30 .能力差別解放軍ー討伐②
夜、侵入を開始した。
ゴンボは、MPはさほど高くなかった。あまり参考にはならないが、今までの最強の敵だったのでMPが同等以上は要注意人物にしておいた方がいいだろう。それ以外は、ほとんどレベル5~20程度の魔力量だ。
見張りが手薄な見張り台の下を通り、塀をよじ登って中に入る。
矛盾しているようだが、実際、気配遮断が使えると灯台下暗しである。見張り台は高所にあり下を見据えているが、夜になれば松明の火は、下側が全くの暗闇で死角になる。その対策にバリケードとして杭を尖らせ、斜めにこちらを向かせている。
音を立てないように近づき、バリケードを抜け、壁をよじ登る。魔攻101は伊達じゃない。白だとレベル10でこの魔攻になるとは羨ましい限りだ。
MPがゴンボ以上の3人は、中心の大きな宿舎に固まっている。宿舎を全て周り、人質が居ないことを確認した。一か所大きなオリがある部屋があったが、誰もいなかった。
MP50万の高火力があればとは思うがとても使えない。
確かに240人という数字は脅威だ。
何の策もなくここに来たわけじゃない。
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宿舎の外で寝静まる深夜を待った。
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一人一人の口に黒い水滴を”ポチュン”。
3時間掛かった。大きな宿舎と見張り番小屋以外は全部回った。
大きな宿舎は、最後の賭けだ。気づかれる可能性があるが、気付かれたら暫時撤退だ。
大きな宿舎に入る。他と違ってソファーや待合室がある。
親玉がいるな。
3点のゴンボ以上のMP持ちの近くには行かない。
23名の内18名までは、接敵出来た。
最後に寝ている番小屋の仮眠室の二人の口に”ポチュン”。
これで、仕込み出来なかったのは、今見張りに立つ2人、大きな宿舎に8名の10人だ。
自分も山に戻り穴の中で仮眠した。
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チュン・チュン・チュン
眠い、夜更かしは良くないな。お肌が荒れちゃったよ。
ちょっと早いが起床して門の近くに隠れる。
◇
才能差別解放軍の殲滅を決意した時の事
向かっているのは、大毒沼。
全身ゴムタイツおじさんになり、沼に入っていく。
毒キノコの胞子、毒ガエルの毒、毒蛇の各種類別に採集する。
多種類の毒を沢山の量集めた。
大きい毒蛇も毒袋毎集めた。
キュアストーン6個、ハイキュアストーン2個、消毒石3個出てきた。
中央にいるとんでもないレベルの、魔物は回避する。
猛毒をトン単位で集めてしまった。ちょっとやり過ぎ感。
そう、この時考えたのが、大量毒殺である。
エグイが、今の力で何百人対1で勝てる見込みは無い。
俺は、恨みを晴らしたい。ミミちゃんの苦しみを味わって欲しい。
薬屋のミケさんに死ぬまで一番苦しく長く続く毒で致死に至る量について教えてもらった。
ミケさんが言うには、一番は壊死毒だそうだ。壊死毒は体の臓器が腐っていく毒である。大毒沼の魔物の毒は猛毒なので、キラーグリズリーでも3滴飲ませば3日後には死亡する。
人間なら大男でも1滴飲ませば、5時間後には動けなくなり当日には死亡する。
段々臓器が機能しなくなるのは、壮絶な痛みで、自分の心臓が少しずつ動かなくなる死の恐怖は、壮絶な顔が物語ると言っていた。
解毒薬、キュアも効果があるが、摂取して5時間が経過すると助かっても再起不能になるほど弱体化する。8時間経つと回復は見込めない。
・
今まで犯した罪を少しでも後悔して逝って欲しい。
◇
”ぎぎぎー”と門が開く。
「とにかく町へ行って医者に食中毒だと言って連れてこい。」
「へい」
”ブシュ” ”ボン”
外に出た奴の頭をホローポイント弾で狙撃。
「あ、お前頭が・・」
”ブシュ” ”ボン”
外に出た上司らしい奴も頭をホローポイント弾で狙撃。
