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世界から自分が殺される時

作者: ヒラメ

だんだん空が青くなっていく空を見上げ、一人の男性は煙草をふかしていた。一際暗い路地には人通りはなく、ただ彼の頬を乾いた風が通り過ぎていくだけだった。

「なんでこうなっちまったんだろうなァ」

空いた口から白い煙が空に消えていく。

ボソリと呟いた本音も誰にも聞かれることなく空気に溶けていった。


2030年くらいのことだった。全国の首相らが手を結び、世界平和を誓った。何がきっかけとなったかは覚えていないが、世界中で暴動が起きていたのは覚えている。何者かに突き動かされた青年達が声を荒らげていたのを覚えている。

世界から戦争が消えた。一国でも敵対すれば他全ての国から攻撃される、集団的自衛権の進化版みたいなののおかげで。先進国らは持ち前の技術力を駆使し、開発途上国や後開発途上国を着実に進歩させていった。

おかげで世界から食べ物がなくて死ぬ人、仕事がなくて死ぬ人がほとんど消えた。


そこまでは良かった。

数年後、地球から人が溢れた。当然だ。

そこで世界政府はこんなことを言い出した。「世界の為に、未来の為に死ね」とな。当然、世界中がどよめいた。怒った。が、誰もが自分は選ばれないと考えていたのだろうか、それほど大きな暴動は起きなかった。人から戦争を採り上げたから、戦う意欲もなくなっていたのかもしれない。そうやって、半ば無理やりにこの案は可決され、実行されている。それが「世界平和的理案」である。

ある時、「あなたは選ばれました」なんていう赤い紙が家に届くと同時に口座に10億が振り込まれる。要するに人生をお金で買っているってことだ。1ヶ月後、黒ずくめの人が押し寄せ、クスリを打ち安楽死させてくれるらしい。地球にいる限り逃げることは出来ない。

選ばれるのは無作為と報じているが、いなくても差し支えが無いようなものや、犯罪者から選ばれているという噂がある。

なんにせよ傍迷惑な話だ。かつての戦争時じゃあるまいし。

そして何より恐ろしいのは戦争と違って終わりがないところだ。いっそノアの方舟みたいなものが押し寄せてくれれば良いのに。


ふぅと溜息を付き、煙草の火を足で揉み消した。人通りの少ない路地に別れを告げると自分の店「米屋」に入っていった。



カチャカチャという音を立てて皿を洗う。米屋は今時珍しいこじんまりとした居酒屋である。そのせいか昼間は各国の人々が暖簾を潜ってくれる。

日本は世間からは終進国と呼ばれて、落ちぶれた。先進国らの技術を継いだ元開発途上国らに技術競争に負けた日本の人は世界平和的理案の対象に選ばれることが多い。その為、海外に移住する人が絶えなくなったりとさらに日本は真っ逆さまに転落した。

夜の米屋にはそうやって終わりのない生き地獄を過ごす人々が集まるのである。


日付が変わろうしていた。人はまばらで、呼吸の音すらも聞こえてきそうなくらい静かな時間が米屋の中を過ぎる。お客さんの瞳には薄暗い影と疲労が映っていた。

ガラガラという音と共にヨレヨレのスーツを着た男性が店内に入ってきた。瞬時に察する。この方はかなり参っているな、と。

「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」

軽く会釈した男性は自分に一番近いカウンター席に座った。

「ご注文はお決まりですか?」

男性は黙って下を向いていた。

(注文は希望ですね)

と心の中で呟いた。


そろそろ草木を眠り出したかな。なんてふと思う頃には目の前の男性以外帰り、男性がグラスを眺める時間が刻刻と過ぎていった。

お客さんがいるので閉める訳にも行かず、かと言って帰れとも言い出せないオーラを放っていた。何度かぶぶ漬けなんかを出そうかと考えたが、それもまた迷惑だなと結局諦めた。

その時男性が重い口を開いた。

「...すいませんね。こんな遅くまで」

「いえ、ごゆっくりしていってください」

男性はぽつり、ぽつりと喋り出した。

「昨日、...赤い紙が届いていてね。...何度も宛先を確認したさ。何度目を擦ってもその文字は変わらなくて、何度頬を叩いても頬は痛くてさ。」

やはりそうだったか。入店された時から察してはいた。

「絶望という言葉がしっくりくるのは初めてだったよ。望みが絶えた。会社にもその通知はいっていたみたいでね、今日...突然クビを言い渡された。会社に泥を塗るなとよ。」

