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来店

 エリスが森に消えたあと、ほのかと二人、近くで昼食を済ませた。

 ほのかは魔法で作った服を着たままで、だ。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。一度魔法を組み直してしまえば、なかなかあんなことにはなりません」

「エリスが最後にかけた魔法を込みにしても?」

「はい。というか、解除しようと思えば簡単なんです。これ」

「え?」


 特Sランクのエルフの魔法をいとも簡単に解除できると言ってのけるほのかに唖然とする。


「あ、えっと、エリスさんもわかってると思うんですけど、この魔法をつけたのは私ではなくて、あくまでこの作られた服の方に、なんですよ」

「ああ」


 なるほど。魔法を解除して作り直せば、なかったことになるのか。


「だからまぁ、できるだけこのまま過ごして、出来ることならそうじゃない方法でこの魔法を解きたいなって思ってます」


 エリスの意図を考えればその方がいいのだろう。

 勉強熱心というか、意欲にあふれたほのかの初々しい様子に刺激を受けながら店に戻った。


ーーー


「何も変わりはなかったか?」


 カタカタカタ。


 二日目にして早くも留守番が板についたバアルに不思議な感覚にさせられる。馴染みすぎている……。


 バアルの食事は謎だった。何度、何を提案しても、頑なに首を横に振る。

 そもそも魔物の生態は謎が多い。ボーンソルジャーのようなダンジョンモンスターなど、もはやどこからどうやって生まれているのかすらわからない。

 基本的にはダンジョンに充満する魔力をそのまま吸収しているとされているが、この環境でバアルがどうしているのか……。少なくとも一緒に食事をと言うスタイルではないことはわかったので、こうして留守番を頼んだが、様子は見ておく必要があるだろう。


「アツシさん、一人の時はどうしていたんですか?」

「店をか?適当だったな、その辺……」


 まずうちの店には金がない。商品もほとんどの人間にとって価値を見出せないし、俺が契約を譲渡して初めてその価値が生まれるという事情もあって、盗みに入られる心配がほとんどなかった。

 その上、店の周りには常に頼れる番犬たちが控えている。この中を堂々と盗みに来れる相手なら、俺がいようがいまいがもはや関係ない。


「もう少し、お店のこと色々話す機会があってもいいかもしれませんね」

「午後からは予定もないし、そんな話をしながら過ごすのもいいかもな」

「予定がないってところが問題ですよね……お客さんが来てくれれば……」


 噂をすればというやつだろうか、入り口からいつの間にか取り付けられたドアベルからカラカラ鳴った。

 

「こんなところにこんなお店があったんだな」

「猛獣小屋だと思ってたぞ、ここ」

 

 客は見たことのある二人組の男だった。冒険者として顔を見ることはあるが、この立場で接したことはない。正真正銘、新規のお客様だ。

 

「いらっしゃいませ!」

「店員さんも可愛い!」

「ここ、どういうお店なの?」

「可愛い動物から頼れる魔獣まで、貴方の希望に沿った生き物を取り扱う、ペットショップですよ!」


 俺より先にほのかが飛び出して対応する。ありがたいやら申し訳ないやらで急いで追いつく。


「ペットショップ?」

 

 この世界にペットと言う概念はほとんど浸透していない。

 動物とともに過ごすとしても、愛玩目的のペットではなく、冒険や生活の中で役割を持たせたパートナーの方が分かりやすいだろう。

 

「いらっしゃい。冒険者なら、ペットと言うよりパートナーを探すことになるだろうな」

「あんたの店だったのか!」

「ずっと言ってただろ、ペットショップをやってるぞって」

「なるほど。魔物屋って二つ名はこういうことだったのか……」

 

 ペットと言う概念が浸透していないことは分かっていたが、思っていたより認識に開きがあるようだ。

 

「アツシさん、ほんとに今まで全く宣伝してなかったんですね……」

 

 ほのかの視線が痛い。

 

「しっかしあの魔獣使いにこんな嫁がいたとは……」

「てっきり魔獣が全てかと思っていたのに」

 

 好き勝手言う二人組。


「嫁じゃない。ただの店員だ」

「そうですけど、そんなきっぱり言い切られるとちょっと寂しいですね」

「脈アリじゃねえか!いけ!やっちまえ魔獣屋!」

「うるさい」


 二人とも顔と名前が一致する程度には知っている。調子者の方が、アランさんと同じ斧使いのレオ。茶髪にバンダナを巻いた若者だ。軽そうな見た目通り、女に声をかけては振られるを繰り返しているが、どこか憎めないやつだった。


