54.クイーンVSクイーン
ああ、やっぱり白い世界に来たか。
ここから4人で奇麗な川を渡れば、ミミちゃんに会えるのか。
ミミちゃんお嫁さん紹介するね。
あれ、川が出て来ないな。
白い壁が、ドロドロに溶けていく。
”キキー・キキー”
”ギキー・ギキー”
何だ10mを超える大蜘蛛が、後ろから来る。
俺たち餌の取り合いされてんの。
クイーン・ファイアアントが後ずさる。
10mの大蜘蛛は、俺達を跨ぎ、前へ出る。
"ギキー”
後ろに下がれって後ろ足で促してるのかな。
俺たちは後ろに下がった。
フラウ「あれは、ユグドシアルの守護聖獣クイーン・ジャイアントスパイダーよ。」
え?そうなの。俺前にジャイアントスパイダー倒しちゃってるけどいいのかな。
怪獣大戦争パート1かこれ。
とにかく味方みたいだから良かった。
二匹は睨みあう。
睨み合いながら右に左に回り込む。
業を煮やして、クイーンアントが魔ギ酸を吐き出す。
すかさず、クイーンスパイダーが糸を吐きだし相殺する。
クイーンアントが前に出ると、クイーンスパイダーは、後ろに下がる。
やはり魔ギ酸攻撃を警戒している。
・
・
何度か同じ立ち回りが繰り返された。
どう見ても大きさはクイーンスパイダーだが、攻撃力はクイーンアントの方が分がある。
やはり、ここまでの戦いで消耗してるから五分五分なのか。
”ブシャアーー”
クイーンアントが、まき散らすように魔ギ酸を吐き出した。
クイーンスパイダーは、大きく後ろに下がったが顔に少し掛かって煙が立っている。
クイーンスパイダーが頭をプルプル振っている。
”ギキー”
おかしい、チャンスなのにクイーンアントが追っていかない。
”ビュルルルーーー”
クイーンスパイダーが、詰め寄り糸を絡めていく。
アントの背中の何かが動き出し光始めた。
”キーーーーーン”
糸がボロボロと落ちていく。
何だあれは、何か別の生き物がいたような。
スパイダーの方が分が悪いが、アントの動きがおかしい。
また、睨み合いながら右に左に回り込む。
さっきからクイーンアントの向って右前足の動きがおかしい。
「危機感知10分割」
(自分より上位のレベル者を危機感知するため部位別に分割して感知する方法、タケオ、テンコしかできない)
左足の第二関節に影が見える。魔力の流れが悪い。ガンの乱射のあの物量での攻撃で足の関節を鈍らせたようだ。
しかし、あの物量で足の関節がちょっと具合が悪い程度とは、やっぱり怪獣大戦争なんて絶対無理だ。
ただ、今なら援護できる。
クイーンアントは、クイーンスパイダーで手一杯でこちらに全く注意をしていない。
「フラウ、弩天弓でクイーンアントの向って右前足、第二関節を狙ってくれ、出し惜しみ無しのMAXで」
「了解」
フラウは、弓を足にかけ、弦を引き締める。
二匹の睨み合いで、足が止まるのを待つ。
「ここよ!」
”バシューン”・”ガキン”
やっぱり硬くて弾かれたが、
「キキーッ」
クイーンアントは前足に力が入らないようだ。
”効いてる!”
クイーンスパイダーは、チャンスとみて第二関節を前爪で、
”バキーン”
「キキー、キキー」
アントの前足が吹っ飛んだ。
”ブシャー”
アントが魔ギ酸を吐きかける。
”ビュルー”
スパイダーが糸を吐き返し相殺する。
クイーンスパイダーは動きの止まったアントに襲い掛かる。
”バキッ・バキ・バキン”
アントへの2本目の足関節攻撃連発が決まり、アントは2本目の足を失う。
完全に機動力が半減した。
アントは必殺の爪攻撃を繰り出した。真上からのクイーンスパイダーの爪は正確にクイーンアントの頭を捉える。
”ガキッ”
防いだ。
今確かに頭の上に何かが寄っていて防いだのを見た。
”ブシューー”・・”ゴガッ”
間髪入れず。糸を吹きかけ、体格差を生かし体当たりをする。
”キキー”
クイーンアントは、裏返しになった。そのまま必殺の前足爪の攻撃が胸、顎に刺さる。
”バシュ”・”バシュ”
”ブシュウアーーー”
クイーンアントは、苦し紛れに魔ギ酸をばら撒いた。
攻撃で超近接するクイーンスパイダーは避け切れない。
これはまずい。俺は思わずウオーターの魔法でクイーンスパイダーの体を流した。
クイーン・ファイアアントは、びくびく痙攣している。
クイーン・ジャイアントスパイダーは、右前足が、半分溶けかけている。背中も大分溶けている。
”バターーーーン”
クイーンジャイアントスパイダーが倒れた。
まずい、折角俺達を助けてくれた恩魔獣を見捨てる訳にはいかない。恩人は助けるは俺ルールだ。
「フラウ、ユグドシアルの葉は、魔獣にも効果はあるのか」
「ええ」
兎に角、穴の開いた背中にユグの葉を十数枚貼り、フラウにお願いした。
「ユグドシアルよ、このものを癒し、戦士として甦らせよ」
フラウは、優しい波動で葉に魔力を流していく。
その間に前足にも葉を巻いていく。
背中の治療が終わると、足の治療に移るフラウ。
タケオは、だらだらと魔ギ酸を吐き出しているクイーンを収納する。
そこに、やはり10㎝位の草履のような虫がついていた。
これも5匹ほど虫加護に収集。
