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第一話 ……お前が間違ってんじゃんじゃねぇよ

読もうと思っていただきありがとうございます。

「ウェルリンテ、貴様との婚約を破棄する。そして我が真実の愛の相手、ファスに行った様々な悪行を今ここで断罪する!」


 寒気がするような台詞を吐いた声の主人は、群衆の視線など意に介さずこちらをまっすぐ睨みつけてくる。そのエメラルドのように透き通った目が、人間かと叫びたくなるような端正な顔に貼り付けられたままこちらに向けられると、流石に一瞬息をするのを忘れてしまった。


 とは言ってもだ。お約束のような婚約破棄をされた後、私のすることなど決まっている。その為に用意だってしてきたし、隅々までチェックし確実に成功するように努めてきた。


 低血圧ながらも朝5時には起き、自分の立ち上げた事業はほとんど孤児院などに寄付もして、買いたい香水と本を我慢して今日の為に頑張ってきた。だからこそこちら側でミスなどするはずなど無かった。そう、こちら側では。


(……てめーが間違えんじゃねぇよ)


私が目を向けている人物はただ1人。先程ファスと言われて、今は声の主であるカイルスに庇われるようにして腕の中に入っている可愛らしい女性。何もかも引き込むような黒い髪と黒い目。神秘的なようでいて、どこか幼らしさが残る。彼女の横を通れば10人中20人振り返ると言われても納得の容姿。


 そして、まさに私がこの場にいて欲しい人物だった。ただ一点を除けば


(リシス=スクルビア……)


 別人であると言う一点を除けば……





 気づいた時には前世の記憶を持っていた。熱を出す等の出来事で急に思い出したわけでもなく、生まれながらにして持っており皆そうだと思っていた。しかし、前世の話をしても冗談だと言って軽く受け流されるか、忙しいと言われて怒られるかで自分だけ特別なのだと分かった。


 月日が流れて7歳ぐらいの時には、だいぶ思い出していた。自分は向こうの世界『地球』では16の女子高生だったが、動物園から逃げ出した虎から幼い子を助けようとして、助けた結果警察から賞状を貰った(死んで無いよ)。その夜、調子に乗って自分で買って初めて食べた牡蠣にあたって死ぬという割とダサい死に方をした。


 そんな訳で神様が憐んでくれたのか別世界に転生していた。『地球』より科学分野では劣るが、その分魔法なるものが発展しており見ていて飽きない。公爵家として貴族の中でも上の地位で生活に困ることは何もなく、不自由なく暮らしている。


 しかし、時間が経つにつれある疑問が浮上してきた。自分が友達から聞いたことのある……所謂「悪役令嬢」に近づいていっているのではという疑問だ。別に何かしたというわけでは無い。しかし、公爵家の娘という立場やこの扇子の下で高笑いするのが似合いそうな顔をしている私はどうもそんな予感がしていた。そしてこの手の悪い予感は外したことが無かった。


「こちらがお前の婚約者、第一王子カイルス様だ。未来の国王になられるお方だから、お前も王妃になることをしっかり意識しておきなさい。」

 

 極めつけはこれだった。私の顔を見ず、興味がないと言わんばかりに全身から近づくなオーラを出していたカイルスに対し私は思った。


(こいつ、絶対に浮気するやん)


 『地球』で16年、部活の先輩後輩、学校の女子、更には他校や芸能界からも浮気探知機として定評を頂いていた私の勘が告げていた。因みに庭師の人と、お父様の浮気も当たっていたので衰えてはいない。


 王子が浮気すると聞けば、あまり小説漫画には触れずゲームばっかりして友達から聞き齧ったことしかない程度の私でも、断罪、悪役令嬢、婚約破棄というキーワードが思い出されるのに時間は掛からなかった。つまり、私はいつかお約束のような婚約破棄をされるのだという確信が心の中に出てきた。


 しかしだ、忘れてはいけないざまぁもある。この世界は何かの小説とかゲームのシナリオの世界という訳では無いから、これからのことなど全く分からない。逆に言えばなんとでもなるということだ。


(できるかも……いや、やれる!)


 あーだこーだ言っているが、結局はざまぁをしてみたいという好奇心が勝ったからやろうと思った。何をやるべきか考え、その為に準備して努力は惜しまず着実に計画を推し進めていった。


 カイルスはと言うと、案の定浮気していた。しかも堂々中学入学初日から。私と婚約を結んだ次の日から。そして、そのお相手がファリシス=スクルビアことファス。容姿は冒頭で言った通りで、その性格は計算しているのかどうかは分からないが守るのが義務のように思えて仕方がないらしい(私の仲間が近づいた時の感想)


 とは言っても、ファリシスさんは心優しくて誰かの婚約者だったと知らなかったり、カイルスに脅されて嫌々付き合わされていたなら話は別だ。


「ご機嫌よう、ファリシスさん。よかったらこの後私の家でするお茶会に参加してくださらない?」


 丁度カイルスがいなくなって、ファリシス1人になったところを見計らって声をかけてみた。すると、先刻見せていた可愛らしい顔から、親の仇を見るかのような顔をして睨みつけてきた。


「あら、これはこれはウェルリンテ様。このような男爵家を公爵家のお茶会に呼んでいただけるとは身に余る光栄ですわ。でも、何故かしら……もしかして私がいないとカイルス様が来ないからですか?あ、ごめんなさい。私思ったことを口に出してしまう悪い癖がありまして、本当にごめんなさい。」


 と、正面から喧嘩を売られた。この喧嘩を買わなかったら浮気探知機の女として、歴代の浮気探知機の方々(いるかは知らないが。というか絶対にいない)に顔向けが出来ない。この場はとりあえず、言い返そうと思って口を開きかけた時カイルスが帰ってきた。


「ウェルリンテ、貴様ファスに対して何をやった!」


 何故怒られたのか分からないまま、ちらっとファリシスを見るとその目にはいっぱいの涙が浮かんでいた。


(今1秒しか目を離していなかったよ?)


 当然誰かが入ってきたら、私がファリシスをいじめているように見える。しかしだ、どうやったらそんな一瞬で涙を出せるようになるのか?普通に知りたい。


「いえ、ウェルリンテ様は悪くないんです。私が、私が……」


 泣きながら話しているファリシスの話を信じ込んだカイルスは、私を部屋から強引に押し出した。それからというもの、私が階段から突き落としただとか、池に沈ませただとか、教科書を破っただとか、そういう噂が流れ始めて一層私は孤立していった。




 そして、遂に高校卒業式の日に婚約破棄されることが決まった。事前にこの情報は入手していたし、同時にないことないこと罪に問われるだろうから、それに対する証人も用意した。後はざまぁ決行するのみとなったその時だった。


 ふとした違和感。彼女を見ていると、どこかいつもと別のものを見ているように思えたからだ。そして、その違和感の正体が分かった。


「あれ?お姉さんじゃなくて妹さんじゃないの?」


 ぼそっと、私の仲間であるライラスが小声で呟いた。そして、私はそれにゆっくり頷き返す。


 姉妹揃って美女であるという評判のスクルビア家の娘。あろうことか、あいつは間違って姉のファリシスではなく、妹のリシスを連れてきた


(……てめーが間違えんじゃねぇよ)


 私の心の中で、何度もこの言葉がこだました。


読んで頂きありがとうございます。主人公の死因は覚えていただいておけば……


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