46.やっぱりドン臭ギツネ
俺達は、宿屋にいる。
テンコは天才だった。
レベル1、才能クロのテンコは、魔力循環で既に明鏡止水に達している。俺が3年掛けて到達した境地をわずか3か月でやり遂げたのだ。
※参照 6.5年間の成果①
俺との違いは、食生活かもしれない。彼は、人間とは思えない粗食の中で生きてきたため、骨と皮しかない。
循環する体自体の面積が少ない。
これが影響したのだろうと思っているのだが、フルに循環すると最期の輝きの段階で大きな光り輝く尻尾が後ろに見える。
1本、次は2本・・・・・9本まで増えていく。
それを超えるといつもの小さい尻尾に戻る。いったいあれは何だろうか。
人間は、理解できない時は忘れるのが一番だ。俺ルールだ。
「トカゲの尻尾しゃぶるです?」
「いらん」
とにかく今は、走ってもこの状態が解けないよう訓練している。体に肉も付き始めたが、筋肉質ではないようで”ぷよぷよ”している。狐耳族の男を初めて見たのが死体だったので観察していなかった。
まあ、子供だしあんまり筋肉質だと成長に影響すると母さんから言われている。
MPチャージベルトを付けさせMPを5に迄している。
レベル上げはもっと後だ。
「14,5才に成ったらレベル上げするからな」
「僕14才です。1か月で15才に成るです。」
はああ!、こいつこれで14才なの。10才じゃないの。
「いいか、1年て言うのは、365日12か月だ。狐耳族は200日で1年って数えるのか」
「ぷぷ、世界共通で365日12か月は3歳児でも知ってる常識です。モグラの尻尾しゃぶるです?」
「いらん」
こいつ、ちょっと馬鹿にしたな。
そう言えばここ3か月で身長が15cmは伸びた気がする。
120㎝位だったのがちょっと抱き枕にしにくくなった。
欠食児童から栄養が大量に入ったから大きくなったのだろう。
しかし、狐耳族は、筋肉が脂肪の様に柔らかいのかも知れない。特に胸筋と大臀筋が大きくなり柔らかく弾力性がある。最初は抉れ胸だったが、今は、大分盛り上がった。
種族特性を知らないので、何時か同族を見つけたら聞いてみよう。
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そろそろ気づけ、ボケ猿
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それから、身体強化の使い方と魔力操作の方法を教えながらレベル上げを行った。
20cmの大振りナイフが使えるよう指導したが、どうも爪での攻撃が鋭いので並行して身体強化をしながらのゴブリン狩りを行った。
レベル10で特性が分かって来たのだが、テンコは、爪で斬撃が出せる様になった。
指の爪にミスリルと魔鉱石を混ぜた魔鉱ミスリルをネイルにして付けると威力が10倍くらい跳ね上がる。
ナイフは解体の時しか使わなくなったので、クナイの練習をしたら物凄い的中率と高威力だった。とにかく投げるものに魔力を載せるのが、滅茶苦茶上手い。
錬金台の使い方を教え、クナイを作らせた。
錬金台は、精錬から合成、加工など万能加工機でもある。
この錬金台は、俺が10才から創意と工夫をふんだんに盛り込んだ”錬君1号”だ。前から後継者が出来たら渡そうと思っていた俺の愛器だ。
俺が今使っているのは、”スーパー錬君1号”だ。
テンコは、細かい作業も得意で、魔導回路の修行もしている。
ミスリルは勿体ないので、魔鉱石、鋼鉄、鉄を使って色々作っている。
錬金術の修業は、道具を奇麗にすることから始まる。まあ、掃除をしながら道具に問題が無いか確認するのは製造業の基本だ。まず、細かい作業を行うための虫眼鏡を奇麗に磨いて使用しないと思わぬ精度低下を起こす。
テンコは毎回、太陽に向けて奇麗な状態か確認するので、”目が―、目が―、天罰ー”と目を押えながら転げまわって煩い。何回やっても学習しない超どんくさ狐なんだ。
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テンコの攻撃力を上げるため、次に爪の拡張版として、指まで被せた爪と言うより指甲套?を作ってみた。
魔鉱ミスリルだと耐性が上がって、爪の負担が減ったが、使いづらいようだ。
次にジャイアントスパイダーとユグドシアルの繊維をテンコの魔力を流し直径1cm長さ2mの糸を作った。
今テンコは特訓中だが、恐ろしい武器になった。
