50.ファイアーアントと勇者①
今日は、装備の試験に森へ来ている。
フラウの装備がかっこいい。
虚空(収納)から手に刀が”シュイン”と柄から伸びていく姿がスレンダーな体にマッチする光景は、永久保存版だ。
細身の二本の木刀は、スパイダーの糸を注ぎ込むと黒茶色の刀になった。
ユグドシアルの木なので弾性がありオリハルコンでもまず壊せないのだが、木刀なので切れ味を懸念した。これが凄いのが真空刃を生み出す刀だったのだ。触らずとも切り刻む剣だ。威力は鍛錬に依存するようで、ブレのない振りと速度、真空刃の溜めと振り出しが威力を決めるようで力で振っても威力が上がらない。
斬撃との違いだが、斬撃は風魔法の一種で空気を圧縮して刃の形で吐き出す。切るというよりぶつける感じでダメージを与えるので金属などの硬いものに強い。真空刃は、真空状態を空気の層の中を波の様に移り進む。切り裂くための刃動なので、結び付きの強い金属には斬撃と比べ威力は少ないが、弾力性のある打撃に強いものには圧倒的な破壊力を持つ。
木、人等は真っ二つになる。
飛距離も斬撃は、一般の有効射程が1-20mなのに1m-1kmで、幅100mくらいまで伝播するようだ。(フラウのビジョンで見た感じの最大域)
分かりにくいが、一番凄いのは、魔力の乗った真空刃は、どんな魔法でも切り裂いてしまうのだ。
そして、この刀の柄の部分同士をくっ付けると弓になる。
この弓は、多天弓の豪華版でおそらく何百でも矢を同時に打てるのだろうが体力的、魔力的にどこまでいけるかは不明。
精天弓の精度も距離も何処までかは、本人の資質によるだろう。
天弓は、弦も魔力だが、この弓には、ユグドシアルの繊維とジャイアントスパイダーの合成糸(以下ユグ糸)が弦として使われる。
フラウの腕には、直径4mm長さ3mのユグ糸が左右の腕に巻き付いている。胴には直径10mm長さ4mのユグ糸が二本巻き付いている。
腕のユグ糸はこの弓矢に使われる弦になり、戦闘時には鞭,槍、拘束縄など多種多様に動かしている。
胴に巻いている糸は弩弓の弦になり、相手の剣を防ぐ盾にもなる。
フラウの場合、男が寄ってきてお触りする不逞の輩のサークルガードに使っている。透明なので都合がいいようで大活躍だ。
(弩弓と表現しているが、真ん中のクロスボウのような柄は無く足で引く。)
やはり、エルフはユグドシアルの守り人なだけあって、ユグ糸の扱いは、群を抜いて上手い。
弓の威力だが、ユグの木、糸の総魔力をどれだけつぎ込むかで変わるので、分からない。最大は万単位なんだと思うが撃てるのかも不明だ。
テンコは、お尻のちょっと上に着いたユグ糸とユグドシアルの木版の使い方の練習をしている。9尾に成った時、ユグ糸の絡みを見ていると、尻尾が2mが5m位膨れ上がる。天空に雷が轟き、落雷の位置精度と威力が上がったようだ。
爪に付けているユグ糸だがテンコは糸の先に筆を付けて字が書ける様になった。
オーキは、ユグの大薙刀の練習だ。刃をオリハルコンで作り刃の後ろ、ユグの柄含め、ジェット発射の魔導回路を24基配備逆噴射も10基配備した。
魔力量は、ユグ糸の保有量なので何処まで出せるかは分からない。何十回か振って上手くいったとき、斬撃ではなく衝撃波だろうか、50mくらい前の木々が吹っ飛んだ。
只々練習あるのみだ。
でも怪獣大戦争はしない。
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「夕方になる前に帰ろう」
「「「「はーい」」」
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俺たちが、森を歩いていると、女性4人、男性一人の5人組がいた。
「どうして、ポーションが効かないの。」
