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第十九話 最後の最後

「ふふふ、はははは……今思えばおかしいことだ、卒業式が取り止めになるなど。まさかお前、ファスが生きているのを見て一芝居打ったのか?近衛隊が反応出来ない投げナイフに反応するなどおかしい。元々あの場所に来ると知っていたのでは無いのか?わざとあのような騒ぎを起こし、あの場を有耶無耶にしたのではないか?」


 私やリシスがペログリファである情報は秘匿されており、ルーシュ様とガイルナ家の面々以外は知らない。たとえ、公爵家であったとしても


 だから、いまだに私の実力に疑問を持つ者は多々いる。あそこで近衛隊であるトレイスチナに勝ったのは偶然で、本当はあの投げナイフに反応できたのは何か裏があるのではと思う人もいるだろう


 そんな時にこのカスの説であれば、辻褄が合う。あのレンバートルの二人組の一人が私に『まさか、こんな凄腕を雇っているなんてな。』と言ったのは多分私にしか聞こえていない。そうすると、あの投げナイフと暗殺未遂が関係ないという可能性が出てくる


 ウェルリンテ嬢がこの卒業式を有耶無耶にしようと投げさせたナイフを防いだあと、偶然にも、暗殺未遂が起きた。そして、トレイスチナに勝てたのは運が良かっただけ。あの時、トレイスチナは仕事中だったわけだから、疲れていたのだ……


 一部の公爵家、代々軍人などを排出していたり、近衛隊に所属している家なんかはそう思うだろう。だって、私みたいな小娘に劣っているとは思いたくないから


「……あっ、まさか……」


 ファリシスさんが何か悲壮な真実を見つけたかのような顔をする


「どうした、ファス?」


「いえ、いえ……まさか、そんなことは……いくらウェルリンテ様であっても、そんなことまではしないはず……」


 なーんかさっきから、ファリシスさんに嫌な予感しかしないんだよなぁ


「大丈夫だ。俺がついてる。だから、どんなことでもいい言ってみろ。必ず守ってやる」


 顔を下に附せて小刻みに震えながらも顔を挙げ、そして震えながらもしっかりとした声で言った


「あの卒業式の次の日……私がいつものようにお気に入りの紅茶をティータイムの時間に、妹のリシスと飲もうとした時です……」


 そこまで言って顔を手で覆う。信じたく無い現実から目を背けているように見えるその姿に、カスが頭を優しくぽんぽんと撫でる


(……何を考えているのやら)


 ファリシスさんが何を考えているのか全く分からない。今までの経緯から察するに、この階段から突き落としたという嘘を考えたのはファリシスさんの可能性が高い


 では、その目的は何か?そんなものは無いはず……


(ここに来て怖くなった?)


 あんな死ぬ思いをしたのだから生きていればいいやと思っていたのが、時間が経つに連れ、この貴族としての生活を失うのも怖くなった。それ故、私を悪女に仕立て上げて平民落ちを防ごうと考えた


(それは非常にまずい……)


 ファリシスさんは男爵家のせいで情報収集能力とその手段が無いだけで、結構賢い。つまり、情報さえあればわりと完璧なのだ


 そして、今回は騒動の渦中におり、情報を大量に有している。その情報をもとに私を陥れる作戦を考えれば、高確率で成功してしまう


 これといった解決策も思いつかぬまま、無情にも時が過ぎる。そして、ファリシスさんが覚悟を決めた顔をして再び話し始めた


「そのティータイムの時にです。リシスがたまには違うものを飲んでみたいと言い出したので、私のものと交換しました。そしたら……そしたら……」


 泣きかけているせいか、話すにつれだんだん声が高くなる。最後の方では涙が1つ頬を伝った


「……リシスが血を吐いて倒れたのです。原因は私の紅茶に即効性の毒でした。命令した人は誰か分かっていませんでしたが、今ふと思ったのです。ウェルリンテ様では無いのか、と」


 先程より更にざわめき出す貴族達。リシスが今もなお寝ている原因は、ペログリファの才能の開花によるもの。ただ、リシスがペログリファであることは伏せられているのでそんなことは知らない。だから、リシスが寝ている原因は病気とされていた


「なぜ、なぜ……毒のことを言ってくれなかった?」


「だって……私1人で心細くて……誰が敵で誰が味方なのかが、全然分からなくて……だから周りには病気ということにしていたのです」


 そして、目に一杯の貯めていた涙を零す。しばらくはファリシスさんの嗚咽に似た泣き声だけが響いていた


「ウェルリンテ、貴様……一度ならず二度までも、ファスのことを……絶対に許さん!」


 殺意むき出しの目で見られる。ただ、今までの説には1つ重大な欠点がある


「そうは言っていますが、何一つとして証拠がありません。全て憶測に過ぎないものです」


 証拠が無い。階段から突き落とした件も、投げナイフの件も、毒の件もどれも証拠が無い。ただ、どれも証拠が無い。刑事ドラマであったら犯人が言う台詞なのだが、事実なのだ


 やっと自分のターンに戻せたと安心したのも束の間、今度は凄まじい視線を感じる。といっても、投げナイフでは無い


 原因はファリシスさんの視線だった。睨みつけるような勢いで、私のことだけを見つめてくる。ただ、


(……敵意はない?)