指の先に付けると、ある時は槍、ある時は鞭、ある時は細く長い線にして縦横無尽に操作する。これを10本の糸として操る様は、殺りく兵器だ。ちょっとやり過ぎたが、オークを膾切りにした時は、尻尾が9本になって妖狐のようで凄い怖かった。
片膝付きながら両手をクロスさせる九尾の狐の前に肉片になったオークらしきものが転がっている。
戦闘が終了すると、指先に付いていた透明な太い糸が腕に”しゅるしゅる”と巻き戻る。
「ふーー、決まったです」
俺は思わず小枝で、”ぺち ぺち”
「痛い痛いです。頭バカになるから止めてくださいです」
「お前は、前からバカだから大丈夫だ。これじゃオーク肉売れんだろう」
「あ」
「あ、じゃねーんだよ。かっこつけてポーズまで取ったって金に成んねーだろが、アホ狐
今日は”尻尾なでなで”は無しだ」
「ほひ、そんな、僕、僕、・・その刑だけはどうかどうかご勘弁を。今日寝れなくなっちゃうですー”ミートゥ”なのに、穿山甲の目玉舐めるです?」
「いらん」
ミートゥ? 理解できないことは忘れる。俺ルール
・・・・何か嫌な予感がする(経験から来る感?)・・
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それからも毎日オークを4体納品している。
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テンコにも収納を作ってやった。
謎のリュックを大事そうに収納に仕舞っていた。あの中身は絶対見たくない。
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テンコの収納には、錬金台も入っている。今は魔導コンロ等を作っている。
ユグドシアルの繊維とスパイダーの合成糸は、長さ、太さを変え数種類持たせた。在庫が半分以上あるので気にはしていない。今は、最適な武器となるよう試行錯誤の段階なのだ。
しかし、わずか数か月でこれ程迄に成長するとは、末恐ろしい。
既に素のままの俺ではテンコに勝てない。俺と同じクロの才能なのだが、全くセオリーを無視してくる。
尻尾が一尾の時はいいのだが、3尾を超えると幻影の様に白いお狐様になっている。九尾の時に魔力量を測ると一時的に数十万単位に膨れ上がる。爪を天に振り回すと雷雲が起こる。
何なんだこいつは魔獣の次は化け物かよ。
最早、テンコが戦闘態勢に入るとソルジャーだろうがジェネラルだろうが一目散に逃げ始めるが、一瞬で糸で瞬殺される。
恐らく、今現在糸があれば、この前のジャイアントスパイダーといい勝負するかも。
見ててこっちが怖いわ。
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困った。いつの間にかテンコの尻尾を撫でないと夜寝れなくなってきた。抱き枕にしているのも違った意味で気持ち良くなってきた。
・・・これはまずい。・・・
俺は、男も行けるのか試したくなる衝動を必死に抑え込む。
こいつのせいだ。やたら色っぽくなった。
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「テンコ、お前も成人だ。これからは別々の部屋で寝る事にする」
「嫌です。僕嫌です。”ミートゥ”はいつも一緒にいないといけないと”かっか”(母)から教わったです。」
そうか”ミートゥ”は、大親友と言う意味だな。
「俺たちは”ミートゥ”だが、大人にならなければならない。
ほら、お前だって、そろそろ、ほら、そのー、自家発電したいだろ」
「マスターがミートゥと認めてくれたです。
へ?自家発電って何ですか」
こう言う説明は本当に苦手だ。
「ほら、朝になると、ほら、・・何か足の付け根当たりからもう一本足がにょきにょきとするだろ。女の子の胸やお尻を見ていると偶ににょきにょきっと。
小象の鼻のようなものが、パオーンって上向いちゃって」
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「何となくわかりましたが、僕はそんな事起きないです。」
やっぱり、欠食児童だったからそっち方面は発育が遅いんだ。もう少し暖かい目で見てやらねば。
ーーーここまで気付かなきゃあ、天然阿保猿ーーー
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