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理系を異世界転移させてみた

ネタ。

リケコイのアニメを見ていたら思わず書いてしまった。後悔はしていない。

単発予定のはずが長くなってしまった。

 ある日、とある王国の王城で3人のメガネが勇者召喚された。


 巨大な魔法陣の上に召喚されたのは10代から20代の男女3人。

 一人は短い黒髪の男、もう一人は金髪の男、残る一人は茜色の長髪の少女。

 その全員がなぜかそろって白衣と眼鏡を着用していた。


 彼らの前に立つのは銀髪の美少女アメルシア・フォン・ラルフィリア。

 このラルフィリア王国の王女であり、彼らを異世界から勇者召喚した張本人である。

 彼女は鈴を転がすような心地の良い声で、突然の事態に呆然としている彼らに話しかけた。


「ようこそラルフィリア王国へ。私はこの国の王女アメルシアです。あなた達は勇者として魔王を討伐するために召喚——」


 そのとき黒髪の男が口を開いた。


「——ついに『ワームホール』が実現しただと?!」


 ん?


 予想外の発言にアメルシアは言葉を詰まらせた。


 実は異世界からの勇者召喚は魔王が現れるたびに行われていたので、すでに歴史上何回かの実績があった。

 つまり彼ら勇者に関するデータは蓄積されているのだ。

 たいてい異世界召喚された彼らの反応は「ここはどこだ」「元の場所に帰してくれ」とか大体似たようなものである。

 そのように困惑、場合によれば錯乱する彼らを何とかしてなだめ、彼らを説得して魔王討伐に向かわせるのがアメルシアの使命だった。


 しかし第一声が「ついに『ワームホール』が実現しただと」とは完全に彼女の予想外だった。

 アメルシアがどう声をかけるべきか迷っていると、長髪の少女が男の言葉に応じた。


「確かに研究所から見覚えのない場所に瞬間的に移動させられているからその可能性はありえるわね。しかし『ワームホール』はまだ実現可能段階まで研究が進んでいないんじゃない?」

「だが実現は理論上可能だ。『ワームホール』は『ブラックホール』と『ホワイトホール』をつなげてその穴を潜ると瞬時に別の場所に移動できるという理論だ。現代技術では再現ができないだけであって、全く起こりえない話ではないはずだ」


 え、なに?

 私を無視して勝手に話が進んでいるのだけど?


 アメルシアは理解が及ばなかった。


「——ちょっと待った」


 そして今まで黙って周辺の様子を見ていた金髪の男が口を開いた。

 ついに今度は召喚された勇者のテンプレ発言を聞けるのかもしれないとアメルシアは期待した。


「でもそれってできる穴は量子レベルで到底人が通れるレベルじゃないと聞いたっすけど、俺たち人間を3人移動させることなんてできるっすか?」


 期待した私がバカだったとアメルシアは後悔した。


「人間が通るだけのワームホールの穴を作るには負のエネルギーが必要だと言われている。この負のエネルギーは中性子星などの中心にあると考えられているからおそらく不可能ではない……。ただし人間のような正のエネルギーを持つ物体が通過するとワームホールは崩壊するから、一方通行であるのだが……」


 黒髪の男は何やらよくわからないことをブツブツとつぶやいているが、突如顔面が蒼白になってさけんだ。


「なんということだ……このままでは戻れないではないか。ついにワームホールを自身が体験したというのに、このままでは学会に論文を提出できないではないか!元の時空に返してくれ!」

