55.魔鉱石の発掘
まず間違いなく、クイーンジャイアントスパイダーが現れなければ、俺達は死んでいた。戦っているのを知っていて呼び出せる大物はユグのオッサンしかいない。
では、ユグドラシルに誰が伝えたかは、薄々は感じ取れる。でも、クイーンスパイダーが勝てる可能性は低かったはずだ。未来が読めるならこんなぎりぎりでの勝負をするはずがないし考えれば考える程思う事がある。
・・生きててよかったあ・・・・・・
俺たちは、ニアの町に戻って来た。
ギルドに行くと、多くの冒険者が勇者たちを囲んでいた。
「勇者様、ファイアアントは、こちらに来るんですか」
「可能性があると言っているだけだ。今、タケオ君たちが調査しているから、帰ってくるのを待とう」
冒険者をかき分け勇者たちの前に来ると。
ハヤトは、椅子から立ち上がりタケオを見た。怪我は大丈夫なようだ。
「タケオ君、どうだった。報告してくれないか」
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「そこには、」
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「そこには、何もいませんでした」
「何もいなかったのかい。
だけど雰囲気的には、もっといると思たのだけど」
「いえ、勇者様が倒した15匹以外発見できませんでした」
「本当に大河まで行ったのかい。周りは確認したのかい」
「大河のゆりかごの周辺数キロを隈なく探しましたが、ファイアアントは居ませんでしたし、渡ることができる場所は、確認できませんでした。大河のゆりかごの周り全ては確認できませんがこの町に向かえる所は確認しました。」
「本当に大丈夫なのかい、問題はないのかい」
「勇者様お言葉ですが、我々は案内役なので本当に調査するのは貴方の役目ではないんですか。F級冒険者が調査出来る範囲はしたという事です。数日中に襲われることはないとは思います」
「これはすまない。つい興奮してしまって。
それじゃあ、取り合えずの脅威はないと思っていいかな」
「見たところはです。さっきから気になるんですが、もう調査は行わないという事ですか。」
「ああ、不必要ならしなくてもいいんじゃないかな」
「勇者様、F級冒険者の私が皆に大丈夫と言って誰が安心します。ねえ皆さん」
周りの冒険が頭をコクコクと上下させる。
「勇者様が大丈夫と言わない限り誰も安心しませんよ。いいですか勇者様は、もっと自分の立場をご理解いただいてですね、貴方の一言一句は、大変重たいのです。
将来、人類に希望を齎す最後の砦なんです。
もっと鍛えて怪獣大戦争に参戦してください」
「最後は良く分からないが、見てきて欲しいというのは分かった」
ちっ、最後が大事なのに、ノリが悪い奴だ。女の子にもてないぞ。
その後の話し合いで、勇者一行は、3日後にB級冒険者チームと周辺調査を行うことで落ち着いた。
なぜ、タケオは嘘をついたのか。
俺たち4人は、家族会議を開き今回の報告をどうするか議論した結果が以下の通り。
まず、今回の件を正直に話しても怪獣対決なんて信用されない。
今は、脅威が無くなったが、今後又あるかも知れない。
ここで、何百ものファイアーアントを倒したなどと話したら目立つだけで自分達にメリットは何もないし、逆にデメリットが発生するかもしれない。
そこで、自分たちは確認しただけにしたのだ。
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現在、皆で糸づくりと布織りをしている。
今回装備の殆どをファイアーアントにやられてしまった。
ユグ糸もスパイダーの素材も前回の何倍もあるので色々拡張しようと思う。
糸づくりは、ユグの繊維とスパイダーの糸の素を繋げながら使う人の魔力を流さなければならない。
クイーンの糸なので高品質なのかと思われたが変わりは見られなかった。
前回、生き延びられた紙一重の装備は、オーキのマントに尽きる。そこで全員が作る事になった。2枚組で予備2セットを作った。
それから、各人装備の糸、自分はタイツを作った。
その後、充電が始まった。
夜は皆で寝ている。皆ユグの糸を体に付けてマントやタイツに充電しながら寝ているので、紐が付いてて異様な雰囲気だ。
皆、MPチャージベルトを付けてドーピングしている。
1秒間に1MPチャージだったが、もう一つ発見したことがある。
例えば保有量が100MPの場合、満タンにするのに平均が100秒かかる。これだけでも自然回復の10倍のスピードだ。
しかし、就寝中、瞑想中は、5倍になることを発見した。これは、ぐうたらテンコが5本の糸をくっ付けて寝ていてあまりに早く満タンになったので計算してみて分かった。
糸へのチャージは、今まで自分のMPが満タンになり余剰分を糸が勝手に吸収する。なので夜中も含め1日中糸を体にくっ付けて寝るようになったのだ。
嫁が3人もいるともう朝は、糸がこんがらがって大変な事になる。
何でかって?それは聞かずとも決まっている。
テンコは寝相が悪いので、朝になると蓑虫になってもがいている。
