表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/19

第十七話 主人公

明けましておめでとうございます。誤字報告ありがとうございます

《ルイラインside》



「皆様、この度は急な集会にも関わらず迅速にお集まりいただけたことに感謝申し上げます。それでは、早速本題に入らして頂きます」


 私のお父様が司会を務めるこの集会、我が国ルイトの国王様ルーシュ様、普段滅多に姿を見せないガイルナ公爵家当主のお父様、長男のお兄様、他の公爵家もおおかた揃っている

 

 更には、ルーヘントの国王ダルゲス様と数人の公爵家の人々。パルセチア王国、ギルニス皇国、ヘルマイド公国といった諸外国の外交官達も居合わせており、大型のパーティーの会場とされるこの場所が埋まる程


 パーティーと何が違うのかと言えば、どの人をとっても侯爵家以上の地位にある重要人物であること。どの国も、この後の世界を大きく動かすであろうこの集会に人材をケチるはずが無い


「皆様にお集まりいただいた理由は、ご存じの方も多いはずですが、もう一度述べさせて頂きます。……『我が国ルイトが隣国のルーヘントによって不当な侵略を受けようとしていたことについての処罰を決定したいから』というのが、今回集まっていただいた理由にございます」


 自他ともに百戦錬磨と認める外交官達しかこの場にいないはずである。しかし、その言葉を聞いた時にはまるで、人に一切疑いを持たないピュアな少年少女が初めて嘘をつかれたかのように、何とも言えない顔をした


 多分、全員知っていたと思う。予め、自国の仕入れた情報をもとに何が起こったのかを考え、どの国もルーヘントが戦争を仕掛けようとしていたという結論には至っているはずである


 ただ、当事国からの断言を聞いて初めて思い知らされている時もある。心の何処かでは、やはり何かの間違えじゃないのか、という甘えのようなものがあったのだろう


 何故かって?ここ百年、均衡がとれていた2つの大国に亀裂が入るのは、この後の世界情勢にいかなる影響を及ぼすか未知数である。そして、外交官たちにとって1番嫌いなものは不確定要素だから


 この集会は確実に歴史上の重要な分岐点になると、誰も彼もがそう胸に刻んで、より一層真剣になった顔が見え始めたところで記録水晶の映像が流れ始める


 その映像には、恐らく戦争に使われる予定であった軍事用の簡易魔術式砲台、魔素生成機、誘導式魔弾3などを大急ぎで準備する様子が映し出されれている


「まず、これは、ルーヘントが戦争を始めているとの情報を仕入れその現場を抑えたものです。これをもってしても、貴国は事実を認めませんか?」


 勿論、この集会を開く前にルーヘント側に戦争の準備をしていたのかと聞いた。そして、これまた勿論、あちら側は否定する


 普通の国同士の諍いなら、せいぜい周辺の2、3カ国を集める程度のものだろう。しかし、これは何度も言っているようにルイト、ルーヘントという屈指の二大国間の諍いである。だから、なるべく多くの諸外国に知らしめないと、最悪買収されたり揉み消されたりしかねない


「……ああ、認める」


 少し時間を置いた後、不機嫌そうに耳飾を触りながらダルゲス様が直々に返答する


(こんなにあっさり認めるのですか……)


 予想外にも、認めるとのことだった。軍事演習をしていただけだったなどと、もっと言い訳をしてくると思っていたのに少々意外である


「認めるのですね?では、国際法の規律に従って……」


 それからの進行は見ていて異様であった。傍から見れば淡々と進んでいるようにしか見えないと思うが、その淡々とというのが非常に異様なのである


 私が実際に条約の取り決めなどに現場に行ったのは数回ではあるが、そこでは双方が自分の言い分を全く曲げず、取っ組み合いがいつ始まっても可笑しくないという状況がほとんど。自分の国の利益が第一優先というのは当たり前の考えだから

 

 更に言ってしまうと、あのルーヘントが、である。強気で有名なあのルーヘントが従順な犬のように、割譲されていく自分の領地を前にしても多額の賠償金を前にしても、はいはいと頷く