「ただの店員よりは近しい関係のようだな」


 その相棒として常に行動を共にしているソウ。こちらは一般的な冒険者スタイルである剣士。ただ、190センチはあろうかという長身と、物静かに佇む様子は、剣士というより忍者のような風貌だ。短くさっぱりした髪と、表情の読み取りにくい細い目も特徴だ。


「まあな。同郷人だよ」

「あんたの故郷ってやたら遠くなかったか?わざわざこんな可愛い子連れて来て何企んでんだ?」

「こらレオ。そういうのは察するもんだ」

「やめろ。人聞きが悪い」


 魔獣使いってだけでめちゃくちゃなイメージが一人歩きしていることがなんとなくわかる会話だ……。頭がいたい。

 

「せっかく来たんだし買って行くか?」


 気を取り直して接客しよう。


「俺らみたいな素人に役立つもんまであるのか?」

「元々みんな素人だし、一応はそういう相手に売るために揃えてる。求めてる能力を言ってくれれば色々出せるぞ」

「そうなのか。俺は……」

「待て、レオ」

 

 かなり前向きになっていたレオをソウが止める。

 いいところだったのに。

 

「もう少し詳しいことを聞きたい。いいか?」

「ああ、もちろんだ」

 

 猪突猛進なレオを止めるのがソウの役割。今回もいつも通りの二人だった。

 

「まず、アツシさん。あんたを見てると自分の代わりに戦ってくれるのがパートナーと思っていたが、さっきの説明だと他にも使いようがあるってことで合っているのか?」

「そうだな。目立つ動きがそうだってだけで、例えば飛翔能力のある魔獣を上空に放てば、それだけで色々な情報を得られる。調教次第で手紙のやり取りを任せたりもできるな」

「なるほど……俺にとってはありがたいな」

 

 ソウの役割はひたすら前に突き進むレオのフォローだ。戦況や森での周りの状況を俯瞰できるのは大きいだろう。

 

「他にも、例えば戦闘時に身体強化をかけてくれる魔獣や、何かあった時に回復できる魔物もいる」

「そんなに便利なのか!?」

「もちろん強い魔獣ほど、テイムする条件は難しくなる」

「なるほど。正直あんたがなんでSランクなのか納得していない部分もあったけど、それだけの技術が必要だったってことか……」


 レオのこの馬鹿正直なところは嫌いではない。面と向かって言われると怒る気もなくなる。


「まあ、実際、普通に戦ったら勝てるか怪しいからな」

「魔物を扱うのも一つの技術だろう?俺に剣なしで戦えと言っているのと同じだ」

「それもそうか」


 ソウの言葉にレオも納得する。

 アランさんの時もそうだったが、魔物とともに戦うという文化が浸透していないだけで、それ自体を否定する声はないことがありがたかった。


「でもそれじゃあ、俺たちには扱えない、意味のない宣伝じゃないのか?」

「まぁ落ち着け。たとえば、二人がその辺で役に立ちそうな魔獣を見つけて、そいつをテイムしようとした場合は、技術の問題になる。だが、ここではそうじゃない」

 

 どうも詐欺師みたいな話し方になってきている気がするが、まぁいい。押し切る。

 

「うちではすでにテイムした魔獣を取り扱っている。条件が難しい魔獣でも、技術はいらないってことだ」

「ほう?」

 

 ソウが乗ってきた。いけるな。

 

「もちろん条件が厳しいほど高価になるけど、悪くない買い物だと思うぞ。ある意味永続装備だ」

「なぁなぁ!俺たちへのお勧めみたいなものはないか?!」

 

 レオの方はもうすっかり乗り気になっている。

 幸いこの二人も名の知れた冒険者。Bランクの上位に位置するので、金は持っているだろう。

 その上彼らが魔物を使って戦ってくれれば、いい宣伝にもなる。何としてもここはしっかり商談を進めたいところだ。

 

「そうだな……例えば二人の場合、移動要員を確保するだけでも冒険の効率は段違いに上がるはずだ。ここじゃ狭いし、外に出よう」


 地竜か、いや派手好きなレオと、飛翔能力に魅力を感じるソウなら風龍や翼竜でもいいな。二人の持ち金ではおそらく足りないだろうが、今後のための投資に少しくらいサービスしてもいい。

 いや、いきなり車と同じような値段感覚のものを進めるのは難しいか……?今まではしていなかったけどローンって形も考えたほうがいいかもしれない。


 逸る気持ちを抑えながら、二人を外の魔獣コーナーへ連れ出した。

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