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冒険者ギルド

 

「それで、アツシさん。柵はもう誰かに任せたんですか?」

「あ……」


  のんびりしている場合ではなかった。

 二人揃って呆れた顔をする。ボーンソルジャーに呆れられるって、貴重な経験だな……。

 

「まあ、ひとまず飯休憩にしよう」

 

 誤魔化して切り抜けよう。

 

「今日は何を食べるんですか?」

「冒険者ギルドへ行こうと思う」

 

 さっきの魔法を見て、ほのかの冒険者登録を先延ばしにするべきではないと判断した。

 普通の少女なら急ぐ必要はなかったが、魔法が使えることが分かった以上、目立って目をつけられる前に登録するべきだろう。

   

「ということで、ほのかの給料な」

「え?私そんな働いてないですよね?」

「前払いだよ。しばらくは仕事してくれるんだろ?」


 ギルドは依頼を達成して報酬を得る仕事場でもあるが、生活に必要なものがすべてそろう便利屋である。この機会にほのかには生活に必要なものを買いそろえておいてもらいたい。

 生活用品にしたって、女性に何が必要か俺には分からない部分もある。

 今はまだ店に付きっきりになっているが、これから自由な時間ができれば、どの道ある程度の金は必要になるだろう。

 

「ありがとうございます …… 。大切に使います」

「好きに使うと良い」

「大切にすると言ったは良いんですが、私、この世界のお金の価値や使い方がわからないんですが …… 」

 

 貨幣は各国で製造・流通される。この近辺だと帝国金貨も良く見るし、南の方の連合国では紙の製造技術が安定しているらしく紙幣もある。が、とりあえずここで使うギルド通貨の説明だけすればいいだろう。


「めちゃくちゃざっくりなんだけど、金貨が一万円、銀貨が五千円、銅貨が千円。それ以下のものは数字の書いてある分かりやすいもので、800円、500円、100円、10円の硬貨がある」

 

 一枚一枚広げて説明する。

 数字は元の世界と同じものが利用されていた。

 

「金貨や銀貨と、その数字の書いてある硬貨は何か違うんですか?」

「銅貨まではそのまま鉱物としての価値を持ってるから、それだけである程度財産として保障される。それ以下の硬貨はそのものに価値はない。ギルドが価値を認めて流通させているから、ここ以外では両替もできないし、ギルドがつぶれれば無価値になる」

「日本と同じですか」

「そうだな。俺たちにとってはこっちの方が普通の硬貨かもな」


 冒険者ギルドは各国各地にあるし、噂によれば海の中にまであると言われるほど大規模に展開された組織だ。つぶれるなんてことは考えられないし、実際多くの国ではギルド硬貨の価値を認めているので両替に困ることもないだろう。


「ちなみに、見たらわかると思うけど金貨とか銅貨は汚れで色の区別はできないのも多い。大きさが違うことで見分けてるから、覚えといてな」

「ほんとですね。気をつけます」


 金貨に金が、銀貨に銀が使用されているわけではない。中に入っている鉱石がその価値を支える。魔法石にも使われる魔力の込められた鉱石。需要の高いこの鉱石は、それだけで十分な価値を持つ。違法だが場合によっては中の鉱石を取りだして売買を行うようなことすら行われていたこともあった。

 説明を済ませ、しばらくバアルに留守番を任せてギルドを目指すことにした。

 

「こういう移動の時にはハクたちには乗らないんですね」

「地竜くらいならまあ、向こうの世界で言う馬に近い認識を持ってもらえてるけど、魔獣はやっぱいい目で見られない」

「冒険者の皆さんが相手でもですか?」

「生活区域にいるのは冒険者以外にも、その家族だったりいろんな人もいる。なにより魔獣の怖さを一番身にしみてわかってるのは、冒険者本人だからな……」

「アツシさん、よくペットショップ開こうと思いましたね……」


 本当に彼らを商品として扱うのは色々な障害があった。それでも店を持つに至れただけ良くやったんじゃないかと思う。


「私、正直アツシさんにあんまりペットショップで食べていこうっていう気持ちが感じられていなかったんですが、そういうわけじゃなかったんですね」


 それに関しては冒険者の稼ぎがあるから何とかなるだろうと、高をくくっていたところがあるので、何もいえない……。

 実際のところ、積極的に宣伝をすればいいというわけでもないなという気持ちはあった。それでも、まあいいかという楽観的な考えと比較すれば、後者が6:4いや8:2くらいでリードしていたことを考えれば、ほのかの言葉は色々な意味で刺さるものがある。

 

「まあでも、ほのかみたいな可愛らしい女の子が、ハクと一緒にいるっていうのは宣伝になるのかもな?」

「えっ?私、可愛らしいんですか?」

「まあ、そう思うよ。もう俺みたいな歳だとほのかくらいの子は皆そう見えるけどな」

「そうですか……」

 

 照れ隠しで言った言葉は思いの外ほのかの機嫌を損ねたようだ。

 とはいえ一回りは歳の差があるであろう相手だ。あれ以上は口説き文句みたいになるし、それはそれで嫌だろう。

 スマートな対応は出来ないが、誤魔化すくらいのことはさせてもらおう。


「サモン!」

「えっ?!わっ!」

 

