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42 .◇閑話 さよならトワール

タイトル修正しました。トウース→トワール


俺は今トワールの町の近くにいる。

夜を待っているのだ。

もう出て行ったのではと思うだろうが、心残りがあり過ぎる。

俺の殺しを依頼した奴、ミミちゃんの笑顔奪った張本人。

 受付嬢は、ギルド本部の隣にあるギルド宿舎で暮らしている。彼女は、元々は王都支部で働いていた。

受付嬢として多くの冒険者から愛され、恋人になって欲しいなどの告白も1つや2つではない。適当に話をしては、逸らかしてきたが、同期が一人、また一人と結婚して辞めていく。小さな料理屋や小さな商人の家など、将来性など全くない所へだ。彼女たちは将来野垂れ死にするか、一生苦労して生きて行かねばならない。

それからだった、才能もないのに私に声をかける輩を見るたび虫唾が走るようになった。

思わず言ってしまった。

「才能がない人は、声かけないでよ」

それから、声がかからなくなった。

暫くして、段々腹が立つようになった。

才能がない奴に、私が何で答えなきゃならないのかと。

しかし受付嬢は所詮客商売だ。

人気が無くなるとトワール支部に異動させられてしまった。

トワール支部は、王都より色々な面で厳しくない。

 私はそれからと言うもの入って来たばかりの新人冒険者に才能の低いものは、ポーターをさせ、摺りつぶされていなくなるよう仕向けるようになった。

 ある時、今までで最も言うことを聞かない新人冒険者がやって来た。クエストの成績もいいのに等級を上げようにもクロだから上がらない。にもかかわらず稼ぎがいい。

こんな奴は初めてじゃないけど、生意気で腹の虫が収まらない。こんな奴は何時もの様に抹殺する。


 だが、死なない。

「何でジョーは帰って来ないの」

独り言を言いながら食堂で今日の定食を食べていると、誰かが横を通り過ぎる。

”チク”

「痛っ」

何かが目のちょっと横当たりに刺さったような痛みがした。

通り過ぎる奴のマントでもぶつかったのか。

「もう痛いじゃない」

周りを見たが、そこには誰もいない。

その時は、そんな痛みでは無かったので、部屋に帰って寝る事にした。

真夜中に目じりが痛くて起きてしまった。こんな夜中に医者はやっていない。

痛みに耐えながら医者に行く頃には、顔の半分が爛れて垂れ下がって来た。

「ひい、化け物」と看護婦さんに言われてしまった。


「これは、壊死毒に侵されていますね。病状は鈍化していますがこのままいけば死亡します。ハイキュアを掛ければ全快しますが、この顔の腫れ自体は一生残りますね」

ハイキュアをかけて貰い命は取り留めたが、もう受付嬢は首だろう。この顔では、娼館でも働けない。

自分は、才能が下から2番目だ。人に才能と言っておきながら自分がない事を思い出さされた。

自分が才能がないのに何で才能がない人を虐げていたんだろう。才能のない奴は死んだほうがいいと思っていたのに。


私は、これからどうやって生きて行こう。

◇ギルド長室


 俺は早く出世したい。俺にとって才能の有無なんてどうでもいい。

こんな才能至上主義の王国なんてどうでもいいんだが、利用できるものは利用する。

俺は将来教皇国の総本部長になり、影から世界を牛耳ってやる。はした金を貰うんじゃなく、豪邸を立て絶世の美女を侍らせ優雅に暮らす。それが俺の未来だ。

この国では最早才能のない奴に居場所なんてないだろう。冒険者ギルドの理念に”才能は伸ばすものであって結果ではない”とあったがどうでもいい。

とにかくこの国は才能者を優遇するなら徹底的に媚び諂ってギルドを拡大し評価を上げて貰おう。


”プス”

「痛っ」何か首筋に刺さったな。

あれ、体が動かない。声も出ない。

「やあ、あなたが死神ジョーに俺の殺しを依頼したのは覚えているかな。当然、殺そうとするって事は、失敗すれば自分も殺される覚悟があるよな。

答えは求めてないから、・・・あ、喋れないか

その毒は、見たり聞いたりは出来るが、他は何も出来ない。

あと、気持ち悪いだろ。それとMPを全て吐き出すからMP枯渇状態になるんだ。だから心配しなくていいよ。」

タケオは、壁にあった大きなハルバードをギルド長の頭に配置した。てこの原理で頭に落ちる仕掛けだが止めているピンを引っ張るロープが部屋のドアノブに括りつけてある。

「その痺れ毒は、2日ぐらいで解ける。その間にこの部屋に誰も来なければ助かる。普段人望がない事を祈るよ。じゃあな」

そう言ってクロの冒険者は去って行った。

あれから8時間くらい経っただろうか、

”コンコン”