「いきなり帰ろうとしないで!」


 やっとテンプレ発言が飛んできたが、アメルシアは突っ込むことしかできなかった。


 長髪の少女が慌てる男の方を優しく叩く。


「落ち着きなさい。仮に彼女がワームホールを生み出して私たちを転移させたのなら、こちらから向こうへの逆方向のワームホールを作らせれば元の世界に帰れるはずよ」

「……それもそうだな。すまないマサクラ。取り乱してしまった」

「幼馴染兼、元同じ研究室の所属だからあなたのことはよく理解しているし、このくらいお茶の子さいさいよ。さあそこのお方、私たちを元の世界に帰らせてちょうだい」

「やっぱり帰ろうとしないで!」


 この女もすぐに元の世界に帰る気満々だった。


「ついでにワームホール生成の原理や方法も教えてくれ」

「これは『わーむほーる』じゃなくて勇者召喚の魔法です!」

「魔法?なぜ君は非科学的で前近代的な方法に頼るのだ。再現性に乏しいのなら、次成功するかどうかの保証ができないではないか!」

「ああ、もう話が進まない!」


 アメルシアはさっきからのツッコミの連発で息が切れて、ゼエゼエと肩を大きく上下させている。


 最後に金髪の男が手を挙げた。


「それで、ここはどこっすか?」


 やっと真っ当な質問がやってきた。


 アメルシアは彼らを召喚したことをこの時点で後悔した。


 * * * * *


 さっきも書いた通り勇者召喚は過去何回か行われてきたので、勇者に対して説明することついてはマニュアルが存在する。


 この際、世界観の説明によく使われるのは「この世界は『中世風のRPGゲーム』みたいなものです」というものだ。

 異世界、特にニホンと呼ばれる国の出身者達はこの説明でほとんどの人が理解できるとマニュアルには書いてあった。


 しかし残念ながら白衣とメガネを着た連中にこの説明は通用しなかった。


「RPGゲーム?マサクラお前やったことはあるか?」

「ないわ。やったことがあるのは『ライフゲーム*』くらいかしら」


 ライフゲーム*……ドットを利用して生物の誕生、進化、淘汰を再現したシュミレーションゲーム


 RPGやったことないんかい、とアルメシアはがっくりとうなだれた。仕方ないのでニホンの国民的と呼ばれるゲームを例に出してみる。


「えーと……『ド◯クエ』とか『F◯』とか聞いたことはないですか?」

「うーん、親父から聞いたことがあるっす。確か勇者がモンスターを倒して、最終的に魔王を退治しに行くというストーリだったような気がするんだけど」


 どうやら金髪の男は聞き覚えがあるらしい。

 よかった知っている人がいた、とアメルシアは安堵したが、まだ安堵するには早かった。

 いきなり黒髪の男から爆弾をぶち込んできたのだ。


「お前の親父の世代ということは30年前とかそこらだろ?となるとこの女も見た目以上に老けているのではないか?」

「ちーがーいーまーすー!私はまだ若いですーーー!」

「あらタカフミ、女の年齢を邪推するのは失礼よ」

「ああ、そうだったな。すまない。最近医療技術や整形外科の発展で見た目と実年齢が一致しないことが多々あるからつい」

「私はまだ15ですー!美魔女とかいうBBAとは一線を画していますー!」


 アメルシアはまた息を切らし、一息ついてから説明を再開した。


「あなたたちは勇者として魔王を討伐してもらいます。しかし今のあなたたちでは『レベル』が足りないのでモンスターを討伐して経験値を貯めてレベルを上げてもらいます」

「まて、レベルとは一体なんだ」

「それについては空中に向かって『ステータスオープン』と言っていただければわかりますよ」

「……わかった。『ステータスオープン』」


 タカフミと呼ばれた黒髪の男がそう言葉にすると、男の目の前に青いウィンドウが現れた。


【名 前】 タカフミ

 【年 齢】 24

 【職 業】 修士2年

 【レベル】 1

 【体 力】 501

 【魔 力】 218

 【攻撃力】 50

 【耐久力】 154

 【素早さ】 102

 【知 力】 324

 【スキル】 私物取り寄せ

 【経験値】 0/500


 攻撃力と素早さがかなり低いが、その分知力が非常に高い。

 魔力も十分にあるし魔法使いとしての適性が高いだろう。ただアメルシアには職業欄の『修士2年』がよくわからなかった。


 そしてメガネ3人は別のことで盛り上がっていた。


「これは……実体のないウィンドウが空中に浮かんでいるのか?」

「ちがうわ。これはいわゆるAR、拡張現実と呼ばれるものよ。現実の視覚にコンピューターが情報を付与しているからこのようにウィンドウが宙に浮いているように見えるのよ。現代でも実用段階までこぎつけているということは以前記事で書いたことがあるわ」

「メガネを外してもウィンドウが見えるということは、おそらく目か脳に細工が施されているんじゃないっすかね?手軽なところだとコンタクトレンズにマイクロチップをはめ込んでいるとか」


 もうツッコミはしないと、すでにツッコミが品切れ状態のアメルシアはそう心に決めた。


「しかしデータがタカフミだけだと相対的な数値がわからないわね。比較するために私たちもステータスとやらをひらきましょ」

「それもそうっすね。俺らの5倍の人数がいれば統計処理を施してなんとなくわかるんすけどね」


 残る二人がステータスを開いたことで、金髪の男と長髪の少女がそれぞれヒロシとマサクラという名前であることが判明した。職業はヒロシが『修士1年』、マサクラが『サイエンスライター』と記されていた。


