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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(*´▽`)ノ 雪の短編集 ლ(╹◡╹ლ)

少女は彼女に恋焦がれ

作者: 松内 雪

 彼女が机に伏せて眠っている。

 放課後の教室。他には誰もいない。


 ――ごめん。待たせすぎちゃったね。


 わたしは静かに、教室のドアをスライドさせた。

 そして、彼女を起こさないよう慎重に近づく。


 わたしの席で眠っている彼女。

 気持ちよさそうな彼女の寝顔を見ると、とても起こせない。


 わたしは彼女の隣の席に座って、同じように机に伏せた。

 ここは彼女の席。わたしがいつも目を向けている場所。


 顔を横向けると、そこに彼女がいる。


 絹のように艶やかな黒髪。お人形さんのように整った顔。

 愛らしくカーブを描くまつ毛。綺麗な唇。


 ここはわたしだけの特等席。他の誰にも渡さない。


 ――あなたのことが、好き。


 いつもあなたは、わたしのことを好きだと言ってくれるけど、わたしの好きとはきっと違う。


 本当の気持ちなんて言えるわけない。だって、一緒に居たいから。


 しばらくすると、教室の窓から夕陽が射した。

 オレンジ色に包まれた教室は、見慣れた景色とは違って特別感がある。


 ――ずっと、このままなら良いのに。


 わたしの願いは届くことなく、夕焼けを告げるチャイムが鳴った。

 その音に反応して、彼女が目を覚ます。


「……あれ? 光ちゃん。どうしたの?」

 

 彼女は寝ぼけた様子で、わたしの名前を呼んだ。


「おはよ、佳奈。待っててくれてありがとね」

「あっ、そうだった! 光ちゃん面接練習どうだった? 上手にできた?」


 彼女はわたしを心配して、不安そうに聞いてくる。


「おかげさまでバッチリ。でも、こんな時間までかかっちゃった」


 わたしが言うと、彼女は嬉しそうに笑った。


「光ちゃんが言うなら大丈夫だ。私は寝ちゃってたから一瞬だったよ。じゃあ帰ろっか」


 佳奈が席を立って先を行く。

 わたしは後から追うようについていく。

 昔からずっと、こんな感じだ。


 校舎の外に出た頃には、陽が沈んでいた。

 今の時期、夕方になると少し冷える。


 寒がりのわたしが手に息を吐くと、佳奈はカバンから手袋を取り出した。


「光ちゃん、どうぞ使ってくださいな」

「ありがと。けど、佳奈が使わないとダメだよ」


 わたしが言うと、佳奈はちょっと困った様子のあと、何かを思いついたような顔をした。


「じゃあ、半分コにしよう。これなら良いでしょ?」


 そう言うと、佳奈は左手の手袋をわたしに貸してくれた。

 佳奈の言葉に甘えて、左手に手袋をつけた。


 ――暖かい。とっても。


 わたしが左手の温もりを確かめていると、佳奈はわたしの右手に指を絡めてきて、そのまま手をつないだ。


 わたしが驚く間もなく、佳奈は言った。

「これで両手とも暖かい、でしょ?」


 佳奈は手袋をつけた右手でとびっきりのピースをした。


 ――そんなことされたら、心の奥底まで温まっちゃうよ。


 わたしは佳奈の手を引いて、彼女の身体を引き寄せて、思いっきり抱きついてやった。


「ねえ、佳奈。大好き」

「私も好きだよ。光ちゃん」


 いつもの笑顔。いつもの言葉。


「佳奈、ずっと一緒にいてくれる?」

「もちろん、私たちはずっと友達だよ」


 わたしにとっては苦しい言葉。

 だけど、この先のことはまだ分からない。


「佳奈、……キスしても、いい?」

「良いけど、どうしたの? 突然」


 ――――いいの? ほんと?


「……じゃあ、しちゃうね。……唇に」

「こういうのは普通、ほっぺたとかじゃないの?」


 なんか欲張りすぎちゃった。

 けど、ここまで来たら言っちゃえ。


「わたしは唇にしたいの」

「……なら、良いよ、光ちゃんなら」


 ――やっぱり、信頼されちゃってるな。


「ありがと、じゃあ、目を瞑って」




 わたしは、彼女のおでこにキスをした。




「赤くなってる、意識した?」

「何言ってるの光ちゃん、それはお互いさまだよ」


 ――ほんとにその通り過ぎて何も言えない。

 でも、恥ずかしいから、無理やり話を続ける。


「なら、次は佳奈からキスしてね、ずっと待ってるから」


 わたしが言うと、佳奈はすぐさま言葉を返した。


「…………じゃあ、光ちゃん、目を瞑って?」




 わたしが目を閉じる前に、佳奈はわたしの唇にキスをした。




 それから先の帰り道。会話はできなかったけど、つないでいた手は強く結ばれていたのだった。



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