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旧 ペットショップを異世界にて  作者: すかいふぁーむ
変化

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54/59

【挿絵付き】本物

「良いんだな?」

「いい」


 ミトラの意思を確認し、もう一度テイムを施す。今度のは明確に、俺の意思に従ってくれと、そう条件をつけて。


「これなら、いける」


 次の瞬間、まばゆいばかりの光と残像だけを残して、ミトラは邪龍の元へ飛び立っていた。


「ほんとは俺が戦えればよかったんだけどな……」


 カムイに指示を送りながら、せめて被害が出ないように采配を振るうしかできない。

 感傷に浸るような気分に油断をしたか、それともそもそも避けようがなかったか……。


 ―――悲劇のはじまりはここからだった。


 徐々に指示も通るようになり、カムイとロウガもうまく相手をかき乱すことができるようになってきた。その一瞬の隙だった。いやもしくは、本能でほのかの存在に危機感を募らせたのかもしれない。

 邪龍の頸がこちらを向いた。


「トパーズ!」


 すぐに指示を出したが移動が間に合わない。それよりはやく、邪龍の放ったブレスが、こちらへ届く絵図が頭の中へ流れ込んでくる。景色より何倍もはやく頭を駆け巡るその風景に、最悪の未来を予感する。


 ここまで3度、邪龍は吐息をはなっている。

 そのどれもが、うまくハクが誘導したことによって虚空に消えていた。

 3度も見れば、あの吐息の意味に冒険者なら誰もが気づくだろう。


「ほのか、動くぞ」


 せめて被害を抑えるためにも、間に合わないながらに位置をずらす。


 その魔法は、アンデッドの最上位のもの達にしか使えないはずのものだった。

 デス・ブレス。アンデッドの頂点に立った吸血鬼たちの中でも、王の血を持ったものにしか使えないといわれていた、死の魔法。

 ゲームでも最も厄介な、こちらの防御力はいっさい無視した、即死魔法だ。それが現実のものとして、目の前に迫ってきていた。


「どうする……?!」


 ほのかももう、集中が高まりこちらの呼びかけにも応じることができなくなっている。

 俺の乏しい魔力では、あの吐息を逸らすこともできない。

 トパーズの魔法で被害を最小限に食い止めたとしても、ダメージは免れないだろう。


「せめてほのかを……」


 ほのかを俺の影に入るように調整する。

 トパーズにとっては契約違反だが、身を守るための行動は取ってくれる。それに甘えるしかない。

 神獣は即死攻撃が聞かないというボスの補正のような特性がある。

 それでももちろん、ダメージは残るわけだが……。


 最悪、俺は死ぬかもしれない。

 その最悪が頭をよぎった瞬間だった。


「カムイ?!」


 龍から放たれたその死の吐息は、間違いなくこちらへ向かっている。

 時間にして一瞬、体感では無限。


 またしても指示に反して、カムイ達は龍と俺たちの間に立ちふさがるようにその姿を投げ出してきた。


「だめだ!やめろ!」


 声よりはやく、ブレスがカムイを取り込んだ。


「うそ……だろ……」


 バタバタと地面へ落下していくカムイ達。

 対照的に、俺たちは無傷のまま射線を離れた。

 彼らの犠牲のおかげで、間一髪間に合った。


「カムイ……?」


 落ちていくその黒い生き物たち。

 最初に出会ったときと同じように、様々な色に化けていたそれらが、黒に沈みながら地面へ落ちていく。


「くそ……っ!」


 無力を呪う。

 俺に力があったなら、俺に覚悟があったなら、俺に……。


「アツシさん!いきます!」


 それでも意識は切り替えないといけない。

 先にそれができたのは、まだ戦いに不慣れなはずのほのかのほうだった。


「ミトラ!ハク!!」


 二匹の白銀の獣たちが邪龍から離れる。

 見失った2匹を探し、その場で右往左往する邪龍へ向けて、ほのかから極大の魔法が叩き込まれた。


 森全体を覆うかと思われるほど激しい光が放たれる。

 その光の中心、邪龍の黒い身体は、光の剣たちによって貫かれていた。


「この魔法は……」

「エリスさんに教えてもらった後、イメージしやすいようにミーナさんのを」


 ミーナの光の剣とは規模が違いすぎる豪快な魔法だ。空全体を包み込むほどの威力が、たった一点、純粋に邪龍にだけ集中している。そばにいたミトラとハクは無傷のまま戻ってきていた。


