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ラファエルとエメル、アンジュでアレに参加していた貴族と聖王国との状態や友好関係、色々調べてもらうことにした。
私の仕事は調べることではなく積み上げられた情報を全て頭に叩き込むこと。
父がその日のうちに話の調整をしてきたのか、今は使っていない、大所帯の来客にも対応出来て本邸に隣接している別邸に王位継承権第13位イクス・ヴェリタス様御一行が引っ越してくることになった。
「お父様、王家は何も言わなかったのですか?」
「ヴェリタス側の強い希望。ということだから無下にはできないよ。」
「そうでしたか。」
「聖王国からの留学生と言っても彼は王族ではないから王宮に身を寄せるのは肩身が狭いから遠い親戚である我が家がいいと話をしてきたそうだ。」
「……継承13位って下の方ですよね?」
「そうだな。父親が宰相だからな。ヴェリタス宰相の妻が王族でその序列が適応されてる。」
留学生としての受け入れをしたけれどいいのかな。まぁ、国内のドタバタを見せるくらいなら我が家でくつろいでもらった方がいい。技術は領地で発展しているから領地を見られない限り特に影響はない。
便利な魔道具も屋敷や設備に使っているくらいだ。ヴェロニカは屋敷内でも仮面かなぁ。
「屋敷でも仮面を付けることにして……顔の半分を隠す物もあるからそれを取り寄せておこうか。」
私用ではないが、先祖の使っていた仮面が領地にあるらしい。
それを取り寄せてもらってから私用に調整する。魔力の属性や私の魔力の波や術式が解けないように調整するようだ。それにしても昔からシュヴァリエの男は血を引く女にとことん過保護になるらしい。
私の魔力量は圧縮して誤魔化しているが、全盛期ほどではないにしても父より上になる。
王都をたやすく吹き飛ばすほどの技量、魔力制御もできる。
「承知しました。邸の中は見られてもいいですか??」
「家の中には見られて困ることはないぞ?家にあるのは領地の型落ちばかりだ。欲しいなら領地で買うくらいなら可能だ。」
「わかりました。お父様は賛成なのですか?」
隣の国の宰相の息子なんて家に入れて。そう思いながら見上げると見られて困るものは特にない。と、さっぱりしていた。
「交流はなかったがこれを機に持ってもいいだろう。嫌なら断ればよかったか?」
「いいえ。私も聖王国の話や文化には興味があります。」
公爵家としては迎える準備をする。ラファエルが気候や文化を調べてもらって調度品をメイドたちと整えて、食文化や礼儀作法を改めて勉強をする。向こうも片付けもあるので月末には移動してくるようだ。人造人間達が頑張って動いてくれているので庭の手入れから部屋の大掃除も全て行われた。全てを新調ではなく、掃除をするだけ。ただし、その際に傷んでいるものがあれば交換をするようにしていた。
「聖王国の情報が民間程度しかない……」
「官僚同士の交流が公的なものしかありませんからね。姫様、室内用ドレスに着替えませんか?」
ナイトドレスのまま徹夜をしていたみたいだ。ずっと書類に目を通していたから…夜も文字が読めるように魔力で視覚強化していたから忘れていた。
「……流石に疲労からくる眠気を誤魔化すのは良くないか?」
目が疲れた。
肩もこった。
筋を伸ばそうとしたら背筋を指でなぞられた。
「あ、アンジュ?」
「熟睡出来るように努力致します。」
「分かった……」
眠気を誘う香油を垂らしたお風呂で身の回りの世話を任せているとあまりにも心地よいのでまぶたを閉じた。イクス・ヴェリタス……王族よりはマシだろうけれど。
おじ様たちが家に来た時に設備が何世代前のを使っているんだ。
そんな嘆きを言いつつも王都だから仕方ない。
そういう話をしながら父と家財道具をどうするか。そんな話もして兄達が領地から手紙しかよこさない所を鑑みると領内は異国に近いほどに発展しているとだろう。ただ情報を外部に出さないだけで。
公的なもの研究データや何年分の数字の動きが知りたいと連絡したら書面で大量に送られてくる。
紙を大量に作る能力、技術、価格を下げれるほどにあるのだろう。王都ではまだ羊皮紙を使って木札に字を書き込んでいるのに……送られてくるのは書式、大きさ、全てが整った報告書。
領主として国に出す書類は書式に則っているから露骨に技術を隠しているのだろう。
お風呂から上がって食事をしたら寝ろ。とでも言うように全てが整えられていた。
野菜がごろっと入ったスープを食べて体温がポカポカと上がってきたら睡魔も来る。
掛け布団が物凄く肌触りが良く、ふわふわな物に変わっていた。
「……布団変わった?」
「はい。公爵領より安眠出来るよう繁殖が成功した尾長鳥の羽毛布団です。」
「……明日お礼状書くから準備だけしておいて。」
私の日用品がさらに豪華になっていく。領地でも高級品なんだろうけれど、王都で見るものの値段ではないはずだ。お礼状だけで見返りを特に求められていないので良いのだろう。多分。