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旧 ペットショップを異世界にて  作者: すかいふぁーむ
変化

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刺客の正体

「なんとなくわかりました。すみません話を止めてしまって……。続けてください」

「この娘は……」

「俺と同じ、遠いところから来た人間だ。この辺のことはまだ分かってないんだよ」

「そうか……」

 

 男に話はこうだった。

 ルベリオン側は帝国内や南部のギルド自治区にいる有力者、実力者の調査を行っているらしい。Sランク冒険者としてリストアップされた俺も調査対象になっており、ベルも危険がない潜入調査であればと依頼を引き受けたそうだ。

 

「まあ、アツシはマークしなきゃね …… こっちなんて私がわざわざ来たくらいだし」

「それは別に、ミーナが来たかっただけだろう?」

「本当にそれだけで皇女が動けると思っているのかしら?」

 

 仮にも皇女であるミーナは確かに色々しがらみはあるのだろうが、正直そのくらいの好き勝手はしているのではないかという疑いはぬぐいきれない。

 これまでの大した用事でもないのに使者のようにやってきては買い物をしていく姿を考えると、なおさらだ。

 

「この店の戦力を冷静に考えなさい。本気になれば両国の戦局を傾けられるくらいの力はあるでしょう」

「そうなのか …… ?」

 

 そこまで大げさな戦力を保持しているつもりはなかったが。

 

「それぞれの国の戦力にもあまり興味がなかったようだし、意識していないのも仕方ないかもしれないけど……もう少し気をまわしておかないと、こういうことに巻き込まれるのよ?」

「総動員して参戦しようなんて思うはずもないし、別にいいかとおもっていたけど……マークはされるのか」

「まぁ、Sランクの冒険者なんて、みんな何かしら戦局に影響を与える力はあるけどね……」

「だからこそ、ルベリオンもベルに声をかけたわけだ」

 

 いまいち実感はわかないが、まぁ確かに、ハク一匹でもかなりの力はある。グランドウルフだって兵を複数人同時に相手にできる。ワイバーンだってそうか……。数を考えればマークされるというのも仕方ない……のだろうか。そもそも戦争の脅威がそこまでとは考えていなかったし、もっと言えばうちの状況がそれどころではないというのが大きく、まったくその辺のことに頭がまわっていなかった。

 まあただ、同じSランクのエリスを想像して納得した。龍を一人で止めたほのかの師匠だ。底の知れない魔力と得体の知れない魔法。加えて俺と同じように魔獣も操る。大隊一つくらいなら無傷でつぶせるだろう。

 

「そっちはともかく、ベルがこの依頼を受けた理由の方はわかるでしょう?」

「そうだな」

 

 ギルドを介さない依頼は報酬が高い。それも国の高官からとなれば、かなりの額が期待できる。ギルドに所属する冒険者なら、ほとんどが美味しい話として依頼を受けるだろう。

 意外なことにギルドはこうした取引に無関心だ。あくまでもギルドが受け付けるのは誰でもいいから助けてくれと言う依頼だけで、特定の人物に頼みたいなら自分でやれという形を取っている。

 国が絡んでいる以上すんなり納得しているのかは怪しい部分ではあるが、いまのところこちらとしてはギルドに気を使うことなくこういった取引を行うことができていた。

 

「元々の話では簡単な調査だけということで、ベルもそれを受けた。だが、いざ実行に移す段になって話がかわった」

「そりゃまぁ、ただの調査なら皇族に化けるのはリスクが高すぎるよな」

 

 俺のところに来るなら普通に客としてやってくれば良かったんだ。ある意味最も調査しやすいSランクだったかもしれない。

 

「奴は報酬をつり上げ、依頼の内容を変更した。リスクはあったが、ベルはそれに乗らざるを得なかった」

「騙されたのか?」

「いや、よくある駆け引きにこの子が負けただけだ。ましてこの子のスキルを見破る者などいるとは思わない。安全度は変わらず、報酬だけが上がったと喜んでさえいた」

「まぁ、ミーナがいなけりゃ騙されてただろうな」

 

 ただの変装ではなく、見る側の意識に介入する能力だ。たまたまミーナが来ていたのがラッキーだったといわざるを得ない。これで何も知らずに竜を売っていたら、間接的に戦争に関与したという話に発展していてもおかしくはなかった。

 もっとも、そうなったらそうなったでミーナが何とかしてくれた気もするが、未然に防げるに越したことはない。

 

「変更された依頼内容は、この店の戦力を見極め、可能なら引き抜くというものだった」

「どこかで聞いた話ね?」

 

 ミーナが言っているのは三年前のあれだろう……。今は良い。話を進めさせる。

 

「この店の戦力の概要は、外から見ただけでは全く把握できない。どちらにしても店主に接触を図るつもりはあったが、なるべく店主からレベルの高い商品を引き出すために、ベルは考えた。結果があの変装だ」

「ああ……」

 

 そこまでするかという気持ちも生まれるが、それだけの報酬が用意されたということだろう。

 

「北の人間からすれば、この店はメイリアの人間や皇族には弱いということだったからな。それを利用した」

「なんでそんな話になってるんだろうな……」

「さぁ?どこかに無理やり言うことを聞かせる皇族がいるのかもしれないわね」

 

