25.ロレンの三つ子の魂
何とかゴンボ達を倒し後始末を始めた。
MPが回復するまで30分かかる。
肋骨に治癒湿布を貼り、治癒ポーションを飲んで内蔵の修復。
魔煙弾の霧が晴れるまで、防毒マスクをして、ミキちゃんのシールドにMPチャージする。
戦士1,2,3を集め、魔術師の頭も拾い、ゴンボも回収し、ミキちゃんに見えない奥に置く。
ウオータージェットで血の跡を適当に洗う。MP使わないように軽く。
20分くらい経って、MPも大分回復したので、フォジック魔法で、土を移動しながら穴を掘り、ゴンボ達を埋めた。
ミキちゃんのシールドが切れ、近づくと
「ミキちゃん、大丈「きゃー、人殺し」夫だった・・・・」
ミキちゃんが、地面にお尻をついた状態で後ずさる。
「こないで、こないでー」
泣きじゃくるミキちゃんに
「ごめん。巻き込んでしまって本当にごめん」
彼女にとって初めて人が殺されるところを見たんだと思う。
怖かったんだろうな。
俺はいつからこんな事に慣れてしまったんだろう。殺られるから殺るの繰り返しでいつの間にか感じなくなったんだろうか。
このことが彼女にとってトラウマになるのは確実だろう。本当に申し訳なく思う。
きっと、自分がこの子に関わらなければこんな事にはならなかったはずだ。
きっと、宿屋の娘で婿を貰い、子供を育てて楽しい生活を夢見たはずなのに。
「こんな、こんな事、夢、そう悪い夢よ。こんなの無くなっちゃえーーー」
耳を押さえ、体育座りで丸まったまま彼女は気絶していた。
血みどろの服を収納に仕舞い、ウオータージェットを微弱に全身に浴び、血糊を洗い流した。
ミキちゃんと一緒に買った新しい服に袖を通した。
キャンプテントの布を出しそれにミキちゃんを包んで後ろに優しく背負った。
殺人鬼の背中にそのまま背負われるのは、嫌だろうと思ったからだ。
時間は午後になっていたが、ゆっくり森を出た。
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歩いていると何となく起きたのを感じた。
「ごめん。ショックだろうけど、今日起こった事をお母さんに正直に話すかは、ミキちゃんに任せるよ」
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返事はなく、しばらく歩くと軽い腕が首に巻き付いてきた。
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門の中に入ると腕は引っ込められた。
宿屋まで戻って来てお母さんが出てきた。
背負っている中身を見て
「何処に行っていたのこの子は、本当に心配かけて、お母さんは、お母さんは、」
母親は強く抱締めながら、小さな声で
「・・・・・無事で帰ってきてくれてありがとう」
抱き合いながら、顔を寄せ合って二人で泣きじゃくっていた。
ベットに彼女をやさしく寝かせ、お母さんに報告した。
「森の中に居たのを保護しました。体のケガはないと思います。何があったかは、体調が戻ったら当人に聞いてください」
礼をしてその場を去った。
自分の部屋のベットに寝ころびながら考えた。
場合によっては、この町に棲めなくなる事はわかっている。それでもいいと思った。
ミキちゃんを見ているとかわいくて守ってあげたくなる。きっといい人を見つけて幸せになってほしい。
俺の自慢の妹だ。
きっと俺にも未だ人間らしい気持ちがあるのだろう。父さん母さんを思い出す。
俺は、我儘だ。自分に関わった人達だけは、幸せになって欲しいと思ってしまう。だけど、理不尽な事はいつ起こるか誰にもわからない。
ミキちゃんには嫌われたけど、同じ事があれば何度だって助けてやる。でもそれにはもっと力が必要だろう。でも、俺と関わらなければ襲われないかも知れない。
いや、理不尽は俺がいてもいなくても襲ってくる。
その時、少しでも助けになりたい。
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朝になった。一緒には食いずらいなと思いながら起き上がると。
「朝ごはん食べるでしょ。早く降りてきてね」
表情は笑顔ではないが、そこには、俺の妹が居た。
「昨日は、ありがとう」
