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旧 ペットショップを異世界にて  作者: すかいふぁーむ
変化

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29/59

ルベリオンの魔法

「さて、思い出話に花を咲かせるのもいいけれど、そろそろ本題に戻りましょうか」

 

 ミーナの声で我に返る。懐かしいベルの話を、ほのかと二人、つい聞きこんでしまった。

 

「悪い、そうだな」

「いいわ。むしろ悪かったわね。貴方ももっと話がしたいでしょう?」

「俺はいい。今はそれより大切なことがある」

「そう」

 

 優しげな目を浮かべるミーナに感謝しつつ、話を戻す。


「次元の先ってことは、要するに別の世界から力を引き出すってことか」

「そうなる。魔力とはまた異なるものを利用した魔法、それを龍魔法と呼ぶ」

「てことは……」

「私たちも使えますね」

「粉塵爆発あたりはそういうことになりそうだな」


 困った時には龍として名乗ることもできそうだな。いつ役に立つかはわからないけど。

 

「まあひとまずその話はいいとしよう。この後のことだな」

「あ!そうだ。言わないといけないことがあったんだった」

 

 元の世界の話で盛り上がったおかげですっかり警戒心がなくなったベル。緊張感のない声だが、慌てた様子は伝わる。

 

「このお店、つぶされちゃう!」

「は?」

「ルベリオンが新魔法を開発したっていう噂、流れてる?」

「あぁ」

 

 両国の関係悪化の根拠にもなってる噂話だ。覚えている。

 

「その魔法がね、人間以外を混乱状態にさせる範囲魔法なの」

「人間以外?」

「帝国は亜人や魔族の部隊も多いから、それに打撃を与えるためにって開発された魔法なんだけど……」

「確かにそれが実現したら帝国側としてはかなり厄介だろうな。混乱状態の度合いにもよるだろうけど」

 

 一定の範囲にいる人族以外のものに影響を与える魔法……。

 

 ルベリオンは北の領地が山岳部につながっている。そこに暮らす魔族との小競り合いが多いという事情で、対魔族用の魔法が多く開発されている。その応用と考えれば、種族に対して効果を発揮する魔法の開発も理解はできる。そうでなくてもルベリオンは魔法開発が得意な国だ。

 だが、人族以外に大きな影響を与える魔法となると、そんな都合よく開発できたかは疑問が残る。

 

「難しいことはわからなかったけど、そう言う魔法を創ろうとはしてたみたい」

「てことは、まだ完成はしてないんだな」

「それが……思っていたのと違う形で出来上がった魔法はあるの」

「どんな魔法だ?」

「えっと……魔獣を混乱させて、暴走させる魔法」

「魔獣を……?」

 

 魔法が使える獣の総称が魔獣である。魔法を使えない動物はただの獣、動物と呼び、区別される。

 うちの商品は大きくペット枠とパートナー候補に分けられ、後者が魔獣や魔物であり、主力商品だ。それがピンポイントでターゲットになっているということだった。

 

「このお店のすぐそばの森、北の方にもつながってるのは知ってると思うけど、そこで実験をしたの」

「実験?」

「色んな種族の奴隷を集めて、その魔法を使ったんだよ」

「人体実験か……」


 もちろん人道的なものではないことはわかる。


「結果は?」

「それが……」

「連れて来られた奴隷はもちろん、連れてきた研究者たちも半数以上が死んだ」


 言い淀むベルに、ネロが助け船を出した。


「なんで……。あ、それが……」

「奴隷たちに魔法が効かず、執拗に魔法を繰り返した結果、森へ影響が出た」

「突然出てきた魔獣たちが襲ってきて……普段ならそんなに強くない魔獣も強くなってるし、何よりそんなところにいるはずがない魔獣たちまで集まってきて、大変なことになったの」

 

 結果は言うまでもなかった。だが、事態はそれだけでおさまらなかったらしい。


「大変だったのはそれだけじゃなくて、その後なんだよ!魔法の範囲が調整できなかったせいで、北の森はしばらく暴走した魔物や動物たちで手がつけられなくなってたの」

「しばらく?」

「本当にちょっと前までは A ランクの冒険者でも入ることができないくらいだったの。森から居住区に出ようとする魔物もたくさんいて、北部ギルドは討伐隊を常に募集することになってて……」

「そんなことがあったのか……」

「こっちには何も影響なかった?」

「そうだな……あ、1つだけあった」

 

 シズクのことだ。 あの時、あんな場所にグランドウルフが現れたのはそういうからくりがあったらしい。北の森の騒ぎから逃げてきたのだろう。

 自分の中であの時の不自然な上位個体の出現について結論が出た。

 

「こっちにも出るはずがない魔獣が出てきたりはしてたよ。騒ぎになるほどじゃなかったけどな」

「やっぱり影響はあったんだね……」

「そんなに大きな影響ではないけどな」


 しかしこの魔法、もしうちの店に直接使ってこられれば、大変なことになるな。

 さすがにそこまでルベリオンから恨みを買った覚えはないし、ギルド員に手を出せば帝国より先に冒険者ギルドを敵に回す。

 内地ならともかく、冒険者たちの働きのおかげで国が回っている部分があることを考えれば得策ではない。まして S ランクの冒険者たちが大義名分を持って攻め込んで来る可能性を考えると、うちに直接戦力をぶつけてきたりはしないだろう。

