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第十八話 あの夜

 外のペログリファというのは、本来、この世界に来るのは地球で死んでかららしい。そして、この世界に記憶を持たないまま転生し、こちらの世界で死の恐怖を感じることで才能が開花する。それが内のペログリファであり、リシスさんである


 しかし、私の場合は地球で死の恐怖を感じつつ、生き残った。それ故、才能が開花したペログリファはこちらの世界にいなければならないという世界の意思の様なものが働き、まだ死ぬ定めが無いにも関わらず死んだ。だから、記憶を持っているし、外のペログリファと認識される


 今回、ルーヘントが最終手段として残しておいた外のペログリファの召喚で私が召喚されたのはそういう訳


 この話は全部、召喚された時に周りにいたルーヘントの魔術師達に聞いたもの


 ここで何が大事かというと、あの時私が死んだというのは必然的な現象であり、決してダサい死に方では無かったということ。納豆そばを食べていようが、茶碗蒸しを食べていようが死んでいたのであり、調子に乗って食べた牡蠣に当たって死ぬという汚名は返上された


 めでたし、めでたし





















…………で、


(これが一番最適な場ですよね?)


 ルーシュ様の方をチラッと見る。こちらの言いたいことに気づいたのか、小さく頷き返す


「……色々と聞きたいことがあるが、まず、お前は誰だ?」


 ルーヘントの王様、ええと……ダルゲス様直々に質問される。見ず知らずの女性が机の上に急に現れるものだから、そりゃあ驚くだろう。それよりも、もう既に治療されたとは言っても、あれだけの量の血を流しながら立っているダルゲス様の方が驚きなのだが


「ルイト国タルイテ公爵家長女、ウェルリンテ=スクルビアと申します。貴方が探し求めていた外のペログリファです。以後お見知りおきを」


 そういえば、私、公爵家出身だった。あれ?じゃあ、お父様ももしかしてこの場にいるんじゃ……


 そっと振り返ると、いた。あの人は脳筋な所があるから、多分ことの重大さが分かっていない。私がこの場にいるのを見ても「おお、娘が何故かいる!」ぐらいしか思わないと思う。その何故かの部分を考えようとしない。今に始まったことじゃ無いけど


 ダルゲス様はと言うと、深く考え込んでいる。辻褄が合うかどうか考えているのであろう


「あ!……あちらの方々から、貴方様にこれを渡してくれ、と」


 手に握っていた紙切れを渡す。ことの顛末が書いてあるから渡して欲しいと、ルーヘントの魔術師達に頼まれたのだ


 奪い取るようにしてその紙を手にする。読んでいく内に、顔が無表情になっていった


「……最初から何もかも完敗だったって訳か。ペログリファが2人共揃っていて、1人は前世の記憶持ち。可能性があるとすれば、ここの第一王子様が浮気相手を間違えなければって話だな」


 怒りと諦めが混じったように顔を俯きながら、紙をグシャグシャにする。さて、どうしようか。少々時間がある


「……で、どうして急に机の上に現れやがった?あそこからここまで一週間はかかるぞ?さっき俺の連絡用魔導具から声が聞こえてからせいぜい30分しか経ってないが」


 あれ?30分も経ってるの?感覚的に15分だったんだけど……転移魔法だから、未知の所が多いのかも知れない


「あちらの方々に手伝って貰った(脅してやらせた)のです。この魔法陣、元々私の魔力を流し込む為のものだったのでしょう?それを少々いじって私ごと転移出来るようにしたのです」


 そうして机から降りる。私が立っていた場所にはあの魔法陣がある。色々な所に書いたらしいが、この集会の会場に1番近い魔法陣がこれだった。その魔法陣を指定して送って貰ったのである


 もし、ダルゲス様の腕の魔法陣が残っていればそこから出てきたかも知れない。そう思うと、太郎ナイス


「あの老害ジジイ共が……」


 まあ、でもそうか。30分となると、そろそろかも知れない。多分、あと5分もしないうち……





「ウェルリンテ、今度こそ婚約破棄を言い渡す!そして、今日こそお前の悪行を裁いてやる!」


 扉を豪快に開け、入ってきたのは皆様ご存知カ(イル)スである。側には寄り添っているファリシスもいる。場違いもいいとこだが、それを気にしている風は全く無い。


 ざわざわとする会場。そりゃそうだ。不出来と評判のルイトの第一王子が急に殴り込んで来たのである


「おい、ガキど……」


 ちょっと面倒くさそうなので、声をあげようとしたダルゲス様には少しの間眠ってもらう。ルーヘントの貴族達がそれに気づき声をあげようとするが、そちらはガイルナ家の方々がすぐさまこっそり眠らせる


