3.洞窟
洞窟は、村から7,8キロ程度の所にある。
誰かに見つかりそうだが、この洞窟の穴の前に1本の杉がある。
あまり特徴はないが、周りに杉の木がないので判りやすいかも知れない。
その杉の木の傍には漬物石程度の大きさの石が20個程転がっている。その中から真ん中に穴が掘られている石2つを重ねると穴が”ポッ”と現れる。穴の前に行って、石を外に捨てるか穴の中に石を持ち込むと穴は閉じる。
この現象を去年父さんとここに来た時、俺が横で石遊びをしていて発見したのだ。
ここには、半径10mの範囲で魔物の足跡が全く無い。
しかし、なぜこんなことをしてただの洞窟を秘匿したのかわからない。最初はお宝が隠されているのかと探したが何もない。
洞窟の入り口は、横幅1m、高さ1.8mで、中に入ると横幅10m奥行き10m程だ。壁は岩が剝き出しで、所々に岩が飛び出し表から見えない影の部分がいくつかある。
「ひょっとしてこの見えないところで用を足していたのかな?ってことは窪みの影は穴を掘ってウンチ・おしっこしていたかも。」
・・・ちょっとそこに食料を置くのはやめよう。
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朝が来た。
半年以上の食糧を持ってきたので、食うには困らない。
朝食は、小麦と芋を煮て、干し肉を一切れ入れた雑炊だ。
干し肉には、塩分が多めに入っているので、味付けになっている。
旨いか不味いかと聞かれても、冬は、殆どこれを朝と晩に食べるだけだ。たまに山菜が入るかどうかかな。
2日に一回干した果物を食べれば贅沢な食事と呼んでいた。
12才頃までは、魔力循環と木剣での素振りを行うことにした。母さん曰く、体の成長段階で12才くらいまでは、魔力循環のスピードを上げるのがいいとのこと。剣術もあまり重いものを持って10才以下で行うと骨の成長などに影響してしまうそうだ。
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村に対して復讐したい気持ちは大きい。だが、今の俺が逆立ちしても勝てない。でも一家族当たりなら、ある程度の魔力さえあれば、可能になるはずだ
村長とロレンの父親は絶対に許せない。
今は、レベルを上げるまで待とう。何年かかるかわからないが、準備は万端にしていこう。
今は爪を研ぐ時だ。
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3か月ほど過ぎ真冬になった頃、便所と思ったところの黒い壁の部分の一部がピコピコ点滅しているのが判った。
何だろうと思い、近くに寄ってみると
「警告・警告 所有者登録の期限が切れました。1時間以内に新規登録してください。」
「警告・警告 所有者登録の期限が切れました。1時間以内に新規登録してください。」
「警告・警告 所有者登録の期限が切れました。1時間以内に新規登録してください。」
「警告・警告 所有者登録の期限が切れました。1時間以内に新規登録してください。」
と何度もアナウンスが流れた。
よく判らないが、赤い点滅がちょうど目の前にあったので手で触ってみた。
「所有者の魔力紋を登録。開錠いたします」
そして、壁がドアの形に開いたのだ。とりあえず中に入ると、
勝手にドアが閉まった。
そこは、直径1kmはありそうな畑だった。
雑草のように生い茂っているが、よく見るとトマトだったりきゅうりや麦だったり腐っているものも混じっているが完全に畑だ。
周りには、オレンジ、柿、ブルーベリー、栗、梨など多種多様な果物が実っていた。
洞窟の中なのに、日が照っている。外の天気と連動しているようで非常に明るい。
気温は真冬なのに、春よりちょっと暖かく、過ごしやすい。
真ん中に道があり、その横には小川が流れていた。
道を歩いていくと小さな木の家があった。
これは、誰かの隠れ家ではないだろうか、そしたら洞窟に住めなくなってしまう。
こんな高度な隠れ家の主は相当の賢者であり強者だろう。
でも、自分には行く宛がない。何が何でも交渉するしかない。
決意を新たに前に進んだ。
「すみません。誰かいますか。」
ノックをしても誰も出てこない。
「開けたら悪魔がいて食われるなんてないよな。」
・・・うーーん、もうここまで来たらしょうがない。
「男は度胸、女は愛嬌だ。開けますよ。」
”ギッギーーーーー”
開けてみると、右には厨房があった。そこには、魔導コンロと魔導冷蔵庫が置いてあった。
「えーー、これって都会のレストラン・お貴族様・裕福な商人なんかにしか置いてないって聞いた。
男がこれを持ってるだけで、お嫁さんがてんこ盛り押し寄せるといわれる幻の魔道具」(母さん情報)
その奥の部屋の分厚いドアを開けると、氷の世界が。
中はすごい寒い。そこには概ね 猪、オーク、その他多くの獣の解体された肉が凍っていた。いったい何百体あるのかわからない程の肉だった。果物、芋などとにかくとんでもない冷凍貯蔵庫だった。
「ううー、寒」
左側にはソファーが置いてあった。
唯一村長の家に置いてあるのと形は同じだが、”ふっかふっか”だった。
ソファーの奥に扉があり、そこを開けると天井5mまである本棚に蔵書がズラリと並んでいた。両脇、中央にその長さが30mくらいで何千冊あるのだろうか、
ーー
この世界で活版印刷はない。このような蔵書がるのは、王立図書館でもあるかどうか。
ーー
その奥に一つの執務用の机がこちらを向いて置いてあった。
入口から見ると人がこちらを向いて座っているように見える。
黒っぽくてよくわからない。
「すみません。返事がないので入ってしまってすみません」
しばらくしても何の返答もない。
「あのー、ちょっとご相談がありましてそちらに行きますけど怪しいものではありませんので」
何か自分で言っててとっても怪しい。
近くまで来て分かった。”スケルトン”だ。
「ひーーー」
思わず腰が抜けて、四つん這いになりながら必死に逃げ出した。
ちょっとチビッた。いやだいぶチビッたが、10才だからセーフだ。12才からアウトなのは俺ルールだ。
後ろを振り返るが、追ってこない。
・・・・
5分間じーっと観察したが動かない。
これ、死んだ人が骸骨だけになっただけだ。
机には、書きかけのノートのようなものが開いたまま置いてあった。
きっと最後まで書いていたのだろう。
その最後に書いていたであろう章を読んでみた。
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私の寿命が尽きる時が来たようだ。
私が100年研究した魔導の真髄は、この後朽ちて誰にも知られることはないだろう。
もし、万が一このトウースの隠れ家を見つけることが出来た者には、この全てを呉れてやる。
ただ、その者にお願いがある。
この研究を生かして欲しい。
王様であっても盗賊であっても誰でもいい。
何に使ってもいいから生きることに役立ててほしい。
なぜなら、私は人の役に立つために研究をしたのだから。
未来にここに来るものがいることを、切に願う。
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え?難しいこと言ってるけど、これって全部俺が使っていいってことだよね?
誤字脱字を修正しました。