と急いでドアを締めて降りて行った。
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朝食を食べていると宿屋の女主人は、。
母「昨日は、ミキを助けてくれてありがとうございます。唯、暫くは、一緒に外に出るのは止めてください」
娘「お母さん!」
そうだよな。母親の気持ちとして当然、危険な俺との外出はさせたくないよな。
暫くと言っているけど、きっともう二度と娘には関わるなって事だろう。寂しいが理解できる。
「はい」
母「分かってくれたのね。だから、外は危ないから、娘の部屋で二人っきりでいれば危険は無いわ。
もしも、もしもよ。間違いが起こるかもしれないけど、若気の至りだからお咎めはないのよ。ただ、できちゃうと責任がね。
ほら若い子って燃え盛る情熱が抑えきれなくなるでしょ。私が受け「お母さん、止めて」止めても・・・」
だめだ、この世界の人達は逞しい。
・・・俺の純真な母親像を返して欲しい。
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「はあ」と生返事をしながら、宿屋を出た。
また、ギンギンドリンク入れられるのかな。解毒剤はないだろうか製造元に確認しよう。
ギンギンドリンクの製造元ミケの薬屋(20.ドクドク・ドクドク参照)で解毒方法を聞きながらクレパスモミモミを見に行こうとしたのだが、薬屋街へ右に曲がる先の繁華街から大勢の人がいるのが見える。
野次馬根性丸出しで見に行ってみた。
「おじさん、何かあったんですか」
「それがな、冒険者同士で娼館の女を取り合いしているらしいんだ」
近くに行ってみると二人のやり取りが聞こえてきた。
地元冒険者「おい、俺の女に手を出すとはこの辺のものじゃねえな」
「うん、僕は、王都から昨日来たんだけどあんまりいい子はいないね。それに君の女と言っているけど娼館の女に誰の者とかないでしょう。」
地元冒険者「あいつは、今日俺と寝るって決まってんだ。痛い目見ないうちにとっとと帰って母ちゃんのオッパイしゃぶってな」
「あんな子どうでもいいんだけど。ちょっと興が覚めたな。じゃあ帰るから有り金だしな。そしたら許してやるよ」
地元冒険者「てめーやんのか、脅しじゃねーぞこら」
地元冒険者は、剣を抜いた。
「皆さーん、見ましたよね。じゃあ決闘だね証人になってください。僕が勝ったら有り金貰う。あなたが勝ったらその子と寝るでいいかな」
周りの人たちがコクと頭を下げた。娼館の主人が頭を下げ、割って入った。
この世界では、両者合意で立会人がいれば、決闘は成立する。本来は、貴族の名誉のための決闘なのだが、庶民の間でもいざこざが収まらない時に行われることは、合法になっている。
立会人の娼館の主人が、両手を上げ、”始め!”と号令すると地元冒険者が切り込んだ。
ーー 一瞬物凄い何かのオーラが膨れ上がったーーー
次の瞬間地元冒険者の首が”ポロッ”っと落ち”ブシュー”と首から血飛沫が噴水のように湧き出たかと思うと倒れた。
冒険者の手には地元冒険者の巾着が有った。
・
剣を抜いたのすら手先がぶれて見えただけしか分からなかった。いつ巾着を盗ったのかも確かではない。
こんな人がいるなんて、信じられなかった。
近くにギルドで見かけるC級冒険者がいたので思わず尋ねてしまった。。
「あの人は、何者なんですか」
「あれは、A級冒険者 死神ジョーだ。
あいつが通ると死体が転がることから死神と呼ばれてるんだ。
王都にいたが、強盗まがいや暗殺まがいの噂が後を絶たなくてな。王都に居られなくなっていろんな町を危ない仕事をしながら転々としているらしい。
早くこの町から出て行って欲しいよ」
怖えー、これ絶対近寄っちゃいけない人だ。
かっこよく自分の周りの人を守るなんて言ったけどこの人と関わったら瞬殺だわ。
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帰ろうと人込みを縫って出て行こうとしたところを、女の子に呼び止められた。
「タケオ、私よロレンよ。冒険者に成ったのね。積もる話もあるけど今切羽詰まってるの助けて頂戴」
・
「いえ、私はそのようなものではありません。」