この虫が、おそらくクイーンスパイダーの超攻撃を阻止したんではないかと思う。共生関係にいるクイーンファイアアントを守っていたのだろう。
今や収納は何百とある。倒したファイアアントも全て収納した。
クイーン達の戦いを見るとファイアアントの方が強かったと思う。勝てたのは、見た目より、ほんの少しだけ弾丸のダメージはあったのとスパイダーの勝負勘が良かったおかげだ。
今後対峙して、魔ギ酸に対抗する手段を考えないと勝てる見込みはないだろう。
「しかし、もうスパイダーの糸も無いしどうしようか」
「ユグドラシルの繊維も取りにいかないと」
「ユグの繊維は、沢山持って来たから大丈夫よ」
「ギキー」
クイーンが起き上がった。良かった助かったようだ。
背中も、足も全快している。ユグの葉は凄い。
クイーンがお尻から沢山の糸の素を出してくれた。前の5倍はありそうだ。
ユグのおっさんの友達なら俺が欲しがってるのを知っているのだろう。
クイーンは言葉が分かるんだな。
「ありがとう、クイーン」
クイーンは、ふらつきながら、ゆっくり山へ消えっていった。
今後、魔鉱石、鉄鉱石も取りにいかないといけない。
弾丸は、全て使い切ってしまった。
・
・
「町に帰ろうか」
「タケオ、今回の件でエルフの里だけが知る秘密を教えないといけないと思うの」
フラウは皆を呼び結界を張って唐突に語り始めた。
「1000年くらい前の話なのだけど、英雄ランドがファイアアントを大河のゆりかごに閉じ込めたと言い伝えられているのは知っているわね。」
皆がコクコクと頭を上下に振った。
「あれは嘘で、実際には先代クイーン・ジャイアントスパイダーがした事なの。
ファイアーアントは、今のニア近くに時の最強悪魔が暗黒の森から連れてきたの。大きな黒い穴が開き、そこから這い出て来たと言われているわ。
その頃は、クイーンファイアーアントは、今のような大きさではなく5m位だった。彼女は人間を餌にあっという間に1000匹の子を生した。
ユグドシアルは、先代のクイーンジャイアントスパイダーに討伐を命じたの。先代のクイーンは、体高20mの1万年は生きた大蜘蛛で、アントを大河のゆりかごまで追い詰めた。
しかし、1000匹の大軍のファイアアントは強く、追い詰めた時には足が4本しかなかった。クイーンは倒すことを諦め、大河から出られない様この地に来るための道を最後の力で壊し自分も大河に飲まれたと言い伝えられているわ」
「じゃあ今のクイーンは二代目ってこと」
「そう、当時クイーンの次の準クイーンだったの。未だ5000才の彼女は、先代程の力は無いわ。それに比べてファイアーアントのクイーンは、あれから1000年でこの食糧事情の悪い場所で8mの大蟻に成長していた。普通では勝ち目が無かったでしょうね。」
「しかしなぜ、英雄ランドがした事になったんだろう」
「それなんだけど、魔獣が倒すと今度はそれを倒した魔獣に殺されるかもと恐怖に思うより、人間はそいつより強いんだとした方が未来に希望が持てると思ったのかも知れない。
只ね、エルフの里の言い伝えに英雄ランドが行った出来事が他にも違って伝えられているの。
これは、仮設でしかないんだけど英雄ランドは存在しなかったのではないかとね」
「でも、わざわざ英雄を立てなくても王国を作るのには問題無いのでは無いですか」
「ええ、その仮説では、おそらく現在の王国の首都には、英雄つまり人類最強の人が居て攻められないための条件が必要だったのではないかと言う仮説なの。
英雄ランドは、教皇国から来た勇者となっているわ。でもその頃は50年に一人しか勇者は召喚出来ない。ところが別の勇者がいて織物業を発展させていた。勇者は決して戦闘好きな訳ではなく人によって方向性が全く違うみたいなの。つまり召喚するにしても英雄のような存在がいた時代ではない。でも最強の存在がいたとしたのはなぜか、それは世界が知ってはいけない何かが王都にはあるかも知れないし、攻められては困る何かがあるんではないかと言う事なんだけど。あくまで仮説どまりで分からない。確かに当時人間を抹殺しようと暗黒の森から相当強力な悪魔族が人間を襲ったのは事実なんだけど世界の調和を保つユグドシアルとその協力者たちによって脅威は無くなったはずなんだけど。
ただ、大毒沼はその頃出来たみたいなのだけど。
もう一つは、簡単に周辺国を侵略できた事なの。この辺は侵略すると皆殺しにするからどうやって侵略できたのかが全く分かっていないわ。とにかくランド王国には何か秘密が在りそうだって事かな」
これは、勇者案件だな。
「まあ、なんだ。俺達には縁遠い話だな。それより魔鉱石を堀に行かないと。火力が無くなってしまった」
「それなんだけど、大河のゆりかごに魔鉱石の鉱山があるのよ。」
「それはいいけど、クイーンはいなくなっても準クイーンがいるだろうし無理じゃないですかね」
「それがね、大河の森奥側から入ると数百メートルの崖になる中腹に穴があってね。そこから入れるはずよ。ファイアーアントも近づけない場所で殆ど未発掘のまま千年手つかず状態なの。」
これは、美味しい情報だ。とりあえず町に帰って考えよう。