 歩いているほのかの真下に魔方陣を展開し、ハクを召喚した。

 

「ちょっと!いきなりびっくりするじゃないですか!」

「ごめんごめん」

 

 怒っているはずのほのかの声は、もうハクの毛に埋められた顔からもごもごと、かろうじて届くだけだった。

 

―――


「ここが、冒険者ギルド……」

「思ったより大きいか?」

「そうですね。田舎のデパートと言うか、ショッピングモールくらいの広さですか?」

「さすがにそこまではないと思うけど、まあかなり大きいのは確かだな」

 

 ギルド自治区、南支部。


 ギルド自治区は帝国領土と森に挟まれる、というより、帝国領土を森から守るような位置づけになっている。そのまま北へ伸びた自治区は、帝国の北に位置するルベリオン皇国に隣接する形で北部へとつながっている。

 北支部には行ったことはないが、帝国と皇国が敵対関係にある煽りを受けて、お互いに過度の干渉を控えるのが暗黙の了解になっている。

 

「アツシさん、すごい人気ですね」

「いや、クラスメイトに挨拶するようなもんだよ」


 ギルドは入るとすぐ、木製の丸テーブルが並ぶイートインスペースが現れる。ここには常に、ある程度の数の冒険者が集まっており、万が一にもここで犯罪を犯す気にはなれない第一の防壁にもなっている。

 右手に依頼を出したり受注したりといった、冒険者の活動を支える施設があり、訓練場も併設されている。

 左手が生活用品や、基本的な装備類、その他様々なものを置いた店になっていた。

 

 真っ直ぐ冒険者登録のためのカウンターを目指しても、必然的に多くの知り合いにすれ違う。

 ハクを連れてきて良かったかもしれない。おかげで女連れをからかう声もほとんど聞かずにすんだ。二人で行けば酔っ払いのおっさんどもに絡まれていただろう……。悪い人でなくても、酔っ払いの相手を素面でするのは避けたかった。

 

「久しぶりですね。アツシさん」

「三日位しか空けてないよな?」

「ニホンジンは三日会わないと大変なことになるって教えてくれたの、アツシさんですよ?」

 

 冒険者ギルドの受付嬢、リリアさん。

 きつねか猫かわからないが、三角形の耳と八重歯が特徴的な獣人族の女性だ。 “チャーム”のスキル持ちではないかと噂されるほど、人を魅了する愛らしさがあった。

 

「それで、今日は女の子を連れてきてるんですね」

「ハクよりそっちを突っ込むか」

「道理でアツシさんは私にはなびいてくれないはずですね……そういう子が好みだったなんて……」

「こら、やめろ。繊細な関係なんだ」

 

 また距離を取られるのではと思ったが、予想に反してほのかは俺に身体が触れるほど接近してきていた。


「ふーん?」

「なんだ……」

「何でもありません。それで、今日はどんな用件ですか?」

「色々あるけど、一番はこの子の登録だな」

「あれ、ほんとに拾ってきた子だったんですか?!」

「人聞きの悪いことを言うな。同郷人だ」

 

 冒険者の登録に必要なものは特にない。本人から伝えられた情報を入力してもらって、身分証になるカードを発行してもらうだけだ。

 冒険者は実力に応じたランク付けをされるが、登録時には全員ビギナーというランクに振り分けられる。一定期間の成果によってランクを決定するが、ビギナーの間は得られる報酬が少ないので、危険な任務は割に合わない。普通は訓練場を利用した認定試験を受けて、とっととビギナーを脱出することになる。

 認定試験はFランクからBランクまで用意されており、それぞれ費用がかかる。ビギナーで報酬をカットされるよりは、認定試験に金を払ったほうが効率がいいので、大体の冒険者はFランクだけでも認定を受けて冒険者生活をスタートすることになる。

 

「ニホンジンということは、特別措置を取りますか?」

「そうだな」

 

 一般的なランク付けは成果や試験によって決まるが、特殊な例の場合は直接ギルド側が力を測ることになる。

 ギルドに所属する鑑定士を通して報告されるため、本来の方法では判明しない“スキル”や能力を鑑定してくれる。

 特に回復や味方の強化を行うサポートタイプや、特殊なスキル持ちは、本来の評価方法ではたいした成果を挙げることができず、また試験を受けても大きくこれが生かされることはない。しかし、いざパーティーを組んで戦うとなればその影響力は絶大なものになる。こういった不遇なサポートタイプの保障、あるいは、俺のような素性のわからないものの対応のため、特別措置が用意されていた。

 ほのかの力は未知数だが、同じ日本人。何の変哲もない俺が二つもエクストラスキルを持っていたのだから、ほのかに何もないと考える方が不自然だろう。すでにかなり高い魔法適性は示している。


 どうなるかわからないなら、ギルドに任せてしまったほうが賢いだろうと判断する。話について来れず戸惑うほのかには悪いが、リリアさんにあとのことは任せるとしよう。


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