残り8人、見張りはいない。
門の中に入る。
閂をかけた。外から入れないようにしないと不用心。
近くの宿舎に入ると、
「おえ、ごふ、助けてくれ。腹が全部痛いよ」
皆、寝たまま起きられないな。
そこに、厳つい奴が入ってきた。
「おめえは、腹痛くねえのか」
「へい、飯抜きだったんで」
「やっぱり、飯が原因か」
「旦那、こいつが何か言ってるんですが、耳が悪いんで聞き取れなくて」
「うん?何だ」
後ろからナイフで、腹を斜め上に刺し上げた。
”グサッ”
「ぐ、貴様、なぜ」
「ああ、俺が毒巻いたんだ。殺した奴が殺されるとは思わないとか言うなよ」
彼は息絶えた。
残り7人。
「ああ、腹が痛い皆、聞いてくれ。君たちは、壊死毒で死ぬ。今まで、殺し、犯し、金を奪い、やりたい放題だったろうが、年貢の納め時だ。
自分が殺した人達も同じように無念だったと思う。
段々内臓が腐って、心臓がゆっくり止まるから同じ思いを抱いて死ね。くそ野郎」
「助けて、うう、助けて・・・・・」
皆、唸っている。
2,3か所回って空しくなって宣言するのは止めた。
結局、自分がしていることは自己満足だ。ミミちゃんはこんなことしても喜ばない。ミミちゃんは帰って来ない。
でも、こんな不幸な子が少しでも出て来ない様にしたい。
・
大きな宿舎の前の扉を
”ドン、ドン、ドン”
「お頭、お頭」
”ガチャ”
「うるせいな、どうした」
”ドスッ、ズブーグリグリ”
「う」
あと6人。
もう一人が出てきた。それは、グレンだった。
「お前は、タケオじゃないか」
「よお、グレン久しぶりだな。お前が才能差別解放軍に入ったってロレンから聞いたから会いに来たよ。
ロレンが娼館に売りやがって許さないと言っていたぞ」
「けっ、あいつがツケで服買ったり、宝石買うから借金だらけになったんだ。いくらジジババ殺したって追いつかない。自業自得だ。
あいつは、指示するだけで手を汚さない。俺は捕まる所だったんだ。こんな処で俺のバラ色な人生が終わってたまるか。だからここに居るんだよ。」
「そうだったんだ。本当お前もどうしようもない奴だな」
「何だとてめえ、今はそれどころじゃないんだ。皆が食中毒で動けないんだ。しかし待てよ、ここは大盗賊のアジトだぞ。そんな簡単に入れる訳・・・・」
「やっと気づいたか、前から馬鹿だと思っていたが、俺が毒盛ったんだよ」
「な、な、何だと、クロのお前が出来る訳ねーだろ。いや、毒盛るならお前でもできるか。
そうか、クロを殺すなど造作もねー、俺の手柄の為死んでくれ」
グレンは剣を抜いた。
「能力検知」
レベル8 魔攻24 MP24/24
グレンは剣を大上段から真正面に振り下ろした。
避けたら剣が地面に刺さったので右足で剣を踏んだ。
「ちっ、足を除けろ。剣が抜けねーだろ」
”フュン・フュン・フュン”
斜め横からナイフが飛んできた。
剣を踏んだまま射線上に移動すると
”フュン・フュン”
”ドスッ・ドスッ”
グレンの背中に深々とナイフが2本刺さっていた。
「え?、何で」
「グレン、いつも言ってるだろ、俺の射線上に入るなって」
「そんなあー」
グレンは、前のめりに地面へ倒れた。
あと5人。
俺もナイフを出して投げてみる。
”ビィフュン” ”ドスッ”
「あがっ」
頭に刺さり絶命した。
あと4人。
能力探知はしなかったが、レベルが低いのは分かった。やはり、ナイフに速度アップを付与して投げると魔攻が低いと反応すらできないようだ。
刺さったナイフを抜き、グレンに近寄り、
「グレン俺は何もしてないからな。恨むなら入った組織を恨めよ」
グレンは、ガクッとなって動かなくなった。止めはささない。
「おいおい、皆殺られちまったのか。」
3人の冒険者風の男が出てきた
こいつらが、ゴンボ以上のMP持ちだ。
ゴンボ レベル38 魔攻152 MP76
タケオ レベル36 魔攻113 MP180
「能力探知」
熊大男 レベル28 魔攻96 MP96/96
長身男 レベル25 魔攻100 MP100/100
