4 5.ランド王国とマケラ帝国
マケラ帝国は、帝国となっているが侵略国家ではない。マケラの王は、代々温和で、戦争を好まない風土だった。
マケラの海側には、島国国家が有ったが、不漁になったり海賊が出た時などマケラが援護していた。森側には、獣人族の小さな国家が複数ある。こちらも食糧援助や人の行き来を援助しているうちに、マケラの庇護国となりいつの間にかその王の中の王としてマケラ皇帝が誕生しただけで,侵略したわけでもなく獣人差別もない。ましてや才能差別など全く無い国家なのである。
対してランド王国は、筋金入りの侵略国家である。
ランド王国の成り立ちは、千年近く前、世界を混沌に貶めた悪魔族の王を封印した英雄ランドにより建国された国と謡われている。
この国のどこかに封印されたが、それは王族のみしか知らない秘密である。英雄ランドに関する記述も王家以外門外不出とせれていたそうだ。しかし、王族も見向きもしなかったので、今となっては、その文献の在処は分からない。
数百年前のランド王国は、現在の首都周辺だけの小国だった。周りには同様の国家があったが、これらを吸収し今のランド王国となった。その方法は熾烈で、侵攻した国は、国民含め皆殺しだった。肥え太る貴族が増え、いつの間にか周辺国は滅亡し今のランド王国になったのは、今から300年くらい前だった。しかし、国民の生活は荒れ、貴族が言うことを聞かなくなると内政の変革に取り組んだ。
貴族を大幅に粛清し、地域の貴族も王族の血筋に切り替わっていった。
現在は、正妃の子の王太子と5歳の王子がいる。
王女は2人で側室の子である。
側室の王子は、1才を待たず”病死”するのでいない。
ここ百年は安定してきたので、いよいよマケラ帝国への侵略を開始したが、連戦連敗で国力を半分にしてしまった。
その巻き直しを図るため、才能重視主義を旗印に強兵化を進め、兵力も侵略を始める時の数倍になり、今は50万とも言われている。
当然国民は、税負担が増え貧困にあえぎ、食料の高騰が始まり治安は悪くなる一方である。
今回戦争になる火種は、マケラ皇帝が高齢で病気に臥せっている事が分かったからだ。
帝国には2人の王子、2人の王女がいる。
帝位継承争いを煽り混乱の中を侵略しようと虎視眈々と狙っている。
◇ランド王国 謁見の間
「国王陛下におかれましては、ご壮健で「謝辞などよい」あられまし・・・」
「バルド将軍、今の状況を説明せよ。」
「は、現在各地域から集めました兵士たちには、軍事訓練を行っております。指揮命令系統も「そんな事は当然の事」・・」
「ワシが聞きたいのは、いつ戦線に出られるのかだ」
「は、後1年は掛かるかと」
「何を言っておる。高い才能を持つものを集めたのだ。実践投与すれば直ぐに頭角を現すだろ」
「は、しかしながら寄せ集めの集団です。指揮命令の徹底、野営方法、物資供給など大きくなればなるほど訓練が必要にります。才能だけでは戦線は維持できませぬ」
「バルトよ。世は、代々武門の誉れ高いお主の家柄を重視し、今回お前を将軍に抜擢したのだ。
才能だけでは出来ないだと、こーのバカチンが、お前は、今を持って将軍を解任する。今度、儂に意見したら一族郎党斬首にするぞ」
「カリス侯爵、今後の指示は、全てカリスが行う。
皆の者、事務官のカリスは、忠臣の鏡だ。
カリスよ。才能が無いものが増えれば、その分金がかかる。才能の低いものは、50%減給もしくは除隊させろ。
軍の育成はそなたに任せる。」
YESマンのカリスは、王にバルド将軍は無能で無駄遣いしていることを進言していた。耳触りの良い才能至上主義的発想で語るカリスは、王の信頼を完全に勝ち取っていた。
バルト将軍は、何も言わずそのまま下がった。
貴族の事務官が経験もないのに勝手に軍を弄り始めた。
