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Palette Ballad  作者: Aoy
第1章 盤上に踊るは白と黒
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49. 隠された真相

 ティアは駆ける、地を空を。

 消えた気配への最短距離を最高速で駆ける。


 彼女は精霊だ。だから当然のように空も飛べる。

 精霊や妖精の翼を構築するのは自身の魔力であり、翼には空を飛ぶ以外にも様々な用途がある。

 むしろ飛ぶ事よりも大切な理由は、自然の魔力を集め、吸収する役割だろう。特に精霊は魔力が命……自身が自発的に生産できる魔力量では不足してしまう事が稀にあり、それを補うための機関として翼があるといってもいい。


 そのため妖精や精霊……ティア達も例外ではないが、彼女達が着ている服はどれも背中が大きく空いているデザインの物が多い。

 しかし先程も言ったように翼には「魔力を吸収する」大切な役割がある。言ってしまえば翼というのは精霊達の弱点でもあるのだ。

 だから普段から彼女達は翼自体を「見えない」ようにしている。今もティアの姿は、周りから見れば「魔術によって強化した脚で、地を蹴って飛んでいる」とでも思われているだろう。


「――対象、確認っ……!」


 思わず目を塞ぎたくなる風を受けながら、ティアは目を細めて消えた気配を捉える。だがそれは精霊の視力でようやく捉えたもの……まだかなりの距離がある。

 それでも彼女の表情から諦めの色は消えなかった。今ここで確実に『災厄』の実態について、例えどれだけ少ない情報だとしても手に入れる……そんな意思の前に不可能などない。


 踏み込んだ脚に、蒼の魔力が迸る。

 精霊の身体は、魔力が馴染みやすい。そして精霊は魔術に秀でている。つまりそれが意味するのは――。


 ティアの身体が一瞬にして消え、蹴った大地に抉ったような傷跡が遅れてやってくる。


 ――つまりそれは、身体強化の魔術効果が他のどんな種族よりも飛躍して上昇するという事。


 精霊は龍のような強靭な体躯も、神のような強大な力も何も持っていない。持っているのは役立たずの知識と他の種族より少し濃い魔力だけ。

 そんな弱い精霊が、他の種族と対等に渡り合えた理由が強化魔術という訳だ。


 消えた気配、それは特別何か変わりのない……魔力も持たず、ただ先程見た事実のみを持って走る普通の人間。

 そんな人間の元へと落ちた蒼い雷光。


「ひぃぃいいい! なんなんだ!」

「……怯えて一般人を演じようとは、大した度胸ですね」

「は……? 何言ってんだアンタ」


 その中からすっと立ち上がり、冷めた目で見るティア。それに対して目的の人間は頭がおかしい人を見るような目つきをティアへと向ける。


「……はぁ、どちらであろうが構いません。大切なのは、先程の監視の理由――それを誰に報告するのか、ですから」

 

 その視線から、話も無意味だと最初から結論を言うティア。その一言に男はびくりと身体を震わせ、みるみると顔色を悪くしていく。


「俺は……何も知らない」

「言わないのも想定内です。……少々強引な手段になるだけです」

「お、脅したって、知らないものは知らないんだ」


 じり……と1歩ずつ歩み寄るティアに対し、男は後退って遂には逃走へと行動を移した。


「……知らないなら、逃げる必要もないでしょう。――『銀花』」


 それを見逃すほど、ティアは甘くない。

 男の足元に咲いた雪の花、それに気付かず踏んでしまった男は、足が凍りついて動けなくなる。


「ひぃっ!?」

「下手に動けば足が砕けますよ。……氷は繊細なんですから」


 それでも必死に逃げようとする男に、ティアは淡々と告げる。


「知っている事全てを話せば見逃しましょう。そうでないなら……うん。少々悪趣味ですが貴方を氷像にして、ここの観光地にしてあげましょうか」

「……はははっ!!」


 ティアの冗談のような脅しに、遂には恐怖で壊れたのか男は突然笑いだす。


「もうどっちでもいいさ、何をしたって俺は……俺達は、ここで死ぬ」


 男は天を仰ぎ()()()()()()()かのように、そんな事を口にした。


「何を――ッ!?」


 それがなんの事を指しているか、ティアがそんな疑問抱いたのと迫った殺気から身を飛び退いたのはほぼ同時だった。


 突然2人の場所だけに降り注いだ黒い豪雨、それは剣や槍の形をしており、それに貫かれた男は……()()()に溶け込むように消えていった。

 

「…………」


 ティアはただそれを呆然と見ていた。目の前の男から情報を聞き出せなかったからでも、自分の身に死がすぐ側にあったからでもない。

 

 どうして、その黒い影があるのか――その事に対して、ただ驚きを隠せないようだった。


「……貴方が何故?」


 その黒い影をよく用いて戦っていたのは、13年前にレグレアを殺害した張本人。しかし彼女はその時の傷が原因で、その後すぐ自身の命を落としているはず。

 レグレアのように、何らかの方法で生きているとしても、以前のような本調子……ましてやティアが危険だと思える程の攻撃を、できるはずがないのだ。


 そもそも実際にティアが彼女の結末を見た訳ではない。ただ七天の創始者(セブンスクレアル)の情報をセフィアから聞いただけ、その情報すらも事実ではないのかもしれない。


 だがその場合……それが意味するのは。


 セフィアすらも把握できていない内通者が、七天の創始者(セブンスクレアル)の中にいるという事だ。


 だがそれも不可能ではない、何故ならセフィア自身も万象の司る権能を全て解放できる身体ではないのだから。ましてや、この災厄という他に意識すべき事がある状況で、仲間である七天の創始者(セブンスクレアル)を疑う程の余力はない。


「アルタハ……また私の頭を悩ませる存在が増えましたね」


 彼女はこうした戦術……仲間同士を混乱させ、内から崩壊させる術を得意とする。

 今こうして「七天の創始者(セブンスクレアル)の中に内通者がいる」という考えに至るのも彼女の思惑通りであり、実際はティアの杞憂なのかもしれない。

 どちらにせよ、真実を知っているのはアルタハであり、そして彼女を辿れば災厄の実態も掴めるはず……。


 ティアはぎり……と手を握り、行先をブランへと定めた。

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