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第三話 どうにもならねぇ

主人公じゃない人視点です。

(困ったな……だからあの馬鹿は駄目だと言ったのに。)


 群衆の中に紛れながら、グリナスと彼に質問された……確かウェルリンテだったかな?に目を向ける。あの野郎は土壇場で台詞を忘れやがった。


(そんなに都合良く、ルーヘントからの宣戦布告だと言ってくれる訳ないだろうし。)


「貴方様の国、つまりルーヘントからルイト王国への宣戦布告でしょうか?」


(……え、マジ?)


 まさか、敵国の公爵令嬢に感謝するとは思わなかった。そもそも最初防がれたのもあの令嬢のせいなんだけれどもという複雑な感情もあったが、1番罪が重いのはあの馬鹿(グリナス)



 俺とグリナスはレンバートル国から派遣されて、今ルイトに潜入をしている。理由は一つ、ルイトとルーヘントを潰すため。


 レンバートルは吹けば飛ぶような弱小国家だから、ルイトとルーヘントみたいな大国が近くに2つもあると戦争が起こった時には被害をモロに受ける。最初こそ戦争が起こらないように奔走し、停戦にまで漕ぎ着けたが最近また雲行きが怪しくなってきた。そこでレンバートルは自衛の手段だけ確保して、その上でわざと戦争を起こさせるようにするように決定した。


 戦争が起これば友好国であるルーヘントから協力要請が来ると思うが、それを断る。武力行使で従わせようとしたらそれを自衛する。戦争中なんだから従わせるための武力もそこまでかけることは出来ない。ルイトも敵対してこないならわざわざ襲ってくることも無い。この完璧な作戦を国の上層部は承諾し、準備を進めた。


 そして、自衛の戦力が揃ったので戦争を起こさせる為にルイトへ来た。戦争を起こさせるには大義名分が必要。そこで、ルーヘントのふりをして王子を殺害したことにして作ってやる。


 絶対に失敗は許されない。その故レンバートルの最強であるグリナスと、参謀長のトップである俺が来ているという訳だ。暗殺担当のグリナスと、それをフォローする俺。布陣として完璧な筈だったのだが……


(ここまで馬鹿だとは思ってもみなかった。)


 戦闘において無類の強さを誇っていたが、日常生活では馬鹿の一言だった。あれだけ戦場では冷静に分析して、俺でさえ気付けないことすら気付いて、あんなに、あんなに……


(……でも、大丈夫。一応計画通りには進んでいる。)


 言いたいことをグッと堪え、状況を確認する。あの投げナイフに反応されたのは意外だったが、プランGでこの場合も想定してありちゃんとグリナスも動いてくれた。そこで、台詞を忘れたのは本当に罪が重いが何とかなった。


「そうだ、俺は宣戦布告に来た。俺の国のレン……ル、ルーヘントから、宣誓布告だ。貴様らルイトを地獄に落としてやる。」


(あっぶねー、大丈夫か?この調子で……まあ、でもここからは大丈夫か。最悪アドリブでも何とかなるから)


「これから言うことをよーく聞いておけ。まず、さいしょ…….」


 間違えていないか心の中で一緒に唱えていたら、最初から止まってしまった。


(おい、大丈夫か。「最初に攻撃するのはサンドリナ次は……」と、繋げていけばいいんだぞ)


 何とか口パクで伝えられないかと思って人混みをかき分け前へ出たが、そこにいたのは床に突っ伏して倒れているグリナス。そして、可愛い令嬢。手には似つかわしくない血がついた重そうなレンガを添えて。


「邪魔しないでくださいよ。」


 魔王が二日酔いの果てに出しそうな声だった。久しぶりに死の予感がした。ここに来る際に死ぬ覚悟はとっくにできていたというのに、それでも死が怖くなった。


 ゆっくり全体を、まるで動けない鹿10頭を前に熊がどれから食べようかと品定めするように私達を見回した後、これまたゆっくり口を開いた。


「……さっきから本当にうるさい。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、折角ビュッフェだってのに何も食べられやしない。タッパーも忘れてしまったしな。まあ、それは良い……おい、そこの門番。どうしてこれをここに入れるのを許した。」


 グリナスの体を蹴る。熊の最初の犠牲者は門番のようだ。今見たばかりだが、君の勇姿は忘れない。さらば。


「は、ははは、はい。……確か何処かの家の護衛だと聞いていたのですが。」


「あ゛?何処の家かが大事なんだろが。舐めてんのか?」


「はぁぁいぃぃぃ……あれ、なんで思い出せないんだ?」


 門番の顔が青を通りこして白に近づいていく。可哀想だが俺のせいだ。それを言ったのは俺だが、他の貴族に見ない顔だと思われたら困るので認識阻害の魔法を自分自身にかけていた。だから俺のことも思い出せないのだろう。


 時間が経つと同時に、魔王(あの令嬢)の顔が怒っているものから無表情に変わってくる。無表情が1番怖いと聞いたことがあるが、本当だったようだ。


「もういい。」


 周りに凍てつくような冷気をもつ言葉を発したと同時に、門番は耐えきれず泡を吹いて気絶した。誰も介抱のために動かない。


(敵国とは言え、君のことは忘れない。)


 名も知らない犠牲者(英雄)に心の中で敬礼した。再び静寂が支配する。


「次ぃ〜。近衛隊、お前らはどうなんだ?そいつが反応したから今回はっ大丈夫だったけどさぁ〜、無かったらお前らの君主のカイルス様がお亡くなりに……死んでいたけど?」


 次なる犠牲者は近衛隊の方々のようだ。


(公爵令嬢はお前、近衛隊もお前、けど王子だけ様付け。何か言い淀んだようだし、何かあるのか?)


 疑問に思いながらもことの成り行きを見守る。近衛隊はカイルスが剣を突きつけられた際に一番に動いたものの、魔王の合格点には及ばなかったらしい。あれ一応音速だから反応する方がおかしいけどね?


 しばらく沈黙が続いた後、近衛隊から1人前へ出てきた。


「私は、ユーラス家が三男。トレイスチナ=ユーラスと申します。」


 その男の人は自分の剣を床に置いて、語り始めた。


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