5.◇大賢者トウースの日記(閑話)
廃棄賢者となった理由説明です。
廃棄賢者の森がある王国は、ランド王国として500年前に建国された。
賢者トウースの日記を読んでみると以下のように要約できる。
約200年程前王都で魔道具を開発した。
魔導コンロ、魔導冷蔵庫、魔導洗濯機は、一定水準以上の家庭で爆発的に普及した。
魔導コンロは、当時街で大問題だった火事の心配が激減したことで多くの家庭に取り入れられるようになった。
魔導冷蔵庫は新鮮な食材の延命や食中毒を減らし、大人気となった。
魔導洗濯機も当然取り入れられた。
大儲けとなったトウースだったが、時の権力者によりその製造販売権を強制的に譲渡させられた。対価は、王国の貯めたオリハルコンとミスリルなどの鉱石を無理やり押し付けられた。
他国にも販売した魔道具は、莫大な利益を生み王国は、兵を増強し、隣国に侵略戦争を挑んだ。
しかし、金で集めた兵力はそれなりの成果しか齎さず、侵略される側の国は、必死に戦い、領地を奪われてもゲリラ戦で混乱させ、いつの間にか撤退させてしまう。
業を煮やした時の国王は、トウースに強力な魔導兵器の開発を命じた。
侵略戦争に反対だったトウースであったが、権力者には逆らえず、魔道具開発に着手した。
そこでトウースは考えた。戦争で何の関係もない農民が殺されるのを忍びなく思い、魔法の才能がない人達でも使える魔導武器を完成させた。
それが、ゴブリン程度の小魔石でファイアーボールを発射できる魔道具だった。
テスト的に侯爵領で導入されたが、戦争だけでなく、魔物を撃退するにも使われ、国中に配布された。大変喜ばれたが、大問題が起こった。
不平不満の多い農民が武器を持つことで、横暴な領主や不正な商家などが襲われるようになった。王国中枢は、農民などいくら死んでもいいし、我らの言い成りに動く簡単に補充できる駒と目論んで武器の携帯を許した。だが、反旗を翻す農民達を使うこともできず、逆に反乱の火種となってしまった。
王国は、侵略どころではなく鎮圧に大変な労力を掛けることとなった。一般民衆に兵器を渡すのは危険と判断した王国中枢はこの魔道具を全て回収し破棄した。
今の腐った王国中枢は、自分に責任を負わされると思ったトウースは、元々研究に使っていた森の施設を改造し、王都にある研究資料もすべてこの森に運び、セキュリティーを施して立て籠ることにした。
それ以来、森に彼がいる事は知っていても誰も彼を探し出すことは出来なかった。
トウースは10年後街に出かけ、当時のことを聞いた。
予想通り、”農民をそそのかし、国内を混乱に導いた”とされ森に廃棄する事になったと告げられた。
時の権力者達は必死に森を探したが捕まえることが出来なかった。メンツにかけてそんな事が言えない彼らは、廃棄したと告げたのだろう。
また、侵略戦争、内乱で疲弊した王国は、散財したお金を補填するため魔導コンロ、冷蔵庫、洗濯機に500%の税金を課税した。これによって、これらの魔道具は、金持ち以外買えなくなってしまった。
魔道具の回路設計図は、王直轄となっていて一般では見れない。
秘密を守るため、作っているのは、奴隷の魔導技師で、死ぬまで牢屋のような施設で働かされるされる。
実際火を出すコンロなど造れそうだが、ゴブリンの魔石1個程度で火を出す魔法回路や魔法陣は、天才トウース以外無理なのだ。
また、回路には立体型トラップが仕掛けられていて分解解析ができないようになっている。
王国が独占し、大幅課税されたことによって庶民への普及が減退してしまった。
この500%課税について住民も黙っていた訳ではない。国は、理由に困り、トウースが国の金を研究に散財したためであり、それを造ったトウースの魔道具から徴収するのは当たり前であると弁明したのだ。
これにより、"国の金を散財して森に廃棄された賢者"と一般の民の噂が固まったようだ。
それにしてもこの国の為政者達は、自分たちが失敗した責任を全てトウースに転嫁している。
本当に腐った国である。
トウースは彼らは自分の都合の良いというか、得になるようにしか理解しない人種と書いている。
しかし、トウースは、魔法に才能のない者にも魔法が使える魔道具を多数研究していた。
日記にそのことも書かれていた。
これらが今後タケオがどこまで使い熟せるかは、未知数である。
誤字脱字を修正しました。