09話
「――というわけなんだよな」
翌日、千歳に全て説明した。
隠したってどうせばれる、だったらすぐにと判断してのことだ。
「へえ、大牙はヨウちゃんを選ぶかと思っていたけど」
「どちらにしても妹を狙っているような人間だと思われてたのか」
「だってあんなに魅力的な子たちなんだよ?」
その通りだからなにも言えねえ……実際に女として見ていたんだから言えねえ……。
複雑さと戦っていたらリン&ヨウが現れた。
珍しくヨウの後ろにリンが立っていて、なんと声をかけたらいいか悩んでしまう。
「リンちゃんおめでとう」
「……ええ」
「ヨウちゃんは残念だったね」
「えっ! 気づいてたのっ?」
「そりゃわかるよ、二人が大牙のことを好きでいたことなんてね」
「えぇ……恥ずかしいなぁ」
大丈夫、妹をそういう目線で見ている兄の方が恥ずかしいから。
リンが少し余所余所しいのも余計にそう感じさせる要因となった。
「リン」
「……あそこに行きましょう」
「ああ」
ヨウの相手は千歳に任せて階段を上っていく。
その間もやはり無言だったから少しだけ気まずくなる俺。
最上段まで上ったらそこに座って天井を眺めた。
「昨日、ヨウが泣いていたわ」
「ヨウが?」
「……私があなたを取ったことと、この前あんなことがあったから仲間外れみたいで嫌なんだと思うわ……本当ならここにも二人きりで来るべきではなかったのかもしれないけれど……なんだか恥ずかしかったの」
恥ずかしいね、リンらしくない態度だが。
逆にこういう時にからかってくるのがリンだろ。
それでいつだって姉としてヨウを導けるのも彼女だ。
恋はやはり色々な意味でその人間を弱体化させてしまうのだなと学ぶことになった。
「そうか……ならヨウになにかしてやらないとな」
平等に扱えていなかった俺の責任でもあるんだし。
それに俺はただ兄として気に入ってもらえるよう行動していたが、紛らわしいこともしてしまっていた可能性がある。
弱っている時に頭を撫でたりとか? 本当にその時はただただ落ち着いてもらうためにしていたわけだが……なにが影響しているのかはわからないからな。
「でもその前に……」
「その前に?」
「……昨日の続き」
昨日の続きって言うが俺らはなにもしていない。
こちらは眠気がやってきて先に寝てしまったから、彼女が勝手になにかをしたのだろうか?
ヨウから今朝リンの顔が真っ赤だったって聞いたしな、寝ぼけて襲ったか?
「あなたは…………のに起きなかったわ」
「は? したのか?」
こくりと頷いて俯いてしまった。
焦らなくたって求めてくれればした、それだけ俺とこうなることを待ち望んでいたということなら可愛気があるが……少し焦りすぎではないだろうか。
「そういえばいつから俺のことを?」
「先に好きだったのはヨウよ、あの子は小学六年生の頃には恋していることを自覚していたわ」
わからなかった、それをいままで隠し通せたのはリンがいたからなのかもしれない。
一番知りたいことを聞いたら中学三年生の修学旅行から帰ってきた後だということだった。
なぜそのタイミングかと聞いたら、三日間会えなかったからだそうだ。
班のメンバーと自由時間を過ごしたり、クラスメイトで移動していた際に顕著に感じたと。
「なのによく抱きしめたりできたな」
「……あなたはどうせ私が平気だとでも思っていたのでしょう? ヨウにばかり優しくするから嫉妬していたことだって……」
「無表情だったしな、しかもいつもからかうようなことをしてきたからさ」
好きな相手ができても同じような行動はできない。
単純に男子が女子にベタベタ触れるのは不味いからだが、それ以前に緊張するからだった。
最近のそれでメンタルが強くないことを知れたわけだし、平気だなんて自惚れることは無理。
「や、やっぱりいいわ……」
「そうか」
「だ、だって……ここは誰かに見られる可能性もあるじゃない」
そういえばそうだ、千歳とかリンヨウがいてくれたから忘れてしまっていた。
他の人間に同じように脅されても困るし、学校では学生らしく生活しておかないと。
このことについてガミガミ言われても嫌だからな、教室で千歳に説明してしまったのは駄目かもしれないが。
「それにヨウに申し訳ないもの」
「まあそれはわかる」
