60.教皇国への道程
ニアの町を抜け出し俺達4人と五匹は、マケラ帝国領を南西に向って街道を歩いた。
5匹とは何だ。と思われるだろうが、名前は、マギゾーと言う。
何となく察しが付くと思うのだが、あのファイアーアントに付いていた”魔ギ酸を食べる草履のような虫”である。
安直だとかは、許して欲しい。毎日研究していると呼び名を縮めたくなるものだ。
一から五まで居るが、観察すると性格が微妙に違ったりする。一は、リーダーっぽい。二は人懐っこいので直ぐ寄ってくる。三は、食いしん坊で動作が緩慢だ。四は俊敏で駆けずり回る。五は大人しく、いつも頭の上にいる。
嫁たちが、交代で世話をするうち情が沸いたとしておこう。
(実際は、魔ギ酸を分解したときの甘味シロップのおこぼれ狙いだ。)
皆、率先して世話を焼きたがる。いつの間にか普段は、体に張り付くようになり、世話係の体を這い廻っている。
偶に「いやん、先っちょ突っつかないで」とか聞こえてくる。でも慣れて来たのか、気持ちいい?のか楽しくやっているようだ。
俺はそこで閃き、ヤギの乳をマギゾーに垂らしたら、凄い勢いで分解して食べていた。(分解するとバターだ)
ただ、そんなに食べる訳でもない。魔ギ酸が主食で、乳はお菓子扱いかも知れない。
これからも食べれる物を探していこうと思う。
嫁たちは、50cm四方の高密度ミスリルの板を各自持っている。一日1回その板を収納から出すと、マギゾー達は勝手に集まってくる。背中に魔ギ酸を垂らすのが食事である。
各自に数十匹のファイアーアントも持たせているので魔ギ酸は数年は困らないと思う。
既に、超振動板は完成していて甘味シロップは、マギゾー達が居なくても取り出せるのだが、いつの間にか家族の一員となったマギゾー達である。
ミスリルハウスに帰ると勝手に家の中を這いつくばっている。登板の者が、机の端を人差し指で”トトトトットン”とすると必死になって体にくっ付いてくる可愛いペットなのだ。
しかし、5cmくらいの虫が体を這いつくばって気持ち悪くないんだろうか。
まあ、この5匹は人畜無害なので気にせず旅を満喫しようとゆっくり歩いている。
皆、滑空飛行が出来るが、それでは旅に醍醐味がない。今まで結構稼いでいたので、路銀には困らないのだから、ここは食べ歩きと温泉を狙っていこう。そう考え歩いているのだが、宿に泊まれない事に気づいた。
宿屋がオーキを見ると途端に満杯になってしまう。
食べ物屋はあまりボイコットされないが、良い顔はされない。温泉にも寄ったのだが、女湯で”きゃー”とか”魔物が”とか散々言われた。
もう風呂は大混乱で、それに乗じて”俺が助けにー”と言って女湯に突撃する奴がいる。魔物と戦うのに、あの緩み切った顔は何なんだ。
そこで、宿屋とか温泉泊るのを止めたというより出来なかった。
ミスリルが大量にあるので、縦3m横7m四方の箱を2つ作り、2つをくっ付けると一個になるようにして何処でも出せる簡易ハウスを作った。魔導回路を調べ、周りの色と同調する迷彩ハウスに出来たので、非常に見つけにくい。
普通のミスリルなので、一般的な魔物では壊せない頑強なハウスだ。
お風呂と台所もついているので快適な空間となった。
温泉も収納に大量に汲んであるので何時でも温泉である。
食べ物も収納してしまえば、時間経過がないので後で食べられる。
こうやって4人で仲良く旅をしている。
偶に大きな商隊が20車位の馬車を引き連れ通り過ぎる。
一番困るのが盗賊である。4人旅で女が2人(オーキは男換算されている)いるので逃げ足が遅いと思っているのだろうか、即襲ってくる。
今も、「おい、金と女置いていけ、そこのオーガが動いたらねーちゃん達を弓矢で撃つからな。」
「今度は誰だっけ」
「「「タケオの番」」」
俺は、鉄の棒を出す。
”バキ・バキ・バキ・バキ”
4人の財布は全部で大銅貨5枚だった。これじゃあ針糸商人ミミちゃん援助資金に全然足りないよ。
本当にこの辺の盗賊は時化てるな。
※参照 31 .俺の女神