 大いに心当たりがあるだろう皇族がしらばっくれている。

 

「すでにベルは、その時点で駆け引きに負けていたわけだ……まんまとそちらの思惑に乗り、釣りだされる形になった」

 

 俺にそういった意図は一切なかったが、そう言う話になったらしい。

 ミーナがドヤ顔になっているが、流石にそこまで考えて動いたわけじゃないだろう。まぁミーナはその辺の事情は一切関係なく自分の手柄だと声高に主張するだろうが。

 

「誤算だったのは、万が一この子が失敗したとしても、私がいればなんとかなると考えていた目論見まで、ご破算になった部分だ」

「それに関しては俺も驚いてる」

 

 少しぼーっとしていたほのかに、視線が集中する。

 

「えっ?私ですか!?」

「いつの間にあんな魔法を?」

「エリスさんが、もしもの時はこれを使えって一番初めに教えてくれました……」

「この子、エリスが直接教えてたのね」

「この娘もエルフなのか?」

 

 説明する前からエリスがエルフであると分かっていたところを見ると、エリスの名は北部にも知れ渡っているようだ。

 

「いや、人間のはずだ」

「え、アツシさん!?私ちゃんと人間ですよね!?」

「ちょっと同じ人間と考えるとショックを受ける場面が多くてな……」

 

 俺の散々だった異世界生活の初めの方を思い出すと、ほのかのこのまさに異世界で力を発揮していく主人公らしさというのは色々と思うところがあった。

 

「私の方がショックです。ちゃんと人間扱いしてください!」

「いや、人間扱いは流石にしてるけどな」

「締まらないわね……」

「あ、すみません!」

 

 ミーナの苦笑いにほのかが慌てて頭を下げる。

 

「構わないけれど、話を進めましょうか」

「はい」

「大まかな事情はわかったわ。ここからはそうね……。まずは知っている限りのルベリオンの今後の動きに付いて、話してもらいましょうか」

「それならば、私よりもベルに直接聞いた方が良い」

 

 ちょうどよく、横たわっていた女の身体がピクリと動いた。

 起き上がった彼女は、焦点の合わない表情のまま辺りを見回して、そして叫んだ。

 

「ここ……えっ!?ネロは離れててって!」

「状況を見ろ。私たちは、負けたんだ」

「そんな……」

「お前のことだけは見逃してもらえるよう頼んである」

「だめ!ネロなら何とかできるでしょう!?」

「落ち着け」

 

 ネロと呼ばれた男が、静かにベルを窘める。必死に挽回できる可能性を模索していた辺りを見回していたが、ネロの表情から状況を読み取ったのだろう。男の肩に手を置いて、女は静かにうつむいた。

 

「ごめん……。ごめんね……私が弱かったから……」

 

 一気に悲壮感に包まれる。俺としては別にそんなに悲観的になるような処罰を考えていなかったので何を言おうかと迷っていたところだったが、ここでも先にほのかが動いた。

 

「あの……」

 

 再び視線がほのかに集まる。

 

「アツシさんはそんなにひどいことはしないと思います。安心してください」

「あなたは?」

「あ、ここの店員のほのかと言います」

「私を倒したのも、この子だ」

「えっ?」

 

 ベルが目を丸くしたが、すぐに冷静になった。

 

「貴方に言ってもしょうがないのかもしれないけれど、ネロも助けてあげてほしいの。こんなところで、私のせいで死ぬなんて……」

「あー……別に殺すつもりなんかない。あんたに危害を加えるつもりもないから、落ち着いて話をしてくれ」

 

 見かねて口を出してしまった。

 

「あーあ……。相手には常に最悪のパターンを意識させておくものでしょう?龍相手に嘘はつけないというのに」

「悪い」

 

 ミーナが呆れた様子を見せるが、怒ってはいない。あくまで交渉の基本を語っただけで、それを押し付けるつもりはなさそうだ。

 龍との会話はその全てが契約になるとと考えなければならない。一度関係を構築してしまえばともかく、今の状況は一つ一つの会話がそのまま今後の関係を左右する。精霊や悪魔と同じ、言葉がそのまま契約となり、うかつな発言はお互いを縛り付ける呪いになる。


「本当に、変わり者だな」

「もうそれでいいけど、こちらは結構なカードを切ったわけだけど、まだ話はしてくれるんだな?」

「むしろ憂いがなくなったといえる。ここまで来て皇国側に戻っても利がない」

「えっと、じゃあ……どうするの?ネロ」

 

 目覚めてからすぐに信じがたい現実に直面した彼女には、まだ自分で何か判断するような状況にはないらしい。

 

「少しは自分で考えて、決めろ。私はそれに従おう」

 

 ネロはそれを突き放し、戸惑うベルに決断を委ねた。

 

「この人たちに、守ってもらう?」

「ある意味、私たちにとっては納まるべき場所なのかも知れない」


 その言葉にひっかかりを覚えたのは俺だけではないようだ。


「私たち……?」


 ミーナがすかさず口を挟む。

  

「ベルは、私の娘だ」


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