か数珠を買うと勝手に解消されるらしい。魔法でも100年後の未来には行けない。本当に凄い。この人達が怪獣大決戦に参戦してくれれば、絶対負けないだろうな。
だって、100年後の苦難解消できちゃうんだから壺千個ぐらい買っとけば狙われても、苦難もなくなっちゃうもの。
茶化しても意味がないけど、自分も思う事はある。
ミミちゃんが生き返るなら何だってしたいと思うし、目の前で大事な人が死んで行くのを見ている時に、この壺を買うとあの世で幸せになると言われたら、はたして正常な思考が働くか自分にも自信がない。
みんな、勝手に打ち勝つしかないとか乗り越えろとか言うけど他の何者かが助けてくれるなら悪魔にだって魂を捧げたくなる瞬間は大小はあれど結構な人に思い当たる事があるんじゃないだろうか。
もし、病気で死にそうな我が子が治るかも知れないと言う壺がひと月の稼ぎで買えるとしたら・・・
・・・もし、原因も分からず治ったら、毎月お布施をしたら病気が起きないと言われたら・・・・・・
・・・
一番人気は、恋愛占いで、女の子たちがキャーキャーしている。
その中でも群を抜いて列が出来ている小屋がある。
”貴方を好きな人を当て〼”と看板があった。
男たちが後ろに隠れているのが見える。
お目当ての女の子が中に入ると男たちが自分の名前を書いてお金を払っている。
小屋の横で男達が聞き耳を立てている。喜ぶ奴は、1人。落ち込んでる奴が殆ど。・・・皆が落ち込む時もある。
豪傑は、来る女の子全員にお金を払っている。
彼女欲しいんだろうな。おそらく男も女も分かっててやってるな。
この商売の良い処は、怖くて直接聞けない男の気持ちと直接だと断りにくい女の心理を突いている。
タケオは、その横の店で呼び止められた。
「お客さん、イキト村受難の相が出てますよ」
「誰だ」
それは、黒いローブを被り、齢80の老婆だった。
小さな小屋に手招きされ、4人で入った。
彼女は、パンナと名乗り、教都とイキト村周辺の地図を渡して来た。
まず、長老から聞いた話が古かったらしい。ここからイキト村までは、歩いて3週間は掛かる。馬で1週間の行程だ。
今、イキト村には人が居ない。全員が教都へ非難したそうだ。
長老の話では、一部の地区で黒い霧が出て死んだ者が出たと聞いたが、全員が非難したとは聞いていない。
なので、急いで教都に向かって生き残った方の情報を聞いてからイキト村に向って欲しいとの事。
俺達は、ニコニコ笑いながらその場を別れた。
タケオは、このタイミングで情報の交錯を理由に王都へ向わせようとする黒狼族に一抹の不安を覚えた。
「フラウどう思う。疑い過ぎかもしれないが、そんな簡単に情勢が変わってタイムリーに行き先が変わるのはおかしい気がする」
「そうね。まず入れ知恵してから何かをさせたいか、直ぐに向かわれると困る事があるのか、ちょっと詮索してしまうわね」
「只、言える事は、黒狼族はこの件に何か深く関わっているという感じがする。迂闊に掌で踊るような真似は危険だな」
「そうね。表面上は協力的に動いても相手のペースで進むのは危険と見たわ」
我々は少々きな臭い雰囲気の中、教都へと歩みを進めるのであった。