去ろうとするが、腕を”ガチッ”と胸に挟まれている。柔らかくて大きい。
健康な男子は、このホールドを自分から逃げる事は出来ない。どんな達人でも逃げられない鉄壁なホールドなのだ。
「村で候補にされて、逃げ伸びた俺に何を期待してるんだ」
「昔のことは忘れましょう。私も良く分からない内にお金のために町に奉公に出されたの。それより今借金で娼館に売られてしまったの。このままだと一生出られないの。どうか助けて頂戴。出してくれたら貴方に一生尽くすから。夜だって貴方の年では考えられないほどのテクニックを身に着けたから絶対退屈させないから。」
「どうしてそんな借金をしたんだ」
「グレンが私を娼館に売ったの。知らない内に娼館の男たちが来て連れていかれたわ」
「あり得ないだろ。勝手に無関係の人を借金のかたに出来たら誰でも連れていかれちゃうよ」
「それが、グレンと住んでて、あいつが勝手に婚姻届けを出していて妻にさせられていたから」
「だったら夫に奴隷落ちさせてでも出させろよ。」
「彼は、能力差別解放軍に入退して帰って来ないの。ねえ、だから助けて」
何か不幸と言えば不幸な奴に思える。人間は環境の動物だ。彼女だってあんな村で生まれなければ、このような境遇にはならなかったかもしれない。
「助けてもどうやって暮らしていくんだ。」
「お金がないのね。力づくで駆け落ちしてくれるならそれでも構わない。私は、老夫婦の家を幾つも知っているわ。もういつ死んでもいい人達だから、殺しても問題ないの。だからそこからお金を巻き上げましょう。グレンもそうだったわ」
こいつ、とんでもない奴だ。村の候補として殺された老夫婦を全く悪いとも思っていない。子供の頃の悪行を今も行ってるなんて普通はおかしいって気づくだろ。
「そうか、残念だが俺がクロだって知ってるだろ。そんな力もないのさ。いい人見つけなよ。じゃあな」
俺は、その場を逃げるように走った。
ロレンは、追って来ようとしたが、店の人に捕まったようだ。
声が聞こえてきた。
「お前この前の客からも金を盗んだろ。もう面倒見切れんぞ奴隷で売るからな」
「違うわ。あの人が呉れるって言ったのよ」
「娼婦を金で抱きに来て、巾着毎差し出す奴なんていねえよ。
女神の顔も三度までって言うがな。何回も嘘ばっかりついて誰も信じねえよ」
これじゃ救いようがないな。ざまあなんてする必要もない。
三つ子の魂なんとやらだ。
しかし、グレンが能力差別解放軍に入るなんて信じられない。俺をいつもクロと呼んで虐めていたあいつがどうしてそんな組織に入ったのか理解できない。
ロレンを見ていても改心するなんてあるのだろうか。
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その後、ミケの薬屋に行って、クレパスもみもみを見ながらギンギンドリンクの解毒方法について聞いた。
毒ではないので、とにかく汗をかくことと、ミントティーを勧められた。
「お前さん、その年でギンギン飲んでたら不能になるよ」
まずい、このままでは、俺の下半身の人生が終わってしまう。相手は悪気は無いのは分かっているが、作戦を考えねば。
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それから俺は、D級冒険者ベイアと仲良くなった。
宿が同じなのが決め手だ。
ここ1年この町で活動しているそうだ。28才そろそろ身を固めようと思っているが厳つい顔が邪魔をして娼館の女にも相手にして貰えないそうだ。
「いつも悪いなタケオ」
「いいって、いいって、体格が違うんだ。食う量もそれじゃ持たんだろ」
そう、こいつは体重120k身長2mはありそうな大男だ。
いつも夕飯を同じ時間に食べるようにしている。
俺の夕食の盛りが普通の2倍ある。この宿屋では特別待遇なのだ。
そこで、ベイアを調理場の方へ座らせ、俺はその対面に座って食事をしている。
食事の内容は同じなのだが、量が違う。そう持ってきた食事を厨房に見えないように交換しているのだ。
10日ぐらいすると流石の大男も目つきが血走ってきた。
そりゃあギンギン定食だもんな。
段々女将さんのお尻を目で追いながら、はあーはあー息をしている。
すまんな。ベイアよ。俺の安寧のために犠牲になってくれ。