40 .トワールの町再び
ついに修業が終わり、オーガの里(村)を出る時が来た。
来た時は、作物が育たず廃村寸前だったが、消毒石が功をそうしたのか、普通に作物が実るようになった。
ジャイアントスパイダーの討伐により今は狩りが出来るようになり食生活も大分改善された。
「タケオ、今まで感謝するのじゃ。長老として村の代表として礼を言う。ワシはここで最期を終われそうじゃ」
「こちらこそ、余所者の私を置いて頂いて感謝しております。それでは皆さん御達者で」
「ちょっと待ったーーー。おらの事はどうするだ。今日行くならおらと話をしてから出ていくのが筋ってもんだべ」
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「おい、どの口が言ってんだ。この極悪魔獣が、濃ーーいお別れしただろうが」
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・・・時は5日前の夜に遡る。・・・
「ローキ、俺は明日トワールの町に戻る」
「行ってしまうだか、大丈夫だか」
「ああ、オーガ村の皆のおかげで勝つ目度が経った。
勝負に絶対はないが善戦は出来るだろう」
「そんなあ、善戦だなんて、なあタケオ絶対勝つ自信が出来るまで修行した方がええだよ。おらもっともっと尽くすだよ」
「ああ、そうしたいとは思った。だがなこれ以上ここに居ると町の知り合いにも犠牲者が出るかも知れん。苦渋の決断なんだ」
・・・ちょっと良心が痛むが、嘘ぴょん・・・
「タケオ・・」
「オーキ、来た時に言ったよな。俺が3か月以内に帰って来なかったら新しいムークを探せ。理由は分かっているな。お前はまだ若い。もっといい男など星の数程いる。俺のことなど直ぐに忘れるさ。」
「・・・タケオ」
俺は、オーキの頬に軽いキスをした。
俺はソファーで何時もの様に寝たのだが、
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”ミーン・ミーン”
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寝室から”ミーン・ミーン”と子猫のような鳴き声が聞こえる。
俺は、ベッドに行き、泣き晴らした後のオーキの背中を摩りながら添い寝をした。
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それは、一瞬の出来事だった。
俺は俺は、魔獣に襲われた。物凄い力で押さえ付けられた。
俺は俺は、何度も止めろと言ったのに何度も何度も・・・。
感極まったオーキは、”ガウーー”と言いながら俺の首筋に
・・・・・噛みついてきた。10cmの牙が・・・
”ピューーーー”
意識が無くなり、・・・・気が付いたら長老の家だった。
「タケオ言ったじゃろ。原生のオーガ族とのまぐあいは命懸けだって。もう少しでオーキを未亡人にするとこじゃったわい。わっはっはっは」
おお、血が”ぴゅー”ってしても助かるのか。さすが魔法の世界だ。
しかし、体が重い。血が出過ぎだ。だって”ぴゅーー”だぞ。
「気がついたただか、すまねー、本当にすまねー おらオカシクなっちまって、すまねー」
すまねーじゃねーこの極悪魔獣が。さんざ絞っといて最期は血まで絞って・・・また、ミミちゃんが手を振ってたぞ。
お前が現れたら速攻で川渡ってたからな。
「気にするな。只の事故だ。動けないから暫く長老の家に厄介になる。
いいか忘れるなよ。俺が帰って来なかったら、新しいムークを見つけろよ。」
「タケオ・タケオーー」
抱き付くんじゃねー。絶対帰ってくる訳ないだろ。
後で長老に聞いたが、オーガの雌が”ミーン”と鳴くのは、発情している時だそうだ。男を知ったばかりの雌は手が付けられないほど狂暴になるので、男は皆逃げ出すそうだ。
原生の雌が未亡人になる時はこの時がダントツ一位だと。
ーー知るか。長老、お前、知ってて教えなかったろーー
・・・時は今に戻る。・・・
「それでは達者で」
