第六話 今更ながら
前話の第五話を呼んでいただいた方へ。大幅に内容を編集しましたのでお手数ですがもう一度読んでいただけると助かります。『宇治拾遺物語』と聞いて何のことか分かればそのままで大丈夫ですが、分からなければ編集前のみを呼んでいる可能性が高いのでよろしくお願いします
「あの、ウェルリンテ様。私はこの状況が全く分からないのですが。」
私がルイラインにこの後どうするのか聞こうと思ったところで、ライラスが小声で話しかけてくる。ルイラインとは付き合いが長い方なので、嘘の付き方やどんな嘘をついているのか顔で判断できるのだがライラスは勿論のこと分からない。
「そうね、所々私も分からないところもあるから、ルイラインから話して頂戴。」
「ええ、分かりました。今度こそ嘘偽りなく話しますね。」
ことは半年前から進んでいた。もうすぐ第一王子カイルスが高等学校の卒業ということで、現国王ルーシュは王位の継承について考え始めた。考えると言っても、この国は世襲制なのでカイルスが継承する以外の未来は無かった。
しかし、ルーシュは絶対に無理だと思った。あの馬鹿と無知の権化に国王など務まるはず無い、と。そこで、何とかしようと思いガイルナ家に相談した。
「え!実の息子なのに……怖いですね。」
「まあ、そうね。ルーシュ様は無能はバッサリ切ってしまう冷血漢として有名だから。その代わり、実績はきちんと出しているのだけれど……それより、その『馬鹿と無知の権化』っていうのは貴方が考えたものじゃないでしょ?」
「はい、その相談の場には私とお兄様とお父様で行ったのですが、そこで私が『自分のご子息なのによろしいのですか?』とお伺いしたところ先程の答えが返ってきました。後、もし私が言うとすれば『ゴミの集大成』です。」
ここまで言うと、気配も無く急に真横に人が現れた。咄嗟に戦闘態勢に入ったが、ルイラインが落ち着いた様子だったので諜報員の仲間なのだろう。その人はルイラインの耳元で何か囁くと、ルイラインは大きく頷いた。
「貴族達がそろそろ落ち着いて来てしまっているようなので、この後のことを含めて手短に話します。」
「落ち着いたらいけないのですか?」
「ガイルナ家お得意の情報操作がやりにくくなるから。」
ルイラインは「そうですよ」と肯定する感じで頷くと、続きを言い始めた。
王位継承順位1位のカイルスが国王になるのは避けられない。そこで、そもそも王位継承権を無くす、つまり王家から弾くという結論になった。
王家から弾くには2つの方法がある。一つはカイルスの殺害。これが1番手っ取り早いのだが、後に大きな問題に発展しかねないのと流石に自分の息子を殺すことは無理ということで却下される。
もう一つの方法が現国王ルーシュが追放を言い渡すこと。この国の決まりとして国王が王家の者の追放権を有している。じゃあ、さっさとそれを使えということなのだが、勿論追放するにはそれなりの理由がいる。その理由が弱かったら最悪第一王子派と第二次王子派の間で内乱が起こる。
「だからカイルスの評判を地に落とそうとしたのよね。」
「そうです。私達はウェルリンテさんが卒業式に婚約破棄に対する仕返しを準備しているとの情報を得ました。そこで、ファリシスさんを操り、カス……カイルス様のあることないことを言わせて評判を落とそうと思ったのです。」
「それを私が潰してしまった……私、消されないわよね?」
今になってまた不安がこみ上げてくる。恐る恐るルイラインの顔を見ると、その顔はニッコリ微笑んでいた。安心していいはずなのだが、逆に怖い。このままナイフでぶすりと心臓を持っていかれそう。
「あの投げナイフを防いだのでチャラです。あの襲撃は私達も完全に予想外でした。任務を失敗したら殺されるかも知れないのですが、この襲撃のせいにしたら多分許して貰えます。今回は諦めて、この計画は次回に持ち越しとなりますが、そう遠くないと思います。とにかくこの計画がバレない様に乗り切る為の嘘が必要なのです。今は混乱の最中にいるので正常な判断ができません。後でこのことを振り返って矛盾点に気づいても、その頃には私達が情報操作しておきますので。」
