16.ドブさらいは冒険者の基本
時間も早かったので、北の下水道掃除を受けることにした。
受付嬢は、ふんと鼻を鳴らしながら受付印を押して投げてきた。最早、普通の対応もしてくれない。
「これを、役場に持っていけばいいんですか」
「そうよ。あんた殺されるわよ」
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ーお姉さん。あのオッサンからいくら貰ってるのー
なんて言わない。
火に油はこれ以上注がない。未だ憶測でしかないからだ。
何も言わずギルドを後にした。
町役場に行く途中で屋台が何軒かあったのでブランチすることにした。
「お兄さん串焼き2本でいくら?」
「お、何か汚ねーあんちゃんだな。2本で大銅貨1枚だよ。うちの串焼きは他より大きいからね。ちょっと高いんだ」
銀貨1枚を渡したら、手持ちの銀貨と比べて偽物かどうか確認していた。
「すまんな。あんちゃんはその恰好だし、銀貨は100年前の模様だし疑うのは勘弁してくれ。」
その後大銅貨9枚を受け取った。
「まいどありー」
確かにこの串焼きは大きい、2本も食ったらお腹いっぱいになった。
ーーー
この国では、80~90年前の10年間、金と銀の保有量を半分にした金貨、銀貨が流通した。国内では普通に使えるのだが、他国では偽銀貨とされているので使えない。
両替商も受け取らないので使い道に困るため、商人達も受け取りを拒否している。
国の税金に支払う位しか流通しないのと、国が鋳つぶして新しい銀貨にするため相当数減ったが未だ流通はある。
そのため、銀貨の表面を削ったりする輩もいたが、今では表面が分からない銀貨は、取引拒否される。
当時、戦争と内乱で疲弊した為政者が水増しのためばら撒いた結果だ。
ーーー
串焼き屋にオッサンに安い宿屋の位置を聞き町役場に向かった。町役場の総合窓口から上下水道課を指示され向かうと、下水道係を指示された。
メガネをかけたひょろひょろのお兄さんが北の下水道に案内してくれた。
「キレイにする必要はないけど、ヘドロは、全部川に流さないと依頼完了印は押さないよ。期限は1週間だから気を抜かないで頑張ってね」
言うやいなや”臭っ”と言いながら帰っていった。
下水路は、幅2m長さ200mの側溝だった。結構長い。
ヘドロが30cm位溜まっていて濃い緑色をしている。藻が繁茂していてとっても臭い。
雨が1か月近く降っていないため、近隣住民から苦情が殺到しているらしい。
「これ、中に入ったら、臭くて宿屋に入れて貰えないな」
下水の下の方を見ると5歳くらいの男の子が、自分の小象ちゃんを摘まんで”チョーーー”と放物線を描いている。
側溝の幅と同じサイズのシールドを作り、側溝の中を川の方へフォジックの移動を使い押し出した。
あまり、川から遠くで押し出すと、ヘドロがオーバーフローして横の道まで汚れてしまう。
少しずつ川へ押し出したが、3時間も経った。
仕上げに、「ウオーターシャワー」の魔法で側溝を奇麗にしていく。
前にファイアーボールで山火事になりそうになった経験から火消用にウオーターシャワーの魔法回路を作り小指に嵌めている。シャワーは、お風呂のシャワーではなく、霧状にした水を強力噴射するものだ。
こうしないと木の高い位置は消火できない。
苔みたいなのも剝がれて奇麗になった。
早く終わると何をしたか疑われそうなので、今日はそのまま串焼き屋の兄さんに教えてもらった宿屋に向かった。
一階は、食堂になっていて二階が宿だ。
1泊大銅貨5枚、宿泊客のみの特価お好み定食大銅貨1枚だった。
部屋は横2.7m、縦3.6mで固い木のベットと小さな机が有り一人部屋だった。
夕食は、肉が二切れ入った葉物が入ったスープと拳大の蒸かし芋だった。あまり美味しくない。村の方が量はないが、季節ごとに獲れるものでいいもの食べていたかも知れない。
きっとお貴族様はいいもの食べているんだろうけど、下々の者なんてこんなものだ。
賢者の隠れ家の食事を話したら、大変なことになりそうだ。
コップに水を入れてくれたが、飲んだふりをして床に流し捨てた。
母さんから出来れば出所の分からない生水は飲まない方がいいと言われていた。
水に慣れると言う言葉があるが、いつもその水を飲んでいると何も起こらないが、初めての土地の水は、当たることが多い。この世界では煮沸して水を飲むのは、裕福な家か貴族だけだ。
疫病などの蔓延は、下水だけでなく飲み水も関係する。
部屋に返ると収納からコンロとポットを出して湯を沸かす。
今日はミントティーだ。
ミントが鼻に”スー”と抜ける。
四方に結界を張るのを忘れない。
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朝が来た。チェックアウトは、夕方までOKなので昼過ぎまで寝て過ごした。
こちらの宿は、普通、朝飯はない。
昼過ぎに串焼きやの兄ちゃんの店で串焼き1本食べながら
未だ夕方には早いが、下水係の兄ちゃんを呼んできた。
「もう、終わったってあり得ないでしょ。今まで一番早かった奴でも3日だよ。ちょっと仕事しただけで終わりにしようだなんて許されないよ」
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「奇麗になってる。・・・」
色々聞かれるとまずいので、
「知り合いに助けてもらった」と嘘をついた。
完了印を貰ったが、他の下水も頼まれてしまった。
知り合いも町のためならきっと助けてくれるだろうと嘘の上塗りをし、一緒にギルドに行って完了報告と他の3か所も請け負った。
2日かけて3か所を同じように奇麗にしたが、5日後に役所に行って完了印を貰いギルドに提出したらF級冒険者に成った。
鉄の板の上層部にFと書いてあり、剣と斧の紋章が掘られていた。裏側に名前が記載されている。
これ、死んだとき分かるように付ける札だな。
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しかし8日働いて(3日しか働いていないけど)大銅貨4枚では一日分の宿代にもならない。
とにかく、稼がなければと思うタケオであった。