04
父パーシヴァルの教育は本当に厳しかった。
学問、教養を叩き込む。中身が長命だった魔女の記憶持ちだから物覚えが良かった。
その報告を聞いた父がなら…と、更に厳しくなった。
勉強はまだいい。こちらで言う古典なんて自分が使っていた言葉だから苦労なんて全くしなかった。
1番苦労したのが勉強ではなく父肝煎りの武芸。
乗馬、戦術運用、実技…紙の上だけでなく我が家の騎士団の演習や稽古に放り込まれる。
剣を振り回すだけではなく求められているのは近付く人間全員武力で叩きのめす。
という、父の確固たる決意が感じられる内容だ。
姿を隠す方法も認識阻害を施した眼鏡をかけるようにしてあたかも目が悪い。と、見えるように演出もしながらも一人前の騎士ではなく武人として育てるということらしい。
家の騎士達も父から娘の為に特別扱いせず護るために徹底的に鍛えろ。と命じているから余計に私の逃げ場がない。
お陰で魔法は魔女の時の感覚と記憶で使える。
魔力も全盛期よりは落ちたが隣国の聖女の血脈とクソ王家の血の影響でかなり多い。普通この量を操作出来ずに暴走するらしい…適度に発散して操作を覚えるなんて余りいない。
代わりに私は社交というのを全くしなかった。父曰く。そんなの不要だと。唯一の公女が誰かの顔色を伺う必要ない。ということらしい。王家とて非公式ではあるが王の妹で血統の点だけを見ればどこぞの男爵令嬢を母に持つ王よりも高貴なのだから誰が文句を言えるのか。というのが、大人たちの見解らしい。実際の戦場で魔物討伐、国の騎士団にも混ざって参加させられた。
従僕として。
「お父様、大丈夫なのですか?」
「私の従僕という名義なのだから気にしなければいい。私が責任を取るんだ。」
「そうなのですか。」
髪を少年がするように簡単にまとめて服装も騎士服を私のサイズに作り直している。
声が高いのも子供だからで通じるし国の騎士団は私を見ても侮るだけだ。
ただし、我が家の騎士たちはそういう扱いではない。物心着く前から騎士団で揉まれて運動量や技量も頑張って磨き上げている。その前から運動はさせられている。
学園入学までは現場でひたすら経験を積むことに重きを置く。それが父の教育方針で身体強化を併用したら私は相当強い。実力はある。
同行するのはいいけれど、今日は王城で手合わせ。殴り合いではないが各家の騎士選抜と王宮の近衛の精鋭が混ざった殴り合いの日。
父は中立で参加する側ではなく運営側なのは分かるが、なぜ私が参加する側に入っているのだろうか。
「お父様!?」
「近衛から喧嘩を売られたから買っただけだ。」
「お嬢様なら大丈夫ですよ!身体強化だけは認められていますから!」
「そうですよ!!他の家の侮る令息子息の鼻柱へし折りましょう!!」
「他薦多数だ。諦めなさい。まぁ、顔がバレるのは面白くないからこれを付けていなさい。」
父が用意したのは仮面。
しかも目元だけ隠すのでは無く全て隠すものだ。息苦しいし、視界も狭める仮面を付けて試合をしろと。父の趣味なのか、明らかに相手をバカにしたような笑い方をしている。もっと真面目な仮面はなかったのだろうか。父。
「お父様、確信犯でしたか。」
「ヴェロニカが私の思っている以上に覚えが良かっただけだよ。当日は認識阻害で髪の色も変えよう。」
多分托卵されたはずなのに母にそっくりだからそれなりに溺愛されてる気がする。仮面を付けて鏡を見る。これを付けて剣を振るう…視界も狭い。息もしづらい想像できないなぁ。練習しないとまずい。
「公女様手合せとはどうされました?」
騎士団の手合わせの場所に仮面を持って向かうと訓練をしていた騎士達に声をかけられた。
「これ付けて剣を振るって見ようかなって…練習しないと多分動けない。」
「そうですね、じゃあ各種武器を使う人間と乱取りしましょうか。」
え????見上げるとニッコリしている騎士たち。そこまで求めてないのだけれども…向こうは私がやる気だからとしてくれているはず…困るのは私だし。
「分かりました。出場枠を私が奪って良かったのですか?」
「公爵様の真意は分かりませんが王子達も出るようなので公女様とかち合った時に完膚なきまでに叩きのめして欲しいのではないかと推察しております。」
王子達の実力を計るのと側近や護衛を決める為の武芸試合だ。王子達の護衛は基本引き抜きやコネになるが断ることも出来る。断ったあとが面倒くさいが……
取り入られるにしても交渉材料にもなる。
腕自慢もいれば出世目的というのもある。側近に引き抜かれて影響力を持つためというのもあるが、公爵家の騎士達は王宮に向かう人間はいない。
我が家は王宮騎士団よりも給料払いは良いし、寮の環境も良いらしい。そのため希望者殺到するから試験が厳しい。王宮騎士団長をしているパーシヴァルの引き抜きが基本らしい。
領官、騎士団が外部から就職希望が多すぎるというのを兄たちから聞いている。
我が領地はとても人気らしい。剣を持ち、技能を磨く。仮面をつけると息苦しい。視界が悪い。別の戦い方をする必要がある。剣ではなく拳の方がいいかもしれない。そう思いながら当日に向けて仮面をつけて訓練を続けた。