34 .◇閑話 誘閃黒風斬
俺は今、木剣を持って長老と対峙している。
”うをれい、つええーーい”
俺は、右八相から切り込む。
”バキッ” ”カランカラン”
全く歯が立たない。
「タケオは、動体視力、剣筋は達人クラスだが、剣速、威力、衝撃耐性など基本的な処は並み以下だな。」
「全くその通りでございます」
「一般的には斥候タイプだろうが、あの切り傷を見る限り対峙すれば一刀両断は免れまい」
それから、死神ジョーの剣について聞いてみた。
「間違いなく”誘閃黒風斬”だろう。この国の先々代剣聖からご教授頂いた事がある。
原理は、先ず黒い閃光と言っていたが、体内の循環魔力を圧縮し体外に閃光のように放出。魔力纏するのではなく薄く全体に伸ばす。
この循環魔力を圧縮している時がオーラのように見えるのじゃろう。
これで閃光を出すだけでなく身体強化レベルを何倍にも上げている。個人差があるので具体的には分からぬが。魔攻のセオリーである50%50%の魔攻耐を無視どころか瞬間だけ超えて、身体強化が魔攻の数倍膨れ上がる」
「では、魔攻の力は参考にならないと言う事ですか」
「いや、魔攻の力に比例して難しくはなるが、威力は上がる。おそらくだが、タケオの方が剣聖より魔力循環が何倍も優れているからもっと自分の攻撃力より威力は出せるはずじゃ」
「俺の方が出来るってことですか」
「まだ早とちりしないで聞いてくれ。元々の基礎力が低いから
魔力循環も繊細で超高速なのだと思う。
単純に言ってしまえば、タケオが魔攻100、剣聖が800とすると、タケオが1000、剣聖が6000の攻撃能力になる。おそらくタケオの能力だとレベルを剣聖以上に上げても互角に届かない。まあこれだけで完成ではないので先の話をしよう」
「次に剣だが、最低でもミスリルが使われる。これは、剣速や威力に耐えられないのは基より、剣を魔力纏して強化する。すると自分で飛ばした魔力と同質の為、剣筋から全てが闇の中にする事が出来る。
いかな動体視力が優れていようが、魔眼で魔力感知できても見ることは出来ない。だから見ようと思っても見えないのじゃ」
「その冒険者はなるたけ黒に近い服を着ていたならその服もミスリルか魔鉱鉄を織り込まれ魔力纏されると当人も消える。今回のものはそこまでではなかったようだが、ここまで付いて来れてるかのうタケオ」
「はい、大丈夫です。」
「次からもう一つの強化じゃが、その剣には風魔法突風が使われている。これは、フォジックの発射と同じなのだが、瞬間に飛ばす発射に対し加速度的にスピードが上がる突風は、10m以内なら発射が早いと思うだろうが、威力が出ない。剣は軽くはないので発射を使った場合と突風での実際の速度と威力は圧倒的に突風が強い。
ただ、制御が難しいのだ。自分の足の位置、踏み込みスピード、剣に乗せる魔攻撃力をシンクロさせて初めて最強の剣閃が生まれる」
「では、始まる前から見切りを付けていると言う事ですか」
「その通りじゃ。一瞬にその瞬間に力を載せて振る。当然遠心力が加わり、筋力で外に行く力を抑え込むのだが、それとは別に手に物凄い衝撃力が加わる。そのため、瞬時に魔攻の耐性を上げ、剣が衝突する瞬間に備える。これはバランスが一つでも狂えば、当人の体も只では済まぬ。これを彼らはセットプログラムと読んでおる。」
「結果を言うとじゃな。お主ではこの衝撃に耐える耐性が低すぎて攻撃は何十倍に出来ても衝撃には耐えられんのじゃよ
つまり魔攻が高くそのレベルに合わせた力しか出せないのじゃ」
・
「よいか、ここからが重要じゃ。ワシは剣聖の下で3年間修行して挫折したが、この剣技は、最低3つを会得できないと実戦では使えないと言われている。99.99%は、この一の太刀の完成の半分も出来ず脱落する。
これは、一の太刀が十分でない場合、つまり理由は色々あるが見切りが甘かった場合じゃな、二の太刀で防ぎながら後ろに下がり、三太刀目で更なる追撃をして倒す。
一の太刀を完成させたのを見たのは先代の剣聖者一人じゃった。
タケオは、同じ方向から胴、足の順に切られたのじゃな。胴はほぼ完ぺきだったが、足は片手で軽く振った形跡がある。
これは、途中でプログラムに無理が生じたためじゃ。間合いが足りないとか位置ずれ等じゃが、彼は修正せざるを得なかった。それは、二の太刀が使えなかったと言う事じゃ。
一の太刀だけでも八相、上段、下段、中段各種ののどれを取るかはそのものの相性による。当時の剣聖は数種類の一の太刀を操った。
良く使われる型で説明するが、一の太刀は横薙が一番簡単と言われている。だが間合いが読まれ易いがな。
そこで、火山ガスに突っ込んでも魔力閃光で吹き飛ばしているのだからプログラム2の返す刀で後ろに下がれば、問題なかったはずじゃ。
つまり彼は、一の太刀までは撃てるが、態勢が崩れるのか魔力が2の太刀まで行く前に制御できずに魔力散乱してしまうと思われる。
彼は一の太刀が放てるだけで完全ではない。未完の一撃必殺のみだという事じゃ。」
「しかし、それでも一撃喰らえば死にますから」
「いや、今回タケオがそのまま戦ったら相打ちじゃが勝っていたぞ。」
「それはあり得んでしょう。腹半分切られていたし」
「おそらく相手は右太もも、腕のどちらかが再起不能じゃろう。腹を押えて突っ込めば相手の方が先に息絶えたじゃろ。まあ、タケオもあの状態なら10分後に後追いでここには居らなんだろから、結果論から言えば戦わなくて正解と言えるが」
「それじゃあ今回はそうですが、二度目に対峙した時はやっぱり圧倒的に不利じゃあないですか」
「そうじゃのう、ただお主には、危機感知を教えれば或いはいけるかもしれん。」
「先ほどの話だと、危機感知できても避けられる気がしませんが」
「ああ、おそらく避けられんじゃろう。しかし危機感知には極めると二つの効果があると言われている。
一つ目が危険予知だが、これは危機を感知して避けるのではなく危機が来ることを感知してよけるのじゃが」
「すみません。同じじゃ無いですか」
「いや、性質が全く違うのじゃ。危険が来るのはまだ来ていないのに、来る事を頭がシュミレーションして避けるから攻撃の速さなど意味がない。人間で会得したものは存在しないが、神速のキメラがそうだったと記録されている。
一つの国を軽々滅ぼした魔獣だが、範囲攻撃で殲滅したそうだ。要は10km全て火の海にして殺したそうだが相当の犠牲者が出たようじゃ。まあこれはお勧めしてもまず無理じゃろう」
「次に2つ目じゃが危険回避じゃ。これは体得した人間が一人居った。これは危険を察知したら避けているという技じゃ。物凄い魔力を消費するようじゃが、誘閃黒風斬を必殺の攻撃と呼んでおるが、対照的に無敵の受け身と言われておる。」
「俺、魔力そんな無いし」
「いや先ほどの話じゃ、切られる一瞬だけセオリーを無視して防御力を最大にするのを会得できれば少量の魔力でも出来るかも知れんぞ。
それから危機感知はレベルが高いほど高くなる傾向にあるからレベル上げは必須じゃ」
うーん、何か乗り気じゃないが、解決の方法が浮かばないのでまず危機感知を覚えることにした。