第十話 森で
えらく素直になったファリシスを見て、ざまぁをする気にはなれなかった。この分はトレイスチナで発散しようと思い、森の出口へ向かう。その途中にこれまでの経緯を話した。
「……なるほど、ではそのリシスが王の素質を持つ者だったので狙われた。そして、間違えて私が誘拐された、と。」
「そう、それに気づいてからはベジュンスナの一人がリシスの護衛に、もう一人と私が貴方の行方を追いに来たの。」
ガイルナ家の名前は出せないので、ベジュンスナとして言う。
「一緒に来たベジュンスナの人が、ルーヘントの王家の魔法が関わっていると思ったの。で、ここがルーヘントの王家の魔法が使われている可能性が高い場所。」
「なるほど、だからここに助けに来て頂けたのですね」
(こいつに敬語使われるの慣れねーな)
そんなことを思いながら、その言葉を否定する。
「いや、それがそうじゃなくて、私が着いた所は研究施設のような所。そこに侵入してたら、貴女が一人で歩いているのが魔導具に映っているのが見えてね、そこにいた人に質問してこの場所に来たってわけ。」
これで話すことは全部話した。森を歩く片手間にするような話では無かったが、ひとまずは納得してくれたんじゃなかろうか。
チラッとファリシスの方を見ると、何やら考え詰めているような顔をしている。よく考えたら(よく考えなくても)さっきまで死にかけていたのだから、そっちのケアをしたほうが良かった。
何か安心させれるような言葉は何かないかと考えていると、急にファリシスが声を上げる。
「あの……本当に今まですいませんでした!ただただ貴女がウザかったという理由だけで、今まであんなに孤独な思いをさせてしまって。今日やっと分かったんです。一人でいる寂しさとか、殺されそうになる恐怖を……そもそも、今日も婚約破棄をして、貴女に無実の罪を着せようとも考えていたんです……軽蔑しますよね?命を助けた相手が自分を陥れようとしていたなんて……今ここで斬ってもらっても構いません。」
そう言って、目をギュッと瞑って背筋を伸ばし、斬って下さいと言わんばかりに体を大きく見せる。
(可愛いとこあるじゃん)
思わずチャラ男のようなことを思う。何かに似ているなと思ったら、前世での推しに似ていた。
いつもは生意気だけれども、失敗した時の責任を人一倍感じてしまい、それの償いをしようにも空回りしてしまう。
うん、尊い。
そんなことはさておき、話していた時に私は婚約破棄関連のことを避けて話していた。なぜなら、1から話すのが面倒くさかったから。でも、あっちから話を振られたから全部話してもいい。ざまぁしようとしていたことから色々と。
「……あ、ではもしこのことが無かったらどっちにしろ自滅していた訳ですね……色々と話が込み入り過ぎていて訳が分からなくなってしまいそうです。」
全部を話した時の感想はこうだった。うん、分かるよ。私も頭がこんがらがったから。私の場合は怒りが先に来たわけだけど。
「そろそろ、着くわね。」
丁度いい頃合いに森の出口に近づく。高い木ばっかりでここが出口に近いとは、外から入らない限り分からない。
「そういえば……お聞きして無かったのですが、今どこに向かっているのですか?」
「私達がまず行った研究施設よ。そこで貴女が放置されていた理由……それに関しては何となく予想はついているけど、それ以外にもリシスを攫って何をしようとしていたかを聞くわ。」
「それは……どのようにして?」
「普通にあの施設を鎮圧するだけよ……ってそうか、そりゃその反応が正常か。心配しなくてもそのベジュンスナの人はそこらの近衛兵よりも強いわよ。」
そりゃそうだ。今、研究施設に残っているのはルイライン一人である。普通の人なら一人で国家機密級であろう研究施設を鎮圧できるなど思わない。
ただ、あのガイルナ家の御令嬢である。単純な力量だけでも近衛兵よりも強い。そして、彼女が言った隠密行動で1回入ったことがあるというのはその建物の間取りを完璧に把握しているということに他ならない。建物の構造まで利用された戦いをすれば、勝ち目のある敵などいない。きっときれいに終わらせているだろう。
そのまま森を抜ける。そして、そこからは平坦であるため研究施設があるところまでは走っていく。
「……中々独特な、建物ですね。」
研究施設の目の前まで来てその建物を見る。普通思い浮かべるような研究施設は直方体のような白い建物。しかし、今目の前に見えるのはそれが丁度斜めにスパッと切れている。
「すいません、少々失敗してしまいました。」
その声に振り返ると、泥まみれのルイラインがアタッシュケースを両腕に抱えて立っていた。