「ギルド長、紅茶をお煎れしました。」

ばかやめろ。開けるな。普段は呼ばないと来ないくせに何で今日に限ってサービスいいんだ。

”ガチャ・ギ――”

 若い時は、冒険者の為に働くことに誇りを感じていたのに、何時から何も感じなくなったんだろう。

女冒険者に誘われて部屋に入ったら怖いお兄ちゃんに金取られたな。

冒険者に知らないうちに保証人にされて家族に捨てられたな。

一般職員から格下げされて皿洗いにされたっけ。

頭にきて、それから冒険者を信じなくなったのかな。

本当は、冒険者全員じゃなくて、そいつらだけが悪かったのは知っていたんだ。だけど皆がそうだって思った方が接するのが楽だったからなんだよな。

この人はこうで、この人はこうだなんてノート取ってた子が居たけど、大きいギルドだと家に帰れなくなるんだよな。

いつの間にか酒が飲みたくて手を抜くようになったな。

俺は何のためにギルド職員に成ったんだっけ。

受付嬢の言葉だけでF級冒険者が一方的に悪いと殺しを指示して、A級冒険者だから絶対勝つと思って、自分では何も調べもしないで信じてもいないし何も感じていない。

殆どがそうだったら、全部がそうだなんてあり得ないことは知っているだろうに。


何かいい加減に生きてきたツケが一気に回って来たな。


”ザク”

俺の豪邸暮らしは無くなった。

◇町長宅


「やっと、低能を排除できる。あいつらのせいでこの国は世界制覇が出来ないんだ。才能のない奴が努力したって半分の力も出ない。あいつらに飯を食わせるのも無駄だし、空気を吸わせるのも無駄だ」

町長は、酒を飲んでいた。

ここ十年は、雑務をすべて部下にさせているので運動不足で腹がぷっくり貫禄腹だ。

 彼は王太子の教育係をしていたが、偏った教育をすることから当時の宰相が王国の未来を憂い、秘密裏に首にした。王太子に分からない様、現在の領主である侯爵に預けた。宰相の死後、王は又もや偏った才能重視主義者を教育者にし、王太子は、王以上に才能偏重社会を造ろうとするようになった。


「なんだか眠いな。・・・」

いつの間にか町長は寝てしまった。

”ミリ・ミリ・ミリ”

「ふん・ふん・ふふふん、ふ・ふん」

”ジャー・パチパチ”

「う、うーん」

「起きました?」

「ここは、・・」

頭がぼんやりする。ここは何処だ。

見えないが、目隠しされてるのか。

体も動かない、縛れてんのか。

「心配しなくて大丈夫ですよ。ここは、町長分室です。

あ、執務室が焼けちゃったんで、宿舎の一つですけど」

「何言ってんだ、分室なんて作った覚えはない」

「あれー、ここに居た方が、”俺は、能力差別解放軍ー町長分室長”だって言っていたから、てっきりそうだと思ってましたよ。きっとそいつ嘘吐いたんですかね」


「ここは、能力差別解放軍のアジトなのか」

「ええ、大分前に壊滅しましたが、上納金を貰っていたのに知らないは酷いですね。分室長は焼け死ぬまで“助けて―”って言っていたのに。俺はてっきり町長に言っていたんだと思いましたよ」

「お前が、ここを全滅させたのか」

「さあ、どうでしょうね。1人で240人を殺せると思いますか。貴方の嫌いなクロの俺が。・・・・都合のいいように御想像にお任せしますよ」

「お前は誰だ。何者なんだ。名前を言って顔を見せろ」

「俺の妹が能力差別解放軍に殺されましてね、貴方は殺された人達の名前を知っていますか?顔を知っていますか?、その人達の人生を踏み躙っておいて、今更俺を知って何か意味があるのですか」


「俺を殺すのか」


「妹は殺されても殺せなんて思うような子じゃない優しい子でした。逆ですよ。妹の供養のためにここに来たんです。彼女が異世界人が持ち込んだテンプーラなんて贅沢なもの食ったことないとは思いますが、美味しく食べてあげれば天から見て笑ってくれると思います。ですから、彼女が天に召される事になった張本人の貴方を呼んで一緒に供養しようと思ったんです。心配しなくて大丈夫ですよ。妹が悲しむから毒なんて入れてませんから。

