61話 「私の知っている事」
お久しぶりの投稿となります。
私は動けずに居た間で考えた。
確かに私はこの先、廃棄されるであろう。その事には反抗したい気持ちもあったが、しかしそれで人の世が戦乱となったりするのは、私達ロボットの望む世界ではない。そんなのはこの老人だって知っているはずだ。
それに、私はフォーミュリア家のメイドロボットなのだ。あの家に戻り、あの不思議な少女に、何か聞き忘れた事があった。
私は、不敵な笑みを下げない老人、デイヴィッド・オールドマンに向かい、こう言った。
「わたくしは、戻らねばなりません。たとえ廃棄されようとも」
するとオールドマンは何度か深く頷き、こう返す。
「なるほどなるほど…君の心配はよく分かった。それを儂が必ず覆し、この世を平和にする事までして見せる…そう言ったらどうするね?」
彼は私の心配まで織り込み済みでこの話をしていたらしい。そして、彼はこの兵器開発を平和利用の足掛かり程度にしか考えていない。
手段は問わず平和を追及する。それはテロリズムの根本だ。
「あなたのようなテロリストに手を貸す義務は、私にはありません。デイヴィッド・オールドマン、貴殿は殺人、誘拐等の罪で逮捕されます。自首を勧めます」
そう言うと、その時だけオールドマンは笑うのをやめ、脇を向いた。
「君に言われたくないね」
「そうですか。では」
それだけ言って私はオールドマンに手のひらを向けた。そこからは動物捕獲用の磁力ネットが飛び出る。捕獲したかどうか解るように視認は出来るが、それは単なる仕様で、元々は目に見えない磁力のネットだ。
白く光るネットが彼を捕らえると思った途端、脇からは「エリック」が飛び出てきて、あっという間に彼らは居なくなった。
「待ちなさい!」
「メルバ殿!大丈夫ですか!」
私が上階の方へ戻った時、命無き兵士達は木っ端微塵にされた後だったが、80体の兵器ロボットの他に、やむなく駆り出されたらしいアルバ殿とメルバ殿は、かなりのダメージを負っていた。
「絶対に地上には出せなかった…なんとか完全破壊はまぬかれたわ…」
中でも特にメルバ殿は、再起動不能、エネルギーセーブの状態からシステム回復が出来ず、アルバ殿はシップの手配をポリスに頼む通信をしていた。
兵器にされ、亡くなった方々の遺体搬送は軍が負い、私達操作人員の方はポリスのシップで移動する事となっている。
軍の遺体搬送シップは、密かに教会内部まで到達して誰にも見られずに遺体をシートに包み、そこにはシートに元々付属の識別コードだけがあった。
ロペス中将はこっそりと、「彼らは身元確認はしても、遺族への知らせはないだろう」とだけ言っていた。
これは国家を揺るがす策謀だ。人体兵器が存在するなど、人々に知られてはいけない。だから、彼ら実験対象をオールドマンがどのように選択し、いつどこでどのような手段で攫ったのかは調査しても、結果は軍の中で機密として保存されたままだろう。
私はまだ気がかりな仕事を終えていない気分で、簡単な動作確認だけをしてもらい、半日だけ家に帰れる事になった。
「おかえりなさい、ターカス」
その庭にはいつもの通りに、四季折々の薔薇が咲き誇り、今は3月だったので、秋に咲く美しいクリムゾングローリーが主だった。
地軸のズレにより大きく変化したメキシコの季節。オールドマンにより失われた平和。それなのに、この少女だけは私を見つめている。彼女の信じている物は一体なんなのだろう?私は、それを彼女に聞きたいのだと解った。
しかし、その時私のデータにロックが作動し、エラー音が小さく鳴る。すると私は、自分がやるべき事を思い出した。
「お嬢様、ただ今帰りました。ですが、滞在は半日となります。帰宅がいつになるかは分かりませんが、今日はわたくしと過ごしましょう」
「ええ、ターカス。そうよ、もうお食事の時間だわ」
彼女は少し俯きがちに私の手を取り、私たちは食事室へ向かった。
私は彼女の斜め左後ろに直立不動の姿勢で立っていたが、彼女が呼べば働いた。
「ターカス、ごめんなさいね」
彼女がフォークを落としそう言ったらそれを交換し、歩行器をもう少し進めてもらいたがったらそうした。
食事の最後の方に、彼女の前にマリセルが出したのは、「エスカベッチェ」だった。前菜として出される傾向が強かったエスカベッチェは、今は魚が手に入る度に大量生産され、各家庭に保存食料として冷凍輸送されてくる。
ゼリーの中に入った魚の身に、私は思わず手を伸ばし、ヘラ嬢を止めかけた。彼女は魚が苦手だったはずだ。
「お嬢様…」
私がそう声を掛けると、ヘラ嬢は振り向き、お笑いになる。
「大丈夫よ、ターカス。わたくしもこれから、社交界に出入りしなければいけませんもの」
まるでもう世の中を知った後かのような彼女の口調は、なぜか私にショックを与え、私はそれがなんなのか理解出来ず、そのまま黙っていた…。
つづく