もうあまり多過ぎて、流れ作業のようだ。
両足を砕き、装備を剥ぎ取り遠くへ捨てる。
お金を貰ってそのまま街道に放置だ。運は良ければ生き残るし捕まればどうなるかは、罪状次第かな。
ん?2km先で結構な数の魔力を感じる。
さっき追い越していった大きな商隊のようだ。これは戦闘だな。
「前で戦闘中のようだ、このまま行っても出くわすなら、加勢するか」
俺達は、高速移動する。
50人位の大盗賊で、先頭の馬車がやられたのだろう。身動きが全く取れない様にして攻めている。冒険者は20人はいない。これは体制的、人員的に見て不利なようだ。
あ、冒険者がまた二人切られた。もう10人も残っていない。
俺達は、駆け寄り
「加勢しますか」
「逃げろ、この人数じゃ太刀打ちできない」
俺達に逃げろって言ってくれたって事は良い奴だ。
加勢していいって事だな。
「全員戦闘態勢、フラウ弓士部隊殲滅、テンコ外部周辺殲滅、オーキでかい剣持った奴中心に殲滅、ゴー」
俺は内側の切り込んでくる奴をミスリルの棒で両足粉砕。
フラウは、弓士隊10人を多天弓で殲滅、テンコは、爪の十糸でばらばらにして行く、殺人狐だ。
オーキも容赦ない。同族のオーガ族の剣士を大剣持ったまま真っ二つにするのちょっと怖い。同族でも容赦ないんだな。
わずか5分で殲滅は終わった。
「けが人は、ここに集まって。」
フラウがヒールをかける。冒険者は12人が死亡。
商隊の商人たちは、50人中5人が死亡。
「ありがとうございました。しかし、50人を数分で片づけてしまうなんて何処のS級冒険者ですか」
「いえ、我々はしがないF級冒険者ですよ」
「冗談はよしてください。仲間が死んでるんです。」
「いや、本当だよ。ほら」
俺達は冒険者証を見せた。
驚いた顔をしていたが、感謝してくれた。
皆の墓を作ると言うので、盗賊について聞いてみた。
「この辺に大規模な盗賊団でも居るんですかね」
「ああ、コーザファミリーがいて、今回50人規模で襲ってきたという事は、この辺を今根城にしているんだろう。数か月で移動するから中々捕まらないんだ。100人はいると思うんで、今回半分は壊滅しただろうな。コーザファミリーは、売れそうな女以外は皆殺しにする極悪非道な盗賊だ。」
折角なので、足だけ砕いた奴に、アジトの方向を聞いてみた。
足を切り落とす振りをしたらすんなり教えてくれた。
オーキとフラウを商隊に置いて護衛を頼んで、俺とテンコは、アジトの方向に走り出した。
皆には、直ぐ追いつくからそのまま街道を行ってくれと言っておいた。
茂みの奥に超速で突き進む。5km先に魔力を感知。
30人はいるようだ。
小山の前に掘っ立て小屋が2つ
人質がいるかも知れないので、重火器は使えない。
「テンコ 各個撃破。人質発見時には、コーンと鳴け、いいな」
「了解」
「俺は、久しぶりに黒魔路改改を出した」
黒魔路改改は、魔鉱石と高純度ミスリルを混ぜた刀身と魔導回路も高純度ミスリルにしている。前の何倍の能力になったかは俺の力量次第だ。
走りながら敵を倒す。
「なんだ、てめー」
”フュン”・”ブシュー”
”フュン””フュン”・”ブシュー””ブシュー”・・・
未だ馴染まないな。
・
よく見ると、小山の前に穴がある。
・・・鍾乳洞か、しかし何かがおかしい。
タケオ君子、危うきに、近寄るなと敏々感じる。
「テンコ、そこで誰も入って来ないよう門番をしてくれ、後ろから狙われるときつい相手のようだ」
「マスター無理は駄目です。引きましょう」
「恐らく誰か囚われているなら此処だろう。行くしかない」
タケオはゆっくり中に入った。
入口は、人独り入る位だったが、中はもっと広いらしい。
白い薄い霧で良く分からない。
毒探知に反応は無いので、魔素を含んだ何かだ。
全く魔力感知が反応しない。いや、魔素が濃くて分からないんだろう。
行き成り霧の中から、小さな男の子を連れた女性が現れた。
「助けてください」
男の子が駆け寄ってくる。
!!危機感知が反応!!