供養が終わったら、解放してあげますから顔は見せられないんです。見せたら報復されるから殺すしかなくなるじゃないですか」

タケオは、揚がったごぼうの天ぷらを食べ始めた。

”ムシャ・ムシャ”

「美味しいな。今食べさせてあげますね」

タケオは町長の口に上戸を広げたような器具を突っ込んだ。

「あがっ、あがっ」

「心配しないで、妹の供養を吐き出されると思わず殺したくなっちゃうから直接お腹に入れるだけです。ちゃんと牛蒡のテンプーラだから」

タケオは、常温になった天ぷらを町長の胃に直接流し込んだ。

「おごー、おごー」

「あ、ごめん。ワインで流し込むね」

町長は、涙目になりながらも耐えた。20個くらい天ぷらを食べたろうか、腹はぷっくり膨れている。

暫くすると眠くなってきた。

「眠そうですね。寝たら縄を解きますから、安心して帰って下さい。町長だから健康に気を使って運動していると思いますが、テンプーラは胃靠れするかも知れないので胃腸薬置いておきます。”毒かもしれない”と心配なら飲まなくても結構ですが責任は取りませんよ。」

どのくらい経っただろうか、目隠しをされていたので時間の感覚がない。外に出でると朝だった。

腹が張って重たいが、得体の知れない奴の胃腸薬なんて絶対飲む訳ないだろ。

確か半日くらい前の細道を歩けば街道に出るはずだ。

場所の地図は覚えている。街道から馬車で3日の距離だったはずだ。

しかし、あいつは必ず殺してやる。声からして10代後半だろうし、声を聴けば一発で分かるだろう。才能がクロの奴だけ全員殺すか、能力検査が義務付けされたから絶対分かるしな。

 そうだ、クロは全員に無理やり石を飲ませて殺してやろう。生かして返すなんて、本当甘ちゃんだよ。だから能力の低い奴は頭が悪くて駄目なんだ。

街道に近くなったころ、急にお腹が痛くなりだした。脂汗が出てきてだらだらと流れる。

歩くのがやっとだ。木の枝をつっかえ棒に何とか街道まで出て来た。腸が痛い。でも排便出来る感覚がない。

やっぱり胃腸薬飲むべきだったのか、いやあれは毒だ。

食べたものが毒だったのか、これだけの時間が経ってから効く毒なんてあるのか。いや、音しか聞こえなかったがあいつも食べてたよな。

感覚からして何か詰まっているような。

 ・そこにロバに乗った農家の荷馬車が通りかかった。

腹が痛くて小さな声しか出せない。

「すまん、町・ま・で・乗・せてくれ。俺は・ちょ・う・ち・ょ・うだ。必ず・礼・はする」

「ああー、何言ってんだか分かんねーが、病人みたいだから近くの村まで連れてくよ」

町長は、”コクコク”と頷き、荷台に乗った。

腹が痛くて横向きになり丸まって過ごす。

一日経ち村に着いた。医者らしい医者はおらず、何か動物の骨をばら撒いて拝んでいる。

体力の限界だ。意識が無くなっていく。

治癒師は、才能が無い魔術士が飯食うために成るんだよな。

上手な治癒師は、才能がクロの奴が多いんだっけ、繊細に体をサーチできるからと聞いたな。

世の中、戦争で死ぬより病気で死ぬ奴が多いんだ。

俺の町には治癒師が皆無に近い。近隣の村にはいない。

いっぱい町民殺していたから気にしていなかったけど、生きるのに才能って何だろう。

本に書いてあることを鵜呑みにして、それだけで世の中回ってるなんてある訳ないのに何で俺は考えなかったんだろう。



 しかし、心残りは、・・・・・・・・あの胃薬本物だったんだろうか。毒だったんだろうか、ああ、知りたい。

意識はどんどん無くなっていく。

あれ?腹の痛みがない。治ったのかな。

そう思いながら息絶えた。


ーーー

胃薬の正解は、只のデンプン。薬でも毒でもありませんでした。彼の症状は、現代での腸閉塞です。

当然この世界では腹痛で死ぬ病気でした。

これで、相当苦しむと思ったタケオだったが、死ぬまで行くかは分からなかったので顔を見せなかった。

ーーー


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