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今は夜になったばかり、トワールの町も人通りは減り家に明かりが見える。
ミキちゃんの宿屋もお客は夕食を食べ終え、自分の部屋に帰った後だ。片付けも終わり、家族の食事が始まろうとしていた。
「よう。元気だった」
「タケオさん」「タケオ」「タケオさん」
「しー、静かに」
挨拶も済ませ、俺の分も食事を用意してくれた。
この5か月間の出来事を聞いた。
まず一番変わったのが、才能がクロのものは、迷惑税が徴収される。皆に才能が無くて迷惑をかけていると言う理由から年の初めに金貨1枚徴収する。今年の暮れまでに能力判定し、新しい町民証が無ければ町から追放する。
旅人や商人は、入門時に能力判定され、クロの者は町に入るのに通常の通行料とは別に金貨1枚の税が課せられる。
「こんなバカなルールが領主は、了承したのか」
ベイアが答えた。
「下々の者には、教えちゃくれねーが、銭湯で事務官に聞いた話じゃ近々帝国と戦争を始めるそうだ。
この国の王は、過激な才能重視主義者で、各領地の15歳以上の男から才能が青7以上を強制徴兵せよとのお達しがあって、各町村に能力検査を義務付けさせた。
各町村にも事情があるからと町長村長にはそのやり方は各自に任せるとなったそうだ。
※才能は、黒0:灰色1:茶2:緑3:黄緑4:紫5:赤6:青7:オレンジ8:黄9:白10の十段階評価
それに目を付けた町長が今回の徴税を組み合わせたそうだ。
冒険者の場合は、独自の能力検査を任意で行っていたのが義務になり受けないものは冒険者証剥奪になるそうだ。
この才能重視に異を唱える貴族は、ここの領主含め、多いようなのだが、王と王太子が中心となって推進しているので中々逆らえないようだ。
冒険者は、全世界各都市にあり自由を旗印に活動しているが、国の中にあるギルドは、その国の為政に影響を受けるのは仕方がないが、この町のギルド長も才能重視主義者で逆に積極的に参加している。
「この国では、もう冒険者は、無理だな。」
ミキ「だったら、宿屋の二代目女将の入り婿の口があるわ。タケオさん限定職よ。今ならかわいい若女将が付いて上げ膳据え膳、毎日やり放題、子供はぽんぽん作り放題よ」
若い子がやり放題とか言うな。
俺は、ミキちゃんを思いっきり抱きしめて頭をわしゃわしゃした。ああ、俺のかわいい妹よ。いつか世を知りお兄ちゃんがイケてないイモだと知るまでは、このままで居たい。
「ミキちゃん。気持ちは嬉しいけど。父さん母さんに約束したんだ。冒険者に成って少しはいい暮らしをするって。
ここで楽しく暮らすのもいいけど、男は冒険しなきゃ。そして家庭を守れる程の経験ができたら。ベイアのような男になれるかも知れない」
ベイア「まあ、男なら否定はしない。挑戦しないで後悔したって何も心に残らんしな。やって見て後悔するなら勲章ってもんだ。俺なんか人生勲章だらけだ」
何かそんな勲章欲しくないな。後悔するならしない方がいいよ。 必死に頑張れば駄目でも後悔しない。だって後悔しったって何も変わらないから、また死ぬまで頑張ればいい。
生き物なんて死んだら土に帰るだけだ。死にたいなんて思うなら土に帰ったら踏まれるだけだと覚えておけばいい。だったら家族団らんで見届けられて死ぬよりも、一分一秒でも生きる事に執着する方がいい。生き残るために考える事こそ生きてるってことだ。そう思えば人がどう思うかなんて関係ないが、
相手も生きてるって事を忘れてはいけない。
生きていれば土よりいいに決まっている。
だって。人間は考える動物なのだから
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今日は、店の納屋に泊まった。
ミキちゃんが部屋に誘うが、準備があると言って断った。
ホントここの親は、娘の行動に無頓着だ。
納屋に泊まったのは、誰にも邪魔されず、これからの行動をシュミレーションするためだ。
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そして、朝がやってくる。