第二話 とりあえず死ね
第二話は作中で1番急展開だと思っています。苦手な方は読まないことをお勧めします
(今、この場で二つの選択肢がある。一つはファリシスでないと指摘すること。そして、もう一つは指摘せずにこのまま計画通りにことを進めること。前者の場合だと、婚約破棄だけ受理されて二度とざまぁができなくなるかもしれない。後者だと、そもそも計画通りに進む可能性の方が低い。)
ここまで考えて、心の中で大きな溜息をつく。本当にめんどくさいことをしてくれた。もしや、わざとなのかと顔を見たがあれはファリシスだと思っている顔だ。リシスの方も何のことか分からず、唖然とした顔をしている。
(というか間違えんなよ。ええ、確かに今日のリシスの服はファリシスに似ているけれども、真実の愛の相手なら分かるだろうが)
このツッコミを必死に抑えながら頭をフル回転させる。
(……後者の方が良い気がする。リシスは大勢に見られるのが苦手。だったらこの場では一言も話せないでしょう。勝手にカイルスが話はじめるだろうから、それに対して何も返答しないリシスを見て「可哀想に、貴様のせいでファスが喋れないではないか、とっとと失せろ」とか帰れるならとっくに帰っとるわと言いたくなるようなことを言ってくるんだろうな。それは置いといて、やっぱり後者なら基本カイルスしか喋らないだろうから大丈夫でしょ。)
この間たったの2秒。公爵令嬢なめんなし。因みにだ、「可哀想に、貴様のせいでファスが喋れないではないか、とっとと失せろ」は一回言われたことがある。教科書を破った容疑でカイルスに呼ばれ、「ファスに説明してもらうからお前は黙ってろ」と言われて待っていたら、ファリシスが泣き出す。そこで、あの言葉が言われた。呼んどいてそれはないだろと思いながら帰ったのも覚えている。
「ははっ、何も言い返せないとは自分の罪を認めているようなものだぞ。それか、また悪知恵を働かせているのか?」
(うっさい、お前は黙ってろ……とりあえず、まず最初に仲間にそのまま続行することを伝える必要があるけどなぁ。どうしようか)
ちらっとライラスの方を見る。一番長い時間を共にした仲間だから、私のやりたいことは分かっているはずだ。ただ、他の人達は分からない。
「まあ、いい。最後の忠告だ。今、ここでファスに面と向かって謝るのなら赦してやる。」
(そのファリシスがいないから困ってるんだろうが!……もういっそ言うか?面倒くさいし。どうせざまぁ出来なくても、勝手に自滅してくれるだろうし。)
やけくそ気味になって、一度却下した案を考え出す。ここまで努力を惜しまず来たが、まさか計画にこんな穴があるとは思ってもみなかった。自分のミスとして今回は負け(負けてはない)を認めるのもありかもしれない。
「ほう、これでも認めないとは。哀れだな。では今までの行いを断罪す……」
突然の殺気。色々考え過ぎて、カロリー不足だった頭が理解する前に体が動いた。
「なっ……」
私が抜いた短剣が飛んできた矢を弾く。この声は、私が弾かなければ殺されていたであろうカイルスが発したものだ。
「早くつ……」
「つかまえて」と言おうとしたところで体を突き飛ばされた。そのまま地面に転がると思いきや、ライラスが助けてくれる。
「まさか、こんな凄腕を雇ってるなんてな。」
そう言って、すぐ横をフードを被った人が凄い速さでかけぬける。手には大層な長剣を持って。
「動くな、動くとこいつを斬る。」
そのまま、カイルスの首に剣を突きつける。ざわついていた会場が一気に静かになる。
(え、なんかめっちゃ動きたくなってきたんですけど。)
こいつに殺させるのも有りだなと思いつつ、一応動かないでおく。後で何か言われたら嫌だからね。
「そうだ動くな。俺は、えーと、あれだ……おいそこの女。俺は何をしに来たか当ててみろ。間違えたらこいつを殺す。」
突如の無茶振り。当たった女性が可哀想だ。まあ、私なのだが。
(えーと、間違えたいけど、あんまり適当に答えるとわざとだと思われるからなぁ。服を見るに、あの紋章は敵国のルーヘント。今は停戦中だけども、戦争を再開したら負けるのはルーヘントの方。つまり、宣戦布告というわけではない。本来の目的は知らないが、宣戦布告と言っておくか。)
「貴方様の国、つまりルーヘントからルイト王国への宣戦布告でしょうか?」
間違っているのだから言葉通りそのまま殺して欲しいが、流石に殺しはしないだろう。さあ、どうでる。
「……正解だ。」
「……は?」
公爵令嬢としてあるまじき声を発してしまったが、しょうがない。いや、もっとあるだろ。実はカイルスを殺すことで、右腕の力が解放されるだとか、邪眼が解放されるだとか、次の存在に進化できるだとか。正直言って、王家はそんなにカイルスに価値を見出してないぞ。マジの話。
「そうだ、俺は宣戦布告に来た。俺の国のレン……ル、ルーヘントから、宣誓布告だ。貴様らルイトを地獄に落としてやる。」
驚きだ。この世にカイルス以上の馬鹿が存在しているとは。色々怪しい点があるが、今はとりあえず事態の収集が先決。
「これから言うことをよーく聞いておけ。まず、さいしょ…….」
「最初に」と言おうとしたのだろうが、その先の言葉を告げないまま崩れ落ちる。
「邪魔しないでくださいよ。」
後ろには重そうなレンガを持った少女が、ドスの聞いた声を発して佇んでいた。
「……ファスどうしたんだ?」
お分かりの通り、その少女はリシスである。
登場時間、驚異の318文字の男!果たして一体誰なのか?