せむし男 レベル30 魔攻90 MP90/90
一人一人なら問題ないが3人同時はきつい。
急にせむし男が
「ここまで殺られたんだ。本気で行くぞ」
熊大男が前、せむし男を背負った長身男が後ろに隠れる。
ーあ、これってー
熊男がこちらに走り出すと同時に、「ファイアーボール」発射。
「うあ、」と言いながら熊大男が右横にゴロゴロと転がりながら逃げる。
真後ろにいた長身男は当然前が見えず、クリティカルにファイアーボールの直撃を受けた。
後ろに吹き飛びながら絶命する長身の男を踏み台にせむし男が前方に宙を舞う。
着地点がバレバレなので、そこにウインドスクレイバーを打ち込む。空中なので逃げられずクリティカル。絶命。
熊大男が、「なぜ、最強無敵のジェイド・ストローム・アタックを」
「それ、世界の冒険者王の勇者戦士ガンダモの物語だろ。」
「そうだ。なぜ無敵の攻撃を、いとも簡単に破るなんて
どれだけ練習したか」
「ああ、世界の冒険者王の続編で攻略方法編を暇なときにギルドで読んだぞ。なかなか面白かったな。
だいたい、ガンダモはその攻撃受けて破ってるんだから無敵じゃないと思うが」
「物語には無敵だと書いてあったのに、そんな攻略本が出ていたとは、うあー、殺すー」
真正面大上段から切り下ろす剣を左に躱しながらウインドスクレイバーを首に打ち込む。
世の中の情報は、命に匹敵する。こんな山の中では、情報は伝わらないな。
残りは一人。
大きな宿舎に入り、ソファー奥の部屋に入ると細いマッチの棒のような男が執務机に座っていた。
「お前がここの親玉なのか」
「何を勘違いしているのですか、ここは町長の執務分室です。勝手に入ると罰しますよ。私は町長よりここを任された分室長なのですから。貴方は殺人罪で死刑です。そこに治りなさい」
「じゃあ、町長がこの大量殺人集団の黒幕なんだな。」
「いいえ、ここは、才能差別解放のための勉強室です。そのような所ではありません。控えなさい犯罪者」
「茶番はいいけど、お前さん生きて帰れると思ってんの」
小男は、額に汗を拭いながら、
「だから私に手を出すと町長が黙ってませんよ」
面倒くさくなってきたので、小男の両腕を執務机の前に出した。
五寸釘で両手を机に打ち付けた。
”とんてんかん・とんてんかん”
机の裏から釘曲げ ”ガッツン・グーリグリ”
「ぎゃー、痛い、痛い、私の手がーー、下から釘曲げたら抜けないでしょーーー、痛いよー」
「集めたお金とか何処にあるの」
「そこの金庫ですー。ダイアル番号はXXXXX」
急に超協力的だな。
金庫から全ての金、貴金属を取り出し収納に。
「衛兵は全部町長の一味か」
「いえ、衛兵は、領主様から預かった兵ですから買収出来たのは一人です」
そうすると、領主は白で町長は黒だな。
「自分で殺してないから悪いことはしていないとか言わないよな」
「え?それは悪いとは思っています。しかし家族のことを考えると従うしかありません。お許しください。誰にもこのことは話しません」
「そう、だったら貴方と同じように俺は殺さないよ。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
「今日もここに泊っていくでしょ。その手じゃ夜ランプを点けられないから点けてあげるよ。」
「は?、釘抜いてくれるんじゃないんですか」
「何で?」
???
「だって、助けてくれるって言ったじゃないですか」
「言ってないよ。俺は殺さないって言ったんだよ」
窓を開け、ランプを窓の開け口に置いた。不安定だ。
ランプの傘に濡らしたパン屑を散らして置いておいた。
「じゃあ、運が良かったらまた会おう」
ドアを締め宿舎を後にした。
「こら、こっち来るな。焼き鳥にするぞ。
あ、あ、止めろ。ランプに止まるなバカ鳥。ああーー」
どうもかわいい野鳥さんが、ランプを引っ繰り返したようだ。
宿舎から火の手が上がる。
グレンも息をしていなかった。
さよならグレン。お父さんが待ってるよ。