 だが、強硬策に出られる手札を握られたということは頭に入れておいた方がよさそうだ。この魔法の流出だけは絶対に阻止しないといけない。


「あまりにも事態が大きくなって、ギルドはルベリオンに応援を頼んだの。しばらく森の周りに騎士団を配置してバリケードを作ってたよ」

「そんな大ごとになってたのか」

「そうよ。それに関しては、私の耳にも入ってるわね」


 ミーナが答える。

 

「そんなことがあったら俺も耳にすると思うんだが……」

「この子が来てからしばらく、ギルドに行ってないんじゃないの?」

「あぁ、それか」

 

 ほのかが現れるちょうど少し前から、行く回数が減っていたのはある。ほのかが来てからだとこの前が初めてだしな……。

 毎日のように通っていた上、勝手に情報が耳に入るまで居座ることが多かったわけだが、テレビやラジオもないのだから、それがなくなれば情報が入ってこなくなるのも当然だろう。

 

「冒険者には防衛のお手伝いと、森の調査に関する依頼が入ってたよ」

「ベルはそれには?」

「私のスキルはそういうところで役に立たないから …… 」

 

 たはは、と力なく笑う。ネロがいるならごり押せる気もするが、そういった手伝いはしないのだろう。ネロに視線を向けても、黙って頷くだけだった。

 

「結局はネロのおかげで森の暴走は治まったんだけどね …… 」

「何をしたんだ?」

「魔物たちにかけられた魔法より強い力で、かけられた呪いをはじきかえしただけだ」

「簡単そうにいうけど、それ、捕らえてきた魔物に使ったわけじゃないよな?」

「当たり前だ。それができるならその前に殺しているだろう」

 

 やはり、普通の人間に動物を保護するという発想はないようだ。まして緊急事態ともなれば、優先度は限りなく低い。

 ある意味ネロがそういう手段に出ざるを得ない程度に強かったことが幸いした形だった。

 

「もしもの時は、またその魔法を使ってくれると期待していいのか?」

「難しいな …… 」

「やっぱりそう、うまくはいかないか …… 」

 

 A ランクの冒険者では手こずる相手に広範囲で通用する魔法など、連発できたら苦労はしない。

 

「使おうと思えばできなくはないが、こちらの労力に対して魔法を使う側の負担が少ない。次の機会があれば、付け焼き刃の対処ではなく、無駄だと思わせるだけの何かを用意するべきだ」

「使えることは使えるんだな……さすがは龍種か……」

 

 魔力の乏しい俺からすると途方もない話だ。

 

「実際、ネロが動くまでにかなりの被害は出てるからね …… それで、この魔法を悪用して南部に仕掛けようっていう動きがあるの」

「ルベリオンとしてはアツシのお店が潰れるだけでも価値のある作戦だものね」

「なんでそんなに目の敵にされてるんだ …… 」

 

 頭を抱える。

 

「別にアツシだけじゃなく、国としては南の冒険者は帝国側、北の冒険者は皇国側と考えがちなのよ。私だって北部の自治区にこんな無防備に行くことはできないわけだし」


 冒険者としても普段から距離が近い国との方が取引も多くなる関係上、そういった面はなくはない。だが、継続的な関係を重んじる国の関係者に対して、冒険者はその場その場での関係を重んじる。依頼があればルベリオンでもメイリアでも、あまり気にせず仕事をするだろう。

 単純にそれぞれの国からまわってくる仕事の量が北と南で違うという側面が大きいだけだ。


「にしても、ここまでの情報をただの依頼相手にぺらぺらと喋るものか?」

「あ、これは私が勝手に見てきたものだよ」

「勝手に?」

「こういう依頼は裏があることが多いから、一応警戒して調べることにしてるんだけど」

「その辺はしっかりしてるんだな……」

「私も一応何回も他の世界を渡り歩いてきたからね」


 実質、人の何倍もの人生経験を積んできているはずなのに、ほのかと話しているときの様子は身長以外完全に妹といえるものだった。ほのかが落ち着きがある子だということもあるが、ベルの危なっかしさはこの短時間で十分伝わるものがある。

 そんなふわふわしたイメージが先行していたが、考えるべきところはしっかりしているらしい。

 

「こういうところはさすがは龍か……」

「伊達に千年も眠ってたわけじゃないってことね」


 ミーナとともに褒めると白い肌を真っ赤にしてわたわたとし始める。


「私の場合はほんとに少ししか経験が積めてないけどね!」

「十分よ。そうなるともう少し踏み込んだところまで聞けそうね」


 ミーナの目が鋭くなった。今回の件に本格的に噛む気になったようだ。


 さすがにここに来るまでは姿を隠していただろうし、今ここにいるメンバーが黙っていれば皇女の関与はないことにできた。だからこそシイル皇子を名乗ったベルをすぐに処分しようとしたわけだ。

 立場上、公に動くつもりはないと考えていたが、状況を見て皇女として動くだけの利があると判断したのだろう。

 少し肩の荷が下りる。あとはミーナの考えた作戦通りに動けば上手くいくだろう。



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