52.ファイアーアントと勇者②
俺たち4人と勇者一行は、森をファイアーアントの巣に向かって歩いている。
「タケオ君どうして引き受ける気になったんだい」
「家庭円満は、世界が平和である事が大事と気付きまして、本当は、私のような小心者が勇者様の横に立つのもおこがましいのですが、お困りのようでしたので。」
そっちは、世界の平和を守る聖者かも知れんが、こっちは、家庭の平和を守るので精一杯なんだよ。仕方なく付いて行くんだから我儘言うなよ。
「ああ、助かったよ。でもそんな堅苦しい喋り方しなくても良いんじゃないかい。もう僕たち友達でしょ」
「いえ、勇者様をお友達呼ばわりなど小市民が出来る訳ございません。今後は町でお声がけはお控えください」
何が友達だ。世界を救う奴と仲良くなったら向こうから凶悪な魔獣が寄って来るだろ。これ以上関わったら怪獣大戦争に巻き込まれちゃうだろ。
・
・森を暫く歩き、ファイアーアントの巣までもう少しの所までやって来た。
・・変な腐食臭がする。
そこには、溶けたオークを食べるファイアーアントがいた。
ファイアーアントは、溶かして中和している部分を吸っているようだ。
「皆、下がって」
勇者は剣を抜いた。
”ズバッ”・・・”ブシュー”
「うわ、何か液体が飛んでくる。熱ち、熱ち」
剥き出しの腕と鎧に魔ギ酸がかかったが、鎧と剣は、煙が出るだけで何ともない。
むき出しの腕にかかったが、熱いと言うだけで余りダメージが無いとは、勇者ってスゲー、あれ聖剣と聖鎧だろうな。
「異変が起きてる。とにかく、ファイアーアントの巣まで行くぞ」
・
今度は、15匹のファイアアントが数匹のオーク・ゴブリンらしきものを食べていた。殆どドロドロ状態で手足の一部でしか判断できない。
「よし、何時ものフォーメーションでいくぞ。
ラミカ前で盾、メディエ後ろから援護、トウアス横から状況分析、マリア待機」
気が付いた2匹がこちらに向ってくる。
”キシ・キシ・キシ・キシ・キシ・キシ・キシ”
聖騎士ラミカが接近して、シールドバッシュで1匹を吹き飛ばす。
”ピギー”
二匹目が、魔ギ酸を盾に吐き出す。その隙に勇者が首を落とす。
”ブシュッ”
「おっと」魔ギ酸を避ける勇者。
後ろから大魔導士メディエがウオーターボールを10発射する。
”ぼしゃっ””ぼしゃっ””ぼしゃっ””ぼしゃっ””ぼしゃっ”・・・
勇者は、動きが鈍ったファイアアントを次々と撃破していく。
10匹目を撃破したところで、5匹が広範囲に魔ギ酸を吐き出した。
「きゃー」
霧状になった酸は、魔導士にかかり、服を溶かしていった。
「ぐあー」
一匹が聖騎士の盾に魔ギ酸を噴射した。
先ほどの攻撃でほぼ機能しなくなっていたんだろう。簡単に盾は溶けた。聖騎士は、諸にギ酸を受けてしまった。
やはり、ミスリルの盾でも魔ギ酸一回分しか耐えられないようだ。
「ウオーターフォール」
賢者が5匹のファイアアントの前に壁を作った。
ラミカの鎧を剥がし服を脱がせた。
メディエも脱がし取り合えず、ウオーターの魔法で酸を流す。
ラミカは重症だ。
メディエは、全身にぼつぼつと火傷を負った。
「エクストラヒール」
聖女が、真っ裸になった二人にローブを被せる。
聖女の魔法により表面上は跡が無いが痛がっている。
体内にも浸透したのだろう。エクストラヒールでも修復すると痛覚などの刺激は暫く残る。
見た目よりダメージが大きいようだ。
「くそ」
ウオーターフォールが消えると同時に勇者は5匹に切りかかった。体中魔ギ酸を浴びたが、何とか倒した。
いかな勇者でもさすがにきつかったのか、体中から湯気を出し倒れた。賢者がウオーターの魔法で勇者を洗い、聖女がエクストラヒールで癒す。
聖女もエクストラヒールの連発はきつい様で肩で息をしている。
「撤退です」
俺は、賢者に聞いてみた。
「やはり勇者でもファイアアントは難しい魔物なのですか」
「いいえ、クイーンで無い限り、差ほどでもないはずです。まだ、上手くスキルが使えないんです。勇者の最大のスキルは、皆知ってる限界突破ですが、実践ではまだ出来ていないので、今回も経験の為の旅なのです。あの程度のファイアアントなら問題ない筈なんだけど」
良かったー。
これが限界とか言われたら怪獣大戦争詰んじゃうよ。俺は小市民なんだ。天の飛竜を薙ぎ払い、超巨獣を切り倒し、有象無象を焼き払ってくれないと困るんだよ。
本当良かったよー。
「それで、我々は、町に帰るしかないけどお願いがあるの。
本当に失礼な事だとは思うのだけど、この先の状況を出来るだけ探って貰えませんか。方向的に町に向ってきていたから」
嫌な予感しかしない。
これは、受けるべきではない。Gが1匹見たら30匹はいると言われている。ファイアーアントが15匹見たら、・・・考えたくもない。
でも、今誰かがこれを何とかしないと勇者が育つ前に死んでしまう。(あくまで他力本願のタケオ)
もし、本当に自分でもどうしようもないなら、町民を逃がすかどうかの判断材料は欲しい。この町での滞在期間は短いが、少しはお世話になっている人もいるのも事実だし、トウースと違っていい町だ。
クイーンさえいなければ、最大火力で何とかできる可能性はあるし、ファイアーアントの動きを見る限り、早いは早いが自分達であれば逃げ切る自信はある。
仕方ない、ここは、命大事にベストを尽くそう。
「まあ、出来る限り見てきますよ」
こうして、勇者パーティーは帰り、俺達だけでファイアアントの巣まで行く事になった。
・
1時間後、大河に出た。300m先に数百の点を感じる。これはまずい。アントの巣側から大河を挟んで一本のロープが張られている。
ファイアアントの体高は2m以下だが、今渡ろうとしているのは、7,8mはある大物”クイーン!”だ。
今ちょうど中間にいる。
「フラウここから速攻でロープを狙えるか」
「任しといて」
フラウは、事の重大性を察し、即、大弩弓を出しユグ糸を張り、こちらの大地ぎりぎりを狙う。
発射 ”シュゴーーー”
物凄い勢いで矢が放たれる。
矢がロープに命中し、縄が切れる。渡っているファイアアントは、大河に飲まれて行く。
しかし、クイーンはそこから大ジャンプしこちら側に渡ってしまった。
「まずい、クイーンが渡ってしまった」
最悪だ。
ここで取り逃がしたら、魔獣を食べ、軍団は手の付けられない数になる。そしたら世界は終わる。
勇者が育つのは待てない。
「能力全開だ、皆、殲滅に行くぞ」
勝てるか勝てないかじゃない。最早、人類が生き残れるかどうかだ。