これで、400万MPをスパイダースーツやマントなどに供給するのに1組み当たり20日程で出来るようになった。
ボロボロになったマントやスーツからも同じ人の魔力であればMPを移すことも可能なので、予備分までは出来ないが1組くらいは、充電が完了している。今充電しているのは予備分や追加したマントや補強した分である。
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あれから5日が経った。
勇者たちは調査を終え、問題ない事を確認。町は勇者の町を守る行動に感謝し、町長主催で大宴会が行われたようだ。
実は、”世界を救う勇者・友の会”と称して宴会費の足しにと金貨50枚を町役場に渡しておいた。
金貨50枚は痛い、痛いがここが大事。
酔っぱらった勇者は、皆の前で「世界は俺が守る」とか言ってたらしい。
チョロイ。怪獣大戦争は任せたぞ。
何か小規模だが、ユグのオッサンとやってる事は同じような気がするのは、気のせいだろうか。
今日明日の2日間は、俺と女性陣は別行動となった。
皆には、俺は、2日で帰れるかは分からないと言っておいた
何せ発掘なので、鉱脈に当たるまで帰れない。
女性陣は皆一緒なのだが、今日は、マントなどの各種性能確認のようだ。
明日はお買い物だそうで、乞うご期待と言っていた。
俺は、魔鉱石を掘りに行く。
先ず、前回のクイーンの戦いの場に行き、そこから上流の発掘ポイントを目指す。
大河の幅は、400メートルはありそうだ。
タケオはオーキが空を飛んでいたのを見て滑空飛行方法を自分なりに作ってみた。
2枚のユグ糸で編んだマントを固くして両側に広げる。ショルダーガードの背中側に風魔法のエアジェットの魔導回路を4基づつ取り付けてある。
マントには100万MPは貯蔵しているので相当な出力を出せる。
「エアジェット」低発射
”バフューーー”
走りながら、ブーツに取り付けたジェット噴射で再加速する。真上やや前に上がり始めた。ゆっくりショルダーのエアジェットの威力を上げる。100m位の上空に上がったら、モモンガのように滑空する。
「お、あれが発掘用の穴だな」
穴に真直ぐ照準を定め突っ込んで行く。直前で足を前に出してエアジェットの逆噴射だ。
「多重スパイダーシート」
穴の中にシートを展開し、柔らかい部分に
”ボフン”
「ふー、着地成功」
事前に何回か練習したが本番で上手くいって良かった。
これは、皆にも教えて、家族でランデブーなんちゃって。
などと緩んだ考えは、振りほどき。
坑道は、300m位入ると大きな広場になっていた。8か所の高さ2m幅1.5m位の坑道が伸びていた。
2か所は、老朽化なのか途中で崩れている。他6か所は奥でまた何か所も微細に掘られている。
1か所1か所丁寧に鉱物サーチを行うとやっと見つけた。
「お、魔鉱石の鉱脈だ。おほ、おほ」
良し鶴嘴持って”ここ掘れワンワン、ここ掘れワンワン”
石は、収納へ”ポーーイ・ポイ”
もうどのくらい掘っただろう。
取り合えず広場に出して精錬と分別を繰り返し、高純度の魔鉱石を50トン、低品質の魔鉱石を60トン収納した。
今まで寝る前に収納5㎥の収納を何百も作った。
今も毎日、ファントムバットの魔石で3個づつ作っている。
余裕のよっちゃんである。
鉄鉱石もあったので沢山掘ったし、精錬して鋼鉄も作った。
何十トンあるだろうかわからないほど収納した。
後、ここにはミスリルの鉱脈があり、これは相当珍しい。文献には高密度ミスリルは、オリハルコンに匹敵するぐらい珍しいと書いてあった。高密度ミスリルが特に優れているのが魔力伝導性でオリハルコンより高い。
今回、何万発も弾丸を発射して指が焼け落ちそうになったがそれが無くなる。また、伝導性は、オリハルコンの回路より数十倍の効力を持つので魔導回路の歪みが無くなり高出力が出せるはず。
今まで30mm弾以上作らなかったのは、転送魔法陣が発射時に暴走する限界だったからだ。
ミスリルは、錬金術で作る場合と鉱脈がある。
今まで持っていたミスリルは錬金術で作られた普通のミスリルだ。今の世の中の錬金技術では普通迄しか作れない。鉱物で採取したミスリルは高密度の最高品質が採れる。
これも錬金精錬で、品質別に分けた。
低品質≒50%、普通10%、高密度1%、超高密度0.1%、劣化39%の5種類に分けた。
”ずどどどどーーーーー”
鉱脈をキロ単位で掘った、ただひたすら掘った。スパイダースーツは疲れを知らない。ユグ糸をドリルにして岩を掘ると100m進むのに30分もかからない。
何千トン掘っただろうか、やっと5トンの超高密度ミスリルを手に入れた。高密度を50トン、普通を100トン
低品質を100トン、劣化を100トン収納した。
普通以下は、持ちきれないので鉱山に置いてきた。
超高密度ミスリルは文献もなく使い道が分からないので今は研究材料だ。
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やり過ぎた。気が付いたら10日経っていた。