咄嗟に後ろに5m飛び退いた。
刀で払う。”バキッ”
弓矢だ。全く予想できない攻撃だった。
親子は白い霧に変わる。
今度は、一瞬にして横から二人の男が槍で突いてくる。
全く実体があるようにしか見えない。足の音も踏み出す音が聞こえる。
「せい、せい、せい」
とにかく分からないので避けようとすると、霧の中から裸の女性が抱き付いて来ようとする。
「助けて」
!!危機感知が反応
抱き付こうとする腕を刀で受け止めると、
”ガキッ”
女は霧となって消える。
一体何が起こっているのかさっぱり分からない。
音、動く体どう見ても本物にしか見えない。作り物のような荒い動きや肌感覚というのか雰囲気迄本物と区別出来ない。
ただ、危機感知だけは、直前で反応する。
「風魔法、突風」
洞窟内は、突風の嵐なのだが、白い霧は何の影響も受けないで漂っている。
ここには、人質がいるかも知れないので強い魔法は使えない。
四方八方に、突風の魔法を連発した。
”びゅーーーびゅーーーびゅーーー”
洞窟の中は、風の渦だ。
・・・それは、微かな音だった。”ジリ” 右前2m上
俺は、多重スパイダーシールドを張りながらエアジェットを使い瞬時にそこに突撃した。
”ボフッ、バキ、ボフッ、ボフッ、バキ”
「「ぎゃー」」
やはり、前には槍が突き出ていたようだ。
俺はミスリルの棒で二人を殴り倒した。
彼らは、赤いゴーグルをしていたので奪って覗いてみると全体が赤く見えるが、壁まで良く見える。
白い煙を吐き出す玉が見えた。いや、玉に何か被せてるな。
そこに駆けつけようとすると、
白い霧が裸の女性の形になり手を伸ばす。
その手が俺に来ようとする時、石弓の矢が同調して手が俺に当たる時と合わせて飛んでくる。瞬時に避ける。
仕掛けは、分かったが、矢の音が聞こえなかった。
「ウインドスクレイバー」
空気の斧は、人影に進んで行くが速度が落ちて行きながら直撃する。威力は、少し押した感じくらいで人影は2歩ぐらい下がった位だ。
瞬時にその人影に肉薄し、ミスリルの棒で手足を砕く。
”バキバキバキバキ”
”ギャー”
玉に被せた布を収納に納める。別々に玉も納める。
時間が停止するので悪さはしないと判断した。
5分ほどで霧が無くなり、濃い魔素も消えて行った。
「お前がボスか」
黒のローブを剥がすとやせ細った老婆だった。
「儂の幻影魔術を破るとは、お主何者だ」
「それより、ここ以外は部屋は無いのか」
「ふん、殺せ。お前に喋る気などないわ」
俺も婆さんを甚振る趣味は無い。彼女にどんな過去があろうとこいつを生かしておけば被害者が増えるは必死。
情は、人を育てるが後ろから刺しもする。冷たいようだが即殺した。
奥に行くと、鍾乳洞は、行き止まりだった。
魔力感知にも何も感じないが、この場所はおかしい。
一か所まるで魔力を感じない場所がある。どんな物質も微量に魔力を含むのに一箇所だけ全く魔力を感じないのだ。
つまりこの場所は、絶対魔力感知されない場所となる。
近くでないと比較できないが、5m四方が全く魔力がない。
開け方が分からないのでミスリルの棒で叩くと真ん中が開いた。そこには5人の女性がいた。
4人は、縛られていて、1人がこちらに飛び掛かって来た。
「助けて」
俺は思わずその女性を・・・前蹴りで蹴飛ばした。
”ごふっ”
”カラン・カランカラン”
細いナイフが転がっていった。
「ごほ、ごほ、なぜ分かった」
「一人だけ縄で縛られていない。開けたら助けだと瞬間的に分かる訳がない。初めて会った敵味方か分からない男にしがみつこうとする奴はいない」
”ガキ・バキ・バキ”
「ギャー、痛いー」
50代だろうか、その女の手足を砕いた。
「俺はお前に恨みはない。金の場所を言えば俺は殺さない」
女は観念したのか場所を教えた。金貨が500枚、宝石類が沢山出て来た。暫くミミちゃん援助に余裕が出来た。
洞窟を出ようとしたが、
「あんた、助けてくれるっていったじゃない」
「俺は殺さないって言ったんだ。今生きてるじゃないか」
「そんな、手足だけでも直しておくれよ。これじゃああんたのせいで死んじまうだろ」
「ん?そうか副木を付けてやる。水と食料をそこに置くから、これで俺のせいでは死なないな」
そう言って4人の女性を連れて洞窟を出ようとした。