「この前は色々と合って有耶無耶になってしまったが、今日は逃げられ無い。観念しろ」


 意地悪そうに笑うカス


「よし、俺は慈悲深いからな。最後にもう一回だけチャンスをやろう。ここでファスに面と向かって謝るのなら赦してやる」


 パーティー会場に似た大きさのこの会場。沢山の貴族達。カスとファリシスさん。貴族達がちょっとばかし高位であるのと、浮気相手を間違えていないことに目を瞑れば、あの卒業式の夜とそっくりである


「……」


 それもそのはず、これを目論んでルーシュ様は用意したのだから。匿名でカスに、この場でちょうどいいパーティーが行われていると伝える。そしてその他諸々も一緒に用意しておく。こんな怪しさ満点な状況に私なら行かないが、流石はカス。私の思っていた通りの時間に来た


 とは言っても、勿論私の為に用意されたわけじゃ無い。そんなことをする程あの人は優しくない


 この場は、ルーシュ様の息子であるカイルスの為に設けられた場。私が、国家重要人物うんちゃらかんちゃらで保護されていた間、ルーシュ様が私の元を訪ねて懇願してきた



ルーシュ様曰く

 今回、偶然とは言え浮気相手を間違えるというミスをしたカイルスのお陰で被害を最小限に食い止められた。浮気をするという大罪が許される訳では無いが、それでも正当に評価しなければならない。

(中略)

……だから、もう一度チャンスをやってはくれないか。ルーヘントへの制裁を決める際、各国の代表を集める。その時に呼び出すので、あの夜を再現して欲しい。

(中略)

……それまでに悔い改めたり、途中で思い止まったりしたら赦してやって欲しい。愚かなままであったら、あの時ウェルリンテ嬢がしようと思っていたことをそのままして貰ったら構わない


 長々と話していたが、要約すればこんな感じ


 カスは浮気したけど、今回の事件にも一応貢献した。罪が消える訳じゃないけど、自分の息子だから赦したい。そこで、あの夜を再現するから続きをして欲しい。それまでに思い止どまったら私には悪いけど婚約解消は無かったことにして、馬鹿なままだたったらざまぁ(勿論この言葉をルーシュ様は知らない)して欲しい、と


 私は了解しましたよ。不出来だと言いながら、それでもやはり心配してしまい、自分の子を想う父親の心意気に胸を打たれ……それは勿論建前で、本音は違う


 この後数年間はゴタゴタが続くから、もう無理かなと思っていたところでまさかの国王の許可が出てしまったのだから、これはもうやるしかない。あいつが思い止どまる訳無いじゃん


 全然関係ない話になっちゃうけど、これを聞いて知ったのが、この世界相当浮気に厳しいこと。お父様の浮気を報告した時は、お母様が数日実家に帰っただけで済んだのでそこまででは無いと思っていたのだが、それはお母様がとびきり寛容だっただけだったのだと今では思う。お母様曰く「あの人は馬鹿だからいつかは女に引っ掛かるとは思っていたのよ。多分、私が実家に帰るまで浮気しているという自覚も無かったんじゃないかしら?」だそうだ


 普通浮気が発覚すれば離婚、婚約解消は勿論、多額の賠償金が大量、そう大量に発生する。特に男の方が浮気なんかしてた時はもうそれは莫大な金が必要になる。というのも、女性が離婚すると傷物として扱われ再婚などどの家もしてくれない。そうなれば、その家にとって多大な損失となる


 それに、お金だけじゃない。敵対派閥の貴族は勿論、自分の派閥の貴族からも白い目で見られ、最悪没落することもある


 じゃあ何ですんねん!っていう話だが、それは本人達に聞いてくれ。歴史を振り返ってみても、浮気してなくても没落してたんじゃないかという馬鹿しか基本的に浮気してない


「……グス、グス……やっぱり止めましょうよ、カイルス様ぁ。いくら悪女だからと言っても、可愛そうですぅ」


 同情を誘う?様な声の主は、隣にいるファリシスさんである。つい1週間ぐらい前まではこんな声が普通だったというのに、随分久し振りに聞いたような気がしてならない


 勿論、ファリシスさんもこちら側の人である。最初、このルーシュ様の計画を伝えに行ったときには拒否されると思っていたのに、全くそんなことなくあっけらかんとしていた


『あの時は頭がどうかしてたんだと思いますが、それでも私が浮気をしていたという事実は変わりません。そもそも、私はあの場で殺されて当然だと思っていたのですよ?罰が無い方がおかしいです。その時が私に一番相応しい、貴族としての最後だと思います』