「……そして、ルーヘントが宣戦布告を行った際に王子の暗殺未遂事件が起こったことについてです」


「……何だそれは?」


 初めて、はい以外の答えが出たのはこの質問であった。色々とあり過ぎて存在を忘れていたが、ことの始まりはこの時からである


「ええ、私共が調べた所ルーヘントの賊ではなく……一体どういうことでしょうかね?レンバートル特有の魔力が検出されたんですよ」


 全員が一斉にレンバートルの外交官の方を見る。その人の顔は血が全く無いという程白かったが、振り絞るような感じで蚊のような細い声で反論をする


「そ、それは……な、な、何かの、ま、間違えでしょう。皆様…の…ご存じの通りレンバートルは吹けば飛ぶような、じゃ、弱小国家ですので、戦争などを引き起こしてしまえば……ぎゃ、逆に不利益ばかり被ります。お、恐らく……我が国を陥れようとした者がわざとその賊にレンバートル特有の魔力を付着させたのでしょう」


 それは、確かに理屈は通っている。レンバートルの外交官の人は、この言い訳を必死に覚えたに違いない


「それは、どうでしょうかね?」


 私はそう言ってから、ドレスの手首の裾に入れていた丸薬を取り出す。卒業式の夜、あの男が奥歯に仕込んでいた自害用の毒薬である


「これは、あの場にいた賊が二人共所持していた自害用の毒薬です。一人はこれを飲んで死にましたが、もう一人の分は吐き出させてここにあります」


 勿論、片方が死んだというのは嘘だ。ただ、今は少しつく必要がある


「そして、その一人は奥歯に仕込んでいたのです。皆様は馴染みがないと思いますが、奥歯に仕込むのは少々昔の時代でありまして、今では主流では無いのです」


 私は好きだが


「ただですね、奥歯の方がいいという国が1つありまして。実はこの毒薬に使われている植物、その国以外の住人にとって何の毒にも成らないのです。では、何故その国だけ毒となり得るのか?その国の住人の持つ特殊な魔力のせいで、その毒を解毒する機能が低下しているのです」


 そう言ってその丸薬の半分を齧る。口内で粉々に噛み砕いてから飲むが、私の体には何の異変も無い。そのままゆっくりその外交官へ向かう


「他の毒薬の元となる植物とは違い、普通の人はこの植物は毒を含んでいるとあまり知られていない訳ですから、調達しても怪しまれずに済む。そういうわけでその国の暗部は重宝します。ただ、一つだけ欠点があって、解毒の機能が低下しているだけなので、隠して仕込める量だけでは死にきれない。中途半端に手足が動かなくなるだけ。完全に死ぬためには噛んで毒をより多く接種しなければならない。だから、そこの暗部の人は奥歯に仕込むことが多い。すぐに噛めるようにと」


 そして、その外交官の前に立つ。ガタガタと震えており、あの夜、衛兵に喝を入れた時を思い出す。そんなに私は怖かったのだろうか?


「ただ、生憎私はそれがどの国か忘れてしまったのでねぇ……あ、そうです。いいことを思いつきました。貴方が食べて死ななかったらレンバートルでないと証明出来る訳です。他の国なのでしょう?なら、無実を証明できる機会です。食べてみましょう!」


 まあ、仕事中は少しS気質であることは認めよう


 その外交官はと言うと、泣いて土下座して、ことの顛末を話した


 曰く、ルイトとルーヘント間で戦争が起こりそうであったから自衛手段だけ確保し、後は戦争を起こさせようとしたらしい。予想と合っていたので、今更に驚くことは無い


「……成る程な」


 ボソっと聞こえたその声に振り向くと、ダルゲス様であった。そして、その口には少しだけ笑みをたたえて。今までは無表情か不機嫌な顔だけであったのに


 レンバートルの処罰などが決まり、話すことが最後の1つになった


「ルーヘントがルイトに勝つために備えたという、武器を今からお見せします」


 そう言って、あの魔法陣とアタッシュケースの実験映像の記録水晶を流す。反応は案の定、驚き1色。ウェルリンテさんが見ていて面白いと言っていたが、確かにクスっとなってしまう