しかも一度しているということならそれを大切にしておけばいい。
惜しいのはその時の感触も、リンの珍しく照れた顔も見られていないし知らないこと。
「やっぱり駄目だ」
「え、ん……」
回数を絞る予定なので思い切り味わっておいた。
実の妹とかそんなことは既に吹き飛んでいて、ひたすらその柔らかさだけを望んで。
離したら苦しそうにしている彼女がいて意味のない謝罪をして戻ることに。
「はぁ……ま、待ちなさいよ」
「ああ」
「私はあなたの彼女なんだから怒ったりはしないわ、でも……授業前にされたら……」
「いや、元々そのつもりだったんだろ?」
「自分が優位な状態でするのとは違うじゃない……長いのよ……」
また謝って頭を撫でてから一緒に戻った。
「はぁ……」
最後の授業になっても集中力が戻ってこない。
自分からそうするつもりだったのに、いざ逆にされたらこうなるなんて……。
しかもこれまでのことを考えれば有りえないぐらいの力強さだった。
基本的にこちらがわがままを言ってもいいぞと言って受け入れてくれるのが兄だ。
両親が多忙だったのは変わらなかったからずっと代わりにお世話をしてくれて頼れる存在で。
「緒方、前に来て解いてくれ」
「わかりました」
これぐらいなんてことはない。
兄やヨウにこれからどういう距離感で接していけばいいのかという問題と比べればね。
あまりにも簡単すぎたから、わざわざ遠回りな解き方をして席に戻る。
教師も特に言ってくることはなく、普通に授業を再開していた。
意外にも動いたことで集中力が戻ってきて安心、残りも一切問題なかった。
「緒方さん」
「なに?」
「お兄さんと付き合いだしたって……本当?」
「ええ」
どうせばれているのなら隠したってしょうがない。
言いたい人間には言わせておけばいい、大牙やヨウのためなら一人でもいい。
「そ、それってすごいねっ、私も……お兄ちゃんが好きなんだけどさ」
「そうなの? それならアピールしていくしかないわね」
ヨウや私以外にもいるとは思わなかった。
ネットを調べればいくらでも出てくるだろうが、それでもマイノリティだろうから。
「うーん……でもアピールしても届かなくて……」
「最悪物理的接触も有りね」
「えっ、ち、ちなみに……?」
「私は頭を撫でたり手を繋いだり抱きしめたりしたわ」
「おぉ!」
なんだか盛り上がってしまった。
でも、似たような子なら応援したいと思える。
なかなか届かない想いを抱えながら生きるのは大変だ、普通だったら止めるべきかもだけれど。
けれど諦めてしまったらそもそもの可能性すらなくなる、それは非常にもったいないだろう。
「リン」
「あ、頑張ってね」
「あ、ありがとう!」
あ……自然に応援の言葉が出た。
私は兄を独り占めしたくてヨウを応援することなどできなかったのに。
「リンちゃん!」
「ヨウもいたのね」
「ふふふ、二人きりにはさせないよー!」
「ふふ、それでいいわ」
仲間外れにしたいわけではない。
特定の時以外は一緒に仲良くしたいと考えているから。
帰りは兄を譲って後ろを追っていくことにした。
楽しそうに会話している二人、傍から見たらこの二人の方がお似合いかもしれない。
なんて……相手がヨウであろうと譲る気なんて一切ないけれど。
だってそうなら自分勝手に告白なんかしていない。
あの二人が考えているより大人ではないから無理なのだ。
「リン、遠く離れすぎだろ」
「ちょっと歩く速度が遅かったみたいね」
まったく……少しでも姉らしさを出しているのだから察してほしかった。
「お兄ちゃん、私じゃ駄目なの?」
「う……いや、駄目じゃないが……」
「リンちゃんの体が目当てなの?」
「おま――変なこと言うなよ」
「あははっ、冗談だよー!」
はぁ……心臓に悪い、こういうことがあるならあまり悠長にしていられない。
少なくとも妹に取られないように頑張らないと、そのためになら多少恥ずかしくても……。
「大牙は私のなのよっ」
「リンちゃんって意外と嫉妬深いよね!」
「だな」
「う、うるさいわよ!」
好きになってしまったのならしょうがない。
弱体化してしまうことはわかっていた、それでも続けることを選んだのだ。
なら後悔はしない、とことんグイグイ絡んでみせると二人を見ながら決めたのだった。