第五話 ガイルナ家
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〈ルイラインside〉
全身を衝撃が走り、何が起きたのか一瞬分からなかった。しかし、バレた可能性が高いので早急にここを立ち去らねばならない。
(あれ、動かない?)
まるで自分の体ではないかのようにピクリとも動かない。どうしようかと考えを巡らしていると、こちらに向かってくる足音が聞こえる。
(ウェルリンテさん……)
タルイテ公爵家の御令嬢にして、この混沌の中心にいる私の友達。未だピントが合わずぼんやりとしている私の目が捉えた姿はその人だった。
「何が起こったのか分からないっていう顔をしているわね。でも、呪いが防がれたら術者に返ってくるのは古今東西同じでしょ?宇治拾遺物語にもあるわよ。」
(……存じ上げていないです)
口の自由がまだ効かないので心のなかでつっこむ。ウェルリンテさんはつっこんで下さい!というものを会話の中に織り交ぜてくることが多いのだが、貴族にはそんな習慣は全く無いのでいつもスルーされる。私がいるときにはできる限りつっこむようにはしているが。
ウェルリンテさんは少しだけ悲しそうな顔をしたがそのままこちらに向かってくる。
「待て、どういうことだ!」
忌忌しい声を撒き散らすのは、クズ……じゃなくて、ゴミ……でもなくて、カ(イル)ス。
「当事者に聞きますので、もうしばらくお待ち下さい。」
顔には出ていないが、心底面倒くさがっている雰囲気を醸しながら小走りでこちらまで来た。そして背中に手をおく。「痛いよ」とボソッと呟いて
魔力が集まっているなと思ったのも束の間、先程の衝撃など比べ物にならないほどの衝撃……否、電撃が体中のありとあらゆるところを叩きまわる。何とか気絶はしまいと耐えると次第に目がいつものようにはっきりとしてきて、足の爪先から感覚が戻ってきた。
何をしたのか聞きたかったが、早くこの状況を説明しろという圧力が凄いので覚悟を決める。
(さて、どうやって誤魔化しましょうか?)
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《ウェルリンテside》
お父様に二日酔いを覚ましてあげる時の魔法を20倍にして放った。普通のものですら悶々としているお父様をよく見ているので、やりすぎたと思ったが流石ガイルナ家御令嬢。
彼女の名前はルイライン=ガイルナ、ガイルナ公爵家の御令嬢。そこらへんの貴族にガイルナ家のことを聞くと、戦上手、忠誠心が厚い、バカ等の答えが返ってくるだろう。
古くからある家で軍事のことを主に担っているが、人事や資金繰りではなく実際に軍隊に入り戦う。マナーは悪いが戦場での活躍は圧巻の一言。
これが世間一般の認識。
「では、嘘偽りなく話しましょう。」
大衆の目に晒されながらも静かに佇み、知的な目を爛々と光らさている。彼女の本質を知っている私からしたら嘘偽りしか話さなさそうな気が……真実を少し入れた方が良いって言ってたな。
ガイルナ家の裏の顔はこの国の諜報員。貴族達が軍隊に入っていると思っているのは実はガイルナ家の傘下の家だったり、分家だったりする。本家とその直系は諜報員として建国以来活動している。
ガイルナ家は女だからとか子供だからとかいう理由は一切なく、生まれたときから諜報員として訓練される。つまり、勿論ルイラインさんは既に諜報員として活動しているわけで……
(消される!?)
今気付いた。人を操っていたのだから何かの任務中だったのは間違いない。そしてそれを私が邪魔したとなると敵とみなされ、消される可能性もある。
今回の計画に彼女を巻き込まなかったのは、王家に対して忠誠心が厚く絶対に止められるから。王家がカイルスを見放しているのは知っていたがそれでも不安だった。何より、その後の関係がギスギスして絶交されるとボッチ0.3歩前の私にとってきつい。唯一つっこんでくれる人も彼女だというのに。
彼女の任務が私の計画と関わりがあるのか、それとも偶然なのかわ分からないが邪魔したとなると敵対される可能性が高い。そうなると、最悪消される。
「……実は今回の王子の襲撃に関しては事前に情報を仕入れていたのですが、それと同時に間者がいるとの報告を受けましたので近衛隊にも報告せず慎重にことを進めたかったのです。護衛に関しても相手を油断させる為に見た目が可憐な令嬢、ファリシス様とウェルリンテ様に頼んだ次第にございます。ファリシス様はあまり武芸には親しんでおられませんので、先程ウェルリンテ様が仰った通り呪術の類を用いて私が体を乗っ取って使用していました。あまり長時間使用すると体に悪いので強制的にウェルリンテ様に解呪頂いたのです。」
(……成程ね。それにしてもよく喋るなぁ。)
彼女の本来の目的が大体分かった。消される心配は無く、逆にこの嘘に話を合わせていた方が得策。今にも何か言い出しそうなライラスと仲間たちに命令を下すため、自分の耳を二度引っ張る。「喋るな」の合図である。
「では、あの婚約破棄は何だったのでしょうか。」
貴族の一人が恐る恐る尋ねてくる。
「勿論、嘘ですよ。今回はカイルス様にも手伝っていただいていましたので。」
カイルスの話が出たところでハッとする。カイルスは何も知らないから余計なことを言うかもしれない……というか絶対に言う。
振り返って見たが、そんな心配は杞憂であった。ちらっとだけ見ると、普通に座っているように見える。しかしよくよく見ると後ろの人が魔力で眠らした上で筋肉を強制的に動かして寝ていないように見せていた。多分諜報員の仲間か誰かだろう。
「では、あの……ファリシス嬢の……あれらの言動は一体どんな意味が?」
「あれは私からの喝です。今回は情報を入手していましたが、いつもそうとは限りません。いざという時の為にしっかりしてもらわないと困るので。」
(無理はあるかも知れないが、一応筋は通っている嘘を咄嗟に言うのはやっぱり凄い)
貴族たちは疑問を残しつつも一応納得はしているみたい。今みたいな混乱の渦にいると正常な判断は出来ない。落ち着いた場所で考えれば矛盾点は多いが、その頃には根回しされていることだろう。とにかく今はこの場を乗り切るためだけの嘘が必要である。
ひとまず難が過ぎたところで、彼女がちょいちょいとこっちに手招きしてくる。
「話を合わせていただきありがとうございました。今日のことを知っていながら任務をしていたのはウェルリンテさんを裏切るようで辛かったんですけど……結果的にこのような形になったので、埋め合わせは必ずします。」
周りに気付かれないように小声で話してくる。
「元はと言えば私が貴方の任務を中断してしまったからね。あ、でも次はまぜなさいよ。埋め合わせはそれでいいわ。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
全ての元凶は第一王子がカイルスであったこと。