17.安定収入
クロの才能の俺には、ランクアップは期待できない。
万年F級冒険者で生計を立てて行かなければならない。
やはり、生活の基盤は安定収入だ。
一番おいしい依頼は、オークだろう。常設依頼だから受付嬢に合わなくて済むし。
俺は今、荷車を引いて大森林に向かっている。
なぜかと言うと、オークを運ぶためだ。
収納は、人間では俺ぐらいしか使えないだろう。使っているのがばれれば、奴隷にして荷運びに使おうとする輩が出てくるのは必然だ。便利だし。
なので森までの間は、荷車を引き、森に入ったら荷車を収納に入れる。帰りも森から出る時オークを積んだ荷車を引いて帰るというカムフラージュが必要なのだ。
森に入り、気配察知をONにする。魔力感知で3kmをサーチすると500m先に3個の点がある。
(魔力感知は10kmまで出来るようになったがMP30使うので3kmMP10にしている)
人間のようだ。察知精度が上がり、人間かどうか、魔力量も大体わかるようになった。エルフ、獣人も区別がつくし、一度覚えると誰の魔力紋かだいたい分かるようになった。
これは、町の中で一人ひとり見ているうちに身についた感覚である。魔力循環の精度が極限まで達した結果全身で繊細な魔力を感知できるように成ったためだ。
左に行くようだ。右に進み10kmで魔力感知、前方500mに4匹のオークがいる。普通のオークだな。
俊足で駆け寄り、30mで観察し、通常オークと確認すると35cmの鋼鉄製大振りナイフを取り出すと後ろから頸動脈を狩る。
”スパッ、スパッ、スパッ、スパン”
鋼鉄製の大振りナイフは、刃もすべて艶消しの黒(黒炭を刷り込んでいる)で着色している。光って見えると感ずかれる時があったからだ。
ブーツも黒く塗っている。
手甲を作ったのだがこれも黒く塗っているが、ミスリルで作っている。色々魔導回路を仕込んでいるが、秘密だ。
膝当て付きブーツ、肩パット、肘ガード、手甲、額当ては、古びた黒で、錆びた安物に見える様に偽装している。
汚いローブに汚い包帯を巻いていたら、ウエイトレスの女性が、”凄い汚いねずみ男”とひそひそ話していたので、思春期の俺としては、いっぱしの冒険者風にしたところだ。
魔力感知、気配察知で周りを確認し、さっさとオークを収納にしまった。
2km先に天ぷら屋のエルフの魔力を感じる。
俊足でエルフから離れながら森をでた。オークを荷台で引きながら町の入場門へ返ってきた。
「今日は、4匹か、大漁だな」
「運がよかったので」
そのまま門を潜り、ギルドへ急いだ。
買取カウンターで金貨2枚を受け取り宿に帰った。
ギルド近くに5件程あった宿屋を全て泊まってみたが、金額は一緒だった。
ただ、料理が上手な店があり、今はそこを定宿と決めている。
娘が14才でかわいい。・・そこで決めたわけじゃないからね。
だからちょっと汚い恰好を直したわけじゃないからね。
あくまでお母さんの料理がおいしいからだからね。
思春期のタケオを理解するのは難しい。
健康なだけだ。
特別に朝もお願いしている。
朝食は殆ど黒パンとジャム、昨日の夕食残りのアレンジスープだ。他の客はいない。主のお母さんと娘と俺の3人で食べている。
だから、料理が美味しいんだって。
ーーーーー
ほんとかよ。エロ坊主
ーーーーー
そんな生活を一か月続けると儲け金貨60枚ー宿飯代金貨2.6枚ー諸経費金貨2枚で約金貨55枚増えた。
ギルドで換金していると受付嬢に呼び止められた。
「あなた、オークで荒稼ぎしているようだけど昇給試験を受けないの」
「はい」
「クロだから、受けれないのね。冒険者は、ランクが全てなのよ。このまま放置するとランクの低いあなたがどういう汚い手でオークを狩っているか知らないけど示しが付かないのよ」
「俺は、ギルドのルールに従っている。ルールが変わるのか?」
・
「本当に、話が通じないわね。パーティーに入って大人しくしていないと気に入らないと思っている奴に殺されるわよ。
森に入ったら、殺されたって魔物に襲われたって区別付かないのよ。ゴンボさんに謝ってパーティーに入れて貰いなさい。
これが、最終警告よ」
・天ぷら屋のおじさんゴンボって言うんだ。
「お気遣いありがとうございます。自分の事は自分でしますからお気になさらないでください」
そう言ってその場を離れた。
・
いつものようにオーク狩りを始める。
また、あのエルフが150m位の所にいるが、丁度オークが4匹こちらに向かってきている距離30mだ。
別に彼が何かして来ることがないのでそのままオークを狩ろうと集中する。ナイフで倒せば魔導回路のことはばれない。
周りにシールドを張り突進した。
首を狩ろうとした瞬間だった。気配察知に矢の形をした物凄い魔力が迫ってきていた。
避けられない。とっさに横っ飛びをしたが、シールドに激突しシールドは砕け散り、右手に着弾した。
右手の感覚はない。即魔力感知して周りの状況を確認すると同時に左手で魔煙弾を3個ばら撒いた。
エルフがいつの間にか70,80m位に近寄っていた。
オークとエルフの射線上の奥に周り、賢者のマントを羽織り、その場を離脱した。
10kmくらい森奥に俊足で走った。
岩の窪みに座り込み周りを探知し安全を確認。
他に魔力感知には引っかからなかったので、エルフに間違いない。
まず、治療だ。右腕を見ると腕の真ん中から折れている。単純骨折のようだ。
額当てに仕込んだ分析サーチを発動し、体の内部を確認する。
単純骨折に間違いない。左手で折れた右腕の正しい位置に骨を戻す。
「ぐあっ、ぐ」
体の中を雷が通ったような衝撃が走る。
次に、マジック湿布を折れた部分に貼る。(痛み止めと治癒促進の湿布だ)
もう一枚の固まる湿布を腕全体に巻き付ける。
三角布で首にかけて治療は終了。3時間ぐらいで完治する。
シールドが緩和になった。魔力の矢は、手甲に当たったのだろう。黒墨が少し剥げていた。
手甲をしていなければ、手の甲が無くなっていただろう。手甲にして良かったよ。
手甲が押されることで、テコの原理で腕の真ん中が折れたようだ。
何と言う油断だ!
いつも何もしないなど何と言う甘い考えだったか。
エルフは、天弓使いでも150mは精度が落ちるから撃ってこないと推測していた。
それから150mから一機に70mに詰めたのは何だったのだろうか。
恐らく狙いは、俺だったのだろうが、30cmくらいヅレている。
的が動いているとはいえ、オークに切り込みことが分かっているのに弓の名手と言われるエルフが外すだろうか。
実際の人間がやることだ、何かアクシデントがあって助かったのかもしれない。
あいつは、俺がここで狩りをし、この場所に来るのを何回も見ている。うまくオークが現れ、一気に距離を詰める何かで準備し、条件が全て揃うのを待っていたのではないか。
獲物を狩る狩人の恐ろしさを感じた。
完治するまでの3時間考えた。
勝つことは簡単だが、気おつけていても別の要因で同じシチュエーションになれば、今度こそ死ぬだろう。
・
俺は一旦賢者の隠れ家に戻る事にした。