 そんなカッコいいことを言っておきながら、ちゃっかり自分が平民落ちした時の働き口と住居の確保、更にはリシスの今後の身の保証を約束した。両親については、今までは優しかったけど自分が誘拐された時あっさり逃げ去ったのを見てて、もういいやと思ったらしい


『あと、ウェルリンテ様は浮気されているならもう少し怒った方が良いですよ』


 最後の最後でピシャリと言われた。地球にいた頃、部活の後輩にも『藤原先輩(分かると思うけど私の名字)って浮気探知機って呼ばれている割には(浮気に)寛容ですよね』と言われたのを思い出す


 でも、自分ではどちらかと言うと、浮気した奴に興味が無いだけだと思っている。勿論、倫理的に駄目なのは分かっているし、した奴がいれば最低だなとも思う


 ただ、それ以上は別にいいんじゃないか。それより、された被害者の方のケアにまわった方がいいと思っているだけ


 落ち着きたいから、これ以上騒いでほしくないっていう人からすれば浮気のことを持ち出すのははた迷惑。逆に周りが騒ぐことで、その浮気したやつが攻撃されスカッとするなら騒いだらいい


 そんな懐かしいことはさておき、カスがまた喋り出す


「ファス、君のその優しさは君の美徳の1つだと充分理解しているよ。けれども、この悪女のことだからこの場で再起不能にさせないと、今婚約破棄をしてもあの手この手でまた婚約するだろう。そうなると未来の王妃は彼女になってしまう。それだけは何としても避けなければならないんだ」


「そ、そうですか……カイルス様がそう仰るのなら」


 私としても、自分が王妃になるのは何としても避けたいもの


「……あのぉ、あの夜もそうでしたが、私が何をしたって言うんですか?」


 ファリシスさんの声を真似て言ってみる。うわ、キモ。可愛くないと合わないね、この声は


「はぁ、まさかここまで愚かだったのか。自分の罪すら理解していないなどとは……もういい。充分機会はやった。それを全て蹴ったのはお前だぞ?……呼べ」


 扉が開き、ぞろぞろと入って来る人達。何を隠そうカス(の配下)が頑張って集めた、この時の為の証人である


「こいつらは俺が集めた証人だ。勿論、お前の罪を暴くためのな」


 こんだけ色々言っておきながら、自分からは何もしないからなぁ。トイレットペーパーは無くなれば無限湧きすると思っている人種の代表かなんかじゃなかろうか


「愚かなお前にも分かるよう、今一度説明しよう。お前は公爵家としての身分を振りかざし、力の弱い貴族達にイジメを繰り返していた。ファスだってその1人だ。しかし、ファスは勇気を振り絞ってその事実を婚約者である俺に伝えに来てくれた。そして、俺はお前を王妃にさせてはならないと思い、今日この場で断罪できるよう準備した」


 絶賛崩壊中の第一王子派が準備してくれたもの。なんとも期待が持てる


「とは言ってもだ。ちまちまとした事件ではどうせお前は言い逃れるするだろう。それに、この場には今までの経緯を知る生徒達は私が連れてきた者達だけだ。それだと公平性に欠ける」


 え?カスがまともなことを言っている!?


「だから言い逃れ出来ない証拠を1つだけお見せしようと思う」


 ファリシスさんがニヤリとする。成る程、ファリシスさんの入れ知恵か


 まあ、何が来ようが知ったこっちゃない。こっちはこれに向けてずっと準備してきたんだから。どんな証拠を突きつけられようが、それを覆す証拠は持っている


「この場では無いが、元々これを行う予定であった卒業式の日。その日の前日の出来事」


(……ん?)


「私達が告発を行うと察知してか、この悪女はあろうことか……人として最も犯してはならない罪を犯そうとしたとした」


(……まずい気が……)


「このファスを口封じにと階段から突き落としたのだ!」


 公爵家達がざわめき出す。カスといえども、ここまで言い切っているのだ。何か決定的な証拠があるに違いない、と。そして、それならば人を殺そうとしたウェルリンテは本当に悪女ということになる


 ほとんどの貴族が、この婚約破棄はカスの勝手な暴走だと思っていたが、それが覆されるかも知れないのだ


 そして、私はこれに対する証拠は無い。私が用意していた証拠の中に、卒業式の前日のアリバイは無い


 勿論、突き落としたのは嘘であるが、いつそんな証拠を集めた?少なくともあの卒業式までにはそんな証拠は集めて無かった


(……どうしたものか)


 一筋の冷や汗が背中を伝った

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