思わず皿を持つ手に力が入らなくなる。

男性は段々と饒舌に喋り出した。ダムが決壊するように、何かが吹っ切れたように喋り出した。

「俺が何をしたって言うんだ?え?今の世界は生きることも許されないのか??...神様って奴がいるとすればそいつはクソ野郎だな。努力して血反吐吐いて頑張ってるやつが見捨てられて、才能と名誉だけでのうのうと生きているやつは助かる。

俺には子どももいた!妻もいた!...まぁ、俺の赤い紙を見たら逃げ出しちまったさ。笑えるよな。はっはっはっは。俺はこんなにも愛していたのに!!あの赤い紙で俺の人生は終わった。文字通りなっ!.....本当は赤い紙を貰う前から終わってたんだ。きっと。

...こんなことなら生まれて来なければ良かった。生きようとしなければ良かった。努力しなければ良かった。なんのために頑張ってきたんだ...?夢?プライド?全部否定された。何もかも俺の全て。

俺は馬鹿だよなぁ。世界から死ねと言われるのにこんなにも必死になって頑張ってきたんだ。なんにも役に立ちやしない、無駄な努力だ。俺は馬鹿だなぁ...馬鹿だよなぁ...」

男性は震え、恐らく今の今まで誰にも見せてこなかった涙を流した。

強いな。辛かったろうに。今彼に声をかけれる人はいないだろう。...()()()()()()

「...馬鹿だよなァ俺らは。でもよ、俺らの政府はもっと馬鹿だぜ?考えても見ろよ?世界のためって言うけどよ、何処が世界の役に立ってんだろうなァ?おめェらこそ世界の癌だ!って言ってやりてェな」

男性がぐしゃぐしゃになった顔をあげた。

「あんた...まさか...」

「ああ。そのまさかさ。3週間ほど前だったかな。赤い紙が家に届いた。お客さんと同じことやったね。でも、現実は変わらなかった。悔しいもんさ。」

男性はくちゃくちゃのスーツの袖で顔を拭うと、赤く腫れた目で俺を真っ直ぐ見た。

「あんた...強いな。どうしてそんなに前を向いていられるんだ。俺には出来そうもない」

「俺だって絶望したさ。世界を恨んだね。金で人の人生が買えるわけねェだろうが!つってね。

でもよ、恨み怒り叫ぼうが何一つ変わりやしない。三島由紀夫みたいなもんさ。どんなに叫んでも、誰の心にも留まらない。何も変わらない。皮肉なものよ。だからせめて、最後は人に希望を与えることがしたかった。光を与えることがしたかった。特別命乞いしたい訳じゃねェ。ただ、やりたいと感じた。それが俺の使命だと感じた。それだけさァ。米屋はいいもんでよ。希望を持った人も絶望を持った人もやってくる。さっき、希望を与えるなんて大層なこと言ったが、俺にゃそんなことできねぇ。だから、俺はこうやってお酒出して、食べもん出して、話聞いて。不思議とそうやるうちに忘れていくんだわ。自分が数日後死ぬってことをな。」

男性は不思議そうに俺を見つめていた。その目にはもう絶望は映っていなかった。

「あんた。こっから1ヶ月暇なんだろ?することねェんだろ?ちょっとこのお店継いでくれよ。俺はあと数日でおじゃんだからね」

男性は少し悩んだようだが、直ぐに結論を出した。

「良いが...俺には料理も酒の知識もないぞ」

「問題ないよ。数日で俺が仕込んでやらァ。ほら。時間が惜しいんだ。こっち来いや。今から始めるぞ!」

男性は困惑しながらも笑顔でカウンターへ移動し、肩を並べた。

窓からは朝日が差し込んでいた。


そこから俺は4日生きた。

その間、二人は心の底から笑いあった。そこに死の絶望はなかった。

ただ、希望を持って生きている時間があった。



JAPAN。ずっと前から、いつか来たいと思っていた。まぁ、かつてと今では行きたいと思う理由も変わってしまった。

空間に浮かぶ電子パネルを操作し、口コミを開く。地図を見て首を捻り、あちらこちらウロウロする。

ここか。と着いたころには月が僕の真上にあった。

「米屋」と書かれた暖簾を潜り中に入る。

「いらっしゃい!お好きな席へどぞ〜」

あぁ。やっぱり来てよかったよ。

「ご注文はお決まりですか?」

「...キボウを下さい!」

店員はニカッと笑うと

「了解!」

と叫んだ。

こんばんは。ヒラメです。

SDGsについて考えることがあり、将来の地球って人多いのでは?と考えこの作品は作ることにしました。

あくまで二次創作です。特別何かに喧嘩を売りたいわけではありません。

ただ、生きていけることがどれほど素晴らしいかということを伝えられたらなぁと作りました。


2時間クオリティだったのをお許し下さい。


では、また。

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