 その視線に、私に対する敵意は感じられなかった。本当にファリシスさんの考えていることが分からない。私のことは敵とはみなしていない程、下に見ているということなのか


 私の中では全く考えが分からないにも関わらず、カスは話し始めた。いかにも怒りを抑えているといった感じで


「証拠は……ある。ただ、それだと余りにも可哀相だと思った。何故なら、多くの罪を背負うことになるからな……最後の、最後のチャンスだ。今ここでファスに面と向かって謝るのならこれらの罪に対する追及はもうしない。婚約破棄だけにしてやる」


 私を見る無数の瞳


 本気で私を陥いれに来ているのなら、その証拠というのは確実なものなのかも知れない。そうなると、いくら後で弁解しても無実は証明されないのかも知れない。けど、今ここでファリシスさんに謝れば、万事解決。カスと結婚しないで済む。それはそれで、充分いいんじゃないか。ファリシスさんに謝るだけで全てが丸く収まる。なら……


「やってないことを謝るわけねーだろ、ばーか」


 静寂が支配するこの会場に私の声が響く。大き過ぎるでもなく、小さ過ぎるでもなく


 カスはというと、抑えていた怒りを剥き出しにして言ってきた


「そうか……そうか、そうか、そうか!お前は何処までも愚かだ。ファスと俺の慈悲をこれ程までにも無下にするとは」


 そして、パチンと指を鳴らす。するとあの引き連れてきた人達が口を揃えて、「私は見ました」と言う


「これがお前がやったというのを見たという証言をしている奴らだ」


 一呼吸整えてから、続きを話す


「でも、どうせこれだと買収しただとか、お前ならそうやって言い逃れするだろう?」


 実際にそうだし


「こっちが確実な証拠だ。お前が突き落としたといえるとはこれだ!」


 ファリシスさんがニヤリと嗤う。本当にこれが私を陥れるための証拠なのだろう。どんなものなのかは知らないが、これで私は終わるかも知れない。けれど、それなら何度だって蘇ればいい。生憎、私には力がある。平民落ちしたとしてもそれを元にもう一回このような場に戻ってこればいい。そして、次はもっと入念に準備したらいい


 カスが取り出したのは王家の秘宝であるある魔道具であった。使用者の発言が本当なら青、嘘なら赤に光る魔道具。そして、それをファリシスさんに持たせた


「ファス……その、痛々しい傷は、あの悪女、ウェルリンテがつけた傷ではないな?」


「はい……」


 カスが指差して言ったその痛々しい傷というのは、ファリシスさんの顔にできた一筋の傷。前髪に隠れていたその傷


 そして、その魔道具は青に光った


「ほら、見ろ。この悪女が!皆様、お分かりであろう?これはこの悪女がファスを突き落としてつけた傷だ!王家の秘宝、ポリグラフがそれを証明している!」


 押し黙る貴族達。貴族達はもっとうるさくなると思っていたカスは少し不思議そうな顔をした


(……してやられたわね)


 全て分かった。先程のファリシスさんの視線も、嗤い顔も。その意味全てが。彼女の、最後の、最後の意趣返し


 ファリシスさんの方に目を向けると、後は任せましたと言わんばかりに微笑み返してくれる


「どうした?これが確実な証拠じゃないか!どうしてそうも押し黙る?」


 不安そうに声をあげるカスに、私が声をかける


「殿下、お言葉ですが……あれは階段から落とされた傷とおっしゃいましたね?」


「何をぬけぬけと。お前がやったんだから、お前が1番知っている……」


「あれは剣で斬られた時に出来る傷です。決して階段から落ちて出来るような傷ではありません。そして、傷の具合から察するにあれは卒業式から数日経った時に出来ている筈です」


「なっ……」


 カスは必死であたりを見回す。誰か反論できる者はいないのか、と。しかし、全員押し黙ったままであり、それが答えだった


「だ、だが……お前は傷つけたことには変わり無い!どうせ殺そうとしていたんだろ」


 そう来るとは思っていた。これに対する証拠は何も無いが、ちょうどいいものがそこにある


 私はさっとファリシスさんからポリグラフを奪う。といっても、あちらは抵抗していなかったが


「貴方、私に『あの傷はファリシスさんを守る過程で出来た傷ですか?』と聞いていただけませんか?」


 近くにいた貴族に頼む。その貴族はその通りに言ってくれた


「はい」


 ポリグラフに魔力を流し込みながら答える。すると、青に光った


「なっ……」


 今度は、言葉も出ないというほど驚いているといった顔をしているカスに笑いが込み上げる


 あの傷は何なのか?疑問に思う人も多いだろうから言うと、ファリシスさんがルーヘントの森に連れ去られた時、間一髪で魔獣から助けたのを思い出して欲しい


 あそこで使っていた剣というのがいつもとは違い、長めのものだった。気をつけてはいたんだけど感覚が少しズレてしまい、あの魔獣を斬る時に少しファリシスさんを掠ってしまった。それがあの傷


 じゃあ、さっきからのファリシスさんは何だったのかと言えば、本当にただの意地悪。どうせ最後なのだから、という気持ちで私の反応を楽しんでいる風だった


 その後は面白いほどすんなりとことが進んだ。リシスさんがこの場に登場し、土魔法を自分は使えるけどファリシスさんは使えないことを指摘して、あの時カスが間違えて自分を連れて行ったのだと主張。それで、毒の件の無実が証明され、投げナイフの件もガイルナ家が気を回してくれたのか近衛隊隊長のお墨付きみたいな書類が送られてきた


 ルーシュ様の命令のもと、カスとファリシスさんはその場で拘束され、翌日王族、貴族としての身分剥奪が決定された


 ルーヘントの新国王とルーシュ様はは和睦し、国交も回復。リシスさんは私の家の養子として迎え入れられることとなった


今度こそ、本当に、めでたし、めでたし?







……?

 


 



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