「何か、独り言を言うけど気にしないでくれ、俺は、旅のものであの女に恨みはない。俺は洞窟の前で待つけど、あの女のせいで今まで多くの女性が売られ多くの人が死んだと聞いた。ひょっとしたら貴方達もその知人も酷い目に合ったのかも知れないが、仕返しする機会はもう無いかもな。用事があるなら洞窟の前で待つけどな」
4人は、近くの棒を持って中に戻っていった。
”ぎゃーー”
悲鳴が聞こえたが、気にせず洞窟の前で待っていると、
「マスター。スルメ食べるです?」
「いらん・・・・・・・いや、いる」
そうすると、収納に仕舞ってあるあのリュックからするめの足を取り出した。錬金用のノギスを取り出したテンコは、
「2.5cm以上は、天罰が下るです。」
俺は、ひょいっと足を一本丸ごと奪い取り口に咥えた。
「あーーーーー、2.5cm以上食べると天罰が下るですーーーー返してください」
”くちゅくちゅ”
「お前、何でスルメなんて”くちゅ”持ってんだ”くちゅ””くちゅ”」
「この前の盗賊が足を5本持ってたですーー。今テンコの持ってる最高級品なんですーー。返してくださーーい」
”くちゅくちゅ・ごっくん”
「あー旨かった」
「ああー、何てことを。”くちゅくちゅ”は1000回しないと天罰が下るですー。マスターは天罰でイカの足が生えるですー、もう二度とイカの足はあげないですー」
ああ、煩い奴だ。いつもはゲテモノしか呉れるって言わないくせに。
4人が帰って来たので、町に向かう事にしたのだが、皆行っちゃたよな。
どうしよう。
「テンコ、4人女性がいるので、着くのは数日後になると伝えに行って待ってろ」
「・・・それは、出来ないです。・・・夜でいいですか。」
珍しく反論して来たな。まあいいだろ。
そして、夜になってテンコは空を飛んで行った。
テントを張り、4人を寝せ、焚火をしていると嫁が全員帰って来た。
全員がくっ付いて”クンカ・クンカ・クンカ・クンカ”
「間に合った。危なかっただ」
「何してんだ。護衛はいいのか」
「もう、途中の村に着いていたです。マスター珍しく手を付けてないです」
「俺を色欲魔人だとでも思ってるのか」
「ええ、この前も一瞬の隙に4人目の嫁を貰うとこだったでしょ。忘れたの」
そういえば、そんな事も有ったな。だが、今回は違うだろ。傷心の彼女達にそんな事考える程、鬼畜ではないわー。
テントの中を見るとすやすやと眠っていた。
しかし、幻影魔術の攻撃は凄かった。初見で体が勝手に反応しなかったら相当危なかった。首から上は普段の感覚が鈍ることから丸出しだ。スーツだって意識的に固くしなければ打撃は受けることになる。
弓矢の音が消えたのもあの白い霧の効果なのか術者の能力なのか。
初見で、魔術士が対峙したら100%負けるだろうな。剣士でも相当のレベルでないと反応も出来ないだろう。この頃強くなったと突っ込んでいったのは、慢心だ。才能で分けているランド王国と変わらないではないか。命は一つしかない一瞬でも気を抜けば、子供にだって殺される事はある。
もっと気を引き締めて行こう。
あの玉と布、赤い眼鏡は回収しといた。
後、魔力を全く遮断する壁も収納した。
時間があるとき解析しようと思う。
俺達は、名もない村に着いた。
4人の女性を村長に説明し、一人金貨5枚渡して来た。
一人が嫁にしてくれと言ってきたが、満杯ですと嫁達が断った。
フラウにはお金の出し過ぎだと言われたが、金貨500枚も手に入ったし、彼女達の今後を考えると少ないかもしれない。
俺達は、旅の者だしもう関わる事は無い。
彼女達が、あそこでどんな事をされたのかは、聞かなかった。
彼女達にも内部の話は、俺は誰にも話さないから言いたくない事は黙ってればいいと言ってきた。
人に聞かれて楽しい事でもない事は想像できる。きっと助けてくれた俺には話してくれるかも知れないが、聞いても何もできないし、する気もない人間が知っていい事ではない。
彼女たちは十字架を背負ったかもしれないし、その事で今後も何か酷い事が起こるかもしれない。特に困るのが勝手な想像をされ、誹謗中傷で自分の家に帰れなくなったりする事だ。そのような人間は、自分がされたらどう思うか考えた方がいい。
悪い事が起こった後の対応は、善意を持って当たることが周りを含めていい結果になると父さんは言っていた。
俺は聖人君子ではない。でも、不幸は見たくない。
しかし、盗賊に出身国を聞くと決まってランド王国と言われると住んでいた身としていささか悲しくなる。
彼ら違法移民だから仕事もないのかも知れない。
同情はするが、して良い事と悪い事は分かっているはずだ。