「ハイキュアも癒しの波動も何も効かないわ」
「ハヤト、気をしっかり持つのよ」
何かヤバそうだが、
「ん?あれは、・・・」
俺は、即座に倒れている男の所に駆け寄った。
「今すぐその鎧を脱がして」
「君、行き成り来て何言ってんの」
「いいいから、早くしないと死ぬぞ」
4人の女性は、一瞬にして全部脱がせた。
俺、鎧って言ったよね。全部脱がせなんて言ってないよ。
4人の女性は、一点を凝視していた。
「そのお腹に大きくついてる奴、魔眞ダニだよ。動かさないで」
4人の女性は、凝視している点から20㎝程上を見た。
俺は、小さなファイアーボールを作り魔眞ダニの頭を炙り始めた。魔眞ダニは、牙を抜き森へ逃げようとする所をファイアーボールで燃やした。
「ポーションを飲ませて、ヒールを掛ければ大丈夫。マナポーションがあればもっと良くなるよ」
魔眞ダニは、鎧の隙間などから侵入し、腹や背中等に牙を刺して吸い付く。血液と魔力を据えるだけ吸い取りお尻に溜めるのでお尻がやたら大きくなる。
寝ているうちに吸われてミイラになる事もあるから山で暮らす者には危険魔獣だ。魔眞ダニは、空腹状態では魔力が微量過ぎて魔力感知に引っかからない。
引き剝がす時、無理やり引き離すとギザギザの牙が体内に残り、そこから壊死するので危険なのだ。頭を火であぶると自分で抜いて出ていく。
山に入るものは黒檀の根を持って入る。女の子はブローチにしているのがこの世界の常識だ。
黒檀の根は、他の小さな害魔虫除けにも有効なので大変便利だ。俺は、洗濯するとき黒檀の根の成分の入った石鹸を使っている。テンコは俺と一緒になる前は、黒檀を見つけると背中を擦りつけていた。
「都会の人かい」
「ええ、普段は教皇国の首都に居るからこういう事は知らなくて、助けてくれてありがとう。お名前は」
「ニアでF級冒険者のタケオだ。別に気にしなくていいから。じゃあ」
・
それから翌日冒険者ギルドに行くと、もう勇者の件で大盛り上がりだった。
オークを8匹卸し話を聞いていると、
「おい、ファイアーアントの調査で勇者が来たって本当か」
「ああ、毎年はぐれが数匹出る事はあるが、数か月に1匹だったのが10匹以上見つかったらしい。」
「いや、何で勇者が調査するんだ」
「お前知らないのか、まずファイアーアントだが、1000年近く前、元々は暗黒の森にいたが、この地に悪魔族が持ち込んだんだと。この蟻は生態系を乱し土地を荒れ地に変えてしまう。
生き物は魔物、人間見境いなく魔ギ酸で溶かして食べる。繁殖力が凄まじく、クイーンさえいれば、あっという間に増えていく。
英雄と謡われるランドは、元は異世界から来た勇者で、このファイアアントを大河で囲まれた地に追いやったと言われてるんだよ。その地を大河のゆり籠と呼ぶそうだ。
だから、教皇国は、勇者を派遣し再度封印すべきなのか調査に出した訳だ。教皇国もマケラ帝国と昔から仲がいい。今の教皇は、マケラ皇帝の兄だしな」
「ランド王国は英雄ランドの国だろ。そっちが出すべきなんじゃないか?」
「ランド王国は、500年前とは全く変わってしまって侵略一筋のえげつねー国家だ。助けるどころかここに攻める事しか考えてねーんだよ。今の皇帝は、何回侵略してきても英雄ランドの恩義を感じて反対に侵略しない優しい人だったが、皇太子はいつも皇帝の尻拭いばかりさせられて、その度に自国民が死んでいくのを見て来たから今度は絶対許さねーと思うよ」
「だったら、皇帝が居るから仕返ししないんじゃないのか」
「だからお前は、非国民だって言われんだろうが、今皇帝は虫の息でもう危ねーって噂になってるだろが」
ーーー
ファイアーアントは、赤い蟻で、魔ギ酸を出す。これが凄まじく何でも溶かす。唯一解けないのはオリハルコンだけだと言われているが、希少金属なので一般には出回らない。
