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Palette Ballad  作者: Aoy
第1章 盤上に踊るは白と黒
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6. 白き姫と小さな決意 後編

「姫、おはようございます」


 ロミが部屋を出てからしばらく経っても来る様子が無かったため、紅茶のおかわりを注ごうかとした所でリグレットが部屋に着いた。


「……ロミさんとリズラさんはどうしたのですか?」


 そう尋ねると、リグレットは苦笑いをしてエルメルアの隣に座る。


「ああ……その。リズラがまだ寝ていまして」

「リズラさんが? 意外です……」

「ああ見えてリズラは朝弱いんですよ」


 普段の様子からは想像できないですよね、と付け加えリグレットは立ち上がって奥の部屋へと歩いていく。


 リグレットが見えなくなった後に、ふと時計を見れば時刻はエルメルアが起きてから2時間ほど経っていた。

 いつものエルメルアならまだ寝ている時間だし、朝が弱いというリズラもこの時間に起こされるのは辛いだろう。


 しみじみとそう思っていると、リグレットが奥の部屋から出てくるのが見えた。その手にはティーカップ2つと、焼き菓子が沢山乗った皿を持っている。再びエルメルアの隣に座ると、テーブルに置いてあるティーポットを見る。


「この紅茶、淹れたのは姫ですか?」

「ロミです。……私がやると不評でしたから」

「姫の紅茶は個性があって、私は好きなんですけどね」

「……それ褒めてます?」


 褒めてますよ、と微笑んで、持ってきたティーカップに紅茶を注ぐリグレット。その姿を眺めて、自分の分も注いでほしいとお願いする。……決してリグレットの注ぐ姿を見たかった訳ではない。


「まだ寝たい……んむぅ……引っ張るなぁ……」

「動こうとしないからだろう、嫌なら歩け」


 リグレットに紅茶を注いでもらって、飲もうとした時にエルメルアの背後……正確には廊下からロミと女性の声がするのが聞こえ、エルメルアとリグレットは振り返る。


「そもそも……今日仕事ない……起こされる理由ない……」

「だから姫様から話が……」

「だからって何……言い訳する訳……?」


 振り返った先……部屋の入り口にロミと、エルメルアよりも暗い白髪でロングヘアの女性が現れる。うとうとと眠たげな表情の女性は、いかにもオフの日と言わんばかりのゆったりとしたTシャツを着ている。


「リー君……ロミ()がひどいんだよ……」


 エルメルアは、その女性がリグレットをリー君と呼んだ事に目を丸くして、リグレットを見る。リグレットは大きく溜息をついて顔に手を押さえている。


「ひどい……遂にリー君まで……あたしを無視する……」

「あー、そのー。無視はしてないが、ごめんなリズラ」


 リグレットがその女性をリズラと呼んだことに更に驚愕する。確かに髪色は同じだし、髪の長さもいつもはシニヨンにしているので納得できるがイメージと大きく違いすぎる。


「ええっと、本当に、リズラ……さん?」

「そうですよ。ええそうです。あたしが才色兼備の副団長ことリズラです。それはそうと抱きしめていいかな」


 いつの間にか立たされて、許可をする前に抱きしめられるエルメルア。とんでもない暴走っぷりにリグレットとロミは呆れている。


「リズラ。姫が困っているから、その辺でだな」

「エルメルアちゃん? ほんとに?」


 リズラは抱きしめるのを一旦やめて、まじまじとエルメルアの顔を見る。そうしているうちに徐々に意識が覚醒し始めたのか、顔を少し赤くする。


「あた……私、姫様に失礼なことしてないですよね」

「いえ……特には何も。私は抱きしめられたくらいですし」

「良かった……。それで、今日の事は忘れていただけると……」


 少しホッとした様子のリズラは指で髪を巻く。しばらくそうした後、文句ありげにリグレット達の方を向く。


「そ、そもそもリー君がちゃんと起こせば……」

「いやロミがちゃんと起こしてたし。てか呼び方な」

「じゃあ、せめて姫様がいるって教えてよ、ロミ()

「いや僕言ったし」

「…………」


 2人の即答に何も言えなくなるリズラ。


「だ、大丈夫ですよ? 才色兼備のリズラさんですから!寝起き姿もかわいらしくていいと思いますよ……?」


 エルメルアは慌ててフォローするが、逆にリズラは恥ずかしさでぷるぷると震えている。今すぐ部屋に篭もりたい……と指で髪を巻きながら嘆いている。


「ええと、それで姫様。私達に話というのは」


 コホンと咳払いをして、本題に入るリグレット。その顔は先程までとは違い真剣な表情だ。リズラも普段とは雰囲気は違うが、真面目な表情をしている。


「……はい。皆さん、恩恵(ソフィア)というのはご存知ですよね」

「ええ……本当に実在するかはわかりませんが」


 エルメルアの確認に、各々頷いて反応する。


恩恵(ソフィア)が姫様に宿っているというのは前代の王から聞いた事がありますが、もしかしてその力が開花した……とか」


 リズラが付け加えた言葉に、エルメルアは頷く。


「そうです。……本当にこれが恩恵(ソフィア)なのか、と言われればまだ実感は持てませんが、ほぼ確実にそうでしょう」


 エルメルアに宿っている恩恵(ソフィア)が開花したかもしれないという事に、3人は神妙な面持ちになる。その様子を見て、エルメルアは話を続ける。


「……結論から言えば、ブランが何者かによって襲撃される。そんな予感がしたのです」


 エルメルアの話を聞いて、3人は驚きながらも納得する。


「怪しい芽は最初から抜いておく……ですかね」

 