 そして、一通りの説明をする。とは言っても全部は言わない。異世界に関係する、ぐらいまでのことは言うが、ウェルリンテさんのことやリシスさんのことは言わない。


「これについては、いまだにわからない所が多いですので、対策本部を立てて調査を開始します。良いですね?」


 ダルゲス様の方を睨みつけるようにして言う。これは恐らくお父様にとって、この集会の締めくくりの言葉であったのだと思う。私だってそう考えていたし、他の人だってそうだ





()()()()()


 



 ダルゲス様から放たれたその言葉は、今までとは全く異なっているように錯覚する程の何かを含んでいた。勿論、同じ人が話しているので声は一緒。「了解」と答えることも文脈的に何も間違ってはいない


「あー、疲れた」


 そう言って、準備運動のように腕をぶらぶらさせた所でやっと正体が分かった。「殺気」である。先程の言葉と一緒に物凄い殺気も放たれた。どちらかというと、今まで抑え続けていた殺気を開放したような感覚


 スカートの裏の双剣に手を触れる。あの研究施設で、ある傭兵が使っていたもの。中々に使い勝手が良いので最近は使っている


「……ったく、時間をかけさせやがって。あの老害ジジィ共が」


 度々不機嫌そうに触っていた耳飾を外して、机に乱暴に置く。そして、さも楽しそうに、遠足前の子供の様な期待した顔でこちらの方を向く


「……今考えても笑いが込み上げてくる。一国の国王をただの荷物運びと時間稼ぎに使うなど、狂気としか言いようが無い。あの一瞬の場でよく考えついたものよ」


 右手を左腕に添えるというよく分からない行動をしたところで双剣を抜き取って構えだけ取る。何か魔法でも撃つのかと警戒してのこと


「さっき説明したからな、これから何をするかは大体分かるんじゃないか?」


 楽しそうな調子を崩さないまま、添えた右手で左腕の服を剥ぎ取った


 露わになった左腕にはここ最近見慣れた、先程記録水晶の中でも映し出されていた、あの……


「ルーヘント王家固有魔法を無理矢理魔法式に変えて組み込んだのがこの魔法陣。『異世界よりきたる純粋なグリファ質の魔素を猛烈なエネルギーに変える魔法』っていうのが正式な説明だがそんなものはどうだっていい。異世界の物質は大体グリファ質を持っているから、異世界のものを爆弾に変える魔法と思っておけば何も問題はねえ」


 猛烈な不安感がこの身を襲う。彼のその、こちらが驚くことを期待している純粋な子供のような目と、全人間に対する殺意を持った目のギャップがよりその不安感を際立たせる


「あの『銀の箱』が異世界からの物っていうのは正解だ。どうやってそれにたどりついたか気にはなるが、この際気にしない……どうせすぐ死ぬからな」


 さも当然のように、まるで仲良しのご近所さんが会った時に挨拶をするかのように自然に、『すぐに死ぬ』という、その言葉が会場に響く


(この際しょうがないですね)


 覚悟を決め、ダルゲス様めがけて駆け抜ける。後々、国際問題に発展するかも知れないが、あの言葉には嘘のかけらが全く感じられなかった。何かしてくるのは当然なので、ここで対処しないともっと大変なことになってしまう、そういう気がしたのだ