(……防がなかったらチャラじゃなかったのか)
「このことがバレたらどうなるのですか?」
「まず、私達ガイルナ家のことがバレます。それだけならまだしも、第一王子派が黙っていないでしょう。かなりの確率で内乱が起こってしまいます。」
「任務失敗で殺される」という物騒なワードが聞こえたが、聞かなかったことにする。ルイラインは紅茶を一口飲むと、こちらをしっかり見据え再び口を開いた。
「今の最優先事項は襲撃者の仲間を見つけること。私達でも分からなかったということは敵は少数精鋭です。ただ、一人ということはないでしょう。状況を見極める為の仲間が少なくとももう一人必要です。その人を見つけるまでこの会場は閉鎖します。あまり長くかかってしまうと、さっき言った通り矛盾点に気づき始める人が現れてしまうのでなるべく早くしたいのです。以上ですが何か質問はありますか?」
「先程の……あの、魔王の如き言動は何だったのでしょうか?」
「あれに関しては本当に私からの喝なんです。本来王家を守るべき近衛隊が反応出来なかったというのは、あるまじきことですからね。責任転嫁しようとしたあの馬鹿にはそれ相応の処罰が待っていることでしょう。」
「……そうだったのですか。私は以上ですがウェルリンテ様は何かありますか?」
別に無いと思うのだが、何か引っかかりを覚える。何か忘れているような……
「一応聞いておくけど、あれがファリシスさんじゃなくてリシスさんってことには気づいているわよね?」
衛兵に介抱されているリシスを指差す。さっきからの会話で妙に気になるなと思っていたのはこのことだった。もしや気づいていないのでは。
ルイラインは介抱されているリシスをじっと見て動かなくなる。10秒程見たあと深くため息をつくと、机に顔を突っ伏して「気づいてませんでした。」と弱々しい声で言い放った。
「真実の愛の相手なのでしょう?何故間違えるのですか!確かに私もよく見ないと気づきませんでした。それでもですよ、私は任務に集中していたのとあまり近くで見れなかったという言い訳がたちます。貴方は近くで見ていた上に、常日頃から接していたのでしょう?」
私と同じことを思ったらしく、そのまま天を仰ぐ。
「でも、今回に関しては別にリシスでもファリシスでも変わらないのでは?多分、他の貴族達もファリシスさんだと思っているでしょうし。」
ごもっともな意見。カイルスの評判さえ陥れることが出来れば、相方の女性は誰だって良いはず。
「いえ、そういう訳にはいかないのです。先程使ったあの術は操られていた時の記憶が残るので、絶対に家族に話すでしょう。諜報部は家単位に弱みを握っていますが、個人となるとないのです。勿論、この国の主要人物や警戒対象の人などは個人のことまで調べ上げているのですが、リシスさんは調べていません。なので今から調べてもその頃には他の人に伝わってしまい、今回の計画がバレてしまいます。」
「……まさか、殺すなんて言わないでしょうね。」
「そんなことしませんよ!リシスさんはカスの被害者です。保護という名目で暫く監禁するだけです。あ、でも監禁といってもちゃんと一日3食は確保しますし、暇潰し用の本や刺繍なども用意します。」
カイルスをカスと呼んでいるのを隠さなくなった。まあ、でも本当に何故カイルスはリシスを連れて来たのか?そして、ファリシスは一体どこにいるのだろうか?
「……離せ!」
衛兵に腕を捕らえられた男が抵抗して振りほどこうとするが、取り押さえられ床に組み伏せられる。
「魔力探知機に反応があったのがこいつです。ルーヘントの魔力で漁ったいましたが、反応がなくお嬢の言う通りレンバートルで反応がありました。」
「……まあ、何となく予想はしていましたが」
「え、どういうことですか?」
「じきに分かるわ」
ルイラインはその男に近づくと手袋をはめ、思いっきり口に手を突っ込んだ。
前話の宇治拾遺物語とは『晴明、蔵人少将を封ずる事』のことです。良ければ調べてみて下さい