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67話 「決戦前」




舞台はおそらくメキシコへ完全に移った。俺はそう見たから、一層毎日に危機感が増した。


会議の結果、俺は実働部隊のトップでその下にマリオの部隊、更に下部組織と組まれ、探索部隊のトップはバチスタに一任された。奴はあのラロ・バチスタ博士の甥御だ。しかし先走りは絶対許されない。


そうして、指示役は人間だがエンジニアに作戦を渡して実現可能な形へと変容させ、ロボット戦となった。それならば、俺には向かわなければならない場所があった。





「マリセル!叔母様のシップはもう着くかしら!?ねえねえロボットがないなら持っていくものは多くなるわよね!?」


「お嬢様、大丈夫でございます。初めてのことでさぞご心配でしょうが、慌てなくていいのですよ。それから、お外に出ても慌てていてはレディーとは言えません」


「もぉ〜、最近のマリセル、なんか厳しい…」


マリセルははしゃいで慌てる私をたしなめた。今まではお稽古ごと以外は自由だったのにと、私はマリセルに向かって少し唇をとんがらせて見せる。


「申し訳ございません。もちろん、今の貴族社会では子供の元気さもなるべく許容されるようにと法整備もされましたが、やはり古くから慣習を守ってきたのがお嬢様のような貴族のお家の方なのです。お嬢様に敵ができないようにとのわたくしの言葉だと、信じて頂けませんか」


私はそれですっかりマリセルが大好きな気持ちに戻ってしまった。それから「ごめんなさい、本当にありがとう」と静かに言ってみると、マリセルは「もう挑戦して頂けたのですね。お嬢様はすごいです」と褒めてくれた。


そこへ玄関のセンサーから来客が知らされたので、私とマリセルはユーリとオスカルを連れ、叔母様と出発しに玄関へ向かった。でも、現れたのは叔母様じゃなかった。


「あなたは…?先ほど応答しなかったのは、叔母様が何かに手間取っていたからじゃなかったのね…」


私はその人の筋肉の盛り上がった腕が恐ろしくて、歩行器を後ろに下げようとしてしまう。するとその人はマリセルを強く睨みつけた。


「我々はこの令嬢が誘拐された過去を記録上知っている者だ。君のこの不手際でまた令嬢が危険に晒されたらどうする」


「と、とんでもないことを…どうも、お嬢様をご心配下さりありがとうございます、確認を徹底致します…」


「ふん、俺は軍人だ。今は心配あるまい。しかし、次には俺が居ないかもしれんぞ」


「は、はい!それで…ホーミュリアに何の御用でございましょうか。わたくしたちは今出かけなければならないのです」


「端的に言う。外出はできない。私が居る間、君達には違法性がないことを立証するべく立ち会いをしてもらい、前当主がロボット工学において残したデータを直接閲覧させて頂きたい。これは上からの命令なのでね」


「ええっ!?お父様の!?な、なぜです!?お父様が何かをなさったの!?」


「いいや、何も。ただ、貴女の父君のお力を我々は借りなければならないのです。理由をお教えすることはできませんが」


その人はその時後ろを振り返り、「こいつはデータ閲覧と運用のためのロボットです」と言った。ヒューマノイドタイプのロボットが「ロボット」と呼ばれているところを見ると、もしかしてロボットがあまり好きじゃない人なのかなと思った。仕方なく私たちはすぐに叔母様に連絡をして、後々私の家で男爵様を招いて非礼を詫びようということになった。まったく。大勢の方が予定を合わせて頂いた日をぶち壊しにするなんて。




俺は“イズミ”のエネルギーを気にしてやりながら、数日間ホーミュリア家に滞在した。軍に戻ってから、結果としてイズミは「大変に明晰で、且つ体力のある方です。これほどの研究は協力者が何人居ようともできないでしょう」と述べ、「詳細に記された物からダガーリア氏のパターンがいくつか読み取れますが、単純なパターンではありませんので、文書化にはあと5時間を頂けませんか」と言ってきやがった。


「あ?5時間?なんでそんなにかかるんだよ?お前こそ“明晰”じゃねえのか?」


「ええ、これは大変に複雑な思考なのです。それをこちらの強みにするためにパターン化するのは、少々情報の精査が必要です」


「はーもう…いつ決行になるかわかんねえんだぞ…わかった、やれ。すぐにやれ」


俺はイズミを追い払うように片手を軽く振る。


軍に戻って通常の業務に就いていた、つまり書類仕事に追われていたわけだが、イズミを部屋に置いておきたかったので隅の方で端末を操作させた。


作業中、イズミが二口だけ口を開いた。


「中将、貴方はロボットがお嫌いなのでしょう」


「はあ」


俺はインクでサインを続けながら返した。


「ですが、わたくしが軍に志願したあの時、まるで人間のように選択権を与え、わたくしを受け入れようとしたのは貴方一人でしたよ」


「そーかい。こちとら情報をたっぷり持ってる人手が足りてないんでね」


そう言って机からまた手を振る。どうやらイズミは満足そうだった。しかし俺は本当にそう思ってそうしたんだ。“イズミ”はラロ・バチスタの補佐をしていた。ラロ・バチスタの研究のパターンを知っているのは今やほとんど彼だけだ。大丈夫だ。こちらにはバチスタとホーミュリアがある。俺は初めてデータを信用する気になったかもしれなかった。




翌月の2月15日。わたくしは前回欠席した男爵家の舞踏会にご出席なさった方、ご欠席となった方へのお詫びの招待状を出し終わり、疲れ切って腱鞘炎になりかかった手をさすっていた。


マリセルの話では、腱鞘炎という症状らしい。だってそんなの、こんなに手紙を出す機会なんてないんだからわたくしは知らないわ。現代の人は貴族でない限りこんなにお手紙をいっぺんに出すわけないと思うの。


わたくしは非礼を詫びるのだから、メイドに詫び状を書かせてはいけないこと、たくさんあるけどどうか頑張り通して欲しいこと、当日もきちんと頭を下げて詫びを言うことを、マリセルから教えられた。


もちろん悪いことをしたら謝るのは当たり前だけど、大人って謝り方も正しい方法と間違った方法があって、間違った謝り方をしたら謝ったとは思われないのね。貴族じゃなくても大変だわ。


でも、たくさんの方をおうちにお招きするなんてとても楽しみだわ!むしろこうなってよかったかも!だって、全部が初めてなのよ!


そう思ってオールドペンを置いたわたくしの腕の隣で、ドサッと紙束のようなものがデスクに落とされた音がした。見ると、マリセルがそれを抱えてわたくしの顔を見ている。


「お嬢様、こちらがゲストになる方のお顔とお名前、それからタブーとなっている話題と目されるご事情をまとめたものです。一度目を通して下さい」


「これ…全部…?」


わたくしはそれを指差しておそるおそるマリセルに聞くと、マリセルは「もう少しのご辛抱です。今お茶をお持ち致します」とだけ言った。それで私は首をぐるりと上へ向け、一度だけ「あー!」と大声で叫んだのだった。





つづく

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