 リグレットの言葉に、全員が目を合わせる。

 隣国がやったのでないか、という根も葉もない噂話が出回り、今まであった国同士の信頼というのは無いに等しい。

 だからこそ、襲撃して支配下に置こうという考えに至ってもおかしくないだろう。

 

「姫様、予感ではどの程度わかってるんですか?」

「黒い人達に襲撃されるということしか……ごめんなさい」


 それでも充分です。とリズラは言ってくれるが、やはり余りにも少ない情報量に申し訳なさを感じる。

 

「黒い人、となれば隣国のノワールですね」

 

 ノワールというのは黒を象徴とする国で、エルメルアが予感した黒い人というのにも当てはまる。しかしノワールという名前を聞いて、その場の全員が渋い顔をする。


 というのもノワールは、パレンティア大陸における最大の戦力を持っているとされる国だ。そんな国に襲撃されれば一溜りもない。災厄によって騎士団の人数が減ったブランなら尚更だ。


「あのノワールに対して、こちらの戦える人数は僅か9人」

「……多勢に無勢とは正にこの事ね」


 リグレットとリズラは突き付けられた状況に頭を悩ませる。9人に対して、あちらは国民の全員が兵士と言っても過言ではない。数の差がありすぎる。


「本当に予感ではあってほしいですけど、対策を練っておいて損は無いですからね、できる限りのことをしましょう」


 そう言ってリグレットは笑ってみせるが、無理しているのは明白だ。その様子を見て、エルメルアは自分の力不足に悔しさを感じる。本当に、このままではブランがノワールよって滅ぼされる、そう思った時だった。


「……満月の夜。満月の夜にノワールが来ます。……痛っ」


 ぼんやりと思い浮かんで、皆に告げる。そしてしばらくしてやってくる、あの時と同じ感覚、そして同じ痛み。


「姫、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、ありがとうリグレット。それに2人も」

「姫様、もしかして今のが恩恵(ソフィア)ですか?」


 傍に駆け寄った3人に礼を言って頷く。3人は、エルメルアの力を見て、同じ事を考えたのか、目を合わせて頷く。


「皆、考えてる事は同じだな」

「ええ、やるしかない。目に物見せてやろうじゃない」

「ここまで姫様が頑張ってるのを目にしたらな」


 意気込む3人の流れに乗って、エルメルアも意気込む。

 絶対にブランが滅ぶのは避けなくてはならない、その為にも、まだ未熟なこの力を一刻も早く開花させねばならない。


「そ、そのっ! 私ももっと恩恵(ソフィア)を制御できるように、色んな事を予感できるように頑張りますから。王として、皆さんだけに負担をかけるなんてできません」


 3人に約束するように、エルメルアは言う。

 そんな、小さな女王の決意に、3人は微笑む。


「満月の夜、ということは後10日ほどありますね」


 微笑んだ後、リズラは改めて襲撃される日を確かめる。


「ああ、だから今日はこれから各自で対策を考えて来て欲しい。そしてまた明日、考えたことを集まって話し合おう」

「分かった、なら僕は他の団員にもこの事を話しておくよ」

「ありがとう、ロミ。助かる」


 そう言って去っていくロミ。それを眺めていたら、くぅーと間の抜けた音が響く。エルメルアのものだ。


「そろそろ昼ですから、何か食べに行きましょうか姫」

「……ありがとうございます」

「リズラも一緒に食べるか?」

「ご一緒していいなら、行きます」


 それじゃ決まりだなと言ってリグレットは歩き出す。エルメルアとリズラもそれに続くように歩く。




――そんな3人を()()()()()()から眺め、女性は呟く。


「へぇー、もうそこまで予知……じゃなくて予感できたんだ。ならダーリンに連絡しよーっと」


 満足気な表情を浮かべて、その女性は通信魔術を展開する。


「あっ、もしもしダーリン? あたしだよー。予定通り、満月の夜、ね?……え? 見つかってないか? 大丈夫大丈夫、なんといっても七天の創始者ですから」


 ばいばーい、と言って通信魔術を終了した後、呟く。


「やっぱティーポットに化けるのはしんどいな。濡れるし、熱いし。次からはやめよ」


 女性はそういうと、すぅっと消えていった。

Aoyです

更新遅くなり申し訳ないです

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