このファイアーアントの外骨格は、結構柔らかいのだが、斬りつければ酸を浴び、負けるか同士討ちのどちらかしかないと言われている。
魔法は魔耐性が高く殆どの魔法は効かない。
唯一効果があるのは、水魔法なのだが、大量に必要なため効果を出すのは難しい。
一匹なら囲んで長い槍で倒せるが被害がゼロには中々できないようだ。
魔ギ酸は、石だろうがミスリルだろうが簡単に溶かしてしまう塀など意味がない
これが100匹居たら逃げるしかない。
ーーー
受付の人と話している人がこっちにやって来た。
「やあ、君がタケオ君かい。この前は助けてくれたそうでありがとう。僕は、勇者ハヤト異世界の地球から1年前にやって来たんだ。」
彼に握手を求められたが、2秒ほど躊躇してしまった。
だって、金ぴかの鎧着てんだよ。盗んでくれって宣伝しているようなものだよ。
それから、聖騎士ラミカ、大魔導士メディエ、賢者トウアス、聖女マリアに挨拶されてしまった。
流石、勇者パーティー絢爛豪華な顔ぶれだ。
俺は、”へへー”と大きくお辞儀をした。
「ああ、勇者様、世界の危機を救いに来て下さったんですね」
「え、まあそういうことかな」
「さぞかしお強いでしょうから、悪魔族とかと戦ったり、ヒュドラとか大型ドラゴンとか死の軍団とかもう怪獣大決戦でも倒して頂けるのですね」
「何か具体的に戦っちゃうみたいな予定はないけど、まあ、そう言うことだろうな」
「ありがとうございます。ありがとうございます。貴方に会えて本当に良かった。私は勇者信者に改心致します」
ユグのおやじ(ユグドシアルの樹)、ほら本命がいるだろうが、こいつらに力貸してやれよ。
良し、お役御免になった。外堀ばっかり固めやがって。地球からわざわざ救いに来て下さった尊いお方に力貸さなくてどうすんだよ。
「タケオ君、実はお願いがあるんだが、ファイアーアントの巣まで案内してくれないかい」
「は?、御冗談を、私F級冒険者ですよ。そんな所行ける訳ないじゃないですか。そういう所はA級冒険者に頼まないと」
「それがね。誰も引き受けてくれないんだよ。命大事だって言って、僕のいた世界じゃスマフォがあってどこでもナビしてくれたから、調査を案内人なしで二つ返事でしちゃったんだけどこの世界では使えなくてね。それで困っちゃってさ。信者の君ならOKだよね」
「あ、今お腹痛くて、それじゃあ失礼します。」
何か5人が足にしがみ付いて離れない。
「お願いじまずー、誰も助けてくれないんですー」
こいつ、ハーレムパーティーのくせに彼女たちの前でかっこつけろよ。
「でも、私瞬殺されちゃいますよ。死んだらどうしてくれるんです。嫁3人いるんですよ」
「大丈夫、戦闘は自分がしますから、結構強いんです。お願いします。万一の時は後ろにいるお嫁さんは面倒見ますう毎晩頑張りますう。あ、魔獣はちょっと無理です」
こいつ、失礼な奴だな。俺は振り切って外に出た。
「ああー、」
「ちょっとタケオ、少し可哀そうじゃない。道案内位してあげてもいいんじゃない」
「僕も助けるべきだと思うです。世界を助ける勇者を支援しないなんて僕を救ってくれたマスターが言うのはおかしいです。道案内だけですよ。」
「おらもそう思うっぺよ。別に戦闘するわけじゃねーならいいんでねーか」
オーキ、俺が死んだら相手にして貰えないぞ。
タケオ君子危うきに近寄らずが家訓だが、タケオ嫁に逆らわずは、上位の教訓だしな。
「皆がそこまで言うなら、よし分かった案内してやろうじゃないか。絶対案内だけだからな」
何かフラグっぽい気がするが、勇者が怪獣大戦争を代わってくれると思えば安いもんだ。
こうして俺たちは、ファイアーアントの調査に同行することとなった。
誤り修正:ランド王国は500年前建国が1000年前になっていました。すみません。