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76話 「コーネリアと」




「いいこ、いいこねコーネリア…」


わたくしは庭にある小屋の中に入り、コーネリアを撫でていた。近頃のコーネリアは外に出たがってよく怒るけど、うちの庭は高い柵ができているのでコーネリアが怒る前に外に放してやらないとと思った。


コーネリアの黒い毛はわたくしの右手を慰めてくれる。彼はいつもわたくしを必要としてくれる。


「ねえ、コーネリア。わたくし、ひとりぼっちになってしまったの。やっぱりね…」


照りつける陽を遮っただけで外の光が薄暗く差す小屋の中に、わたくしはその言葉を置いてきた。




今日はお嬢様のお屋敷にまたご訪問させて頂く日だ。わたくしは憂鬱で仕方ないのに、そうしたいとしか思えない。感じない。やはりわたくしは「ターカス」だ。神は一体何をお考えになってわたくしの魂をロバート・ゴルチエへと分け与えたのだろう。でもこんなことになれば神の力を信じるよりほかない。不可解な幸運にいつまでも頭を悩ませながら、わたくしはフォーミュリア家へ赴いた。



ゴルチエは馬車に憧れてどうしても馬車に乗りたいと言ったらしいが、現代では馬を使役するのは法律違反なので彼はシップに乗る際にいつも皮肉ばかりだったらしい。しかしわたくしはそんなことはしない。そんなことをしているわたくしを見たら、またマリアが自信を失ってしまう。そんなわたくしの、ゴルチエの変化にマリアは毎日驚いていて、もうすっかりわたくしが人格の転換する病気だと決め込みかけているほどだ。




「お嬢様」


「男爵、ようこそいらっしゃいまして。今日は会わせたいお友達がおりますのよ」


「それは楽しみですな」


お嬢様との会話は短かった。だんだんと距離を縮めてわたくしがお嬢様のことを言い当てるたびに、お嬢様は不安を隠しながらもわたくしに挑戦を突き付けるため、わたくしとお会いになるのだけをやめない。


「でもね、それがウサギなのよ。元野ウサギですの。ですから、お触りになったあとは充分消毒はできますけど、お嫌ならどうぞご遠慮くださいませ」


お嬢様は頭を下げてから顔を上げわたくしを見る。その目はいくらか厳しかった。なぜだかはわかっている。コーネリアを認めない者を夫になぞ、お嬢様はお考えにならないだろう。


「なんと、どちらでお捕まえになったので?お名前をお聞きしたいですな」


お嬢様は大喜びを隠してにやっとし、「コーネリアと申しますの。庭で遊ばせる時においでになって」とお言いになった。




わたくしは久しぶりにコーネリアに会った。もちろん彼はゴルチエなど知らない。その小屋は、野生のウサギだったコーネリアにふさわしく日陰と日向がいつもできるように作られていて、干し草でたっぷりと柔らかなベッドが用意されていた。隅の方にウサギ用に作られた綿入りの可愛らしいベッドもあったが、そちらはあまり汚れておらず干し草の一部がへこんでいる。


「やあ、コーネリア。黒いウサギなのですか。ウサギとおっしゃるので白いのかと勘違いしておりました」


「あらそう?わたくしウサギのことをたくさんお勉強しましたの。茶色いウサギも白いウサギもおりましてよ。コーネリアを捕まえたのは温暖気候の土地だったから、雪は降らないの」


「そうですかそうですか。それでは白くなってしまっては捕食されてしまいますからな」


「ええ。あら、なんだかコーネリアが近づいてきてるわ」


「ご興味がおありかな?コーネリア。もしかしたらわたくしのポケットを見たいのでは?」


コーネリアに話しかけながらポケットを探るフリをしたが、もちろん何もない。肩をすくめて見せるとお嬢様がお笑いになり、ポケットからコーネリアの大好きな生のニンジンを取り出した。


「こちらをあげて。あなたがいらっしゃるといいことがあるようだと思わせたいの」


「ありがたい」


わたくしがコーネリアの鼻先にニンジンを持っていくと、彼はいつもの癖で焦ってたくさん食べようとがっつく。ばらばらにされてぽろぽろ落ちていくニンジンを拾い集めておくために、お嬢様が少し屈みこんだ。



「食べ終わったみたいね、お散歩よコーネリア」


その時お嬢様はコーネリアの胃袋の辺りを両手で抱えてしまったので、わたくしは思わずこう言ってしまった。


「お嬢様、手術痕には触れないようになさ…」


しまったと思った。すぐに逃げ帰ってどうしようか考えたいと思った。それなのにお嬢様はこちらを振り向き悲しそうな顔をしている。死ぬほど驚いたんだろうに、お嬢様は一言も発さない。


そのままお嬢様はわけもわからず泣いて泣いて、わたくしが帰るまで何も言わなかった。最後にお嬢様は、「今度、またお話に来てちょうだい。お話はおありでしょう…」と消え入りそうな声で言っただけだった。




つづく

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