今までの軍規は廃止され、才能値:緑3以下は、給与50%減給となった。
※才能値 黒0:灰色1:茶2:緑3:黄緑4:紫5:赤6:青7:オレンジ8:黄9:白10
50万人の兵力は,30万人となった。
10年来の歴戦の戦士の半分以上が除隊した。
残った兵士もそのまた半分が、補給部隊となり戦闘部隊を離れた。戦闘部隊も序列が才能値で決まるようになった。
緑3以下は、万年二等兵、土木作業、補給補助部隊
赤6以下は、一等兵、特等兵、一部は幹部
青7以上が幹部
となり、今までの経験などは、全て無視された。
軍隊長含め各部隊の隊長は、青7以上で構成され、8割が未経験者で、現在訓練が行われているが魔攻が高くなっても軍議が出来るはずもなく、脳筋まっしぐらの部隊になりつつある。
才能が低いもので除隊しなかったのは、子供が小さい者が殆どだった。
バルド家は、代々兵士の育成を行い、戦士を戦場に送り出していた。退役したものには就職先の斡旋から寝食の世話まで、負傷者には病院を立て手厚く慰労していた家で、兵士には絶大な信頼のある家である。
今回は、才能優秀者の育成のため、普段は裏方のバルド家に将軍と言う白羽の矢が立ったのだ。
ランド王国が兵力を維持できたのはバルド家の献身があったと言っても過言ではない。
しかし将軍は、元々兵士使いの荒いこの国のやり方に心を傷めていたが、今回の件で心底愛想が尽き、一族を連れ、マケラ帝国に亡命する事に何の躊躇いもなく決心できた。
それと将軍を信頼する者や、兵士しか経験したことのない筋金入りの軍人は、難民としてマケラ帝国に受け入れて貰えた。その総数10万人だったが、警備兵や軍隊への編成に入れてくれた。
全員を受け入れてくれたマケラ帝国・ケニス公爵に大きな恩義を感じたバルド将軍は、国境警備の薄いケニス公爵領の森の国境を命に代えても守ると意思を固め、昔の仲間とケニス公爵家直轄軍として駐留するようになるのだが、それは先の話。
さて、カリス将軍下で経験もない軍規もいい加減な軍は各地で問題を沢山起こしたが、お咎めもない。国民の怒りはどんどん大きくなっていく。親族であるはずの貴族も流石に黙ってはいない。
それを正当化するため、最早帝国侵略は、必須となっていった。
国王の間別室(個別密会談義の場)
「カリスよ。軍の方は順調か。」
「は、50万人から精鋭の30万の高位才能者に変えたことにより、才能比2倍の能力を持った軍団に生まれ変わりました。これで、60万の軍勢を保有したのと同じになります。固定費の賃金も3分の2になり、兵糧保有量も3分の2に圧縮出来ました」
「流石だな。攻撃準備はどうだ」
「今まで、軍勢の進行のため中央国境を経ての侵攻、海からの侵攻は全て惨敗しておりましたが、森の国境を調査したところ、魔物と小橋しか無いため困難と思われましたが、森の迂回路が発見出来ました。
秘密裏に森を通りマケラ帝国のニケの町を足がかりにして国境を占拠し一気に相手ケニス領へ攻め込む算段が立ちました」
「細かく話せ」
「は、只今準備中ですが、まずは黒魔術士の・・・進軍用砦・・・・・・」
「宰相はおるか、準備はどうじゃ」
「現在確実な情報筋から、皇帝の崩御は、半年から1年で間違いないだろうと。
皇帝の皇子は2人、両皇子の後ろ盾となる侯爵家と公爵家には入り込めませんが、そこを寄り親とする男爵家・子爵家を買収することが出来ました。崩御に合わせて”次の皇帝は誰か”を煽らせる事で軍の指揮命令系統に混乱が起きる算段です。侵略成功報酬付きですが、麻薬に溺れさせてありますので混乱に成功させれば始末はいつでも可能です。」
「そうか、それでは・・・・・・・・・・・・・・・」
こうして、密談は進み、侵略の準備は刻々と進められるのであった.