 これはお兄様も同じ考えだったようで、私とほぼ同じ時間に駆け出す。狙うは左手


「……おやおや、坊やに嬢ちゃん、話は最後まで聞かないと」


 寸でのところで、周りにいた公爵家の人に弾かれる。さらに跳ね返された時に何かされたのか体が全く動かない


「さっきの『銀の箱』。あれでも十分通用するが、異世界のものを召喚するには魔力が大量に必要だからな、数に限りがある。じゃあ、最も効率が良いのは何か?」


 純粋さと殺気を含んだ目から殺気だけが消え、本当に子供を見ているように思える


「それが『王の素質を持つ者』。ペログリファと呼ばれる異世界人。異世界人の持つグリファ質の魔力は全部使えば王都を吹き飛ばせるくらいの巨大なもの」


 しかし、言葉が最後になるにつれて、今度は殺気だけに変わっていく


 それより、最後に何か不穏なことを言った気が……


「元からこちら側にいるペログリファ、内なるペログリファはどういう訳かルイトの奴らが勘づいたからな。まったく、つくづく癪に障る奴らだなぁ」


 殺意が100%、否、120%の目には子供のようなどという余裕は感じられない


「ただ、外のペログリファというのもいる訳だ。さあて、流石にもう分かったんじゃあ無いのか?」


 (アタッシュケースを召喚出来るということは、異世界のものを召喚する魔法は確立されている。つまり、それは……)


「……なっ」


 刹那の出来事であった。先程まで限界まで気配を隠していたお父様が左手を狙い、そして、切断に成功。血が噴水の様に出る。お父様は捨て身で行っているので、そのまま押さえつけられる


 しかし、驚きはそこではなかった


「話は最後まで聞かないとなぁ?……親子揃って、ちゃんと再教育を受けとけよ。地獄じゃ習う暇のねえかもしれないがな」


 左腕を切られてもなお、満面の笑みでいるダルゲス様。狂気という言葉でしか表現出来ないその絵面


「もうすぐ召喚した外のペログリファの魔力がこの魔法陣に送られてくる。ただ、この魔法陣は1つとは言ってないぜ?ここに来てから、至る所に描いてある。ある石の裏やら、床の上やら。どれか1つでも残っておけば、その魔法陣に送られるってことだ」


(そんなことをしたら、自分も死ぬんですよ?)


「俺も死ぬじゃないかって?……王位は昨日、息子に継がせた。俺はただ単にペログリファの召喚時間稼ぎに来ただけ。さっきまでの条約も協定も俺が王では無いから、全部失効だ。ハハッ、この国は終わるからそれどころじゃ無いがな」

 

 そして、たっぷり間を置いたあと、地獄の祝詞の最初の文を読み上げるように言った


「時間的に後……30秒と言ったところか」


 言い終わった後の10秒間は誰も何も発せず、動きもしなかった。しかし、何か音がした時……それが何かは分からない。水が滴り落ちたのかも知れないし、猫が鳴いたのかもしれないし、はたまた幻聴かもしれない


 ともかく、その何かによる作用でどの場は混沌の場と化した。ある者は泣き叫び、ある者は怒りのまま元凶(ダルゲス)へと向かい周りの貴族に弾かれ、ある者は必死に魔法陣を探そうとし、ある者はそのまま呆然としている


ーー残り15秒


 そう、私の頭が告げる。仕事柄か、頭はクリアなのだ。とは言っても、私は何もできない


ーー残り10秒


 ……結局何もできない。お父様のように隠密力に優れるわけでもなく、お兄様のように対応力に優れているわけでもない


ーー残り8秒


 特化している点が無いなら、最初から他に任せておけば良かった。身の程知らずにも、自分は出来ると思い込んではしまったから


ーー残り5秒


 これだったらカスの方がよっぽど仕事をしている。浮気相手を良くもまあ、間違えられるもんだ。ウェルリンテさんが出し抜かれたのもあれだけだと思う


ーー残り3秒


 ……ウェルリンテさん?


ーー残り2秒


 何故、あれ程負けず嫌いの貴方がこの場にいない?貴方の仕返し……「ざまぁ」でしたっけ?それが妨げられた元凶がそこにいるのですよ?


ーー残り1秒


 そもそも、外のペログリファとは……





ーー残り……0秒


 …………





『……ようやく、全員揃ったわね。カス、ファリシス、ガイルナ家、ルーシュ様、レンバートル、ルーヘント。多いのなんの。そっちへ急いで帰るから、震えながらでも待ってなさい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