15. ギルドのテンプラは美味しくない
冒険者の登録を無事済ませたタケオは、掲示板を眺めていた。B級からF級までクラス分けされたクエスト用紙が貼られていた。上の方は常設依頼で、真ん中から下が通常依頼(一回きり)だった。
見習い冒険者のコーナーは、端っこに数枚貼られていた。
・北の下水道掃除 大銅貨1枚、南の下水道掃除 大銅貨1枚、西の下水道掃除 大銅貨1枚、東の下水道掃除 大銅貨1枚
(町役場)
・衛兵宿舎の掃除・衛兵宿舎の洗濯 銀貨1枚(町役場)
・子猫探してます 銅貨2枚 (かわいい女の子)
・食堂の便所掃除 銅貨5枚
・ミミズ千匹くらい 銀貨1枚(かわいい娘の小鳥屋さん)
・ギルドホールの掃除 大銅貨1枚(美人な受付嬢)
凄いな、
自分で美人って言っちゃてるよ。
・
・等だった。
やはり冒険者は、”掃除に始まり掃除に終わる。”父さんのウンチクの一つだ。
ーーー
父さんは、”冒険者の初ては、掃除からだな”としか言っていない。タケオ得意の拡大解釈である。
ーーー
そんなことを考えていると、先ほど酒場に居た数人の中でリーダー格と思われる厳ついオッサンが声を掛けてきた。
「おい、初心者だろお前」
「・・・」
「うちのパーティーに入れてやる。ついて来い」
「お誘い頂きありがとうございます。ですが結構です」
おれは、NOと言える異世界人だ。
「初心者のくせにツッパルなよ。何も言わずついて来い」
「結構です」
「お前喧嘩売ってるのか。俺は、この街で最上位のB級冒険者だぞ。俺が下手に出ているうちに従うことが生き残るコツだ」
段々業を煮やしたのか威嚇してきた。
これは、ひょっとして父さんが言っていたテンプラ屋さんだろうか。
「貴方は、初心者冒険者が来ると必ず絡んでくると言う伝説のテンプラ屋さんですか。」
「馬鹿野郎、天ぷらなんか揚げてないわ。それを言うならテンプレだろ。何で俺がツッコミ入れなきゃならねえんだよ。
つべこべ言わず、俺のパーティーのポーターをやれ、殺すぞこら」
「まず、お給金はお幾らですか、福利厚生は充実していますか、お休みは週三日以上ですか」
「お前どこの世界の人間だよ。初心者冒険者が生き残る方法を教えてやるんだ。こっちが貰うんだよ。
つべこべ煩いなら、体で分からせてやるぜ」
天ぷら屋のオッサンが拳を振り上げてきた。
相手の能力を見る。
レベル38 魔攻152 MP76/76 攻10耐10
俺より圧倒的に強い。しかし、手加減はしているようだ。
ギルド内での乱暴は衛兵に突き出すとなっていたが、先ほど受付嬢とこちらを見ながら話しているのを見ていたのでギルドもグルかも知れない。
俺は、顔にシールドを展開し、わざとパンチを受けると派手に人が大勢いるホールの方へ吹っ飛んでいった。
殴られてチョー痛い振りをしながら頬を押さえ
「ううう、いはあい」
キュンキュンと涙目の小動物のような仕草で周りに訴える。
何か皆ドン引きしているように見えるが、お姉さんが引きつった顔をしている。
・・は! もう15才になっていたのを忘れていた。ここ5年間、人と接しなかったからいじめられっ子の10才の気持ちが出てしまった・・
もう、”チョー恥ずかしー”顔が真っ赤だが、
ここは、開き直って徐に立ち上がり、
「コホン、痛てーな。ギルド内での暴力沙汰はご法度のはずでは」
誰がどう見ても2m近い大男が160cmの華奢な男を殴ったのだ。全員がオッサンを鋭い目で凝視する。
頭の血管が切れそうな程お怒りモードのB級冒険者のオッサンの横からエルフの兄ちゃんが腕を掴んだ。
小声で「ここはまずい。一旦引こう」
「今日は見逃してやるが、外で会ったら容赦しねーからな、ぺっ」
汚いやつだ。ここの床掃除したくないな。
相当反感を買ったが、天ぷら屋さんは避けて通れないようだ。
しかし、ここ数年の修業の成果なのか、強敵ソルジャーとの戦いのおかげなのか、格上でもビビらなくなったな。
冷静に判断することとその場の状況を自分に有利に展開させることは、やはり生きていく上で最も重要だ。
・予想した未来は、ポーターにされ、給金なしで魔物に突っ込み死亡。
ホールで喧嘩して互角以上なら衛兵に捕まり、受付嬢の証言で一方的に悪者になり奴隷落ち。
喧嘩でボコボコにされたら、治療費がかさみ、受付嬢の一方的な証言でギルドに出入り禁止にされる。
よく考えると、新人冒険者がデビューするだけでも結構ハードル高いな。