「カムイ達は……」

「神獣は即死魔法が利かないからな。もしかしたらってことはある」


 自分に言い聞かせるように、希望的な観測を述べる。


「安心するのは、まだ早い……」


 ミトラの言葉で感傷に浸る心を現実に引き戻す。

 捉えた視線の先には、再度ゲートが出現していた。いや、邪龍が大きいせいで隠れていただけかもしれない。

 そしてその空を刈り取るような闇から、新たな刺客が飛び出していた。


「人間……?」

「どういうことだ……?」


 飛び出してすぐ、森へ散る。

 そしてそれぞれ飛び出した人間が、呪文を唱え始めた。


「この魔法は!?」

「これは、知ってる……あの魔法。おかしくなる、魔法……!」


 ミトラが頭を抑える。

 心配して駆け寄るが、それを静止して立ち上がった。


「大丈夫、いまはもう、アツシがつながってるから」


 戻ってきたときには半分以上人型になっていたミトラだが、それでも影響があるらしい。

 人間や神獣、俺のパートナーたちには利かないようだが、森のざわめきはこれまでで最も大きくなった。


「大丈夫ですか……?」

「ん」


 ほのかがミトラの元に向かったときには、すでに完全に人の姿、といっても耳や尻尾は残るが、その姿へ戻って、頭を抑えるしぐさもなくなった。


 森が悲鳴をあげている。ペアを失ったロウガたちはもう、森を押さえるために動けるものは少ない。指示を出せば動くかもしれないが、俺にそれを命令する勇気はない。

 だとすればもう、できる手立ては絞られてくる。


「本当はもっと、最初からこうしておけばよかったのかもな……」

「どういうことですか?」


 俺の見栄や維持が、わずかにでも残っていたことが被害を拡げたなら、そこにもうためらう気持ちは残すべきじゃない。


「いや、ほんとはな、もっといい方法も、あったんだよ」

「もっといい方法……?」

「俺たちの味方の中で、一番強いやつを呼べばよかった」

「一番強い……あっ!」

「アツシ、こんなのより強いのがいるのか」


 ハクに埋もれながらミトラがいう。

 今この瞬間にも、魔法は力を強め、森の獣たちの悲鳴が耳に届いている。


「サモン」


 向こうが用意したゲート、その規模にはやはり届かないが、それでも巨大なゲートが空を覆う。


「溜まった鬱憤、ここで晴らしてくれ」


 邪龍のような禍々しさのない、輝くように美しい漆黒を煌かせながら、その姿を現す。

 紛い物の伝説ではない、作り物の伝説でもない。正真正銘の本物の、伝説の存在。


「格の違いを見せてやれ!ネロ!」

「グラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 その咆哮は森の木々を震わせ、大地にまで大きく響き渡る。

 漆黒の巨体の出現に、先ほどまで呪文を唱えていた出現した魔法使いたちも呆然と空を眺めている。


 絶望をその表情に貼り付けたまま、伝説と対峙する。

 何の覚悟も、何の準備もないままに。

 居るはずがない。そう思ってはいても、目の前の存在はその甘い思考を打ち砕く。


「いつの間にテイムを……?」

「もしものときのためって、ネロからもちかけられてな。あとは勝負に負けたからってけじめも、彼の中であったらしい。俺としても納得ができない部分があったから、この契約はなかったことにして、なんとかするつもりだった」


 その結果がこれなら、もうそんなくだらないこだわりは捨てたほうがいい。

 そもそもミトラの時点で崩れていたちっぽけなこだわりにすがっていただけの、滑稽な話だった。


 同時に呼びもどしたベルは、龍の姿を取れないこともあってトパーズの上に直接来てもらった。カムイ達の様子を見るために高度はもうかなり下げている。

 ネロとは対象的な真っ白の肌と真紅の瞳を携え、最初に会ったときと同じフード姿であらわれた。


挿絵(By みてみん)


「ベルさん!」

「ほのかさん……?これは」

「突然で悪かったな。捕まってる間、問題はなかったか?」

「はい。ネロもいてくれたので、何もされてません。色々聞かれましたけど……」


 無事ならよかった。

 状況を簡単に共有しあったが、予想通り2人は、捕まってからも手だしはされていなかったようだ。

 2人が捕まっていた座標はすでにつけていた魔獣からも把握していたが、動きがあったことと場所が間違っていなかったことをエリスとミーナに向けて伝言を飛ばす。これで協会の拠点はひとつ潰せるだろう。


「あの姿を見ると、なんで私の魔法が利いたんだろうって、思っちゃいますね……」

「まぁああなってたら無理だっただろうな」


 ほのかが対処したときのネロは、言ってしまえば仮の姿でしかなかったわけだ。

 覚醒した龍を前にして、人間ができることなど何もない。

 まさに今、協会側の魔法使いがそうしているように、立ち尽くし、絶望し、そのときを待つほか、人間にできることはなかった。


 龍の咆哮が2度目、森に響き渡った瞬間に、勝敗は決した。

見せ場としてはもうちょっと他にあった気もしますが、ちょうどベルの絵を描いてくださったので最新話にてお披露目しました。

龍とかおっさんより可愛い女のこの方がいいよね?(?)

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