 ちなみに年齢はヒロシがタカフミと同じ24、10代に見えたマサクラが最年長の25だった。


「……お前いつのまにか25を迎えたのだな」

「なによ私の誕生日会はここに連れてこまれる直前に研究室で済ませたじゃない。それともなに?私の見た目がいつまでも子供っぽいとでもいうのかしら?」

「ククク、先輩は俺の研究室で『IR8*』とあだ名されているっすからね」

「あんたたちはおだまり」


 IR8*……半矮性はんわいせいの稲の品種で、従来のイネよりも背丈が低いことで知られる。1960年代の『緑の革命』の際に品種改良で誕生した。


 アメルシアは懐に隠していた胃薬を取り出して飲んだ。エルフの里で作られた良薬で、水なし一錠で胃痛を解消できる。


 ため息をついてアメルシアは話を再開した。


「それで魔王を倒した暁には、あなたたちを元の世界に帰らせます。報酬は望むがままでいいですし、勇者召喚の理論も希望があるならお教えします」

「それはありがたいな。もし元の世界に戻ったら私の論文にあなたの名前を連ね、引用元もきちんと記載しておこう」

「私もタカフミに協力するわ。この世界には『魔法』というのが存在するみたいだけど、それの科学的に究明してみたいわね」


 思った以上に協力的で助かる、とアメルシアは安心した。

 中には「戦いなんてやってられるか、俺は帰るぞ!」という人もいるので、魔王討伐に意欲を示してくれるのは良いことである


 アメルシアはつい仕草として髪をかき分けると、髪で隠されていたとんがった耳が露出した。


 それに金髪の男ヒロシが反応した。


「む……、その耳はどうした」

「ああ、私はハーフエルフなんです。エルフと人間のハーフなんですよ」

「なるほど、異なる二種族のハーフなのか……」


 そういってヒロシはアメルシアに急接近する。

 さっきまでメガネ達は召喚するために敷かれた魔法陣の上から一歩も動いていなかったのだ。


 アメルシアは典型的なお姫様で、このように男に急接近された機会がなく顔を赤らめた。

 こうしてみるとヒロシはメガネをかけているが、切れ長の目をしたなかなかイケメンである。

 どちらかというと少女漫画でいう俺様系と言った感じか。


 ヒロシはアメルシアの目の前まで進んだ後、右手で彼女のほおを触れた。


「なあ……お前子供を作れるのか?」


 アメルシアはその意味を理解し、顔全体をリンゴのように赤らめて目を伏せた。


 勇者による魔王討伐は国の悲願でもある。

 そして勇者の願いは可能な限り叶える必要があり、それは時に王女の貞操を勇者に捧げることを求められても同じことが言える。


 アメルシアは体は幼いながらも男を誘惑できる容姿をしていると自信があったし、年も結婚できる年齢である。

 魔王を倒せば元の世界に帰ることはできると言ったが、別にこの世界に残って結婚しても構わない。

 彼女はヒロシのようなイケメンな勇者と結婚して子を成すというのも悪くないと思い始めていた。なんならこの夜からでも……。


「ええっと……、この場でいきなりはダメですよ……」


 まだ恋に恋するアメルシアはここまで妄想を暴発させてモジモジとしていたが、突如マサクラが妄想に水を差した。


「多分勘違いしているわよ。ヒロシ君はおそらく生物学的な疑問を呈しただけだと思うわ」

「そう、何思ったかはわからんけど多分全然違うと思うっすよ。俺が気になったのはエルフと人間という異なる二種族のハーフが生殖能力を持つかということっすよ」


 え?


 アメルシアの無駄に逞しいピンク色の妄想はいともたやすく崩れ去った。


「例えばライオンとトラの間に生まれたライガーは生殖能力を持たないっす。コーカソイドとモンゴロイドのように、人間が異なる人種との間に子供が産めるのは、それらが全てホモ・サピエンス(Homo sapiens)という同じ種に属するからっす。アメルシアちゃんが王女なら生殖能力がないと次世代が産めないなら後継者に困るのではないか、と思っただけっす」


 アメルシアが自分が王女であると話したのは一番最初である。

 どうやらヒロシは人の話を一応ちゃんと聞くタイプらしい。


 もっとも今はそれどころではないが。


 アメルシアはまたほおを赤らめた。ただし今度はときめきからではなく羞恥からである。


 なにせこれまで記載はなかったが、アメルシアとメガネ以外にも周囲には衛兵や彼女の侍女がいる。


 それを自分が勝手に勘違いをして、勝手に妄想を膨らませて、勝手にモジモジしていたのだ。


「もしかしてアメルシアちゃん、俺の実験材料になって……」

「バカーーーーー!」


 バシンッとほおをひっぱたく音が王宮中で響いた。

 

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